広島県「毒ガス島」を行く
遺棄化学兵器問題を読み解こう

大久野島
毒ガス貯蔵庫跡
(広島県・大久野島)


 日本と中国の間にはいろんな国際問題がありますが、金額的に大きいにも関わらず、いまいち知られていないのが「遺棄化学兵器問題」ですな。簡単に言うと、日本軍が中国に遺棄した化学兵器を、日本のカネと技術を使ってすべてきれいにしてあげましょう、という話です。
 
 化学兵器は現在では30〜40万発とされていますが、当初は70万発(中国側は200万発と主張)と言われていました。正確にどれだけ埋まっているのかわからないだけに、最終的に処理費は1兆円を超えるのではないかと言われています。
 一方、敗戦時に日本が中国に化学兵器を譲渡した証拠もあり、なぜ日本が負担するのか説明がつかないという人もいます。
 このあたりいい加減というか、中国政府の言いなりのような感じで、実は廃止されたODAの代わりなのではないかという見方さえあるのです。

 さて、遺棄化学兵器問題というのは、1987年、中国がジュネーブ軍縮会議で突然言い出したことから始まります。戦後40年以上たって、なぜか地下に埋まってる化学兵器で負傷する中国人が増え始めるのですな。
 その後、1992年には中国側が廃棄の全責任は日本にあると公式表明し、1995年、日本が化学兵器禁止条約を批准。1999年には日中覚書に署名し、費用の全額負担が決定しました。
(ちなみに条約批准時は社会党の村山富市が首相で、外相が親中派と目される河野洋平)

 政府の内部資料(2004年度)によれば、予算の推移は以下の通り。

○1999年度(平成11年度) 合計  8.1億円
○2000年度(平成12年度) 合計 38.7億円
○2001年度(平成13年度) 合計 54.4億円
○2002年度(平成14年度) 合計 214.9億円
○2003年度(平成15年度) 合計 218.0億円


 いや〜、着実に増えてますな。ちなみにここにあげた数字は補正後予算額なんで確定値だと思うんだけど、なぜか内閣府のサイトでは2002年度で78.0億円、2003年度で77.9億円になっています。100億円以上違うんだけど?


 この差額についての理由はよくわかりません。
 専門家に聞いたところ、可能性としては以下の点などが考えられることがわかりました。

●内閣府発表額とは別に外務省、防衛省などの関連予算があって、内部資料はそれらを合計したもの
●内部資料は予算であり、内閣府の数字は実際に使った金額である
●計上された項目が異なっている
●情報の隠蔽工作(笑)


 具体的に2003年度予算の詳細を見てみると、

 ○廃棄処理事業運営費 23.6億円
 ○廃棄処理のための各種調査研究等 28.3億円
 ○ハルバ嶺の発掘・回収のためのインフラ、機材の整備等 131.6億円
 ○処理施設の立地候補地の造成費等 33.2億円
 ○その他 1.4億円

 となっています。このなかでもっとも大きいのが、

 ハルバ嶺の発掘・回収のためのインフラ、機材の整備等 131.6億円

 というやつですな。このハルバ嶺とは何か? 実は化学兵器の90%以上がここ吉林省のハルバ嶺にあるとされており、この地に巨大な処理施設が作られたんです。
 そんなわけで、この処理施設を見てみましょう。さすがに現地には行ってないので、こちらも政府の内部資料から公開しときます。

ハルバ嶺
中央管理地域


ハルバ嶺
発掘地域


ハルバ嶺
回収地域


ハルバ嶺
保管地域


 で、処理施設の概念図がこちら。

ハルバ嶺

 コピーなので見にくいですが、手前に「きい弾処理棟」右手に「あか弾処理棟」って書いてあるのがわかるでしょうか? 
 これは何かというと、「きい弾」というのはマスタードやルイサイトなど、いわゆる「びらん剤」の日本軍のコードネームです。同じく「あか弾」というのは、くしゃみ剤(嘔吐剤=ジフェニールシアノアルシン、ジフェニールクロロアルシン)の隠語です。ほかに、

 ・あお剤(窒息剤) = ホスゲン
 ・ちゃ剤(血液剤) = シアン化水素(青酸ガス)
 ・みどり剤(催涙剤)= クロロアセトフェノン
 ・しろ剤(発煙剤) = トリクロロアルシン


 があります。
 
 さて、この巨大な事業は、株式会社遺棄化学兵器処理機構(Abandoned Chemical Weapons Disposal Corporation、英文略称:ACWDC)の独占となっています。2008年5月、この会社のトップらが詐欺の疑いで逮捕されました。経費を水増し請求し、約1.4億円の不正な利益を得た疑いです。

 俺にはよくわからない世界ですが、なんだかすごいですな。いずれにせよ、このあたりの話は書きすぎると危ないのでここで終わり。



 でだ。じゃあ、遺棄された化学兵器はどこで作られたのか?
 中国の人民日報が2005年に「日本の『毒ガス島』を訪ねる」という記事を書いています。その島こそ、広島県の大久野島です。

《日清戦争後、日本軍は「軍都広島と軍港呉を守るため」、大久野島を軍事要地へ改造し、島内に砲台16門を設置した。1927年、日本軍は島内に毒ガス加工工場を建設し、1929年より生産を開始した。情報によると、毒ガス製造という罪悪行為を隠すため、極めて厳格な機密保持措置をとり、島では24時間体制で警戒が行われ、「車で通りかかる際も窓を閉める必要があった」ということだ》(「人民網日本版」2005年8月4日)

 この島で作られた毒ガスはイペリットガス、ルイサイトガス、青酸ガス、催涙ガス、クシャミガスなど5種類で、ピーク時には7000人が島内で働き、毒ガス生産総量は6616トンとしています。そのうち半分が国外に持ち出されたそうです。

《中国侵略日本軍は中国で幾度も毒ガス戦を発動しただけでなく、(中略)地下道に毒ガスを流し、数千人にのぼる住民を死亡させた。また敗戦後は、大量の化学砲弾を中国の田畑や野原、河川に投げ捨てた。明らかになったものだけでも、その数は200万個以上、中国各地の十数省市に及び、戦後60年たった今日でも、日本軍が遺棄した化学兵器が中国で平和に暮らす人々を脅かしている》

 さすが人民日報。反日感たっぷりのツボを押さえた記事ですな。
 で、実は俺も1990年代初頭、この島に行ってます。その当時の写真を公開しておきましょう。


大久野島 大久野島
発電所跡と砲台跡

大久野島 大久野島
なんかすごい場所ですよね? 今はどうなってるんだろう?

大久野島
米軍の火薬庫跡

 この島は戦後、米軍に接収されています。MAGというのは、MAGAZINE=弾薬庫・火薬庫の略です。
 ちなみにこの島にはウサギがいっぱいいます。ガス漏れが一発でわかるように導入されたと言われていますが、ホントは単に地元の小学校から放されたのが増えただけです。


制作:2008年5月21日

<おまけ>
 実は、化学兵器処理に当たって、防衛省のスタッフがイギリス研修に行ってるんですね。研修先は英国国防省国防科学技術研究所(DSTL)。
 たとえば2004年8月上旬に行った研修スケジュールを見ると、すごいハードなことがわかります。自衛隊を批判するより、このあたりを褒めてあげたいですね、俺的には。
化学兵器

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