ピラミッド登頂記

 かつてベストセラーになった『神々の指紋』(1996年)では、著者のグラハム・ハンコックがピラミッドに登頂しており、俺もやってみたいと思い、実際にエジプトに行ってみました。
 なお、この原稿は、友達に頼まれて、某エロ本に面白おかしく書いたものなので、「盗掘」とかいろいろ書いてある部分は適当に読み流して下さい。

ピラミッド登頂
背後にカフラー王のピラミッド
(フラッシュが石に乱反射して、真っ白に写ってしまいました)




 1996年の終わり、エジプトのアレクサンドリアで「今世紀最大の発見」があった。海中から、2000年前のクレオパトラの宮殿跡やファロス灯台(世界7不思講の1つ)が発見されたのである。それを聞いて俺の心は踊ったね。いや、別に考古学なんかに興味があるわけじゃない。人様には言えないが、俺の趣味は盗掘なのである。そんな人間からすれば、このニュースに飛ぴつくのも当然なのだ。

 てなわけで、俺はさっそくエジプトに飛んだ。しかし準備もろくにせずに来たものだから、今回は大失敗。何せ遺跡は海中深くだし、真冬だから海は冷たいし、もちろんダイビングショップなんてない。結局、一週間、何の成果もないままカイロヘ戻ってきたのである。

 で、エジプト最終日、俺は初めてピラミッドを見に行った。最初はピラミッドに登ろうなどと決めていたわけではなかったが、はるか遠くに聳え立つ三角形を見たとたん、もうやる気満々である。
「そこに山があるから」山に登ったやつもいたね。俺はそこにピラミッドがあるから登るだけだ。念のために言っておくが、現在は登ることは禁止されている。小さなものなら問題ないのだろうが、大きなものは人目も多いし、即刻逮捕である。実際地元で話を聞いたベドヴィンのおやじなど、血相変えて「やめろ」という。
「そこの小さいものならガイドしてやるが、あれは絶対ダメだ。古いから、すぐに崩れるぞ」

 「あれ」とは、クフ王のピラミッドのことで、高さ137メートルと、世界最大の大きさを誇っている。登るならこれしかない。エジプトくんだりまでやってきて、小さなものに登ってもしょうがないじゃないか。俺はおやじの制止を振り切って歩き出した。
 だが、何たることだ。ピラミッド地区の入場は午後4時で終了したといって、俺は入場を拒否されてしまった。日の入りを頂上から眺めようと思ってタ方来たのが、完全な裏目に出た。それにしても、普通4時で閉まる か!? 

 まあいい。すぐに俺は塀沿いに歩き始めた。ここは広大なエリアだから、そのうち、塀も途切れるだろう。案の定すぐに裏口だ。しかし、ここでも門前払い。やむなく俺は大回りして、近くの共同墓地から侵入した。「とまれ!」と背後から呼ぷ声がする。地元民だ。共同墓地に入ったのがまずいらしい。交渉の結果、俺は5ドルの賄賂を払った。そのまま、数百メートル、クフ王まで走る。日の入りはもうすぐである。

 ピラミッドは全201段の石が積まれている。1つが1メートルほどだから、登るのは大変である。あっという間に筋肉痛になり足が震え、下を見ると目が眩む。ときどき風が吹くと、マジに次き飛ばされそうになる。ピラミッドが登頂禁止になったのは、この風に吹き飛ばされて、何人もの観光客が墜死したからなのである。

 ちなみにルートは南西の角が通り相場だ。ところが、このルートは道路沿いだから非常に目立つ。案の定、3分の1ほど登ったとき、ついに見つかってしまった。「そこの日本人降りろ!」と拡声器の声が響く。だが、もちろん止まるわけにはいかない(でも、どーして日本人だと分かったのだろう)。

 通常は登頂に30分かかるといわれているが、下からワンワンあおられたせいもあって、たった10分で登頂に成功。頂上部は昔に比べ9メートルも削られているため、10メートル四方の広場(?)になっている。俺はポケットから缶ビールを出して、一気に空けた。

 それにしても、さすがに頂上からの眺めは最高である。ぎりぎり日の入りに間に合ったおかげで、あたりの風景がよーく見える。はるか遠くまでカイロの明かりが灯り、すぐそばには、隣のカフラー王のピラミッドがそそり立つ。

 俺は気分がよかった。
 問題はこれからだ。地上からは相変わらず「降りろ」という声が聞こえる。下には、警官が何人も待っているのだ。俺は無断登頂だけでなく無断入場までしているわけで、何と言い訳しようか考えていた。頂上で20分ほど休憩した後、俺は下山した。もうあたりは真っ暗でよく見えなかったが、どうやら下から追っ手が来ているようだ。俺は急いで下りたが、筋肉痛で足はまったく動かない。しかも下から照らされるサーチライトがひどくまぶしい。

 下につくと、さっそく尋問である。
「お前はここに登ってはいけないということを知らなかったのか」
 と、妙に回りくどい英語で聞いてくる。こんなとき、役に立つのは金である。俺はポケットの10ドル札を握っていた。そして、エヘラエヘラ笑いながら、「わかんなーい」と答えた。「バカな日本人」という演技は、金の次に役立つので覚えておいた方がいい。

 信じられないことに、俺はそのまま解放された。警官の数が多かったため、どうやら賄賂をあきらめたようだ。俺は再び「サンキュウサンキュウ」などと訳のわからないことを言いながら、その場を離れた。後は逃げるだけである。俺は闇の中を、ダッシュで走り去った。すでにピラミッドは闇の中に隠れて、全く見えなかった。

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