アジアへようこそ
まずは、アジア概論です。
<アジア州のこと>
アジアの土地の広さは1555万坪、人の数6億人。5大州の中でいちばん大きい。 広きアジアは人の種類もいろいろで、蒙古人種がもっとも多く、これをアジア人種とも言う。気候も北方・志辺里屋(シベリア)の方ははなはだ寒く、天竺の南に至れば、赤道に近いのではなはだ熱い。禽獣草木もこれに準じて異なる。
では、行きたい国を選んでください。
中国
支那(中国)の広さは520万坪。人の数4億。都の名前は北京といって、国中の男は皆、ケシ坊主である。初めて見る人にはとてもおかしく思える。
ケシ坊主の中国人
中国の産物は絹布、木綿、瀬戸物、そのほか象牙細工など小間物が多い。ことに茶はこの国の名産で、毎年外国に積み出すことおよそ1億斤近いという。ヨーロッパ・アメリカには茶園がなく、その国々の人が飲む茶は中国と日本より積み出した品である。
中国は古い国で、昔はたいそうなことをなしたものもある。北京から南の杭州まで船を通すための掘り割りは300里あまり。北の方には万里の長城という長い土手があり、その高さは1丈5尺から3丈もある。谷をまたぎ山を越え長さ600里に及ぶので、当時はもとより修復もされず崩れ放題なのだが、珍しい古跡なので、西洋の人々はよく見物するという。この長城は2000年前、秦の始皇帝が胡(えびす)を防ぐために築いたものである。
今より2300年前、中国には孔子という高名な学者がいて、門人も多く著作も段々と後世に伝わり、中国はもちろん日本でも、この人のことを聖人として尊敬している。
中国の政治のやり方は、西洋の言葉で言う「デスポチック」というもので、ただ上に立つ人の思い通りに事を進めるふうなので、国中の人は皆、俗に言う奉公人根性となり、帳面さえ終わらせられず、一寸のがれという気なので、本当に国のためを思う者なく、ついに外国の侮りを受けるようになってしまった。
すでに天保年間にイギリスに打ち負けたときも、賠償金を払った上、香港島を与え、広東・廈門・福州・寧波・上海の5港を無理矢理開かせられた。その後も、始終、外国に踏みつけられている。
香港もいまや中国領
インド
前印度(インド)と後インドは、雁寺洲(ガンジス)という河を境としている。この河のほとりに阿羅波婆土(アラハバード)という釈迦如来の霊地があって、今でも毎年あちらこちらからの参詣者が20万人あまりいるという。
ガンジス河
後インドのことを西洋人は「ひんどすたん」といい、ほとんど残らずイギリス領で、ただその北方にイギリスの支配を受けていない独立国が2、3あるだけである。前インドも西の方はイギリスの支配下である。
満落花(マラッカ)の南の端に新賀堀(シンガポール)という小島があって、イギリス領の港である。諸国の船が立ち寄っている。
後インドの南端には西論(セイロン)という島があり、同じくイギリス領で、良港がある。この島は釈迦誕生の地だという。
カルカッタの行政府
インドの産物は材木、米、麦、砂糖、もろこし、麻、藍、たばこ、胡椒、阿片、黄金、鉄、銅、玉であり、しかもこの国は春夏秋冬のない暖かい国だから、いろいろと珍しい果実が多い。獣類は獅子、サイ、象、虎に加え、恐ろしい大蛇ウワバミなども山にいるという。
ペルシャ
辺留社(ペルシャ)は旧国だが、元来、人の気質が粗く、政治は暴虐で下々の扱いがよくないため、国の力は次第に衰え、今では文武ともに落ち1813年(文化10年)と1828年(文政1年)の魯西亜(ロシア)との戦いで両方とも負けてしまい、大きく土地を失ってしまった。
最近はイギリスと交わり、イギリスの士官を雇って、軍備を整えているという。
アラビア
荒火屋(アラビア)は大国だが、砂漠で果てしなく広い砂原がある。気候は熱く、雨は少なく住むにはよくない土地である。けれども、平地には草木がよく生長し、産物には薬種、果実、ゴムなどが多い。
獣類には馬、ラクダ。ことにアラビアの馬はすでに日本にも渡っていて、世界中の名馬である。
この国は風俗が悪く盗賊が多いので、人々は広い砂漠を越えて旅をするとき、大勢ラクダに乗り武器を持って通行する。
トルコ
トルコの領土はヨーロッパとアジアの2大洲にまたがり、地中海と黒海の間の海が境となる。飛び地をアジアトルコといい、ヨーロッパの方にある本領土をヨーロッパトルコという。
現在はトルコの政治が不安定で、飛び地の領土では、たびたび騒動がある。
ロシア
魯西亜(ロシア)もヨーロッパとアジアと地続きで、両方に領土がある。2大洲の境は宇良留(ウラル)山である。志辺里屋(シベリア)には馴鹿(じゅんろく)という鹿がいて、馬の代わりに用いている。また、一種の犬がいて、これも牛馬のごとく車を引くという。
馴鹿のソリ
シベリアは土地は広いが、人は少なく300万人しかいない。土人は猟を仕事にしている。また、ウラル山の近くには金銀の山が多く、ロシアの本国より罪人を移して、おびただしい金を採掘しているという。シベリアの産物は獣皮で、市場の交易も皮で中国の反物や瀬戸物と換えるという。
嘉無薩加(カムチャッカ)の港を「ぺいとろぽろすき」といい、ここから東のロシア領アメリカには、海上でとても近い。
ロシア政府は昔から領土を広げることを心がけている。近年はまた満州の地をとってもっぱら黒竜江のあたりに手を出し、軍艦は始終停泊しているし、河には小型の蒸気船を浮かべて運送の便を図っている。