刑務所内でおこなわれる凶悪犯罪

エイリアン・ブラザーフッド:三つ葉のクローバーに666のタトゥーを入れる白人

 エイリアン・ブラザーフッド(
AB)は1967年、サンクェントゥン刑務所で誕生している。1960年代の刑務所は、ちょうど内部が人種によって分裂し始めている時期だった。そのため、ABの当初の目的は、メキシカン・マフィアやブラックパンサーからアイルランド系の白人受刑者を守ることだった。

 ABができる前は、ブルーバーズやダイヤモンド・トゥース、ナチ・ギャングといった白人によるいくつかの小グループがあり、そのなかのブルーバーズが中心となってABが結成されたと言われている。

 当初は人種問題が最優先課題だったが、次第に犯罪色が濃くなり、今日では、
ABは白人至上主義団体であるが、犯罪による営利活動を第一義にしている。

 多くのABメンバーは体中にタトゥーを入れるが、AB本来のタトゥーは三つ葉のクローバーに666と入ったものである。666は「野獣」を象徴する数字であると同時に、神に相反して世界を征服しようとする邪悪な勢力を意味する。666という数字だけのものは他のギャンググループにも見られるが、アイリッシュの象徴である緑の三つ葉に666ABだけである。そのため、ABに所属せずにこのタトゥーを入れている者はそれだけで殺害の対象となる。

 ただし、最近では、当局から身を隠すため、新メンバーはABのタトゥーを人に見せないよう指示され、ほかの柄模様にカモフラージュして入れたり、わざと取り除く者もいるという。


刑務所内でのコミュニケーションの取り方


 アメリカの刑務所では宗教の自由が認められている。ABはオドニストという北欧神話に基づく宗教を隠れ蓑に刑務所内で会合を開き、メンバー内のコミュニケーションを取りながら犯罪活動をおこなっている。
 また、年配のメンバーは手話を学び、それをコミュニケーションの手段に使ったりもする。

 ABは、1973年以降はメキシカン・マフィアとも親密な関係になっている。もともとはカリフォルニアの刑務所が拠点だったが、現在では州立、連邦を問わず、アメリカ全土の刑務所にその存在が広がっている。

 1996年、マリオン連邦刑務所に収監されていたガンビーノ・ファミリーの首領ジョン・ゴチが所内で黒人に暴行される事件があった。その理由は、塀の中での身の安全のためABに支払っていた金をストップしたため、ABから報復を受けたからだという。プリズンギャングが、外の世界では絶対的な力を持つマフィアをも、塀の中ではしのぐ力を持っていることがわかる。

 ABは自らをブランド(The Brand)と呼び、刑務所の内外を合わせ、大体、15000人のメンバーがいるとされている。
 刑務所内のメンバーは全囚人の1%程度であるが、その1%で、連邦刑務所内の18%の殺人をおこなっているとの報告もある。
 
 2005年、アメリカの暴対法に当たるRICOThe Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Act=不正違法組織取締法)により、ABのリーダーたちが検挙された。捜査の結果、40名のABメンバーが逮捕されたが、そのうち30名はすでに刑務所に入っており、多くはもともと終身刑だったため、実質的な効果にはつながらなかった。

 捜査後も引き続き、ナチ・ローライダーズやパブリックエネミーNo1といった白人プリズンギャングの下部団体に指示を出すことによって、自分たちは直接目立たぬ形で犯罪活動を継続している。刑務所内では、ドラッグの密売、依頼殺人、恐喝、所内売春などさまざまな犯罪に手を染めているが、最近では、アジア系ギャングと結託して、タイからヘロインを持ち込んだりもしている。

 ABの構成員がテキサスに移って結成されたABTAryan Brotherhood of Texas)という組織も存在するが、現在は完全に独立している。ABTは判事を殺害するなど、突出した暴力性で知られる。リーダーは、安全対策から3日ごとに房が替わる地下の特別独居に収監されている。