あいきゃく

〔相客〕泊りあわせている客。
あいきょうがこわれる
〔愛敬が毀れる〕空気が白け渡る。
あいくち
〔合口〕気が合う仲。「あいつとはどうも合口だ」。「ウマ合」に同じ。
あいぐら
〔合鞍〕2人一しょに一つ馬へのること。
「一匹の駱駝(らくだ)をやとひて合鞍に三人等(ひと)しく打乗りて、」(仮名垣魯文「西洋道中膝栗毛」)
あいこでせえ
じゃん拳で両方が同じ紙なら紙、鋏(はさみ)なら鋏がでたときのはやしことば。今は「相子でしょ」。
あいしめ
〔愛し目〕秋波。ウインク。
アイスクリーム
高利貸のことで、「氷菓子」の洒落。「アイス」とも略す。
あいずり
〔相ずり〕共謀者。ぐるになって悪事をする人。
「その相ずりの尻押(しりおし)は(略)居所(ゐどこ)定めぬ南郷力丸、面ァ見知って貰ひやせう。」(河竹黙阿弥「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)ーー白浪五人男」雪の下浜松屋の場)
あいそづかし
〔愛想尽かし〕絶交するための憎まれ口や冷淡な態度。転じて勘定書のこと。
「宵にや真赤にさわいでいたが、朝の勘定で青くなる」と俗曲にあるように、ガッカリさせられるからである。
あいたい
〔相対〕むきあってすること。互に承知してやること。合意の上でのこと。「相対づく」は納得づく。「相対死(じに)」は心中、情死。「相対間男」は美人局(つつもたせ)。
あいなか
〔合中〕間仲。
「あんな嘘つきの奴はありません(中略)人の合中をつツつくひどい奴ですから。」(三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」)
あいのり
〔合乗〕いっしょに乗物に乗ること。また「合乗車」の略。
あいのりぐるま
〔合乗車〕2人乗りの人力車。戦後輪タクにこの現象が見られた。情人の乗客が多かったが、同性が用談その他を話し合いながら行く場合もあった。明治10年代、落語家立川談志が人気を博したナンセンス舞踊「郭巨(かっきよ)の釜掘り」には、「合乗幌(ほろ)かけ頬ぺたおッつけテケレツノパー」という一節があった。東京では明治末年亡びたが、永井荷風「十年振」には、「京都には今でも合乗の人力車がある。芸者とお客の合乗をして行くのを見ても、往来の人は別に不思議な顔もしない。」大正11年11月の話である。
あいばこ
〔合箱〕→「あいのりぐるま」
あいふだ
〔合札〕ものを預った証拠に渡しておく札。
あいぼう
〔相棒〕駕籠やもっこをいっしょにかつぐ相手。前の者を「先棒」、後の者を「後棒」という。
「『それを云へば、おれだって同じ商売で、片棒をかついでゐるのぢゃあねえか。そのおれが斯うして働いてゐるのに相棒の権三が寝てゐるといふ法があるものか。』『相棒と云っても内の人は先棒だよ。ちっとは遠慮をするものさ。』」(岡本綺堂「権三と助十」)
あいまいや
〔曖昧屋〕料理屋や商家らしくみせかけている淫売屋。曖昧宿。
あいみじん
〔藍微塵〕藍いろの微塵縞(タテヨコ共に同一の2色の糸を1本おきに織り合わせてつくった細かな縞の略)。遊び人などのやや崩れた人態(にんてい)に合う。例えば源氏店に「さんげさんげ」の下座で登場する向う疵(むこうきず)の与三郎。
あいむなぐら
〔相胸倉〕共に胸倉を取り合う格好。
あいやど
〔相宿〕一つ部屋へいく組かの旅人が合宿すること。
あおい
未熟。人格・技量・言動の各面に使う形容。蜀山人の狂歌に「まだ青い素人義太夫黒がって赤い顔して黄な声を出す」というのがある。
あおっぴげ
〔青っ髭〕髭が濃いため、常に深くそり、そのあとが青くなっていて凄く見える顔。
あおづめ
〔青爪〕爪の青い馬。
あおのく
〔仰向く〕「あおむく」の江戸なまり。
あおり
〔煽り〕駕籠のタレ。
あおんぞ
青しゃびれている(青い不景気な顔の人)。
あか
〔赤〕赤ン坊。
あか
〔垢〕舟へ溜まる水。
あかいきれ
〔赤い切れ〕遊女。「赤いきれとねたよ」
あかいしきせ
〔赤い仕着〕刑務所で着せられる赤い衣服。刑務所へ行くことを、「赤い仕着を着る」という。
あかえりざかり
〔赤襟盛り〕赤い半襟(はんえり)をよろこぶ少女時代。
「十五六の赤襟盛に在(あ)る事で、唯奇麗事(ただきれいごと)でありさへすれば好いのですから、」(尾崎紅葉「金色夜叉」)
あがき
〔足掻き〕始末。都合。「あがきがっかない」「あがきが悪い」などいう。
あかだんご
〔赤団子〕灸(きゅう)の児童語。
アカチア
アカシヤの木のこと。
あがったり
〔上ったり〕ガックリと駄目になること。繁昌しなくなること。「お手上り」(今日ではお手上げという)も同じ。駄目になった人を、あがったり屋。
あかにし
〔赤螺〕ケチな人のこと。落語の主人公に「赤螺屋」という屋号の男がいる。
あかばしゃ
〔赤馬車〕赤く塗った乗合馬車。「また九段坂、本所緑町通ひの赤馬車は、両国橋際に停車して、本所行或は万世橋行と呼びて客を招き、」(明治30年代の「東京名所図会」)
あがりぐち
〔上り口〕落塊(らくはく)する気配のみえて来たとき。
あがりなまず
〔上り鯰〕花柳界で派手につかった人が、おちぶれるのを、鯰が死んだ姿にたとえた。
あきだなのえびす
〔空店の夷〕ひとりでニコニコしている人のこと。「空店」は空家。→「たな」
あきだるかい
〔空樽買い〕空いた樽を専門に買って歩く商売が昔はあった。
あきのなみ・はるのいろ
〔秋の波・春の色〕わかいおんなが憎からずおもうひとへの目づかい、表情の形容。色目。流し目。ウインク。秋波。
あくざもくざ
〔悪作妄作〕さまざまの悪事。「あいつは悪作妄作をつくした」などという。また、悪雑藻屑(あくぞもくぞ)というと、さんざんにいう悪口の意味になる。
あくしょう
〔悪性〕不実な。薄情な。
「殿御(とのご)殿御の気が知れぬ、気が知れぬ。悪性な悪性な気が知れぬ。恨み恨みてかこち泣き」(長唄「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」)
あくち
〔悪智〕悪智恵(わるぢえ)。
あくぬける
〔悪抜ける〕改心する。
あくば
〔悪婆〕老婆ではなくて、悪事を働く中年以上の女。妖婦毒婦のごとく色じかけでない場合をいう(芝居用語)。莫連女(ばくれんおんな)。「於染久松色読販」(おそめひさまつうきなのよみうり)の土手のお六、「処女翫浮名横櫛(むすめごのみうきなのよこぐし)」の切られお富、「蟒於由曙評仇討(うわばみおよしうわさのあだうち)」のうわばみお由、「善悪両面児手柏」(ぜんあくりょうめんこのてかしわ)の姐妃(だっき)のお百。
あけ
〔明け〕夜明け。遊里では明け方まで飲んでいて、明け方の廓内をひやかすのを「明けをひやかす」という。
あげあぐら
〔上げ胡座〕普通の胡座でなく、左方の足を右足の上へことさらにのせてかいた胡座。凄味のもので、歌舞伎の強請場(ゆすりば)に見られる姿。
あけすけものを遠慮なくいうこと。何でもかくさずにいうこと。あけりゃんこ。
あげだいきん
〔揚代金〕遊女を買う金。宝暦、天明の頃の吉原第一流の遊女は、昼三(ちゅうさん)といい、昼夜三歩の女郎のことで、昼三をあげづめにすると1両2分、片仕舞(かたじまい、昼なり夜なりだけあげる)は1歩2朱。古川柳に「春宵一刻価(あたい)三歩なり」「噛みしめて見れば三歩は三歩なり」。
あけに
〔明荷〕旅行用の一種のつづら。
あけばん
〔明番〕勤務時間が終ること。→「ばん」
あげまき
〔総角〕振分髪(ふりわけがみ)を左右に分けて結ぶ髪形。
あごつき
〔顎付〕食事つきということ。
あさがえり
〔朝帰り〕遊女屋を翌朝、客が立ち出でて自宅へかえること。後衣(きぬぎぬ)の別れを惜しむ姿なども見られた。
あさがお
〔朝顔〕男の小便所の便器をいい、天井から光線をいれる窓も、朝顔の花を逆さにしたようなので、そういった。昔、駅の停夫が発車のときに振った鈴(新聞売や煮豆屋もつかった)も、同じく朝顔の花に見立ててそういう。
あじ
〔阿字〕真言宗で、阿字(宇宙不滅の玄理の象徴)をみる法。阿字観。
あしあがり
〔足上り〕奉公人が主人の家を追い出されること。「足が上がる」ともいう。東京ですたれ、大阪ではかなり近くまでつかわれていた。
あしだかみち
〔足高道〕爪先(つまさき)上りの道。
あしだまり
〔足溜り〕滞在。
あしなみちょうれん
〔足並調練〕兵隊が隊をつくってやって来るときのように足音を揃えて大ぜいが来ること。「足並調練で通った」
あしぶみ
〔足踏〕訪問。
あじろ
〔足代〕足場。足がかりのために組み合わせた丸太。
あしをちかく
〔足を近く〕しばしば。せっせと。
「そりゃお前さんが足を近く来たから二階で名を知られ、今更となり恥をかくのさ。」(河竹新七「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」八ツ橋部屋の場)
あずまげた
〔吾妻下駄〕日和下駄の丸みのあるもので、畳表(たたみおもて)を付けたもの。婦人用。
あずまコー卜
〔吾妻コート〕明治時代にはやった、和服用の婦人の外套(がいとう)。そのころおなじ用をなすものにあった被布(ひふ)より長く、ラシャやセルでつくられた。
あだあだしい
〔仇々しい〕仇っぼい。
あだもの
〔婀娜者〕仇っぽい女。
あたりぼう
〔当り棒〕すりこぎのこと。縁起をかつぐ花柳界や芸界では、する(損する)ことを嫌って「すずり箱」を「あたり箱」、「するめ」を「あたりめ」といった、その一つ。
あたりめ
→「あたりぽう」
あっけらかん
ポカンとしていること。あんけらけん。あんけらかん。
あっこうもっこう
〔悪口帽頭〕わるくち。もっこうは悪口にかさねて、語呂の上で意を強めたもの。→「あくぎもくざ」
あづちまちのくすり
〔安土町の薬〕千金丹のこと。大阪安土町信山家伝(かでん)だった。明治10年代の夏になると、東京の町々を洋傘をさした男たちが、節面白くこの薬を売り歩いた。啖咳溜飲(たんせきりゅういん)下痢にきくといった。
あとげつ
〔跡月〕先月。あとのつき。今なら「ちょうど3年前」というところを当時は「ちょうど3年あと」といっていた。
あとばら
〔後腹〕事業などの失敗で、いつまでも身にふりかかる金。「あとばらが病める」
あとびっしゃり
〔後びっしゃり〕オドオド後へ下がること。後(あと)びしょり。
あとぼう
〔後棒〕後肩。「先棒(さきぼう)」の対。→「あいぼう」
あとめそうぞく
〔跡目相続〕その家の当主の死後又は隠居した後、代ってその立場をつぐこと。
あとやさき
〔後や先〕しどろもどろ。
「女の文のあとや先、まゐらせそろではかどらず」(竹田出雲他「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」祇園町一力の場)
あなっぱいり
〔穴っ入り〕女道楽。女あそびにこること。
あにさん・あねさん
〔兄さん・姉さん〕大正初年まで東京には「にいさん・ねえさん」という頭音を延ばした呼び方はなかった。上へは「おあにいさん・おあねえさん」「あにさま・あねさま」「おあにいさま・おあねえさま」、下へは「あにい・あねえ」と変化しはしたが、あくまで「あに・あね」であり「にい・ねえ」ではなかった。「あんちゃん」も「あにさん」の崩しであろう。
この種の江戸人・東京人の呼び方を覚えるのに好適な「ひいじいさん」という小唄がある。「ひいじいさん、ひいばあさん、おじいさんにおばあさん、お父(と)っつぁんにおっ母(か)さん、おじ御(ご)におば御(ご)、息子に嫁御(ご)、お兄(あにい)さんに弟御(ご)さん、姉に妹、孫曾孫(まごひこ)やしゃご、いとこにはとこ、おい御(ご)にめい御(ご)、御養子、御養女、あとは御縁がちと遠い」
あねさまかぶり
〔姉さまかぶり〕手拭を額(ひたい)にあてて、その左右を頭へのせるかぶり方。
あのこや
〔あの娘や〕花魁(おいらん)が禿(かむろ)を呼ぶことば。
あばあば
さよならの児童語。あばよ。
あぶたま
〔油卵〕油揚(あぶらげ)を細く切り、玉子をかけてかきまわし、あまく煮たもの。吉原にはじまったたべもの。
あぶら
〔油〕おせじ。油をかける。「油じゃないが、じつにえらい」「油すぎるよ」などという。
あぶらむし
〔油虫〕人にたかっておごらせること。廓のひやかし客をもいう。
あぶれ
〔溢〕商売がないこと。「きょうはあぶれた」などという。
あまだい
〔甘台〕甘味の台の物という意味。前田雀郎の川柳に「甘台の客代筆をたのまれる」。そういうケチな遊びゆえ、遊女にもバカにされて、手紙の代筆をたのまれたという句で、よく甘台の感じがでている。→「だいのもの」
あまっちょ
〔阿魔女〕江戸の下級な人たちのことばで、わかい女を悪意的に呼んで、こういう。
あみのぼんぼり
〔網の雪洞〕灯が消えぬよう風除(かざよ)けの網がつくられてある手燭(てしょく)。
あめ
〔飴〕飴をしゃぶらせる、つまりわざと負けてやること。
「ナニ此の盲将棊(めくらしょうぎ)め。太吉(たき)なざァ、一番糖(あめ)をねぶらせると、本気で勝ったつもりで居る。」(式亭三馬「浮世風呂」)
アメとう
「アメリカ唐桟(とうざん)」の略。
あめふりかざま
〔雨降り風間〕雨の日、風の日。「雨降り風間にはついあいつのことをおもいだすんです」
アメリカごけ
〔アメリカ後家〕夫が出稼ぎをしている妻。単に別居している妻をもいった。
あや
〔綾〕面倒な点。
あやどる
〔綾どる〕十字にかける。「襷(たすき)十字に綾どって……」
あやまりこうじょう
〔謝り口状〕謝罪状。
「それを又謝り口状を云ってよこすなんざァほれてるてえものは妙なもんでねえ。」(三遊亭円朝「松操美人生埋(まつのみさおびじんのいきうめ)」)
あゆみ
〔歩み〕「歩み板」の略。
あゆみいた
〔歩み板〕渡るためにものの上に渡す板。舟から岸へ渡す板も、畳のしいてある寄席で客席の歩く所の板も、歌舞伎で両花道を使う場合の仮花道も(東の歩み)、本花道と仮花道を客席後方でつなぐ板をもいう。
あらあら
〔大略〕あら方。あらまし。大てい。
あらいかた
〔洗い方〕詮議。探索。調査。→「かた」
あらいざらい
〔洗い浚い〕すっかり。根こそぎ。
「ここの内の洗ひざらひ、釜の下の灰までおれのものだ。」(瀬川如皐(せがわじょこう)「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)ーー切られ与三郎」源氏店(げんじだな)妾宅の場)
あらいながし
〔洗い流し〕釜やおはちを洗うとき、ついていて流れ出る飯粒(めしつぶ)。
あらうち
〔荒打〕あら壁を塗る段階。
あらきだ
〔荒木田〕荒木田土。元、東京都下荒木田産の赤土で、粘着力があって、壁や瓦葺(かわらぶき)の下にもちいる。
あらくま
〔荒熊〕昔、一人は顔を墨で塗って四つばいになり、一人は竹の棒を手にしてそばに立ち、「丹波の国から生け捕りました荒熊でござい」と呼んで歩く乞食があった。古川柳に「荒熊は乞食の中のつらよごし」。
アラビヤうま
〔亜刺比亜馬〕男根の大きい人をこのように呼んだ。
「自分の亜刺比亜馬を棚へ掲げておいてか。」(梅亭金鵞(ばいていきんが)「滑稽立志編」)
あらまさ
〔粗理〕「あらまさめ」の略。荒い柾目(まさめ)。
あらみ
〔新刀〕新しくきたえた刀。
「犬嚇(いぬおどし)とも知らねえで、大小さしてゐなさるからは、大方新身の胴試(どうだめ)し、命の無心と思ったに……」(河竹黙阿弥「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」大川端庚申塚の場)
あらわれこぐち
〔顕れ小口〕露見する端緒。悪事の分かる糸ぐち。
「それでは片時(へんし、少しの間)もすて置かれぬ、自分の悪事の顕れ小口でございますから、」(三遊亭円朝「怪談乳房榎(ちぶさえのき)」)
ありあけあんどう
〔有明行灯〕夜明けまでともしておく行灯。
ありがた
〔有形〕在来あった形。「有形より小さいが」という風につかう。
ありっきり
あるったけ。
ありていに
〔有体に〕見聞したとおりに。包み隠さず。
ありに
ななめに。ハスに。
「上の釘一本をありに打ちせえすりやァ(三遊亭円朝「名人長二」)
ありまつ
〔有松〕「有松絞り」の略。
ありまつしぼり
〔有松絞り〕愛知県知多郡有松町で産する木綿の絞り染。
ありもの
〔有物〕特別に他から用意しないでも自分が所有するところのもの。ありあわせもの。「有物で間にあわせよう」
アリャアリャ
火事場へ駈けつける仕事師や見舞の江戸っ子が、景気をつけて走りながら叫んで行く掛声。
ありゃりゃんりゅうと
〔アリャリャン竜吐〕火消が火事場へ駈けつける勇しい形容。アリャリャンは「アリャアリャ」と同様掛声で、竜吐は火を消す道具。大きな匝(はこ)の中に押上げポンプの装置をし、その上に取り付けた横木を上下して、匝の中の水をはじき出すようにしたもの。竜吐水(りゅうとすい)、竜こしともいう。
あるへいぼう
〔有平棒〕
有平糖のような棒の意味で、今日も理髪店の店頭に立てられている看板。石井研堂「明治事物起原」は「武江年表」明治4年4月西洋風髪剪所(かみはさみどころ)を引き「右の棹(さお)へは、朱、白、藍色の左巻といふ塗分にして立る」とあるを説明して「アルヘイ棒にて(中略)もとは皆高さ五六尺のものを大道に立ておきしこと、当時の画にて知らる。この看板は、西洋の理髪師の原始は医師にして、紅白色の纏ふは人身の動脈静脈を表わし、即ち医師の看板より転用されしものなりと、坪井氏の〔看板考〕に見えたり」。有平(豊臣時代につたわった菓子で、白砂糖と飴とを煮つめてつくったもの、ポルトガル語alféloaの転訛)の感じに似ていたので、このようにいった。
あわせものははなれもの
〔合わせ物は離れ物〕元々別々のところに育ったもの同士がそったのが夫婦ゆえ、緑がなければまた離婚するのも当然だという意味。
あわゆき
〔泡雪〕玉子の白味を泡だて、塩砂糖で調味したもの。
あんい
〔安意〕安心。
あんけんさつ
〔暗剣殺〕悪い方角の意味から変って、あっては具合の悪い人のいる方角。また災難にあう方へゆくこと。「暗剣殺にむかった」
あんこうぎり
〔鮟鱇切〕鮟鱇形ともいう。竹でできた花いけの一種。あくびがたという別名もある。
「鮟鱇切の水に埃(ほこり)を浮べて小机の傍(かたえ)に在り、」(尾崎紅葉「金色夜叉」)
あんころ
〔餡ころ〕表でころび、泥だらけになること。どろんこ。
あんにゃもんにゃ
分からずや。
あんねえ
〔姉え〕→「あにさん・あねさん」。古川柳に「姉(あんねえ)は女郎、弟は角兵衛獅子」というあわれな句がある。
あんばいしき
〔塩梅しき〕「塩梅」に同じ。
あんぽつ
〔箯輿〕上流の人々や病人、または葬礼の輿(こし)の代用で、四方竹の網代漆塗(あじろうるしぬり)で、引戸がついている。あんだともいうが、あんだは板を台にして、へりを竹で編み、竹でつるしたそまつな輿で、病気の囚人などをのせた。あおた。
あんぽんたん
〔安本丹〕バカ。うすのろ。
あんまこう
〔按摩膏〕肩の凝りにきく膏薬。3寸ばかりの大きさで黄色い紙に塗られている。按摩代用の意味で今日でもある。
あんまとり
〔按摩取〕按摩のこと。古川柳に「関取のうしろに暗いあんま取」。取という言葉を2つつづけて、力士と按摩の姿の明るさ暗さを対照させた句である。
あんも
〔甘餅〕あんころ餅の児童語。
いあいごし
〔居合腰〕居合(剣道の一派。坐ったままで素早く刀を抜き、敵を斬り倒す技術で、崎林重信創案)をするときの(ような)腰つき。
いいかかったこと
いいがかり。
いいしゅう
〔貴顕衆〕高貴の人々。紳士。
いいたて
〔言立て〕口実。
いえみまい
〔家見舞〕新宅祝い。落語の「こいがめ」は、「家見舞」とも題している。
いかい
おびただしい。はなはだしい。
いかけやのてんびん
〔鋳掛屋の天秤〕さしでがましい人。ですぎた人。いかけやの天びん棒は両端へゆくほど長く太く、棒の先が普通の荷をかつぐ綱のあるところより出過ぎている。いかてん。
いかさま
〔いか様〕なるほど。左様。
いかな
いかに、いかなるに同じ。なんという。「いかなおとなしい人でも」とか、「いかなこった」という風につかう。
いかもの
〔以下物〕ごまかしもの。昔は、将軍へお目見得のできない軽輩(けいはい)をお目見得以下、さらに略して以下ものといった。転じてそれがろくでもないものの意味となった。→「ごけにん」
いきぐみ
〔意気込〕勢い。いきごみとは今日もたまにいうが、いきぐみは江戸なまり。
いきごとすじ
〔意気事筋〕恋愛関係。
いきづえ
〔息杖〕駕籠屋の突いて歩く杖。これを突いて行きつつ、息の調節ができたゆえにいう。
いきなりさんぼう
〔行きなり三宝〕投げやりにしておくこと。「あいつはいきなりさんぼうだ」
いきにんぎょ
〔生人形〕等身大にこしらえた見世物の人形で、活けるがごとくにみえるゆえ、生人形となづけた。安本亀八、山本福松などが、その造り手として名高かった。
いきぶし
〔生節〕ごく新しい木の節。
いきれ悪く
むし暑い状態。「草いきれ」「人いきれ」
いきれる
うだること。空気が熱くなること。
「襖(からかみ)を閉切(たてき)っていきれるからこう枕元に立って立番(たちばん)をしてゐるので、」(三遊亭円朝「松操美人生埋(まつのみさおびじんのいきうめ)」)
いくさば
〔戦場〕戦線。
いくせのおもい
〔幾瀬の思い〕いくつもいくつもの瀬(急流)をわたる思い。やっとの思い。
いくらか
〔幾固か〕かなりに沢山あるという場合を、今日ではむしろ少ない方の意味に取れる「いくらか」で表現した。
いくらかくら
いくらいくら
いけ
〔生……〕極度の。はなはだしい。憎悪・軽蔑をこめた強意のため、頭につけることば。「いけ騒々しい」「いけ図迂図迂(ずうずう)しい」「いけぞんざいな」「いけぞんぜえ者」「いけっ太(ぶて)え」「いけしゃあしゃあ」「いけ好かない」
いけすのこい
〔生洲の鯉〕いけすのなかの鯉はいつ殺されるか分からないということからでて、世間の移り変りをいう。
いけどし
〔いけ年〕いい年。「いけ年をしやがって」
いけぶね
〔括船〕釣船の底に水がたたえてあって、釣った魚をそこへ投じ、活かしておくところ。
いざ
〔紛紜〕ゴタゴタ。もめごと。いざこざ。「少しイザがあったんでネ」
いざきん
躄の睾丸(いざりのきんたま)の略。地にすれ切っているという所から、すれっからしの人をいう。
いさみはだ
〔勇肌〕鳶人足などをいう。俠気。
いざんまい
〔居三昧〕坐りよう。「居三昧をただして(坐り直して)」
いしうすげい
〔石臼芸〕多芸だが、みなくわしくないことをいう。
いしがき
〔石垣〕石崖(がけ)。
いしきかいゆ
〔違式戒諭〕規則を破った人を教え、さとすこと。
いじきたな
〔意地汚な〕食欲だけでなく、女あさりの形容にもつかう。
いしゃっぽう
〔医者っぽう〕医者のこと。江戸っ子が悪意でなく、ややおどけて医者をよぶ言葉。「土佐っぼう」「会津っぽう」の類。
いしやのひっこし
〔石屋の引越し〕荷が重過ぎるというしゃれ。
いしゅ
〔意趣〕遺恨。怨み。「意趣返し」はしかえし。「意趣斬り」は意趣をもって人を斬ること。
いじょう
〔以上〕五節句や具足開きなどの式日に登城して、将軍家にお目見得できる、すなわち「お目見得以上」の略。→「いかもの」。
「一万石以上を大名と云ひ九千九百九十石以下御目見得までを旗本と云ひ、御目見得以下を御家人(ごけにん)と云った。」(岡本綺堂「江戸に就ての話」)
いじょく
〔居職〕自分の家にいてやる職業。例えば、彫金師とか、袋物をこしらえる人とかいう風にである。
いしをだく
〔石を抱く〕昔は、拷問のとき重い石を膝に抱かされた。膝が破れて血を見ることがある。
いじんかん
〔異人館〕西洋人の家。
いすかのはし
〔鶍の嘴〕諸事万事行き違ってやろうとおもったことが駄目になること。鶍という鳥のくちばしはくいちがっているゆえにいう。
「それからといふものはする事なす事鶍の嘴、」(三遊亭円朝「名人長二」)
いすり
強請(ゆすり)の江戸なまり。
いせのつぼやのかみたばこいれ
〔伊勢の壷屋の紙煙草入〕参宮土産の紙製の安価な煙草入。壷屋は、その専門販売店。先代木村重友口演「小金井小次郎」千葉県船橋市の大神宮にもでて来る。四世小金井芦洲(昭和23年末歿−先代)は、原地には同様の店が2軒並んでいて、その各自が「本家の隣りに贋物(にせもの)あり」と店頭に大書していたと、やはり「小次郎伝」の鹿沼の粂吉が丹波屋伝兵衛の許へ行く伊勢道中のくだりでいった。
いたいぼう
〔痛い棒〕昔は牢屋で拷問のとき、両手を後へ廻して棒と一しょにしばり上げて責めた、そのことをいう。
「まだ其頃は旧幕の時分に痛え棒を背負(しょ)ひ」(河竹黙阿弥「霜夜鐘十字辻筮(しもよのかねじゅうじのつじうら)」)
いたがえし
〔板返し〕小さい厚紙の表紙と裏表紙のようなものの間に、さまざまの草花模様などがかいてあり、この表表紙と裏表紙を軽く指でおさえてひらいたりとじたりすると、中の絵がクルクル変るおもちゃ。上野や浅草の公園や、祭礼、縁日などで売っていた。他に、屋根をふきかえることをも、いう。
いたごと
〔痛事〕金がかかりすぎたこと。「これは痛事だった」
いただく
不快にさせること。
いたちのみち
〔鼬の道〕ゆききをしなくなったこと。鼬がゆく先を突っ切ると不幸なことがあるという。「近ごろはとんといたちの道で、お立ち寄り下さいませんねえ」
いたちのめかざし
〔鼬の目かざし〕手を目の上に上げ、遠くを見ること。
いたみしょ
〔痛所〕からだの痛む部分。
いたりせんさく
〔至り穿鑿〕スミからスミまでしらべ上げること。
いちご越後
(えちご)のなまり。
いちごうとっても
〔一合取っても〕最々下級の禄をとっても武士は武士であるという意味。
いちじき
〔一食〕1回分の食事。1日2食を「二じきですます」といった。
いちずいに
〔一図意に〕一図に。ひたすらな心で。
「良人(おっと)を思ふ一図意に屏風のもとまで忍んで来ました。」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)
いちだいじんしょう
〔一代身上〕一代で築き上げた財産。
いちぶへん
〔一分片〕一分(25銭)と少し。「一分片ばかりもっている」
いちぶんがたつ
〔一分が立つ〕士族(武士出身)のことばで、男が立つ。面目が立つ。
いちまいかんばん
〔一枚看板〕ナンバーワン。昔の寄席の入口には高く招き行灯がかかげられていたが、そこへ大てい3、4人の花形の名がかかれるのに、特別にお客をよぶバリューのある芸人のときは、たったひとりの名のみが筆太(ふでぶと)に行灯へもポスターへもかかれた。
いちまつ
〔市松〕「市松縞」の略。
いちまつじま
〔市松縞〕黒と白とたがいちがいに碁盤縞(ごばんじま)のように並べた模様で、佐野川市松(享保から宝暦ごろの上方役者で、たびたび江戸へ下り、女形として好評だった)が「高野山心中」の小姓粂之助で、その袴(はかま)にはじめてこの模様をつかってから、はやった。
いちもんあきない
〔一文商い〕小さな商売。
いちもんふつう
〔一文不通〕目に一丁字(いっていじ)もない意味。無筆(むひつ)。
いちらつ
〔一埒〕一件。「この一埒がつかないといけない」
いちりゅうまんばい
〔一粒万倍〕一と粒まいた種から、それが成長し、何層倍かの実がえられること。酒をつぎ過ぎて方々へこぼれ、ちらばった酒のしずくを、一粒の種が万倍にみのった光景に見立てていう冗談もあった。
いっかのがれ
〔一か遁れ〕一時逃れ。
いっきうちのなんじょ
〔一騎打の難所〕山と一騎打(いのちがけ)のおもいで越さねばならぬけわしい危険な道。
いっきだち
〔一己立〕ひとり立ち。一個が「キ」になまった。
いっけん
〔一件〕あの。例の。問題の。話題になっている所の。評判の女などにもつかう。
「おらあ上野の一件と思って影を隠したが、それぢゃあ比企(ひき)の一件か。」(河竹黙阿弥「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)ーー河内山と直侍」入谷村蕎麦屋の場)
いっさんまい
〔一三昧〕一心。一事に集中した心境。
いっしょういちだい
一世(いっせ)一代のなまり。
いっせんじょうき
〔一銭蒸汽〕明治の中頃以後、隅田川をゆく小さい蒸汽船で、永代橋・吾妻橋間と吾妻橋・千住間とあり、船中には説明入りでエハガキや赤本を売りに来る行商人があった。はじめ1銭均一でこの名があったが、太平洋戦争の前に廃されるころにはもちろん1銭ではなかった。
いつぞは
いつかは。いつぞやは。
いっち
一ばん。殊に。とりわけ。「あの女がいっちいい」
いっちょこ
〔一猪口〕一杯。「一猪口さし上げたいなあ」
いつづけ
〔流連・居続け〕色町で一夜明かした遊客が翌日もかえらず遊びつづけること。
「いつぞや主(ぬし)の居続けに、寝巻のままに引寄せて、たがひに語る楽しみの」(新内「明烏夢泡雪(あけがらすゆめのあわゆき)ーー浦里時次郎」)
いっぽん
100両。
「塩噌(えんそ)の銭にも困ったとこから、百両(いっぽん)ばかり挊(かせ)がうと、損料物(そんりょうもの)の振袖で役者気取りの女形。」(河竹黙阿弥「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)ーー白浪五人男」雪の下浜松屋の場)。
「百目」「一つ」ともいう。金額をあらわにいわない都会人の神経から、江戸時代には金の数え方に関するおびただしい隠語ができた。たとえば「半分(50両)」「片手(5両)」「千疋(びき)(2両2分)」など。しかし、「三つ」といっても必ず「300両」とは限らない。3朱、3両、30両、3000両というふうにその場その場の条件次第で単位は違う。
いっぽんどっこ
〔一本独鈷〕仏具の独鈷(とっこ)に似た模様を織り出した厚地。琥珀(こはく)織及び博多織帯に多い。→「けんじょうはかた」
いとおり
〔糸織〕縒織(さおり、ねじって強くした糸で織ったもの)の絹織物。
いとだて
〔糸立〕タテを麻糸、横を藁(わら)で織った莚(むしろ)。旅行などに日除(ひよけ)、雨覆(あまおい)としてもちいる。「色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)」の与右衛門、「田舎源氏露東雲(いなかげんじつゆのしののめ)の光氏、「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」大詰のお嬢吉三がまとっている。ともに、雨雪をしのぐと同時に人目をもさけようとしていることがわかる。
いどばたかいぎ
〔井戸端会議〕長屋の神さんたちが、共同でつかう井戸のそばで世間ばなしをすること。井戸は、明治中期以後は共同水道に変ったが、井戸端会議のことばはその後もつかわれた。
いとまさ
〔糸柾〕木材の木理(きめ)の糸のようにこまかいもの。
いな
→「いなかっペえ」
いなかっペえ
〔田舎っペえ〕田舎もの。略して「いな」ともいった。江戸人が地方人をさげすんでいうときのことば。→「ひゃくしょう」
いなせ
〔鯔背〕勇み肌。鉄火(てっか)。語源は、日本橋魚河岸の威勢のいい人々が髷(まげ)を鯔の背の形にゆったことにある。
いなり
〔居形〕その職業らしい住居と服装。
「玄関がまえでも医者居形(いしゃいなり)で、これまでこけをおどして来たのよ。」(三遊亭円朝「鏡ケ池操松影(かがみがいけみさおのまつかげ)ーー江島屋怪談」)
いぬおどし
〔犬威し〕犬をおどかす役にぐらいしか立たない刀。伊勢屋稲荷に犬の糞が江戸の名物であった時代、のら犬は明治中期まで東京に少なくなかった。
「犬威(いぬおど)しでも大小を伊達にさしちやあ歩かねえ。」(河竹黙阿弥「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」大川端庚申塚の場)
いぬしし
猪(いのしし)のなまり。「いぬししァ豆くってホーイホーイ」
いぬのかわばた
〔犬の川端〕川っぷちは寂しく人通りがないゆえ、犬が通ってもたベものが落ちていない。そのように途中で飲食をしないで、どこかへ行くことをいう。略して「きょうはイヌカワだよ」。
いのこり
〔居残り〕支払いができないで、遊女屋や待合へのこっていること。落語の「居残り佐平次」のような豪のものもある。
いのこりめし
〔居残飯〕「居残り」がたべるひどいそまつな食事。
いばりをつける
〔威張をつける〕いばってみせること。「意張をつけるなア後(あと)にして、」(仮名垣魯文(かながきろぶん)「西洋道中膝栗毛」)
いまがに
いまだに。
いまさか
〔今坂〕「今坂餅」の略。
いまさかもち
〔今坂餅〕餡(あん)を包んだ楕円形の、紅や緑に着色して、焼板の上で焦目(こげめ)を付けた餅。ようかんや大福と同じようにごく大衆的な菓子だったから、落語家の芸名にも、明治時代の古今亭今輔の門人には、餡古楼(あんころう)今坂があった。
いまとうせい
〔今当世〕今の時代にピッタリという意味。ニュールックにもあたる。
「今当世の身装(みなり)だ」などという。鏑木清方「明治の東京語」に「古くは今当代と云っている」。
いまどやき
〔今戸焼〕台東区浅草今戸で焼いた火入(ひいれ)などのそまつな瀬戸物。福助やおかめや猫など。器量の悪い女のこともいった。「橋場今戸の朝煙」と邦楽にあるは、この今戸焼を焼く煙である。
いみ
〔忌〕80日間の喪(も)。「忌中(いみちゅう)」
いもしょせい
〔芋書生〕書生をののしる言葉。下宿で芋ばかりたべている奴という意味。
いもすけ
〔芋助〕百姓をののしることば。ものにうとい人。
いもむしころころ
〔芋虫ころころ〕大ぜいつながって芋虫のはうような恰好(かっこう)をして歩く女の子の遊戯。
いりかわ
〔入側〕書院造りの座敷と縁側との間にある一間幅(いっけんはば)の通路。
いりかわつき
〔入側付き〕「入側」のついた造作。
いりざけ
〔煎酒〕酒、醤油、鰹節を加えたものをいって、さしみや膾(なます)の味付けにつ
かうもの。
いりひ
〔入樋〕水の入口や吐口(はきくち)にある樋(とい)。
いりふねのクロス
〔入船の十字架〕港へ入って来た外国船の西洋人。みなクリスチャンで胸に十字架をさげていたから、そういった。
いりめ
〔入費〕費用。
いりやまがた
〔入山形〕
iryamagataという形が入山形で、袖口を両方ひっくり返したときなど、この形になるので、「袖を入山形にして」といった。
いりわけ
〔事情〕わけ。理由。
いれごみ
〔入込み〕男女混浴。男女一しょに入るお湯。
いれずみなおし
〔再刺〕前科二犯。昔は一犯ごとに腕へ懲罰の刺墨をした。それを消すために、ことさらに灸で焼いた者さえある。
「お前もおれも押借(おしがり)で、二度まで墨が入ったからは、どうで始終(しじゅう)は斬られる体。」(河竹黙阿弥「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)ーー河内山と直侍」入谷村蕎麦屋の場)
いれぶつじ
〔入れ仏事〕仏の供養につかう費用の意味だが、費用ばかりかかって利益の少ない場合にもいう。
「裸でやっても二十と三十掛けねばならぬ、まことにそれは入れ仏事。」(河竹黙阿弥「人間万事金世中(にんげんばんじかねのよのなか)」)
いろあるはなはにおいうせず
〔色ある花は匂い失せず〕天性の美人は、初老にちかくなっても残んの色香がただよっている。元の意味は、美しい花は盛りを過ぎてもいい香りがなかなか消えない。
いろきのゆみ
〔色木の弓〕塗ってある弓。
いろけづら
〔色気面〕いろっぽい顔立ち。
いろどりする
〔色取する〕よろしく見つくろう。
「お母(っか)さん何か一寸お飯物(まんまもの)を色取してどうか……」(三遊亭円朝「松と藤芸妓(げいしゃ)の替紋(かえもん)」)
いろのなかだち
〔色の仲立〕情事の仲介。
いろのなかやど
〔情交の仲宿〕好いた同士を密会せしめるところ。温泉マークではなく、私的に恋びとたちのあうのに部屋を貸してやること。
いろめえた
〔色めえた〕色めいた。色っぽい。浮ついた。
「今はかうしてゐるものの、囲(かこ)はれ者とは表向、枕かはすはさておいて、色めいたことはこれほどもなく……」(瀬川如皐(せがわじょこう)「与話情浮名横櫛(よわなきけうきなのよこぐし)ーー切られ与三郎」源氏店(げんじだな)妾宅の場)
いわくつき
〔曰附〕因縁つき。
いわしのあたまもしんじんがら
〔鰯の頭も信心柄〕鰯の頭でも自分の信心次第で効(きき)めがある。近頃は、「信心から」として、鰯の頭でも一心に信じて祈ることから御利益があるという風に解している。
いんぎ
縁起(えんぎ)のなまり。
いんぎょう
〔印形〕実印、認印など。
いんじゅん
〔因循〕ハキハキしないこと。「あいつは因循している」という風につかう。
いんず
〔員数〕数のことをいう。
「落せし金の員数といひ、おのれが仕業(しわぎ)と認めしゆゑ、」(河竹黙阿弥「富士額男女繁山(ふじびたいつくばのしげやま)ーー女書生」)
いんだら
淫乱でだらしのない人。円太郎馬車をなまって、エンダラ馬車といったのと、のちには意味がまじりあった。
いんちゃんてれす
淫乱でデレスケ。好色な人をののしっていう。元は外国タバコの名。
いんのくそでかたき
〔犬の糞で仇〕いんはいぬのなまり。わずかなことをうらまれ、つまらぬ所で復讐されること。
いんぷく
〔陰服〕物忌み。人の死後、殺生や肉食を初七日までつつしむこと。
「七日の間は陰服といって、田舎などではエラやかましくって、とんぼ一つ鳥一つ捕ることが出来ねえ。」(三遊亭円朝「菊模様皿山奇談」)
いんりょく
〔引力〕引立て。
「羽振のいい渡辺織江の引力でございます。」(三遊亭円朝「菊模様皿山奇談」)
いんろう
〔印籠〕楕円形の三重か五重の小さい美しい箱。左右のハシに緒締(おじめ)、根附(ねつけ)をつけて帯にはさみ、丸薬(がんやく)や当座薬(とうざやく、イザというときにすぐつかえる薬)を入れた。江戸時代の礼服の装飾品(アクセサリー)で、梨地蒔絵(なしじまきえ)、螺鈿(らでん)、堆朱(ついしゅ)の加工品が多い。
「一つ印龍一つ前、これ助六が前渡り、風情なりける次第なり」(河東節「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」)

〔鵜〕底の底まで知りつくしていること。通(つう)なこと。鵜は水深くくぐって魚をとるからである。「あの家のことなら俺は鵜だ」
うかと
〔浮かと〕うっかりと。

うけしょ
〔請書〕うけたまわったことを記して差し出す文書。

うけたまわり
〔承り〕遊女が自分の金で情人をあそばせること。→「みあがり」

うけにん
〔受人・請人〕保証人。身許引受人。

うける
〔受ける〕もらう(バクチ用語)。

うこんのかみなり
〔鬱金の雷〕うこんは黄色ゆえ、黄色い雷でキライというシャレ。

うこんのはちまき
〔鬱金の鉢巻〕黄色い鉢巻で額(ひたい)を廻して巻くゆえ、気(黄)が廻るというシャレ。大阪の花柳界では、永くつかっていた。

うさあねえ
〔嘘はねえ〕ほんとうだ。ちがいない。

うさいかく
〔烏犀角〕黒色の犀の角。子どもの熱さましにつかう。
うさぎ
〔兎〕明治
4年から兎の売買が大流行し、方々に「兎市」まで立って変った毛並の兎は600円に売れるなど、話題をのこし、同6年弊害多く、ついに禁止されたが、それまでつづいた。
「いつか兎で
30円お前に貸した金があるが、」(河竹黙阿弥「綴合於伝仮名書(とじあわせおでんのかながき)ーー高橋お伝」)
うじうじ
優柔不断の形容。にえきらないこと。ハッキリしない人のこと。

うじこはんじょう
〔氏子繁昌〕身内(同志)が賑わうこと。転じて、自分自身が儲かることにもいう。

うしにもうまにもふまれぬ
〔牛にも馬にも踏まれぬ〕孤児がだれからも迫害されず、成長して社会へ出ることをいう。

うしぬすっと
〔牛盗人〕無口でハキハキしない人。

うしみつ
〔丑三つ〕午前
3時。丑の刻(とき)は四分されており、丑一つ(2時)丑二つ(2時半)丑三つ(3時)丑四つ(3時半)。そして寅一つが4時。
うしろかげ
〔後影〕後というにおなじ。後姿。
「見すぼらしげなうしろ影」(近松門左衛門「丹波与作待夜小室節(たんばよさくまつよのこむろぶし)」上の巻・道中双六の段)

うしろまく
〔後幕〕寄席の高座の正面にかけられている花やかな色彩の幕。客から芸人へおくった幕で、昔はこれの多い少ないで人気が分かった。今は改名や真打になった祝いのときだけにおくられる。

うしろみ
〔後身〕後へ身体全体を振り向けること。
「達者で屋敷へお帰んなせえよ」と後見になって此方(こなた)を伸び上って見る。」(三遊亭円朝「塩原多助一代記」)

うしろみ
〔後見〕その人の背景になって力を貸すこと。今日では「こうけん」とだけ発音する。

うすがいぶんがわるい
〔簿外聞が悪い〕うすみっともない。少しみっともない。

うすかわ
〔薄皮〕皮の薄い今坂餅。→「いまさかもち」

うずら
〔鶉〕劇場の観客席の名称。舞台へむかって左右の一ばん後(その代り一般席より座席が高くなっている)の席で一つの桝(ます)へ約
4人入れる。
「うづらを取置けとて、都なれぬ書生を芝居茶屋に遺(つかわ)せしに、」(斎藤緑雨「おぼえ帳」)

うそっぺい
〔嘘っペい〕うそ。うそっ八。

うたいこみ
〔うたい込み〕遊女屋その他の色町で、特に目的の女の名をいって遊びにあがること。名ざし。

うたぐちをしめす
〔歌口を湿す〕笛の唇へあてがう孔(あな)の部分を唾液(つばき)でぬらす。
「すすめに随ひ藤の方、涙にしめす歌口も、震(ふる)うて音をぞ、すましける」(並木宗輔他「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」熊谷陣屋の場)

うたぐり
〔疑り〕うたがい。

うだつ
〔梲〕新築で棟上(むねあげ)するときに立てる柱をいう。出世することを「うだつが上がった」。

うたぶくろはいかいぶくろ
〔歌囊俳諧囊〕短歌をつくるセンス、俳詣俳句に遊ぶセンス。囊は、知恵袋の袋。

うちかた
〔内方〕夫。うちのひと。
「うちかたは何でもハアひとりで心配ぶって、みっともねい事はしたくねえが、誰か識者(ものしり)に儀式(ようす)を聞きてえもんだ。」(三遊亭円朝「鏡ケ池操松影(かがみがいけみさおのまつかげ)ーー江島屋怪談」)

うちかぶと
〔内兜〕内幕。その人、その家の何から何まで。「内兜をみすかされた」

うちげいしゃ
〔内芸者〕料理屋、遊女屋にかかえられ、その家に居住の芸者。内ばこ。

うちつけ
〔打つけ〕無遠慮。だしぬけ。露骨。

うちは
〔内端〕控え目。遠慮がち。
うちひも
〔打紐〕二筋以上の糸で組んだ紐。

うちょうてんかい
〔有頂天界〕天高く舞い上がるよう。喜びにワクワクフワフワ夢中になること。有頂天。
「このような若いきれいな別嬪(べっぴん)にもたつかれた事なれば、有頂天界に飛上り、」(三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」)

うっさん
〔鬱散〕気晴らし。

うっすらあけ
〔うっすら明け〕やっと夜の明けそめたころ。

うでこき
〔腕こき〕「腕ッこき」ともいう。その道の腕におぼえのある者(職人などの場合に一ばんつかう)。今ならべテランとかエキスパートとかいうところ。

うでまもり
〔腕守〕二の腕につけた腕貫(うでぬき、二の腕にはめて飾りとする環)などに入れた神仏の守り札。

うでをつっぱる
〔腕を突っ張る〕腕力をふるう。

うどたら
〔独活鱈〕ウドと鱈の煮付け。

うなう
〔耘う〕たがやす。
「あるときは畑を耕ひ、庭や表のはき掃除をし、」(三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」)

うなや
おだやか。
「どうせな、家もうなやにやアゆくめえと文吉も心配して居るが、」(三遊亭円朝「敵討札所霊験(かたきうちふだしょのれいけん)」

うのう
「打つ」の児童語。

うまがよい
〔馬通い〕馬へ荷を付け商売に行くこと。

うまご
〔午後〕正午(うまのこく)以後を、「ごご」といわず、「うまご」といった。大正末年、京都落語界の老匠桂枝太郎(先代)は「雷の褌(ふんどし)」という落語の中で「明日のうまご三時に夕立がござります」といっていた。

うまにはのってみろひとにはそってみろ
〔馬には乗って見ろ、人には添って見ろ〕何でも人間、一どは体験して見るものだ。

うままつり
〔午祭〕はつ午。

うまや
〔馬屋〕しまつや(始末屋)に同じ。勘定のできない客についていって、支払いをもらう、附馬(つきうま)を専門にする店。

うまれだち
〔産れ立〕生れながらの性質。「この子の性格は産れ立で直らない」などという。

うめあわせ
〔埋合せ〕差引ゼロ。バランスがとれた状態。

うやふや
要領を得ないこと。ウヤムヤ。

うら
〔裏〕「初会(しょかい)」のつぎ。二度目。「裏を返す」という。三度目から馴染(なじみ)になれる。廓のことば。

うらがえり
〔裏帰り〕裏切り。「ひっくり返る」ということばもある。

うらだな
〔裏店〕→「たな」

うらどおしをする
〔間道をする〕本街道以外を通る。

うらばしご
〔裏梯子〕料亭や遊女屋などで(一般の家にもあったが)入り口には大きな梯子段があるが、別に座敷の裏から下へかよう細い梯子があり、それをいった。
「手をたたいて会計なんざ野暮ですよ。いいかい、程のいいところで、お前が裏梯子かなんかから厠(はばかり)へいくふりをして降りてツて、一ツ手で会計をします。」(落語「明烏(あけがらす)」)

うらや
〔うら家〕便所。

うりたおす
〔売り倒す〕売りとばすこと。

ウルコール
「オルゴール」のなまり。

うるしい
「嬉しい」のなまり。

うるしのごとくにかわのごとく
〔漆の如く膠の如く〕男女の情交の余りにも濃やかで離れない姿。

うろうろぶね
〔うろうろ舟〕水上で菓子、酒、くだもの、その他を売る舟。うろうろこいで廻っているところから、いう。

うろっか
うろうろ。

うろん
〔胡乱〕あやしい。身の上の分からないこと。「うろんなものじゃない」とか、「うろんな奴だ」という風につかう。

うわじめ
〔上締〕衣類の上へしめる伊達巻またはその代用。「下締」の対。

うわぞうり
〔上草履〕遊女が遊女屋にいるときに、はいて歩く厚い草履。深夜、廊下を歩くその昔に、悲しい廓情調が感じられ、古川柳には「廊下から秋をおぼえる上草履」。

うわて
〔上手〕上流。ただし江戸、東京でただ「うわて」といえば隅田川のそれにきまっている。「船頭さん、船をもう少し上手へやってもらおうか。船もいいが一日中乗っていると、退屈で退屈でならない」などと落語「あくび指南」の隠居もいう。

うわてくんだり
〔上手くんだり〕「うわて」にあった忍び逢い好適の茶屋。水神の八百松、梅若境内の植半など。

うわながし
〔上流し〕家の中にある流し(炊事場)。

うわのり
〔上乗〕荷とともに船へ乗り、それを処理、監督すること。今ではトラックの上乗などにいう。

うわんまえ
〔上ン前〕「上前(うわまえ)」のなまり。着物を重ねたとき、おもてへでる方。

うんしゅう
〔雲州〕金のない人。雲州みかんは種がないからである。

うんじょうじょ
〔運上所〕税関のこと。

うんぜえまんぜえ
大ぜいの意味。雲勢(雲霞の如くという意味で)万勢とかくのであろう。
「君方(きみがた)は大ぜい寄って集(たか)ってうんぜえまんぜえ他人(ひと)の宅へ押込んで何をするんです。」(三遊亭円朝「黄薔薇(こうしょうび)」)

うんてれがん
間が抜けてデレッとだらしのない男。好色でおろかな人。

うんでんばんり
「雲泥万里(うんでいばんり)」のなまり。うんでんばんてん。

うんどう
〔運動〕散歩のこと。
うんぷてんぷ
〔運否天賦〕そのときの運しだいという意味。
えいえい
〔永々〕末永く。将来。
えいぶつ
〔英物〕すぐれた人。

えががり
「毯粟(いがぐり)」のなまり。五分刈りの頭。
えきしょ
〔役所〕刑務所のこと。苦役(ちょうえき)をする所の意味。

えきていきょく
〔駅逓局〕郵便局。

えずへかな
〔絵図へ仮名〕地図とちがって、山は山の絵、池は池の絵をかいた、わかりやすい道案内の図を絵図といったが、その絵図へさらにカナをふる。つまりくどいほどわかりやすくいってやること。

えぞうしや
〔絵草紙屋〕小説類の小売店であるが、絵草紙がおもな売品だった。一枚絵、二枚続き、三枚続きの錦絵、子どものおもちゃ絵、千代紙、芝居の似顔絵が店中にかかげられてあったが、明治の中頃、エハガキの流行とともにだんだんはやらなくなった。
「錦絵とはまことに能く附けた名で、その美しいことは云ふまでもないが、殊に各座の新狂言の似顔絵が絵双紙屋の店先にずらりと列んで懸けたのを仰ぎ見た時には、花と云はうか紅葉と云はうか、わたし等のやうな子供でも実に恍然(こうぜん)として足を停めずにはゐられなかった。
(中略)春雨や傘さして見る絵双紙屋 子規

かういふ風情は現代の若い人たちには十分に会得(えとく)されまいと思ふ。」(岡本綺堂「ランプの下にて」)
えだがわ
〔枝川〕大きい川のわかれ。支流。

えて
〔得手〕得意。「得手に帆をあげ」

えてきち
〔得手吉〕得意なもの。また男根をもいう。

えどぐち
〔江戸口〕江戸人の口にあうような調理法。

えどだすけ
〔江戸助け〕他人の代りに盃の酒をのんでやり、また一杯についで返すをいう。

えどぢか
〔江戸近〕江戸にちかいところ。

えどづめ
〔江戸詰〕「江戸屋敷詰」の略。家来がその主君たる大名の江戸屋敷の方へ転勤すること。「国詰」の逆。
えにかいたじしん
〔絵にかいた地震〕動かないこと。「サー話のつくまでは、絵にかいた地震じゃねえが、一寸たりともここは動かねえ」

エビシ
ABCのこと。
えびす
〔夷〕「えみし」の変化したもの。未開人。古代・中世はいわゆる「蝦夷(えぞ)」を指したが、近世からは一般的に「いなかもの」という程度に使われた。「お前のようなエビスになにがわかるか」

えびすぜん
〔夷膳〕膳をタテ板(普通は横板にすえるのに)にすえること。不吉という。

えふ
〔会符〕荷物につける目じるしの札。今日の小包へつける小さい紙とちがい、大名用の長持などは大きな板札を立てた。大正期まで荷物の木札をいっていた。

えり(もと)につく
〔襟(許)に付く〕えらい人のごきげんばかり取って利益を計る。権力に迎合する。
えんぎなおし
〔縁起直し〕不吉を祓い清めること。

えんこ
坐ること。児童語。

えんごくもの
〔遠国者〕四国とか九州とか東北、北海道とかの人を、昔はいった。

えんしゅうすかし
〔遠州透〕小堀遠江守政一の考えた型の透(すかしをこしらえた部分)。書棚の透かしになっている装飾の部分もいう。

えんすけ
〔円助〕1円のこと。初代三遊亭円遊の落語の幇間(たいこもち)が、「円助頂戴」などといって流行させた。

えんそ
〔塩噌〕塩とみそ。生活費。
「塩噌(えんそ)の銭にも困ったとこから、百両(いっぽん)ばかり挊(かせ)がうと、」(河竹黙阿弥「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)ーー白浪五人男」)
「今日は塩噌の銭もねえ。」(同「霜夜鐘十字辻筮(しもよのかねじゅうじのつじうら)」

えんだり
プラスマイナス。差引き。つうぺ。
「今のお嫁入とえんだりにしませう。(不吉なことがあってもーー)」(三遊亭円朝「業平文治漂流奇談」)

えんたろうばしゃ
〔円太郎馬車〕乗合馬車のこと。四世橘家円太郎が、高座でこの馬車の真似をして、「おばあさんあぶないよ」と馭者(ぎょしゃ)のようにラッパをふいたのでこの名が起った。乗合馬車(無軌道)が鉄道馬車に流行をうばわれ、ガタ馬車がガタクリ馬車とののしられだすと円太郎もエンダラとなまり、「エンダラ帽子」「エンダラタバコ」といけないものの名に変った。

えんつうふつう
〔えんつう不通〕音信をしないこと。

えんとうぶね
〔遠島船〕流罪(島流し)になる犯罪。「おれは遠島船を腰につけてるんだ。ちっとのことにおどろくか。」

えんりょあけ
〔遠慮明け〕謹慎中の期日が終った事。
おあい
〔お相〕お相手のこと。酒のときなど「お相をしましよう」という。
おあらため
〔お改め〕臨検。「程なくお改めが参ります」
おいからし
〔追枯し〕役に立たなくなるまで使いまくること。
おいこみ
〔追込み〕尾行、追跡。あとをどこまでも追って行くこと。
おいじき
〔追敷〕一どあつらえた食物が足りず、また追加すること。飯なら、「おいだき」。
おいずる
〔笈摺〕巡礼が着物の上に着る袖なし羽織に似た薄い白衣。笈(おい)とは仏具・食器・衣服などを入れて背におう葛籠(つづら)に似て、四隅に脚があり、開閉す可(べ)き戸を設けた箱で、それをおうとき背の摺(す)れるのを防ぐために着たのが最初であるという。
おいせん
〔負銭〕損をした上にまた金をだす。
おいそら
おいそれ。右から左へすぐ。
おいち
〔お市〕駄菓子の一種。
おいなりさん
〔お稲荷さん〕いなりずしのこと。昔は夜ふけに「おいなりさん」といって売り歩いた。
おいねえ
→「おえねえ」
おいめひきおい
〔負目引負〕売買や負債を他人が勝手にやり、その損失を自分が引き受ける破目となること。
「家事不取締りとなりまして、店の者がそれぞれに負目引負をしたために、身代(しんだい)は余程傾(かたむ)いた。」(三遊亭円朝「鏡ケ池操松影(かがみがいけみさおのまつかげ)ーー江島屋怪談」)
おいもとご
〔お妹御〕
→「あにさん・あねさん」
おいら
〔俺ら〕自分の呼びかた。昔は女も使った。
「この『おいら』というのは、江戸文芸では女も云ってをり、家内の祖母はやはり『おいら』だったさうだが、これがごく軽く上品に出て、字面で感じるやうにいかついことはなかったというから巽(たつみ、深川)の芸者の、あの読むといかにもあらっぽい、いけぞんざいな(といふこの『いけぞんざい』が既に明治の語に属する)ロのききかたも、直(じか)にはもっと色気も味もあったのだらう。」(鏑木清方「明治の東京語」)
おいらんごろし
〔花魁殺し〕花魁泣かせ。「後家殺し」「女殺し」などの「殺し」。
おいらんどうちゅう
〔花魁道中〕名高い廓で一定の日にスター級の遊女が盛装して廓内を練り歩くパレードをいう。歌舞伎「籠釣瓶」の佐野次郎左衛門も落語「千早振」の竜田川も、これを見たばかりに魂うばわれ悲劇の人となっている。
おうえさま
〔お上様〕旦那さま奥さまとうやまって呼ぶ代りの言葉。
おうたいじょ
〔応対所〕応接間。
おうちゃくもの
〔横着者〕一般にはしっていても何にもしない人をいうが、悪人の意味にもつかわれた。
おうてい
〔押丁〕刑務所で看守長や看守を助けて囚人をとりしまる下役。
おうでまえ
〔お腕前〕凄腕。「君もなかなかお腕前だね。大方(おおかた)君はあの婦人を、」(三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」)
おうどう
〔横道〕無理。横車。わがまま。
おうむせき
〔鸚鵡石〕声色(こわいろ、声帯模写)をつかう人のために、昔の芝居の中で売っ
た名ゼリフ集。劇場の公演のたびに新しく売り出し、表紙は役者の似顔絵。明治以後は「影芝居(かげしばい)」という名に変り、表紙は図案風になった。
オウライ
〔応来〕すぐにいうことをきいて男の自由になること。応来芸者。英語のAll rightつまり「オウライ」の転入か。
おえない
〔負えない〕始末におえない。手におえない。しようがない。心ない。くだらない。→「おえねえ」
おえねえ
→「おえない」「おいねえ」とも発音する。
「『お前から預った50両の証文を又とられてしまった。』『ええ、おえねえ事をするぢゃあありませんか。』」(三遊亭円朝「緑林門松竹(みどりのはやしかどのまつたけ)ーーまたかのお関」)
おえねえもの
〔負えねえもの〕ろくでなし。手のつけられない人。
おおあせ
〔大汗〕汗みずく。汗だく。
おおあつあつ
〔大熱々〕夢中になること。ほれて熟を上げること。
おおいりば
〔大入場〕劇場の2階の観客席の奥で、立見(たちみ)の前にある大衆席。
おおかたならず
〔大方ならず〕一と方ならず。「大抵(たいてい)や大方、案じたことではない」など。
おおかみのきんたま
〔狼の睾丸〕だれも手をつけないこと。「うんこのひしゃく」に同じ。
おおかめ狼(おおかみ)のなまり。
おおぎょう
〔大形〕大そうらしいこと。仰山。
おおぐち
〔大口〕「大口袴」の略。
おおぐちばかま
〔大口袴〕束帯(そくたい、礼服を着し、大帯をたばねる)のとき、表袴(うえのはかま)の下にはいた一種の袴で、紅の生絹、平絹、張絹(はりぎぬ)などで製し、裾の口の大きく広いもの。直垂(ひたたれ)、水干(すいかん)の下にももちいられた。
おおくぼみ
〔大凹〕川の一ばん深いところ。
おおけいき
〔大景気〕景気のいいこと。
おおざっぱ
〔大雑把〕あらかた。あらまし。大体のところ。ぞんざい(テイネイでない)という意味にもつかわれる。
おおじあわせ
〔大仕合せ〕大へん幸福。
おおしかられ
〔大叱られ〕大小言。大目玉。
おおず
〔大図〕大体ということ。
おおぜいまんぜい
〔大勢万ぜい〕大勢に万ぜいと重ねて意味を強めた。万ぜいの語はいま全くに亡びた。
おおぜいろ
〔大蒸籠〕そばの沢山入っている蒸寵(せいろう)をいう。
おおせきける
〔仰せ聞ける〕おっしゃる。
おおせつけられ
〔被仰付〕御命令。「殿のおおせつけられだから仕方がない」。御命令状を「被仰付書」(おおせつけられかき)。
おおだい
〔大台〕豪華な台の物。→「だいのもの」
おおだいこ
〔大幇間〕一流幇間のこと。古川柳の「幇間持あげての上の幇間持」で商家の旦那が道楽のはてに身を投じたのがあり、吉原松廼家露八のごとく彰義隊の成れの果があり、みなインテリで風流人だった。また明治落語界の名物となった円遊のすててこは吉原の民中(みんちゅう)がアレンジしたもの。立川談志の「郭巨(かっきよ)の釜掘り」は同じく吉原の宇治喜美太夫が創作した。その座敷振りも品があって、おのずからユーモアがあふれていた。額(ひたい)を叩いて駄洒落(だじゃれ)を飛ばし、祝儀にありつくことをのみ専門としている連中とは全くちがっていたといわれる。
おおだな
〔大店〕大商店。→「たな」
おおたば
〔大束〕大きなこと。「大束なことばかりいう」「大束をぬかすな」
おおたぶさ
〔大髻〕男子の結んだ髻(もとどり)を大きく取って結んだもの。力士や俠客の髷(まげ)に見られる。
おおっぴら
おおびら。かくさないこと。
おおどけい
〔大時計〕町中にある時計台のこと。
おおどぶ
〔大溝〕昔の東京下町には小川にちかい大きさの溝があり、それをいう。
「わるくそばへやがると、大どぶへさらひ込むぞ、鼻の穴へ屋形船を蹴込むぞ。口を引裂くぞ。こりや又何のこつたエ。」(津打治兵衛「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」三浦屋格子先の場)
おおひら
〔大平〕お椀の大きなもので、おひらともいう。
おおふでかし
〔大不出来し〕大きな不出来し。→「ふでかし」
おおへこみ
〔大へこみ〕参ったとか、やりこめられてくさったとか、いう意味。
おおみ
〔大見〕大そうしばしば見ていること。
おおめいてい
〔大酩酊〕大酔。
おおもらい
〔大貰〕十二分以上に沢山貰ったこと。
おおらんちき
〔大乱ちき〕大さわぎ。それも迷惑のかかるようなさわぎという意味である。
おかいこぐるみ
〔お蚕ぐるみ〕当時は安かった木綿の着物に対して、蚕(かいこ)が吹き出す高級品の絹物専用。ぐるみは身体を包(くる)みの意。何不自由なく育てること。絹布(けんぷ)ぐるみ。
おかご
〔お駕籠〕色町へ泊りつづけること。→「いつづけ」
おかざりまつ
〔お飾松〕門松。おかざり。
おかしら
〔お頭〕番頭(ばんがしら)の意味。武家の番衆ーーつまり御殿につとめ、雑務や警衛(けいえい)をつかさどる人々の長。
おかぞくたばこ
〔お華族煙草〕上流紳士の煙草をすうエチケットをいう。
おかち
〔お徒士〕徒歩でお供や行列の一ばん先の案内役を務めた侍。転じて「おかちでお越しになった」などにいう。
おかちん
〔お餅〕正月用の餅。
おかどおおい
〔お門多い〕訪問先の多い。「お門多いところをこんなものを頂きまして」
おかばしょ
〔岡場所〕新宿・品川・板橋・千住の「四宿(ししゅく)」をはじめとする吉原以
外の花街。
おかぼれ
〔傍惚〕他人の恋人にほれること。動詞は「おかぼれる」。「おかぼれて」は「おかぼって」とも発音する。
おかまい
〔お構い〕→「かまう」。お構いになった者を「お構い者」。
「お坊吉三と肩書の武家お構ひのごろつきだ。」(河竹黙阿弥「三人吉三廓初買」(さんにんきちさくるわのはつがい)大川端庚申塚の場)
おかまいうち
〔お構い内〕かこいの中。柵(さく)の中。
おかまをおこす
〔お釜を興す〕立派に世間でもみとめるような家となること。
おがみうち
〔拝み討ち〕両手をおがむときの形にして斬りおろすこと。刀の柄(つか)を両手でにぎり、真向(まっこう)に振りかざして斬り付けること。
おかみどおり
〔お上通り〕殿さまのすぐおそばにいて公認のお妾。
おがみをあげる
〔拝をあげる〕拝む。祈祷をする。
おかやき
〔傍焼〕自分に関係のないことに焼くヤキモチ。「傍焼半分にいやアがった」
おきつぎ
〔置つぎ〕相手の盃の膳の上においてあるのを、取り上げさせないで酒をつぐこと。
おきてぬぐい
〔置手拭〕頭や肩へ手拭をのせておく。
おきなごうし
〔翁格子〕格子(こうし)の中にさらに多くの細い格子をあらわした縞(しま)。「天保六花撰」では、3000歳の廓抜けに片岡直次郎がお召縮緬翁格子の褞袍(どてら)を着ていて、そのためにアリバイがうたぐられる事件がある。
おきまり
〔お定り〕いつもいう同じこと。きまっていること。おさだまり。遊女屋などであがる前にきめた一定(一般的な)の金額。→「きまり」
おきゃくらい
〔お客来〕訪問客のあること。
おきょうげんし
〔お狂言師〕千代田城大奥の御殿女中へ、座興(ざきょう)のため簡単にできる芝居を教える振附師(ふりつけし)。
おきんいん
〔お金印〕登山記念に神社で衣服に押してもらう印。今日ならスタンプ。
おく
〔奥〕妻。
「奥。金(きん)の働きぶりをみろ。」(落語「素人鰻(しろとうなぎ)」)
「奥や」「旦那さま」「植木屋さんにおひたしを……」(落語「青菜」)
おくぐら
〔奥蔵〕店につづいた蔵でなく、奥にある土蔵。落語「質屋蔵」の、お化けの出る蔵などがそれであろう。
おぐし
〔お髪〕髪のこと。「大そうおぐしがよくおできに」などという。
おくのかこい
〔奥の囲い〕奥の四畳半。足利義政のころ、茶道の祖珠光(しゅこう)が、慈照寺の銀閣にもうけた四畳半の茶室を屏障(へいしょう、しきり)で四方を囲ったことが語源である。
おくびょうまど
〔臆病窓〕商家の雨戸にある小窓。夜は盗人をおそれ、そこをあけて商売をした。
おくみ
〔お組〕「お組屋敷」の略。
おくみやしき
〔お組屋敷〕幕府の与力(よりき)、同心などが一と組になって住まった邸。
おくむき
〔奥向〕居間(いま)の方。家政万般。家庭的事情。その処理を「奥向の切盛(きりもり)」という。
おくゆるし
〔奥許〕芸道の最後の秘密を教えてもらい、それを自分のものとすることを許されること。
おくら
〔お蔵〕やめること。蔵へしまってしまうという意味。劇場からでたことばで、「あの狂言はおくらにした」。
おくりおおかみ
〔送り狼〕女のあとを追い、あわよくば自由にしようとくっついて行く男。
おくる
腹を立てる。不きげんになる。むくれる。
おくんさる
「おくんなさる」(「おくれなさる」「おくだしなさる」)の略。
おけいはく
〔お軽薄〕お世辞。「あいつはお軽薄をいっていけない」
おけし
〔お消〕消炭の略。遊女屋の若い奉公人の男女。ねるとすぐ起されて用事をいいつけられるので、すぐ起るという所から消炭としゃれていった。お消はその愛称。
おげし
→「げし」
おこそずきん
〔お高祖頭巾〕目だけを出し、他の頭や顔の部分を全部包むもの。主として婦人の防寒用。日蓮宗高祖(こうそ)日蓮上人の像の頭巾に似ているゆえである。
おけどうふ
〔桶豆腐〕吉原独自のさわらでこしらえ、据風呂桶(すえふろおけ)を小さくしたようなてつぽう(鉄か銅でできた火をたく筒)がついている桶に豆腐が入っていて煮ながらたべる、風流な湯豆腐である。吉原では湯豆腐のみは台屋(だいや、遊女屋へ料理をいれる店)でなく豆腐屋からじかにいれるのは、吉原のはじめには台屋などなく或は豆腐屋が唯一便利の食料品店だったので、その報恩ゆえかといわれている。
おこうがえり
〔お講帰り〕真宗で、その開祖親鸞上人の忌日に行う仏事。報恩講。
おこも
〔お薦〕乞食。大正初年までの東京人の家庭用語であった。
おこもり
〔お籠り〕信心のため堂などに泊って祈りつづけること。
おこり
〔瘧疾〕今日のマラリアと同じ蚊の媒介(ばいかい)で一定時間に起きる熱病。
「京へ来て紫宸殿(ししんでん)のお砂をにぎって見イ、瘧が落ちるという位やで。」(八世桂文治「祇園会」)
「いかさまなあ。この五丁町へ脛を踏ん込む野郎めらおれが名を聞いておけ。まづ第一(でえいち)瘧疾が落ちる。」(津打治兵衛「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」三浦屋格子先の場)
おさがり
〔お下り〕退出時間。
おさきとも
〔お先供〕→「さきども」
おざしき
〔お座敷〕茶屋または私邸へ余興に出演すること。芸者が行く商売先、出先をもいう。
おざしきさき
〔お座敷先〕芸者がよばれて行った先の相手の客。
おさしたて
〔お差立〕護送。
おさだまり
〔お定り〕→「おきまり」
おざつき
〔お座附〕芸妓が宴席で一ばん先に歌う御祝儀(ごしゅうぎ)の歌曲。
おさめ
〔納め〕おしまい。これで最後のこと。遊びおさめとか、また今年最後の不動尊の縁日を、おさめの不動尊とかいう。
おさをふる
〔長を振る〕一ばん勢力を示す。頭になっていばる。
おしい
味噌汁。
おしかけ
〔押掛〕客が指名しないのにこちらから顔をだすこと。「おしかけ女房」
おしきせ
〔お仕着せ〕→「しきせ」
おじぎなしに
〔お辞儀なしに〕御遠慮なしに頂きますの意味。
おじごく
〔男地獄〕女に身を売る役者。
おしこみ
〔押込〕強盗。
おしつけわざ
〔押附業〕おしつけがましいやり方。
おしつまり
〔押詰り〕月末ちかく。「押詰り月」は12月のこと。
おしぶち
〔災難〕わざわい。
おしまい
化粧のこと。
おしゃます
ものをいうことをからかっていう。「猫じゃ猫じゃとおしゃますが」。おっしゃいますではない。
おしゃらく
〔お洒落〕おしゃれをする人。服装をかざる人。
おじゃん
ダメになること。
おしゅうしちがい
〔お宗旨ちがい〕下戸に上戸らしいもの、上戸に下戸らしいものをすすめること。
おしゅぎょう
〔お修行〕お修行に対する敬意の寸志。
おじょう
〔お嬢〕娘さん。下につく「さん」「さま」をはぶいたいいかたで、親しみのこもる効果がある。例のお嬢吉三は友禅入りの振袖姿でかせぎ廻るところからつけられた呼び名。
おしょく
〔お職〕一軒の遊女屋で一ばん売れる遊女。今日のキャバレーやダンス・ホールでいうなら「ナンバー・ワン」である。また、ナンバー・ワンの位置を保つことを「お職を張る」という。
おすえ
〔お末〕将軍家または諸大名の水仕(みずし、飯をたいたりする役)女中。「お末のわざをしがらきや」(奈河亀輔「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」御殿飯焚き場)
おすまいさま
〔お住居様〕御守殿(ごしゅでん)にお住みになるおくさま。→「ごしゅでん」。
「旧幕のお大名で、赤い御門のあったお屋敷には、将軍家からお姫さまがお輿入(こしいれ)をなさいました目印(めじるし)でした。目印と申しては失礼に当りますが、そうしたお大名には、御門を赤く塗ってあったものです。ソノ御輿入をば『おすまゐさま』と申し上げていました。」(篠田鉱造「幕末明治女百話」)
おすまし
ツンとしている人。感情をみせず、とりかたづけている人。
おすわけ
「おすそわけ」の略。もらった品を少しずつ分けて方々の人に上げること。
おすわり
〔お据り〕「据り餅」の略。鏡餅。おそなえ。
おそなはる
〔遅なはる〕遅くなる。「遅なはりしは不調法(ぶちょうほう)。」(竹田出雲他「仮名手本忠臣蔵」殿中松の間の場)
おそば
〔お側〕奥のおそば近くにつかえる女。
おそばごようおとりつぎ
〔お側御用お取次〕近侍(そばづかい)の頭のまた上の役で、直接に主君とものがいえる秘書役。
おそれべ
恐れますという意味。半可通(はんかつう)が「恐れべでゲス」などとつかった。
おたかの
〔お鷹野〕飼いならした鷹を放って野鳥を捕えさせる狩猟。鷹狩。→「たかしょう」
おたきあげ
〔お焼上げ〕行者の祈祷。毎月きまってやるのを「お月割(つきわり)のおたき上げ」という。→「かじ」
おたな
〔お店〕自分のつとめている店舗。→「たな」
おたふく
〔お多福〕おかめの面になぞらえ醜婦をいう。
おだま
〔男玉〕→「たま」
おだまき
〔緒手巻〕苧環。麻やからむしの葉の皮の繊維からつくった糸を、巻いたもの。「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」のいじらしいヒロイン杉酒屋のお三輪が恋しい男の裾に糸をつけそれをたどって追ってゆく姿(道行恋緒環、みちゆきこいのおだまき)は有名だが、あの白と赤の糸巻が緒環(おだまき)である。
おたまりこぼし
〔お溜小法師〕たまるものかということを、おどけてこういう。広津柳浪(ひろつりゅうろう)「今戸心中」に「お酒が毒になって、お溜小法師があるもんか」。おたまりこぶし。
おためごかし
〔お為転〕腹にもない都合のいいことばや行動。
おたらい
〔お盥〕妾などの好んでゆう髷(まげ)。鉄火(てっか)な感じの髷。
おだわらぢょうちん
〔小田原提灯〕不用のときは畳んで腰にさし、つかうときはひろげるようにした細長い提灯。享保のころ、小田原で売り出した。
おちいさいだい
〔お小さい台〕台の物の手軽な方。→「だいのもの」
おちこぼれ
〔落ちこぼれ〕うっかり忘れたこと。「落ちこぼれがあるといけない」
おちびん
出過ぎた人。
おちゃづけ
〔お茶潰〕遊女が自分のなじみの客のほかの知合のお客と情交すること。
おちゃのこさいさい
〔御茶の子さいさい〕何でもなくできるということ。平チャラに同じ。
おちゅうし
〔御中仕〕お中酒ともかく。さしみ、焼魚、おわん、くちとり、酒一本と飯のこと。中通(ちゅうどおり)の四つ物の意味。
おちょちょらもの
〔オチョチョラ者〕追従(ついしょう)をいうもの。おべっかをいうもの。
おつ
へんなこと。粋(いき)なこと。微妙なこと。
「『今度は妙(おつ)にすますんだな』と男は乗出して覗(のぞ)き込んだが。」(永井荷風「夢の女」)
おっかなびっくり
〔おっかな吃驚〕オドオド。少しこわがりながらという意味。「おっかな吃驚でしのんでいったよ」
おつかれすじ
〔お疲れ筋〕男女が同衾(どうきん)して、そのために疲れたことをひやかしていうことば。
おつぎ
〔お次〕奥方の部屋の次の間にあってつかえる人。
おつきもとじめ
〔お附き元締〕近習頭。殿さまのおそばにいるお小姓(こしょう)の一ばんえらい人。
おつきやごようたし
〔お搗屋御用達〕諸大名の米をつく御用を一手にうけたまわる商人。
おっけはれて
〔おっけ晴れて〕遠慮なしに。正々堂々と。「おっけ晴れて夫婦になろう」
おっく
お薬の児童語。
おっこち
情人。相手におぼれ、落ち込むという意味から来た。落語のマクラ(本題へ入る前のはなし)に、横町の清元の師匠の所へ行くという人に、「おっこちだネ」といって喜ばせ、うなぎをおごられる一節がある。
おつじ
〔お辻〕「辻番所」のこと。→「つじばんしょ」
おっしゃりきけ
〔仰しゃり聞け〕御伝言。
おっしゃりつけ
〔仰しゃり付け〕命令。仰しゃり聞け。
おっしゃりぶん
〔仰しゃり分〕おいいになりよう。
おったてじり
〔追立尻〕長くいる客に困って、主人がかえれといわないばかりの態度をすること。
おっつけ
〔追付け〕間もなく。
おっと
酒の児童語。
おっとうじん
〔男ッ唐人〕男の外人。→「めっとうじん」
おっぱる
〔押っ張る〕元気に心を取り直す。
おっぴしょる
折ること。
おっぴらき
5つとか50のこと。1つは人さし指1本、2つは人さし指と中指、3つは人さし指と中指と薬指、4つは人さし指、中指、薬指、小指で示すが、5つのときは5本の指をひらいてみせるからいう。片手。
おっぷ
豆腐の児童語。
おつぶしもの
〔お潰し物〕通用しないもの。不美人をもいう。また金や銀や鋼などの細工で、出来の悪いのはつぶしにして売ってしまおうなどという。
おっぽりだす
投げてほうりだすこと。
おつむ
頭の児童語。頭を叩くことを、「おつむてんてん」という。おつも。
おつりき
いいこと。おつなこと。気のきいていること。「あいつはおつりきなやつだよ」
おでいりがしら
〔御出入頭〕大名へ出入する商人の代表。
おてがらさま
〔お手柄様〕お手柄。戦時中の用語でなら、殊勲(しゅくん)甲。
おてさき
〔お手先〕→「てさき」
おてのもの
〔お手の物〕得意のもの。自分の自由にあつかえるもの。
おでばな
〔お出花〕煎茶へ湯をさし、ちょうどおいしいとき。お煮花(にばな)。花柳界では芸者が売れて方々の出先(お座敷)へ行けるようお出花といい、遊女屋や寄席では客があがる(来る)よう「あがり花」、略して「あがり」。
おてんきし
〔お天気師〕詐欺師。
おどうじ
〔お動じ〕さしひびいておどろくこと。
おとおりがけおめみえ
〔お通り掛けお目見得〕改まってあってもらうことでなく、殿さま御通行の際、はじめて存在を知って頂く方法。
おとこころし
〔男殺し〕男を悩殺する美人。
おとこひでり
〔男旱魃〕→「ひでり」
おとこべや
〔男部屋〕下男部屋。→「おんなべや」
おとし
〔落板〕木製火鉢の灰を入れるところを銅製にした部分。
おとしざし
〔落し差〕刀をこじりさがり(刀の鞘(さや)の末が下方へ下がるよう)にさすこと。衣類と帯の間にこじり下りにさすのは、直参(じきさん、幕府にじかにやとわれている武士)だけが許された。先代市川左団次の由良之助は直参でないのにこのさし方をしたので、講談界の名人だった錦城斎典山(きんじょうさいてんざん)が注意したことがある。
おとつい
〔一昨日〕おとといのこと。「おととい来い」といえば、二どと来るなということ。
おどつき
〔おど付き〕おどおどする。
おととご
〔弟御〕→「あにさん・あねさん」
おともさん
〔お供さん〕供の者を呼ぶ言葉。今日はほとんどつかわなくなった。
おどり
〔躍り〕重ねてつく特別のりそく。
おとりぜん
〔お取膳〕仲好く男女お膳をはさんでたべていること。新婚や恋人同士の場合に特にいう。大正初年まで町家の夫婦は連れ立っての外出に町内を離れるまでは別々に歩いていた。こういう時代には新夫婦のお取膳は随分からかわれたりしたものだった。
おなおり
代りにすえる。あとをつぐ。その家をつぐ。主人の死んだあと、その女の夫になる。
「色の浅黒い苦味ばしった、あのお方が後へおなほりなすったって、」(三遊亭円朝「怪談乳房榎(ちぶさえのき)」)
おなかい
〔御仲居〕お邸の奥向(おくむき、奥のこと)につとめて、膳所(ぜんどころ、台所)の炊事献立をつかさどった女。
おなかぐち
〔お中ロ〕武家屋敷の裏門と表門の間。中木戸。
おながれ
〔お流れ〕中止になること。えらい人ののんだあとの盃をうけること。「あの会はお流れになった」「お流れがいただきたい」
おなさけどころ
〔お情所〕女の陰部。
おなり
〔御成〕将軍の御外出。「御成先」は御成の先供。地名「御成街道」「御成門」
おなんどけんじょう
〔御納戸献上〕お納戸いろ(鼠がかった藍いろ)の博多帯。→「けんじょうはかた」
おにころし
〔鬼殺し〕ごくつよいもの。丈夫なもの。酒やタバコの名にあり、品物の丈夫なのもいう。
おにのへど
〔鬼の反吐〕やせて骨ばかりの人。鬼もたべるのがいやになり、ヘドを吐くだろうから、いう。
おにやく
〔鬼役〕人のいやがる役。主人の代りに毒味(飲食物を試験的に先へたべる)をする役。
おにょし
〔お女子〕女の子。
おのりだし
〔お乗出し〕御出世。落語「三味線栗毛」に酒井雅楽頭(うたのかみ)の妾腹(しょうふく)の子の角太郎がにわかに家督(かとく)をつぐことになるのを「お乗出しになりました」といっている。
おはきもの
〔お履物〕廓で遊女の情人を遠ざけること。下駄をはいては座敷に上がれぬから、上へ通さぬことをいう。
おはこ得意の芸。箱へ入ったよう、キチンと美しくでき上がっているという意味。十八番に同じ。芸以外では、「酒をのむとノロケをいうのが、あいつのおはこだ」という風につかう。
おはこばせ
〔お運ばせ〕おいでを頂く。御来駕(ごらいが)。「ーーを受ける」というふうに使う。
おはち
〔お鉢〕順番のこと。「お鉢が廻る」
おはつう
〔お初う〕「お初穂」の略。
おはつほ
〔お初穂〕神仏へ一ばん先に上げる食物。
おばなばら
〔尾花原〕薄(すすき)野原。
おばば
〔お馬場〕昔の大名屋敷の内には、馬術練習のため馬場が造られていた。落語「柳の馬場」にその光景が見てとられる。その入口を「お馬場口」という。
おはぶり
〔お羽振〕人に対する面目(めんもく)。
おはらいとり
〔お払い取り〕集金人。掛取り。
おはらいばこ
〔お払い箱〕奉公人にヒマをだすこと。
おはらだちさま
〔お腹立ち様〕御立腹という以上にテイネイなこうした江戸弁に注意したい。「さぞお腹立ちさまでございましょうが、お許し下さい」
おひきずり
〔お引ずり〕良家の女の着る長く裾(すそ)を引いた贅沢な着物。→「ひきずり」
おひきまわし
〔お引廻し〕お引立。
おひざおくり
〔お膝送り〕場内(じょうない)が満員のとき、もっとつめてアトの人をいれてくれということ。「お膝送りをねがいます」
おびしょりはだか
→「おびひろはだか」
おひねり
〔お捻り〕祝儀・布施(ふせ)のため小額の銭を紙に包み捻って渡すをいう。
おびひろはだか
〔帯広裸体〕男なら細紐(ほそひも)、女なら伊達巻1つ巻き付け、帯もしないままの、余りにも略装的な姿。
おひやる
おだてる。そそのかす。おべっかをいう。
「花魁(おいらん)は初会(しょかい)から少しおかぼれで居る所へ、番頭新造(ばんとうしんぞう)がそばからおヒヤリました。」(三遊亭円朝「後閑榛名梅香(おくれぎきはるなのうめがか)ーー安中草三郎)
おひら
〔お平〕平椀(ひらわん)にもった料理。
おぶえばだかろう
〔負えば抱かろう〕一つ世話してやれば、またさらに厄介をかけようという態度、そういう態度をよくとる人。今は「だっこでおんぶ」などという。
おふく
〔お福〕お多福、おかめのこと。お福の面。
おふなごよう
〔お舟御用〕将軍や大名の船の調達(ちょうだつ)一切をうけたまわる商人。
おぼうさん
〔お坊さん〕お坊っちゃん。
「こりゃあ己(おれ)が悪かった。人の名を聞く其時は、まあこっちから名乗るが礼義、ここが綽名(あだな)のお坊さん。」(河竹黙阿弥「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」大川端庚申塚の場)
おぼこ
生娘(きむすめ)。処女。
おまえさんのひと
〔お前さんの人〕あなたの亭主ということ。
「お前様(さん)の人は何所(どこ)へお行でなすったね?此(こう)降るのに稼ぎでもなからうが、」(小栗風葉「恋慕(れんぼ)流し」)
おまち
〔お町〕「お町衆」の略。
おまんぶ
巾着(きんちゃく)の児童語。
おみおび
〔御帯〕帯のこと。
おみじょう
〔お身性〕→「みじょう」
おみつき
〔お見附〕見た目。体裁。
おみやげ
〔お土産〕→「ごじさん」
おめくさん
〔盲目さん〕めくらのことをいう。「お娘御(むすめご)」を「おむす」と略すニュアンスに近い。
おめっち
お前たち。
おもいいれ
〔思入れ〕沢山。うんと。おもい切り(副詞)。感情をこめること。またその表情しぐさ(名詞)。つめて「おもいれ」と発音することもある。「いかにも口惜しいという思入れで」「あんまり腹が立つので思入れ悪態(あくたい)をついてやりました」など。
おもたたき
〔重叩き〕烈しく打ちたたく刑罰。杖刑。→「ひゃくたたき」
おもちりょう
〔お持料〕自家用。御自分の所有品。
「それにこの金側(きんかわ)の時計も(中略)お持料になされて下さい。」(三遊亭円朝「松と藤芸妓(げいしゃ)の替紋(かえもん)」)
おもて
〔表〕殿さまのいる方の御殿。争いごとを明るみへ出すのを、表沙汰にするというのは、殿のお耳へいれるということからはじまった。
おもてかた
〔表方〕劇場の営業事務にあたる人々。表口の事務所に詰めているゆえにこうよばれた。
おもてだな
〔表店〕→「たな」
おもてつき
〔表付〕下駄に畳表(たたみおもて)をはった場合をいう。
おもやく
〔重役〕重要な地位にある人。
おもらい
〔刎首〕斬罪。首をはねられること。
「とうにくれえこんで刎首(おもれえ)にでもなったかと思やア、又出て来やがった。」(三遊亭円朝「緑林門松竹(みどりのはやしかどのまつたけ)ーーまたかのお関」)
おもりもの
〔御盛物〕神仏へ供える食物。お供物
おやくそく
〔お約束〕きまりきった具合。境涯・場景・容姿・葛藤などが非常に類型的であること。また別に、前から客に予約されている座敷(芸者の)をもいう。
おやざと
〔親里〕遊女となる契約をする上でかりに親になってくれる家。
おやしきさん
〔お屋敷さん〕邸育ち。武家出身。→「やしきもの」
おやだま
〔親玉〕数珠の中心になる大きな玉。転じて人の頭(かしら)に立つ人。庶民階級の人妻が亭主のことをいうことばでもある。「おらんちの親玉はね」
おやだまこんじょう
〔親玉根性〕親分らしい量見。
おやもとみうけ
〔親元身請〕遊女を、客でなく、売った親が金をだしてその身を引き取ってやること。もちろん、客がひかせる場合より、安価の費用ですむ。
およがせられる
〔泳がせられる〕花柳界で先方のいいように金をつかわせられること。
およばれ
〔お呼ばれ〕御招待を受けること。
およる
「寝る」の敬語。
おらっち
俺たち。俺っち。
オランダつけぎ
〔和蘭陀附木〕マッチのこと。
おらんち
〔俺ん家〕おれのうち。今日では「おれんち」になっている。
おり
〔折〕料理を詰めた折。大正中頃まで料理屋でたべ残しをキレイに折へつめ、ブラ下げてかえる風習があった。
おりいろ
〔織色〕まず糸を染めてから織った(織り上げたものを染めたのでなく)織物の色具合をいう。濃い浅黄いろのこともいう。
おりかがみ
〔折屈〕膝の屈折する部分。転じて礼節・エチケットにも通用する。「折屈正しい人」など。
おりがみ
〔折紙〕保証。鑑定書は奉書、鳥の子、檀紙などの和紙を横に二つ折りだったところから、転じて上記の意味となる。「折紙つき」。
「折角(せっかく)手に入るこの下坂(しもさか、刀の銘)も、折紙なければ鈍刀(なまくら)同然。」(近松徳叟(とくそう)「伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」古市油屋の場)
おりすけ
〔折助〕武家の下僕(しもべ)。→「こんかんばん」「しんちゅうまき」「ちゅうげんこもの」
おりすけこんじょう
〔折助根性〕影日向(かげひなた)をしてはたらくこと。
おりせつ
〔折節〕折ふし。時々。
おりど
〔折戸〕枝(し)折戸。
おりのし
〔折熨斗〕熨斗包(のしつつみ)の紙をそのまま熨斗に代用するもの。
おれくち
〔折れ口〕知人の死んだこと。「今日は折れ口で行くんだ」
おろくぐし
〔お六櫛〕くしの一種。
「木祖村藪原を中心として製出されるお六櫛は、昔から木曾名産として名高いものである。(中略)歯の細い梳櫛(すきぐし)などは今も矢張りこのお六櫛が最上のものとして用ゐられてゐる。(中略)享和の頃、妻籠(つまごめ)宿のお六といふ女が脳の病を患って御嶽山に願を懸けたところ『みねばりの木もて櫛を作り、朝に夕に黒髪を櫛(くしけずら)ば、日ならずして必ず癒えなん』との御告(おつげ)を受けて、質の緻密(ちみつ)なミネバリの木を以て創(はじ)めて製(つく)ったのがその起源。」(母袋未知庵(もたいみちあん)「川柳信濃国」)
おわいや
〔汚穢屋〕清掃会社の汲取人。昔は肥桶(こえたご)をかつぎ、「汚穢汚積」とよび歩いて汲みに来た。
おんおくり
〔恩送り〕恩返しの贈り物。昔は「恩を返す」より「恩を送る」の方が多く使われたようだ。
おんか
〔恩家〕恩のある家。
おんきん
〔恩金〕人の恩情に浴して得た金。
おんじゃく
〔温石〕焼いた軽石を布などに包んで、冬日または病気のとき身体を温めるもの。塩を固めて焼いたり、瓦に塩をまぶして焼いたものをもちいる。今日は懐炉(かいろ)。
おんせいをはっす
〔音声を発す〕唄を歌う。
おんなぎゃはん
〔女脚絆〕婦人用の脛(すね)にしめる日本風のゲートル。
おんなだゆう
〔女太夫〕非人の妻や娘が、街上、三味線をひき、流し歩くをいう。正月は鳥追として元旦から七草まで鳥追歌を歌って流す。麗人が多く、武家の息子がほれて身を亡ぼすこともあった。抱一上人の句に、
 鳥追の昔もようや梅に鳥
 鳥追の足袋の白さや川向う
「編笠を冠り衣類は一切綿服にて絹物を用ひず何れも仕付(しつけ)の掛りし儘を着す只編笠の紐を結ぶ腮(あご)の所へは緋鹿(ひが)の子(こ)縮緬を捻(よじ)りて当て白粉化粧美しく衣類の着こなしもキリリとして姿よく美人多し大体は二人連れにて三味線を弾き三下(さんさが)りのチャンチャラスチャラカと鳥追歌を唱へ来る町内受持の小屋頭附来る者へは十二銅のおひねりを与ふ。」(高砂屋浦舟「江戸の夕栄」)
おんなひでり
〔女旱魃〕→「ひでり」
おんなべや
〔女部屋〕下女部屋。
おんば
〔乳母〕「おうば」の音便。有福に育ったことを「おんば日傘で育った」という。
おんびんざた
〔穏便沙汰〕おだやかな態度。

〔窠〕格子(こうし)形のキチンとした模様。
かいえき
〔改易〕取潰し。断絶。武士の名称をのぞき、領地や財産や屋敷を没収し、平民にする刑。蟄居(ちっきょ、おしこめ)より重く、切腹より軽い。
かいかく
〔海角〕海へ陸地が突出し、岬になっているところ。
「海角に添ふ広間へ通ってからは、お浪は最(も)う殆ど上気した様に両の頬を赤くして、唯安からぬ思ひにのみ沈められて了(しま)ふ。」(永井荷風「夢の女」)

かいきん
〔廻勤〕方々の家を廻って挨拶して来ること。廻礼。
かいくれ
〔掻暮〕全然。
がいけい
〔外軽〕外部から軽んぜられること。世間への恥さらし。
「これを表向にすれば、第一はこの江沼の外軽にもなり、」(三遊亭円朝「黄薔薇(こうしょうび)」

かいこく
〔廻国〕諸国巡礼して霊場や札所を参詣して歩く。
かいざんさま
〔開山様〕元祖。「あいつはいくじなしの開山さまだ」
かいしき
〔皆式〕全部。のこらず。「これでかいしき終った」
かいしょ
〔会所〕町の人々の集会する会場。吉原では大門を入って右側にあり、八丁堀の役人も出張、廓内の事件を取り締まった。
かいしょう
〔甲斐性〕生活力。
かいせき
〔会席〕「会席膳」の略。
かいせきぜん
〔会席料理〕上等の料理で、会席膳(12寸四方で、脚なく、黒塗、朱塗、溜塗(ためぬり)など)をもちいる。
かいせんどんや
〔廻船問屋〕旅客または貨物を運送する船のことを取り扱う店。
がいそう
〔外装〕「世間の手前こう申すのは外装で」などと、書生が得意でこうした漢語をつかった。
かいだんせき
〔戒壇石〕禅宗、律宗の門前に「不許葷酒入山門(くんしゅさんもんにいるをゆるさず)」ときざんで建てた石の柱。戒壇とは、僧侶に戒を授けるために設けた土または石の壇であるが、お寺全体を戒壇と見て、その前に立てた石ゆえ、かくなづけた。
かいのてぬぐい
〔会の手拭〕花会(はながい)の挨拶にとどけて来る手拭。もらえば、祝儀をつつむ。→「はながい」
かいぶん
〔廻文〕廻読させる手紙。廻状。→「じゅんたつちょう」
かいぼり
〔掻掘〕池や沼の底まで水をすくいだしてしまうこと。
「池か川ならば、かいぼりをして、」(河竹黙阿弥「浪底親睦会」(なみのそこしんぼくかい))

かいまきどてら
〔掻巻褞袍〕掻巻であってどてらをもかねるもの。
かいめい
〔開明〕ひらけた世の中。文明開化。
かえしごと
〔返し言〕口答え。古くは、返歌(歌をよんでよこしたその返事の歌)のことをもいう。
かえりあと
〔去跡〕遊女屋でお客がかえったためにあいた部屋のこと。
「去跡になりましたから、花魁(おいらん)のお座敷へ行らっしゃいよ。」(広津柳浪(ひろつりゅうろう)「今戸心中」)

かおあか
〔顔赤〕恥しくなる。赤面。気がさす。
かかえっこ
〔抱子〕かかえている芸者。かかえ。丸がかえといって芸者屋に借金があり、自由の利かない若い芸者をもいう。
かがみつき
〔鏡付〕鏡の付いている化粧台の略。
「長火鉢から茶棚鏡附の化粧台抔(など)日常の生活道具が据ゑられてある。」(永井荷風「夢の女」)

かがみど
〔鏡戸〕鏡をはめこんだ戸。
かかりご
〔かかり子〕ゆくゆく老後の面倒を見てもらおうとおもっているわが子。
かかんどし
〔書かん同士〕→「よまんどし・かかんどし」
かぎ
〔鈎〕→「てかぎ」
かきいれ
〔書入〕一日の抵当。
かきいれ
〔掻入〕かきいれどき。一ばん利益の多いとき。
かきざらさ
〔柿更紗〕明治4年以後東京に流行して高価に売買された兎の中で、柿更紗(柿色の更紗模様)の兎はことにもてはやされた。
かきそ
〔柿素〕柿いろの布子(ぬのこ)、そまつな着物。
かきね
賄賂(わいろ)のこと。

かきやく
〔書役〕書記。
かくしおんな
〔隠し女〕世間に秘密の情人。
かくそで
〔角袖〕角袖(平服)巡査の略。
かくとう
〔角灯〕巡査がさげていたガラスで四方を張った四角形の手提灯(てさげとう)。
かくはい
〔各盃〕盃のやりとりなしに、おのおの自分の盃でのみ飲むこと。
かくばん
〔各番〕各自が順番をきめて物事をすること。
かくや香の物を細かくきざんで醤油にひたしたもの。鰹節をかければ、酒の肴にもいい。徳川家康のころ、料理人岩下覚弥(かくや)の創案ともいい、高野山で隔夜(かくや、一と晩おき)に堂を守る歯の弱い老僧のために製したともいう。落語「酢豆腐(すどうふ)」には銭のない町内の若い者が、ぬかみその古づけをカタヤにきざんでのもうという一節がある。
がくやとんび
〔楽屋鳶〕劇場の楽屋をあちこち訪問する人。
かくらん
〔霍乱〕炎暑の頃の急激な吐瀉病。今日の急性腸カタル、疫痢(えきり)、コレラに当るといわれる。丈夫の人が珍しくわずらうと、「鬼の霍乱だ」という。
かけ
〔掛〕掛売。未収代金。勘定。別に帯の、しめはじめる方のハシをもいう。
かけ
〔掛〕白色の掛帯。婦人が衣裳の装飾にもちいた帯で、肩から胸にかけるもの。
かけ
〔駈〕馬にのって早く走ること。ひとりで敵陣へのりこむこと。だから二度の駈というと、二ど敵陣へあばれ込むことになる。
かけがね
〔掛金〕「かきがね」のなまり。戸へさす鐶(かん)。
かけかまい
〔掛構い〕関係。かかりあい。「私の方とは掛構いがない」などという。
かけこみうったえ
〔駈込み訴え〕所轄(管理)の役所にうったえないで、当局者の家に至り、または路上でその人の行列に駈け込んで直接に訴え出ること。
かけこみねがい
〔駈込み願い〕→「かけこみうったえ」
かけこむ
〔駈け込む〕駈込み訴えをする。
かけざお
〔掛竿〕衣服、手拭などを掛ける横につるした竿。今日のハンガー。
かけさき
〔掛先〕商取引をした先の支払い。→「かけ」
かけながし
〔掛流し〕きょうだけかけたらあとはすててかえりみないこと。
かげべんけい
〔影弁慶〕うちにいると強いことをいって、おもてへでると弱くなる人。→「しじめっかい」
かけまもり
〔掛守〕信仰または災厄をまぬかれる意味で襟(えり)にかける守り袋。
かけまわり
〔掛廻り〕掛け(勘定)を取って歩くこと。
かけむく
〔掛無垢〕棺にかけ、おおう白無垢の衣。
かこいもの
〔囲者〕パトロンから月々のてあてをもらって一軒をかまえ、生活している女。明治時代までは色町の女の、そういう境遇を妾といい、素人女をかこいものと区別したように、当時の文章からはさっしられるがーー。
「その白ばけか黒塀に、格子造りの囲ひ者。」(瀬川如皐(せがわじょこう)「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)ーー切られ与三郎」源氏店(げんじだな)妾宅の場)

かござかな
〔籠肴〕青竹で編んだ籠へ入れた進物(しんもつ)用の肴(さかな)。
かこつ
怨む。こぼす。ぐちをいう。他のことにかけていう。
「恨み恨みてかこち泣き」(長唄「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」

かごぶとん
〔駕籠蒲団〕駕籠の座席の大きさに作った蒲団。
かごぼんぼり
〔籠雪洞〕細い竹で編んだ、籠に紙をはり、それをおおいにした行灯の一種。
かさ
〔瘡〕一般には「できもの」全部をいうが、特に梅毒をさす場合も多い。
かさぎ
〔笠木〕鳥居の上にわたしてある横木。
かさだい
〔笠台〕首のこと。笠の土台の略。首を斬られるのを「笠台が飛ぶ」。
かさっかき
〔瘡っかき〕梅毒患者。「うぬぼれとかさっかきのないものはない」
かさっけ
〔瘡っ気〕梅毒の気味。
かさねあつ
〔重ね厚〕背の三つ棟(むね)になっているカサネの部分の厚い刀剣。
かじ
〔加持〕いろいろの仏の大悲が行者に加わり、行者の信心が仏との因縁を感じ、病気災難をのぞくこと。どこそこのお寺でお加持があるというと、一定の日をきめてその寺で信者をあつめておがむことで、老若男女が参詣して賑やかである。
かじ
〔○日路〕○日間の旅程。「四日路もかかる」
かしき
〔炊事〕飯をたくこと。生活、活計をもいう。「どうもかしきが立ちません」。
かしぐら
〔河岸蔵〕河岸添いの土蔵。
かしざしき
〔貸座敷〕遊女屋のこと。
かしせき
〔貸席〕料金を取って集会や温習(おさらい)会に座敷を提供するところ。待合茶屋。
かしだな
〔貸店〕貸家のこと。→「たな」
かしだんす
〔菓子箪笥〕菓子を入れておく小型の箪笥。「春昼(しゅんちゅう)やあけても見たる菓子だんす竜雨」
かしぢょうちん
〔貸提灯〕昔の夜道は暗かったゆえ、料亭で店名入りの小提灯を客に貸した。しかし多くは宣伝用で貸しあたえてしまった。
かじぼう
〔梶棒〕人力車夫が両手でつかんで走る車の前についている棒。黒塗りが多い。
かしぼんや
〔貸本屋〕今日の貸本屋とちがい、明治中頃までの貸本屋は、自分でしょって得意先を廻った。これが廃れたのは、ボール表紙の洋装が出来、背負って歩くに不便となったからで、封切(新刊本)は特別料金で汚さぬよう読ませ、お宅へ一ばん最初に持って来ましたなどと数軒から高い貸本料を得ていたという。
「双子の着物に盲縞(めくらじま)の前かけ、己が背よりも高く細長い風呂敷包みを背負(しょ)ひ込んで古風な貸本屋が、我々の家へも廻って来たのは明治十五六年まで、悠々(ゆうゆう)と茶の間へ坐りこんで面白をかしくお家騒動や仇討物の荒筋を説明、お約束の封切と称する新刊物を始め相手のお好みを狙って草双紙(くさぞうし)や読み本を二種づつ置いて行く。これが舟板べいの妾宅や花柳界、大店(おおだな)の奥向(おくむき)など当時の有閑マダムを上得意にして一寸オツな商売。」(山本笑月「明治世相百話」)

カシミール
カシミヤ。印度カシミヤ地方に産する山羊(やぎ)の毛織物。
「華美(はで)なるカシミールのショール肩掛と紅(くれない)のリボンかけし垂髪(おさげ)と、」(徳冨蘆花「不如帰」)

かじやのせいぼ
〔鍛冶屋の歳暮〕やせた人のこと。鍛冶屋の歳暮は火箸をくれたから。
かしら
〔頭〕町内の鳶頭(とびがしら)。昔は、町内の大商店には出入りの鳶の頭があり、非常の場合には駈け付けて事件をさばいた。「弁天小僧」の強請場(ゆすりば)、「加賀鳶」の道玄の強請場にこの光景は見られる。明治大正のころまで頭は朝食はどのお店(たな)で、昼食はどのお店(たな)でという風に、日々の食事がみな出入り先でできたくらいである。→「とび」「たな」
かしわもち
〔柏餅〕夜具ふとん一枚へ、掛けぶとんがないため、くるまって寝ること。菓子の柏餅に見立てて、いう。
かす
小言。「かすをくう」

かすがどうろう
〔春日灯籠〕笠が大きくなく、丈が高く、火袋は六角または四角、二方に雌雄(めすおす)の鹿、二方に雲形に日月を浮彫(うきぼ)りにした灯籠。白川御影石(京都・白川産
の白色の地に黒い錆を帯びた花崗岩(みかげいし)の一種)などが使われる。
かずさかごえ
〔数坂越〕数々の山坂を越えて行くこと。
かずさど
〔上総戸〕上総、安房などから船で江戸へ輸送して来た既製品の雨戸。節があろうとかまわずにこしらえる粗製品で、もっぱら貸長屋に使用した。また上総は狩野山はじめ杉の産地、上総女は働き者ゆえ、出稼ぎ人以外は戸の製作に当るが、女の打つ釘はきかぬたとえで、いよいよ粗製濫造なのである。円朝の作品にはしばしば見られ、「敵討札所霊験(かたきうちふだしょのれいけん)」では、飛騨山中のあばら屋の雨戸にまで、上総戸云々とある。
がすはちじょう
〔瓦斯八丈〕瓦斯糸(木綿糸のおもてを瓦斯の焰で焼いてスベスベした光りをだしたもの)で織った八丈。
かすり
上前。
「鬼といはれた源七が爰(ここ)で命を捨てるのも、餓鬼より弱い生業(しょうべい)の地獄(下級の娼婦)のかすりを取った報いだ。」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈ーー髪結新三」深川閣魔堂橋の場)

かする
「かすり」をとる。上前をはねる。

かすれかすれ
断続。とぎれとぎれ。

かぜ
〔風〕警八風(けいはちかぜ)の略。風俗係の刑事の臨検をいう。犯人が検挙や逮捕を事前に察知して逃げるのを「風をくらって逃げる」という。
がせい
〔我勢〕骨身をおしまず、はたらくこと。
かせぎにん
〔稼ぎ人〕泥棒のこと。
かた
〔○○方〕職分。職業、勤務の分担の呼び方。「立方(舞踊手)」「出方」「裏方」「下方」「地(じ)方(演奏者側)」「催促方(督促係)」など。
かた
〔○○方〕しかた、方法の意味から広く転じて、上につく動詞の意味を安定、強勢させるために使う接尾語的な用法も多い。「読み方」「書き方」「払い方(支払)」「暮し方(生活)」「食い方(食事、食生活、生活)」「飲み方(飲酒)」「始末方」「借財方」。犯罪調査を「洗い方」といい、詮議するというのを「洗い方する」という。
かたあきない
〔片商〕半商売。遊び半分の商売。
かたうでをする
〔片腕をする〕半分、手助けをする。「わが悪事の片腕をいたした老爺(おやじ)、あいつを生かして置いては枕を高くは寝られぬ。」(三遊亭円朝「怪談乳房榎(ちぶさえのき)」)
かたうま
〔半駄〕四斗樽の半分(2斗)。
かたおとし
〔偏頗〕一方だけを非とすること。片手落。「勘八のみおとがめがありましては、偏頗のおしらべかと心得ます。」(三遊亭円朝「菊模様皿山奇談」)
かたがき
〔肩書〕音の華族とか軍人とか博士などの場合もいったが、物凄い俗称のある無頼漢同士の意味にもつかった。「肩書つきの大泥棒だよ」
かたかげ
〔片陰〕盛夏、ようやく日がかたむきそめるとできる日かげのこと。小ばなしの一節に、「甘酒屋」「へい」「暑いか」「へい、熱うがす」「日かげを歩け」と甘酒屋をからかうくだりがある。
 片かげを早行く夜店車(よみせぐるま)かな 風生
 片蔭に立ちて扇をつかひをり 鼓天
かたきき
〔片聞〕一方だけで事情を聞く。
かたくねもの
〔頑固もの〕融通のきかない人。かたくなもの。
かたしょうばい
〔片商売〕遊び半分にかたわらでやる仕事。アルバイト。かたあきない。
かたす
〔片す〕脇へ除(ど)ける。片づける。この語、今日ではかえって関西にのこっている。
かたぞう
〔堅造〕まじめすぎる人。道楽をしない人。
かたな
〔方名〕おふみの方(かた)とかお堂の方(かた)とかいうたぐいの方号(かたごう)。
かたぬけ
〔肩脱け〕責任がなくなること。手をひいてもいいこと。「ヤレヤレ肩脱けだ」
かたはずし
〔片はずし〕奥女中の髪の一種。髪を輪に結び、笄(こうがい)をさし、その上部をはずしたもの。笄を抜けば、下げ髪となる。「先代萩」の政岡、「重の井子別れ」の重の井などがそうであるし、またこれらの役柄そのものが「片はずし」と呼ばれている。
かたはのあし
〔片葉の蘆〕片方にしか葉のはえていない蘆。「本所七不思議」の片葉の蘆は、緑町3丁目から震災記念堂へ行く道の小川にあったという。岡本綺堂「室町御所」には片葉の蘆の伝説(ただし淀川の)が巧みに織り込まれている。
かたびいき
〔片贔屓〕片寄ったひいき。→「かたおとし」
かたびら
〔帷子〕麻糸で織った薄地の単衣(ひとえ)
かたもちのやきざまし
〔堅餅の焼冷し〕歯がたたないほど堅い人間の形容。
ガチガチする
ガツガツする。せき立てるようにする。
がちゃ
警官。巡査。サーベルの音からつけた名。

かつう
鰹(かつお)のなまり。「初がつう」

かつぎあきない
〔担ぎ商い〕荷をかついで売り歩く商い。
かっけい
〔活計〕生活。
かっこ
下駄の児童語。

かっこみうったえ
〔駈込み訴え〕→「かけこみうったえ」
かっこみねがい
〔駈込み願い〕→「かけこみうったえ」
かっこむ
〔駈っこむ〕→「かけこむ」
かっこんとう
〔葛根湯〕葛(くず)の根からこしらえた漢方薬で、風邪の薬。よく汗がでる。
がっさいぶくろ
〔合切袋〕こまごました携帯品を入れる袋。両口または一方口を紐でくくる。
がっそう
〔兀僧〕総髪(そうはつ、髪を後へなでつけにしていること)の人。
がったい
〔合体〕合意。
「丈助とその方と合体して国綱の刀を盗み取り、三ケ年以前父小左衛門を鴻(こう)の台にて殺せし大悪人。」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)

かったいにぼううち
〔癩病に棒打ち〕癩病(らいびょう)で五体が崩れ、どうにも仕方のないものを、打ち叩いても意味ない。ムダというたとえにつかう。
かっちけなしのみありのたね
〔忝け梨の実ありの種〕「かっちけ」は「忝(かたじ)け」で、「辱(かたじ)けなし」を梨の実へかけ、梨の実だから梨(ありのみ)の種でありがたいというしゃれ。梨を「有りの実」というのは忌詞(いみことば)の一つで、音が「無し」に通じるからである。
かっちけねえ
忝(かたじ)けない。大盗賊や謀叛人が秘宝を手に入れたり難関を突破したりしたときに「ちぇえ、ありがてえ、かっちけねえ。大願成就疑いなし」などという。

かってふにょい
〔勝手不如意〕金銭に事を欠く。手許不如意。
かっぱごけにん
〔合羽御家人〕赤合羽を着てお供をする卑しい御家人。かっぱとガバと。「かっぱと伏して泣きゐたる」など浄瑠璃によく使われている。
かっぱのへ
〔河童の屈〕何でもないこと。何の苦労もなく出来ること。何のタシにもならないこと。「あんなことは河童の屁だ」。「木ッ端(こっぱ)の火」から転じたという説もある。「屈の河童」ともいう。
かど
〔廉〕理由の箇条(かじょう)、個所(かしょ)。問題点。「無礼のかどをもってお手討に相成る」など。
かとう
〔下等〕三等列車のこと。
「住田まで上等が五銭で下等が三銭だからわずか二銭ちがいで区別がつく。こういうおれでさえ上等を奮発して白きっぷをにぎってるんでもわかる。もっともいなか者はけちだから、たった二銭の出入りでもすこぶる苦になるとみえて、たいていは下等へ乗る。赤シャツのあとからマドンナとマドンナのおふくろが上等へはいりこんだ。うらなり君は活版でおしたように下等ばかりへ乗る男だ。」(夏目漱石「坊ちゃん」)

かとうば
〔裏頭歯〕丸くくってある下駄の歯。裏頭は、五条の橋の弁慶のように僧侶の頭を袈裟(けさ)で包んだ形をいう。
かどかどしい
〔角々しい〕ごつい。ごつごつした。角ばった。
かどがまえ
〔角構〕角に建てられている家のこと。
かどにとる
〔廉に取る〕いい立てにする。条件にする。
「覚えもねえ事を廉に取って、離縁を取るべえとするか。お父さんの遺言を汝(われ)忘れたか。」(三遊亭円朝「塩原多助一代記」)

かどわかし
〔誘引〕誘拐。誘拐者。
かなきん
〔金巾〕堅くよった綿糸で目をかたくこまかく薄地に織った広幅(ひろはば)の綿布。
かなどうろう
〔鉄灯籠〕鉄で造った灯籠で、庭へすえておくのとつるすのとある。一般に金(かな)灯籠といえば、鉄以外に銅や真鍮のもいう。
かなぼうひき
〔金棒曳〕鉄の棒を引きずったり突いたりしてその土地一帯の火の用心、戸締りをうながす人。芸者が祭礼の時、手古舞姿になり金棒をひいて歩くゆえ、手古舞のことをもいう。転じて、方々へいって噂をして歩くおしゃべりの人。「あいつの神さんは金棒曳でいけねえ。」
がなる
〔呶鳴る〕どなる。
かにがまんまたく
〔蟹が飯焚く〕蟹が泡を吹くことをいう。
かにからてんのうとらやあやあ
〔蟹から天王虎やアやア〕両手をおかしく組み合わせ、先ず蟹の形、つづいて神輿(みこし)の形などをかたどって見せる子どもの遊戯。
「千手陀羅尼経(せんじゅだらにきょう)」にある「なむからたんのとらやあやあ」なる文句の音感が日本人の耳には奇異・滑稽であるところからあほだら経などによく使われたのだが、さらに子どもの遊びにももちこまれたものらしい。

かにもじ
〔蟹文字〕外国語でかいた文章。横にかいてあるゆえ、蟹としゃれた。横文字。
かねさいかく
〔金才覚〕金算段。金策。
かねやき
〔金焼き〕牧場のしるしとして馬の股(もも)へ押す焼印(やきいん)で、結果として足が丈夫になる。
かのじ
〔かの字〕瘡(かさ)毒のかくしことば。
かばう
倹約すること。
30銭でも無駄な銭を、こんな中ぢやアかばひなせえ。」(河竹黙阿弥「綴合於伝仮名書(とじあわせおでんのかながき)ーー高橋お伝」)
かぶる
〔被る〕しくじる。また、他人の罪を引き受ける。
かへいじひら
〔嘉平次平〕埼玉県入間郡の人、藤本嘉平次がこしらえた銘仙織(めいせんおり)のはかま地。
かべす
菓子、弁当、すしの略。昔の劇場で、一ばん簡単な金のかからない見物は、このきまっている三種だけをとった。
かべちょろ
〔壁チョロ〕壁糸(強くよった太い糸と細い平糸とをよりあわせた糸)を横とし、縮緬(ちりめん)糸を縦として、縮みのような細かい皺(しわ)を織り出した絹布。地が厚く、頭巾(ずきん)や帯につかった。
かほうやけ
〔果報やけ〕果報負け。余りの幸福に罰が当りそう。
かまう
〔構う〕罪によって(ある地域、ある身分から)追放する。「江戸お構い」といえば二度と江戸へ帰るのを許されないこと。
かまくら
〔鎌倉〕祭礼囃子の一種。
かまける
拘泥(こうでい)する。とらわれる。

かまどをたてる
〔竈を立てる〕めしがくえる。生活ができる。
かまわれる
〔構われる〕追いはらわれる。→「かまう」
かみいれどめ
〔紙入留〕小刀。ちょうど紙入の落ちないよう差すと押さえになるゆえにいう。
かみおろし
〔神下し〕市子(いちこ、霊界の人々をよびよせて語る職業の女)が、いのるときに悲しげなふしでうたう唄。端唄(はうた、俗曲)にもあり、これは神さまづくしといった歌詞で、寄席でも歌われ、新内「弥次喜多」にもある。
かみかくし
〔神隠し〕幼児(まれには成年者も)が急に行方不明となったのを、神隠しにあったとか、天狗にさらわれたとかいう。幾月かを経てかえって来たとき、早発性痴呆症のごとくなっているものもあった。
「明治
7年ーー3歳。5月下旬の夕刻のことなり。おきんといふ若い女中に連れられて、中坂の金魚湯といふ湯屋へゆく途中、おきんが知人に蓬ひて立話をしてゐる間に、岡本はゆくへ不明となる。大騒ぎになりて捜索したれど判らず翌日の早朝、おきんが再び中坂辺へ探しに出でたる時、岡本は30歳前後の袴(はかま)羽織の男に手をひかれて往来にたたずみてゐるを発見せり。驚き喜んで駈けよれば、男は岡本をおきんに渡して早々に立去る。岡本は手に菓子の袋を持ちゐたり。若い女中のことなれば、その男を追ひかけて詮議もせず。したがってその事情は不明に終る。」(「岡本綺堂年譜」)
かみきり
〔髪剪〕当時はいのちより尊しとした女の黒髪を切って、夫婦約束の印(しるし)に男にあたえた。
「指切・髪剪・起証文(きしょうもん)なんてえ訳にはゆかないから、腕守(うでまもり)でもとりやりするくらゐさ。」(三遊亭円朝「名人くらべ錦の舞衣」)

かみどこ
〔髪床〕髪結床(かみゆいどこ)が、かみいどこになり、かみどこになった。いまの理髪店。
かみどりしゃしん
〔紙取写真〕昔はガラス板へ撮影されている写真が多かったゆえ、印画紙へ焼かれた写真をこういった。
かみのぼり
〔紙幟〕刑死人を死刑の当日、町々を引き廻す折、その罪状を記して先頭に立てた紙の旗。
かめ
〔洋犬〕明治初期、西洋犬をかめ、かめ犬などと呼んだ。英米人が来い来い(Come here)といったのを、犬のことをそういうのだとおもい、そう呼びならわしたという説がある。石井研堂「明治事物起原」も同様の説をあげ、又、文久3年版「横浜奇談」にも「呼招くの言葉にて、犬の惣名(そうみょう)には非ず」とあるとかいている。「カムイン」から来たともいう。
かめのしょうべん
〔亀の小便〕ほんの少しずつだす形容。
かやく
〔加役〕臨時にふえた役。役者が急に別の役を余計につとめるときにいったのにはじまる。
「いい面皮(つらのかわ)だ、とんだ加役をいひつからア。」(仮名垣魯文(かながきろぶん)西洋道中膝栗毛」)
かよいばんとう
〔通い番頭〕他に世帯を持って、日々、店へかよって来る番頭。「与話情浮名横櫛(よわなさけうさなのよこぐし)ーー切られ与三郎」の太左衛門が格好の例。
から
接頭語で、下にくる「主によくない形容」ことばを強める役をする。てんから。全く。土台。「からっペた」ははなはだしく下手。「からどうも尻腰(しっこし)のねえ」「から意気地がねえ」

からき
〔唐木〕紫檀(したん)、黒檀(こくたん)、白檀(びゃくだん)、たがやさんなど熱帯産の木材。昔、中国渡来の品だったので唐木という。
からきし
すっかり。まるっきり。

からくりのしんしょう
〔機繰の身上〕やりくりの世帯。からくりの仕掛が多くの糸を引っ張っては背景の絵を変えるごとく、いろいろの苦しい仕掛をして生活して行く姿をいったもの。
からすなき
〔烏啼〕烏のなき声で吉凶(いいことわるいこと)をうらなった。
「けしからぬ烏啼き。お使に行くを否ぢやと思ふその矢先き、あれあれ烏啼きの悪さ悪さ。」(容楊黛(ようようたい)「鏡山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)」足利塀外烏啼の場)

からっきし
→「からきし」

からど
〔唐戸〕縦の中央に一本横に数本の桟(さん)がまじわってその間に入子板(いれこいた)(唐戸の框(かまち)と桟の間に差し込んだ板)を張った開き方。
からはな
〔唐花〕唐めいた花を図案化、紋章としたもの。
からもち
〔唐土餅〕もろこしもち。
からものどんす
〔唐物緞子〕中国から渡来した緞子。
からろ
〔空艪〕船頭だけで客ののっていない船の艪をいう。
「同じ早船の船頭が、お客を廓へ送り込んだ帰りの空艪を押しながら、摺れちがひに、其の唄って釆た船歌の声を止めて互に声を掛け合って行き過ぎる。」(永井荷風「夢の女」)

からをふむ
〔殻を踏む〕一文にもならないこと。「仕方がねえから、これ兄貴、殻を踏んで帰りねえ。」(河竹黙阿弥「霜夜鐘十字辻筮(しもよのかねじゅうじのつじうら)」
かりたく
〔仮宅〕吉原遊廓が焼けたとき、深川また浅草山の宿、花川戸辺に臨時にできた、バラックの遊女屋。大店(おおみせ、第一流)の遊女がささやかな家におり、素一分(すいちぶ、一分ギリギリしか持っていない)の遊客にも近づけたので大そう賑わった。もちろん吉原以外の廓の火災には、他の土地へ仮宅の建設のことはなかった。
 深川や仮宅百戸明がらす 竜雨
かりはなみち
〔仮花道〕舞台へ向って右手に仮設するやや細い花道で、「戻橋」(もどりばし)の綱が小百合を送る所や、「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」の吉野川の定高(さだか)と大判事(だいはんじ)の出、「新版歌祭文(しんばんうたざいもん)ーー野崎村」のお染・久松が帰る所、「曾我綉侠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)」の御所五郎蔵・星影土右衛門の出などにつかう。「東の歩」ともいう。本花道とこれとで、いわゆる「両花道」を形成する。→「あゆみいた」
かれこれし
〔かれこれ師〕何でもすぐに儲かることなら次々と商売を変えてやる人。
かわすじ
〔河筋〕河岸(かし)っぷち。川の多い土地。
「『深川は生憎(あいに)く河筋で
……』と車夫(くるまや)は梶棒を上げながら、『夜になりません中(うち)に、大急ぎで参ります。』」(永井荷風「夢の女」)
かわぼう
〔皮坊〕皮太郎。皮太。動物の皮をはぐ商売。皮はぎ。昔は特殊部落の人々の仕事とされた。
かわらもの
〔河原者〕役者をさげすんでいう。昔、京都四条河原に歌舞伎の小屋があったのによる。河原乞食。
かわりうら
〔変り裏〕衣服の裏地の裾廻(すそまわ)しの部分だけを色の異る布で仕立てたもの。
かわりだい
〔代台〕遊女屋で代りの料理をだすこと。→「だいのもの」
かんいん
〔官員〕役人のこと。のちには官吏(かんり)といった時代もあった。いわゆる新政府の官員は薩摩・長州あたりの旧藩士が多く、海外の新思想をも導入したかわりには、野暮な言動や趣味を示したので、保守的な東京人からは少なからず軽蔑されきらわれた。「いやだいやだよ、官員さんはいやだ」という唄さえあったほどである。
かんか
〔漢家〕漢方医。
かんかい
〔勘解〕裁判官が原告と被告の間へ立って、民事の問題を和解させること。また、その場所。
かんかん
児童語。髪のことも簪(かんざし)のことも、噛むことをもいう。

かんかんぽうず
〔カンカン坊主〕鉦(かね)を叩いて軒に立ち物乞いして歩く乞食僧。昔の子どもの遊戯の唄に「このカンカン坊主くそ坊主、後(うしろ)の正面だあれ」とある。
がんぎ
〔雁木〕海や川へのぞむ桟橋の階段。
かんげ
〔勧化〕仏寺の建立などに寄附をつのること。昔は、「勧化のたぐい入るを禁ず」と村の入口に札が建てられていたほど、一般語であった。
かんげちょう
〔勧化帳〕寺の建立に寄附金をつのるときつかう帳面。
かんこう
〔勘考〕考えること。「間違へんやうによく勘考いたせ。」(三遊亭円朝「名人長二」)
かんこうば
〔勧工場〕デパートの小さいもので、大都会の諸所にあった。定価で売ることをかたく守ったのも勧工場からだった。
かんごえ
〔寒声〕音曲を習う者が寒中早朝に其の技を練習すること。
 寒声や月に修羅場の講釈師 紅葉
がんごめ
〔願込め〕願がけ。
かんざらい
〔寒浚い(寒復習)〕→「かんごえ」
がんしゅ
〔願酒〕禁酒のこと。願をかけて酒をたつこと。
 馬楽忌や願酒の勇酔柿紅(すいしこう) 吉井勇
かんじょう
〔勧請〕神仏の霊を分け移して祭ること。
かんそう
〔檻倉〕牢屋。
かんたい
〔緩怠〕失礼。不とどき。「かんたいながら……
かんだい
〔棺台〕早桶。
かんち
〔閑地〕閑静な土地。しずかなところ。郊外。
かんつう
〔貫通・寛通〕はじめから終りまで。一切。どんなことがあっても。「お前には寛通貸しません」
かんどうきん
〔勘当金〕絶縁のさいくれてやる金。
かんとんおり
〔広東織〕広東地方産出の縞織。男性用としては色の派手やかなもの。
かんなべ
〔燗鍋〕酒の燗(かん)につかう鍋。多く銅製で、蔓(つる)と口とがある。
かんにとじられる
〔疳にとじられる〕癪(しゃく、胃けいれん、胆嚢や肝臓の痛み)に苦しむ。
かんばりぢょうし
〔甲張り調子〕カン高い調子をいう。
かんばん
〔看板〕法被(はっぴ)。マーク入のユニ・フォーム。紺色が多かったので武家屋敷の仲間(ちゅうげん)などを「紺看板」といった。人力車の梶棒につるす細長い提灯(紋や屋号や姓名を書き入れてある)をも看板といった。
かんびょうふ
〔看病婦〕看護婦。
かんぶつや
〔乾物屋〕干瓢(かんぴょう)や麩(ふ)や干鱈(ひだら)や昆布(こぶ)や豆類などを売っている店。
「神田鍛冶町の角の乾物屋の勝栗アかたくてかめない」などカの字づくしをおもしろがって、明治時代の少年は歌った。

かんべや
〔燗部屋〕遊女屋でお酒のお燗をする部屋。
かんべんづよい
〔勘弁強い〕堪忍深い。
かんぼずおはぐろもつけず
〔かんぼず鉄漿も附けず〕身なりもかまわず、やつれて働く。
「それに児(がき)を可愛がって、カラどうもかんぼず鉄漿も附けず、ぼろを着てはだしで駈けずり廻ってる姿は、」(三遊亭円朝「後閑榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)

がんほどき
〔願ほどき〕かけた願が叶ったので、御礼詣りに来ること。落語「甲府い」に「甲府い、おまいり願ほどき(豆腐い、胡麻入り、がんもどき)」のサゲがある。
かんぼやつす
〔観貌窶す〕顔容も貧しくやつれる。
かんろう
〔疳労〕疳が強く、身のおとろえやせること。
きあい
〔気合〕心もち。心意気。
きいきい
病気、気分の児童語。きいき。

きいたふう
〔利いた風〕気のきいたような顔をすること。生意気。「きいた風な口を利きやァがるな」
きうち
〔気打〕心配してクヨクヨしていること。気鬱(きうつ)。
きおい
〔俠〕勇み肌。鳶などをいう。
きおち
〔気落〕精神的に打撃を受けた状態。ガッカリすること。ガックリと参ること。
きかい
〔器械〕道具。器。
きがちる
〔気が散る〕気が晴れる。→「きさんじ」
きがつく
〔気がつく〕元気が出る。
きがわるい
〔気が悪い〕妙な気になる。
「やあ、膳の上のは鰹の刺身か、皮作りは気がわりいな。」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)ーー髪結新三」富吉町新三内の場)
「年の頃は二十二三、女盛りの御守殿風(ごしゅでんふう)、まだ男の味は知るめえ。どんな奴が女房にするか、気のわりい話しだなあ。」(同「網模様灯寵菊桐(あみもようとうろのきくきり)ーー小猿七之助」永代橋の場)

ききうで
〔利腕〕右の腕。右の方が何にでもよくきいてつかえるゆえにいう。
きぐすりや
〔薬種屋〕今日なら、ただ薬屋という。
きくとうだい
〔菊灯台〕台座を菊花の形にした灯明台で、朱塗、黒塗、白木や真鍮がある。
きこえあい
〔聞え合〕おたがいにすぐきこえること(例えば長屋の壁一つで)。
きごみ
〔著込〕上衣(うわぎ)の下に着る鎖帷子(くさりかたびら)の略。→「くさりかたびら」
ぎごわ
〔擬強〕からだにあわない、ゴワゴワしたきものを着ていること。
きさく
〔気さく〕気のおけない態度。気軽なこと。「さくい人」などという。
きさん
〔帰参〕主君へ再び呼び返されてつかえること。家宝紛失の責めで浪々となった主人公が辛苦の末に悪人を成敗し家宝を入手して「帰参がかなう」という例は多い。→「めしかえす」
きさんじ
〔気散じ〕気晴らし。気保養。鬱を散ずること。気苦労のないこと。のんきな状態。「気散じもの」などという。
「問はれて何のなにがしと、名乗るやうな町人でもごぜやせん。しかし生れは東路(あづまじ)に、身は住みなれし隅田川、流れ渡りの気散じは、江戸で噂の花川戸。」(桜田治助「鈴ケ森」)

きしょう
〔起請〕起請文の略。
きしょうな
〔気象な〕勇気凛々たる。気象の凛然(りんぜん)たる。
「仙太郎の身がまへがいかにも気象な奴でございますから、心のうちにてこいつ中々尋常(ただ)の奴ではない。」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)

きしょうの
〔気象の〕気象の烈しい。強い性格の。気象な。
きしょうもん
〔起請文〕神仏にちかっていつわりのないことを記した文書。遊女が夫婦約束の起請文には、「天にあっては比翼(ひよく)の鳥、地にあっては連理の枝」などの美文がかかれた。誓紙。誓文。
きしょく
〔気色〕気分。心もち。今日では大阪弁にのこっている。「気色の悪い男やな」など。
きずい
〔気随〕わがままのこと。
きずもつあし
〔疵持足〕脛(すね)に疵持つと同じ。秘密にしている弱点をもいう。
きせん
〔木銭〕木銭宿(きせんやど)の略。
きぜん
〔気前〕心持ち。腹の虫のいどころ。
「わっしが悪かった、ツイいいそくなったのだが、お前も気ぜんの悪いとこ。」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)

きせんやど
〔木銭宿〕木賃宿。安い宿屋。後に「もくちんホテル」などともいう。
きたい
〔希代〕奇体。奇妙。不思議。「希代なものを見るものぢやなあ。」(河竹黙阿弥「浪底親睦会」(なみのそこしんぼくかい))
きたきりすずめ
〔着た切り雀〕一枚しかないきものをしじゅう着ていること。「舌切り雀」のしゃれ。
きたけ
〔木竹〕木石(ぼくせき)。非情。感情のない人。
きたむきてんじん
〔北向天神〕へんくつな人。天神のしゃれで、変人さまともいう。
きつい
強い。

きっさきぜりあい
〔切先ぜり合〕剣の尖(さき)と尖とを双方が打ち合わせ、折り込む気合をはかっている状態。
きっそう
〔吉左右〕よいしらせ。喜ばしいたより。「よき吉左右を相待ちおるぞよ」などと重ねる場合もある。
きっそう
血相(けっそう)の江戸なまり。

きったて
〔切立〕きりたて。こしらえたて(衣類の場合の)。「きっ立てのふんどし」
きつねがおちる
〔狐が落ちる〕狐つき(狐がついたと信じる一種の神経病)が直る。古川柳に「狐つき落ちれば元の無筆なり」「狐つき鼠とまでは望みかね」。大正期の川柳には「木なし幕狐の落ちた気味があり」。
きっぱらい
〔切払い〕無銭遊興。
きっぷ
〔気っ風〕気前。心もち、性質。「いい気っ風だ」
きづま
〔気褄〕心もち。「きげんきづま」などという。
きど
〔木戸〕江戸の町々には木戸があり、非常の捕物の場合などこの木戸をしめた。広重の画中にも木戸の図は見られる。浄瑠璃「伊達娘恋緋慶子(だてむすめこいのひがのこ)ーー八百屋お七」火の見櫓の段およびそのパロディである「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」本郷火の見櫓の場では、この木戸の機能をよく活用してある。
きどばん
〔木戸番〕商売女がムダにお客を待ちあかす場合をいう。「今夜もまた木戸番か。」(樋口一葉「にごりえ」)
きどる
〔木取る〕材木をひき、製作の用材に適すよう見積って用意する。製材する。
きなきな
くよくよ。

きのえねのなないろがし
〔甲子の七色菓子〕十干(じっかん)の「きのえ」と十二支の「ね」とに当る年月日には、昔、大黒天を祭ったが、おこし、落雁など打物(うちもの、みじん粉に砂糖をまぜ、型に入れて打った乾菓子)の菓子で七いろにそれぞれ着色したものをそなえた。この風習、20余年前までは残存したーーと、五世田辺南竜談。
きふ
〔帰府〕江戸御府内(ごふない)へかえること。
きぶい
〔豪い〕割のいい。大そう儲かる。「きぶい仕事だ」という風につかう。
きふく
〔帰伏〕心服(しんぷく)。尊敬。
「お医者儒者売卜者(うらないしゃ)なんぞといふものは、少し頭に白髪がはえてなければ向うで帰伏しません。」(三遊亭円朝「鏡ケ池操松影(かがみがいけみさおのまつかげ)ーー江島屋怪談」)

きぶっせい
〔気烟霧〕煙ったく。気兼(きがね)。
「何となく江沼の様子が気烟霧に見えるから、」(三遊亭円朝「黄薔薇(こうしょうび)」)

きまくら
〔木枕〕木賃宿で貸した木で作った枕。手拭をあててねた。講釈場(こうしゃくば)ーー講談の寄席でも貸した。ねながら講談をきいたのである。
きまずな
〔気まずな〕気まずい。
きまり
〔定り〕おきまりのぞんざいないい方。おきまり文句。「へん、きまりをいうぜ」といえば、だれにでも使う嬉しがらせを、特別めかしていったって真(ま)に受けないよ、という意味になる。この辺、都会人の潔癖と含羞(はにかみ)がよくあらわれている。
きみあい
〔気味合〕その場の空気。「只ならざる気味合ネ。」(梅亭金鵞(ばいていきんが)「滑稽立志編」)
きみ・ぼく
〔君・僕〕江戸時代にも「君」「僕」のよび方はあった。三遊亭円朝の「牡丹灯籠」の萩原新三郎と医師山本志丈(しじょう)の会話にも「君」「僕」があるし、岡本綺堂「温泉雑記」中の旗本2人も「君」「僕」を使用している。もって文明開化以前の、下町人以外の用語であったことを知るべきである。
きめる
くらわせる。牢屋で新入(新しく入って来た囚人)をなぐる板を、きめ板という。

きもじ
〔気もじ〕→「もじ」
きやぁぱぁ
キャーキャー。「何をする。てめえがきやアぱアいやア、よん所なくたたっ斬るぞ。」(三遊亭円朝「敵討札所霊験」(かたきうちふだしょのれいけん))

きやい
気合(きあい)のなまり。「きやいがいい」

きやきや
①ひやひやと心配する様子、②きりきりとさしこんでくる痛み、③いても立ってもいられなくなる刺激的な状態。芸人の人気が急テンポで出てくるときにも、「きやきやと来た」などといった。

きゃくしゅう
〔客衆〕お客。衆は「子ども衆」「女郎衆」「兄弟衆」「芸者衆」の「衆」。
きやすめ
〔気休め〕一時だけ相手が安心するように口から出まかせをいうこと。「一どの気休め二どのうそ、三どのよもやにひかされて」の俗曲がある。
ギヤマンどくり
〔玻璃徳利〕ガラス製の酒瓶。
きやみ
〔気病み〕くよくよ思いなやむこと。流行語でいえば「一種のノイローゼ」といったところ。
きゅう
〔給〕月給の略。
きゅうきんをうつ
〔給金を打つ〕給金を手渡しする。芝居用語。
きゅうこ
〔舅姑〕しゅうと、しゅうとめ。
きゅうしゅう
〔旧習〕時代おくれ。古臭い。不開化。
きゅうち
〔旧地〕昔からいた土地。
きゅうとう
〔旧冬〕昨年末が正しいが、年礼、年始の用語で、単に昨年という意味にもちいられる。
きゅうばくさま
〔旧幕様〕旧幕府(徳川)への敬称。
きゅうへいあたま
〔旧弊頭〕ちょん髷。
きゅうめい
〔窮命〕苦しいおもいをさせること。「少し窮命をさせてやろう」
きゅうりがく
〔窮理学〕物事の理屈をきわめる学問。
きゅうりきる
〔久離切る〕永久に縁を切ってその家から追う。人別(にんべつ)帳からのぞく。戸籍を抜く。「お前のようなやつは、きょうこう限り久離切って勘当だ」
きょうかく
〔胸膈〕胸のつかえ。
「アノきょうかくの間に、何やら和(やは)らかなくくり枕のやうなものが二ッ下って、先に小さな把手(とって)のやうなものがあったが、ありゃなんぢゃ。」(津打半十郎他「鳴神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)」)

きょうげべつでん
〔教外別伝〕その道の普通のおしえ以外の、特別な方法。本来は仏教語。お秘伝(ひでん)。
きょうこう
〔向後〕今後。この後。「向後来てはいけない」「向後かぎりいたしません」
ぎょうさん
〔仰山〕大袈裟。「え〜、何を、仰山な、静(しずか)にしろえ。」(三遊亭円朝「名人長二」)
ぎょうじ
〔行事〕世話役。「長屋の行事は誰々がやっている」という風につかった。それが1カ月交替のものであるなら「月行事」「月番」というように。
きょうじや
〔経師屋〕女をやたらにくどく人。経師屋は張るというしゃれ。
きょうしんかい
〔共進会〕殖産、興業の改良進歩をはかるがために、ひろく産物、製品を集め、公衆に観覧させ、その優劣を批評してきめる会。その組織は、品評会と博覧会を折衷したもので、明治12915日、横浜に製茶共進会をひらいたのがはじまり。
きょうだいしゅう
〔兄弟衆〕御兄弟。この場合の衆は複数ではなく、敬語である。大阪弁でお子さんというところを、子たちというにひとしい。
ぎょうてい
〔業体〕家業。「かやうな業体ゆゑ、知りつつ存外(ぞんがい)私もごぶさたをいたしました。」(三遊亭円朝「緑林門松竹(みどりのはやしかどのまつたけ)ーーまたかのお関」)
ぎょく
〔玉〕遊女をあげる代金。狂せる三代目蝶花楼馬楽の句に「夜の雪せめて玉丈けとどけ度い」。
ぎょこん
〔御懇〕御親切なお言葉。
きょじ
〔凶事〕災難。今の人は「きょうじ」と発音。
ぎょしん
〔御寝〕おやすみ。お眠り。御就寝。「ぎょし」とも発音する。→「げし」
きらをはる
〔綺羅を張る〕着かざる。見得を張る。いつも体裁をよくしているのを「常綺羅を張る」。
きり
〔切〕演劇の最終番組。大切。「切幕」
ぎりあい
〔義理合〕義理。「空合」「意味合」「色合」などの「合」と同じ。
きりぎりすをきめる
〔蟋蟀をきめる〕遊女が、昔、張店(はりみせ)といって店頭に盛装して並び、客をよんでいたころ、その店の格子につかまって客を待つ姿を、虫籠のなかのきりぎりすにたとえた。
「店の格子に蟋蟀をきめたり為(し)て居た癖に、」(広津柳浪(ひろつりゅうろう)「今戸心中」)

きりざんしょ
〔切山椒〕山椒入りの餅を平らにのばし、25分位の長さに小口から細く切った紅白茶いろの菓子。
きりたとう
〔裁片畳〕小さいきれを入れる厚紙を折りたたんだもの。「宮は故(わざ)と打背(うちそむ)きて、裁片畳の内を撈(かきさが)せり。」(尾崎紅葉「金色夜叉」)
きりだめ
〔切溜〕野菜などの切ったものを入れておくフタのある箱で、春慶塗が多い。
ぎりづく
〔義理づく〕義理のためのなりゆきといった意味。→「づく」
きりどう
〔桐胴〕胴が桐で造られた火鉢。
きりぬきえ
〔切抜き絵〕物の形を切り抜いて取るようにかいてある絵。
きりみせ
〔切店〕ごく下等な遊女屋。
きりもち
〔切餅〕25両の紙包み。正月の切ったお餅(かちん)に似ているゆえにいう。
きりょう
〔器量〕才能。器。人物のスケール。「あの男にはそこまでの器量はない」「なかなかの器量人だな」
きればなし
〔切れ話〕離縁ばなし。別ればなし。
きをうつ
〔気を打つ〕おどろく。
きをおく
〔気を置く〕気をつかう。「気の置けない人ばかりだから」
きをつめる
〔気を詰める〕気がねする。気詰り。
きん○
〔近〕近喜近五(きんききんぐ、江戸訛りで「ご」を「ぐ」という呼び方の商店が沢山あった。近江屋喜兵衛とか近江屋五助とか、すべて近江屋なにがしの略である。近時、東京へ進出した大阪の商店は、例えば田中宗一という主人だと、最後の一を略し、田中宗商店という風によぶ。それに似ている。
きんえん
〔金円〕金(かね)のこと。
ぎんかん
〔銀笄〕銀のかんざし。
きんぎょくとう
〔金玉糖〕寒天に砂糖をまぜて作った上にザラメ糖をまぶした夏季の菓子。
きんごう
〔近郷〕→「きんざい」
きんこまおびつきのたすかり
〔金牒帯附きの助場〕いい後援者がついての上での助けてもらう花会(演芸会その他をやってその利益をもらう会)。
きんざい
〔近在〕都下や周辺をいう。「近在者(もの)」とは、その土地の人々。→「ざいご
もの」
きんしずるめ
〔錦糸鯣〕細かくきぎんだ鯣。金糸鯣。
きんじゅうろう
〔金十郎〕金十、きん。寄席界のテクニックで馬鹿という意味。語源は禽獣(きんじゅう)に等しいから来ていて、それを人間らしく「郎」の字をつけたのである。
きんじょしゅうとめ
〔近所姑〕近所の人が姑のようにうるさいこと。
きんたまひばち
〔睾丸火鉢〕股間へ入れてあたるための火鉢。そうした行動をもいう。
きんちょう
〔金打〕武士が違約せぬしるしに、両刀の刃または鍔(つば)などを打ち合わせたこと。
きんちょうまぢかい
〔禁朝間近い〕天皇陛下のおいでの所に近い。お膝元。仮名垣魯文「西洋道中膝栗毛」に「禁朝間近へ神田の八丁堀でお茶の水を産湯にあびて」。神田の八丁堀は、もちろん今日の中央区京橋のではなく、神田今川橋界隈(今川橋は神田駅と本石町の中間)だった。
ぎんながし
〔銀流し〕銀メッキから転じて、実力がなくて表面だけかざる人。
きんぱく
〔金箔〕実際よりよくみせかけていること。金箔付(つき)というと、決定版という意味になる。
きんぴか
豪華な装(なり)をすること。「きんぴかづくめ」

ぎんみ
〔吟味〕調べ。探査。
きんりさま
〔禁裏様〕天皇陛下のこと。なまって、「きんりんさま」という。禁裏は皇居のこと。
くいかた
〔喰方〕喰うこと。生活。→「かた」
くいこみ
〔喰込み〕収入が少なくて支出が多く蓄えを減らす。マイナス。
くいぞうよう
〔食雑用〕食費。
ぐいちさぶろく
〔五一三六〕特別にすぐれた人はいないという意味。みな同じくらい。どんぐりのせいくらべ。五をぐというのは、ばくちの用語。
くいつめ
〔喰詰め〕生活の立たなくなること。その土地にいられなくなった人を「くいつめもの」ともいう。
くう
〔喰う〕情交する。「喰い散らかす」というと、いろいろの女に関係すること。
くうきラムプ
〔空気ラムプ〕光りを強くするため、芯を丸い筒の形にし、口金の下に穴を多くあけ、空気のよくかようようにした石油ランプ。
「間毎(まごと)の天井に白銅鉱(ニッケルめっき)の空気ラムプを点したれば、」(尾崎紅葉「金色夜叉」)

くえき
〔苦役〕刑務所で働くこと。
くくす
〔括す〕くくりつける。
くくり
〔括り〕おしまい。くくりをつける、しめくくりというのも、これからでている。
くぐり
〔潜〕木戸。
くくりまくら
〔括枕〕中に綿または蕎麦殻、茶殻などを入れ、両端をくくってこしらえた枕。
「生れてはじめて女の懐中へーー見れば、アノきょうかく(胸膈)の間に、何やら和(やは)らかなくくり枕のやうなものが二ッ下って、先に小さな把手(とって)のやうなものがあったが、ありやなんぢゃ。」(津打半十郎他「鳴神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)」)

くげん
〔苦患〕苦しみわずらうこと。
くごなわ
〔九五縄〕折詰(おりづめ)をゆわえる細い縄。
くさりかたびら
〔鎖帷子〕小さい鎖をつなぎ合わせた襦袢。歌舞伎では美しいいろどりのを、児雷也(じらいや)や天竺徳兵衛が着ており、仇討の孝子なども白衣の下へ着込んでいる。斬りつけられたときに、刃(やいば)が肉体へふれないためである。→「きごみ」
くさりつきのちょうちん
〔鎖附の提灯〕提灯の手で持つ部分に鎖の付いているもの。
くさをはやす
〔草を生やす〕おとろえさせる。その家がおとろえれば大屋根へペんぺん草がはえる。「あいつの家の屋根へ草をはえさせてやる」
くしこうがい
〔櫛笄〕櫛と笄。語呂の上から昔の人々は重ねていった。笄は、婦人の髪飾りで、金銀、鼈甲(べっこう)、水晶、瑪瑙(めのう)などでつくる。
くじをくう
〔公事を喰う〕裁判になること。「公事をくってひどい目にあった」
くすぬき
楠(くすのき)のなまり。「くすぬき正成」などと発音したものである。

くすりぐい
〔薬喰い〕補強用にする肉食を、昔はこういった。
くそごなし
〔糞ごなし〕めちゃめちゃにけなすこと。頭ごなし。
くそったれ
何の足しにもならない。むだめし喰い。

くださらぬ
〔下さらぬ〕ありがたくないもの。感心できないもの。
くだり
〔下り〕→「のめり」
くだりあめ
〔下り飴〕地黄煎(じおうせん)をいれた茶色のかたい飴。
くちとりもの
〔口取物〕口取肴(さかな)の略。口取りともいう。あまい照焼にした肴を、きんとん、蒲鉾(かまぼこ)、玉子焼、寄せもの、杏(あんず)などと取り合わせ、5品または7品、また3色から9色の数で浅い皿に盛り、お膳のはじめに吸物と共に出すもの。昔は広蓋(ひろぶた)に盛り、硯蓋(すずりぶた)にとりわけてすすめたという。
くちにどよう
〔口に土用〕腹にあることをみんないう。土用干しをさせるという意味だろう。
くちまえ
〔口前〕口先。弁舌(ベんぜつ)。
くちわけ
〔口分〕種類によって区別すること。分類。
くちをすごす
〔口を糊す〕生活ができる。その日その日をしのぐ。
くでま
〔諄手間〕「くどきてま」「くどでま」の略。「くでまがかかった」
ぐでれん
ひどく酔った姿。ぐでん。ぐでんぐでん。ずぶろくぐでん。やたらにいばることもいう。

くにづくし
〔国尽し〕国の名をかきあつめた本。寺子屋で教科書につかった。
くにもの
〔国者〕同郷人。ただし、地方人に限る。いなかもの。
くにゅう
〔口入〕世話。とりもち。
「さうして柳(りゅう、女の名前)が其方(そのほう)へ嫁の口入をいたしたかどうぢや。」(三遊亭円朝「名人長二」)

くねんぼ
〔九年母〕芸香(ヘンルウダ)科の高いときわ木になる柚(ゆず)に似た果実で、香よく甘味がある。香橙。江戸時代にはこの果実を好み、劇場の幕間にも売り歩き、「九年母」の小咄さえあるが、明治中頃以後はすたれた。
くびったけ
〔首ったけ〕大へんにほれること。ほれて深間(ふかま)へはまり込むこと。「足駄をはいて首ったけ」
くびぬきゆかた
〔首抜き浴衣〕首から前後の襟(えり)へかけて、大きな紋や図案が染めぬいてある派手な浴衣。白地や鼠や浅黄や紺で図案され、紺地なら白ぬきになり、祭の揃いなどにみられる。
くもすけ
〔雲助〕宿駅、渡船場、街道を徘徊(はいかい)し、駕籠をかつぎ、または川を渡るのを助け、荷をかつぐ、住所不定の人夫。一定の住所なく雲水(うんすい)のごときゆえ雲助という説と、街道で旅人に駕籠をすすめるさまが蜘蛛の巣を作って虫を捕えるのに似ているという説と、語源が2つある。いまでもあやしげな流しのタクシーの運転手を雲助とよぶ。
くやしんぼう
〔口惜しん坊〕くやしがること。「ふりこかされたくやしんぼうで身請(みうけ)してつれて行(ゆこ)うといふからとても生きてはゐられぬわい。」(仮名垣魯文(かながきろぶん)「西洋道中膝栗毛」)
くらしかた
〔暮し方〕生活。→「かた」
くらびらき
〔蔵開き〕111日、商家で蔵開きと称して鏡餅を割って雑煮を作り、店員らをねぎらって祝宴をもよおすことをいう。
「雑談抄」に「和俗、年の始に蔵を開きて、積蓄(せきちく)の金銀米銭にかぎらず、一切の貸財(かぎい)金を取出して用に充て、売買の事を調(ととの)う。もっとも其年始なれば吉日をえらびて庫(くら)を開くことをいふめり。」(小泉迂外「俳句雑事記」)

ぐりぐり
商売女が甘えて男をいじめるとき、ひじで相手の膝の上をぐりぐりと廻してこづく。「ぐりぐりをきめる」という。

くるしがりの
〔苦しがりの〕貧乏な。
くるる
〔枢〕戸をあけたてするためにこしらえてある「とぼそ」と「とまら」。
ぐれはま
ちぐはぐ。手ちがい。ぐりはま。「万事がぐれはまだ」

くろかも
〔黒鴨〕供の男をいう。江戸時代には供の者が、明治以後は車夫馬丁が黒づくめの服装であり、黒い鴨を連想させたゆえにいう。
くろがんじ
〔黒丸子〕漢方薬で腹痛用の丸薬(がんやく)。
くろざん
〔黒桟〕印度サントメに産する黒のサントメ革、皺(しわ)のあるなめし皮。
くろばおり
〔黒羽織〕黒紋付。
くろぺらの
〔黒ペラの〕黒い、ペラペラの。
くわえぎせる
〔啣へ煙管〕身体に楽をさせていること。坐ったまんま。立ち働きをしない。
「座蒲団の上で啣へ煙管をしながら、一つ首を捻(ひね)れば五千も八千も儲かる。」(三遊亭円朝「塩原多助一代記」)

くわせもの
にせもののこと。

くわせる
刑務所へ入れておくこと。

くん
〔君〕明治中年の、そのころを扱った講談や小説では、金銭をもらいに来た後輩の書生が君(くん)と呼んでいる。君は敬称で(明治末年まで)、同僚を呼ぶ場合の言葉ではなかった。当時の書籍の広告には、氏もしくは先生とあるところを、○○君著と記してあった。→「きみ・ぼく」
くんじゅ
〔群衆〕大ぜい人がむらがること。「随分くんじゅしている」
ぐんだい
〔郡代〕江戸時代は郡代屋敷といって、幕府直轄地ーー管理の土地の民政を扱う屋敷があった。いまの中央区日本橋馬喰町(ばくろちょう)4丁目(浅草より本石町へむかってゆく西側裏)にあり、大正初年まで矢場という売笑街になり、その名称となる。多くこの辺の商店の番頭手代を客にしていた。
くんだり
〔辺〕どこそこあたりの、あたりという意味。「目黒くんだりまでわざわざ来た」などとつかう。
ぐんないじま
〔郡内縞〕山梨県郡内地方に産する縞(しま)、甲斐絹(かいき)の一種。
けあう
〔蹴合う〕喧嘩をすること。軍鶏(しゃも)の蹴合いからでたことば。
けいあん
〔桂庵〕職業を斡旋(あっせん)する所。あてにならない好意的な口ぶりを「桂庵口(ぐち)」といった。実在の桂庵が全部そうだったわけではないのだろうが、それにしても桂庵の生態をよくえぐった形容である。仲人口(なこうどぐち)と同じ。中年以上の婦人が多かったようで「桂庵婆」(ばばあ)ということばもできている。
けいききゅう
〔軽気球〕空気より軽い水素ガスを絹でできた袋へ入れ空中へ昇降させるのだが、その袋の下へ籠をつけ、人をのせる。風船ともいい、のる人を風船乗りといった。飛行機以前のただ一つの昇空手段であったところから、民衆の好奇心をあおり、見世物化したほどであった。
「風船乗りをする人は、何といふ人でござりますな。」(河竹黙阿弥「風船乗噂高閣(ふうせんのりうわさのたかどの)」)

けいきょう
〔景況〕様子。有様。
けいこじょっぱいり
〔稽古所這入〕町内の若い衆が湯がえりに邦楽や舞踊の稽古所へかよい、わかい女師匠相手に面白半分教わることをいう。
けいずや
〔故買屋〕盗んだ品を引き取ってさばく店。ずや。
けいど
〔警動〕警官の臨検で売笑婦がつかまること。
けいま
〔桂馬〕理屈のちがうこと。すじ違いなこと。
けいらく
〔経絡〕からだじゅうの筋肉の道。
けえけえ
お化粧の児童語。「きれいきれい」の意味か。
「お湯(ぶう)から上って、おけえけえが出来て、おぐしが出来て、お可愛いな、どうも。」(落語「つるつる」)

けがれびと
〔不浄人〕「不浄役人」に同じ。
げきしゅとう
〔劇酒党〕酒の強い人たち。
けこみ
〔蹴込〕人力車へのった客が足をそらして休むところ。階段の爪先前方にあたる垂直面(つまり踏板と直角になる部分)をもいう。
けころみせ
〔蹴転店〕最下級の遊女屋。下等な女郎を「けころ」という。
げざ
〔下座〕寄席の三味線をひく女。
けさぶんこ
〔袈裟文庫〕袈裟をいれるいれもの。
げし
〔御寝〕お眠り。就寝の敬語「御寝」はつまって「ぎょし」とも発音されるから、これが「げし」となまったのであろう。さらに「お」をつけて「おげし」ともいった。
けじけもの
小ざかしい人。ませた娘。

けしだまのてぬぐい
〔罌粟玉の手拭〕芥子粒(けしつぶ)のような細かい玉を並べた、豆絞りの一そう細かい染模様の手拭。
「二人が影のまた二人、月にうつるも追人(おって)かと、気をけしだまのほうかむり」(新内「明烏後真夢(あけがらすのちのまさゆめ)」)

けしぼうず
〔芥子坊主〕子供の頭の周囲をすって、中央にだけ髪をのこしたもの。また、昔の中国人の弁髪(ながい髪)をもいう。
「ざまア、わアいわアい、芥子坊主のおかみさんが何所(どこ)にあるもんか。」(式亭三馬「浮世風呂」)

けじめをくう
〔恥辱を食う〕バカにされる。
(で)げす
「ございます」の意味の崩した江戸語。「何々でごす」ともいう。
「これは、何々でといふ言葉のあとにつくのだが、字にかくとハッキリして了ふが、ごく軽く出るので、大店(おおだな)の商人だの、粋な人だののくだけた、世慣れた物言(ものいい)で、げすは寧ろゑすにきこえる。助六の『冷えものでエす』あすこいらから来てゐる蔵前の札差(ふださし)あたりの用語ではなかったのだらうか。いやみな通人(つうじん)のげすは、やはり助六の狂言に出る通人の『恐れべでゲス』といふあれになる。」(鏑木清方「明治の東京語」)
「げす」は明治の落語家ーーことに初代三遊亭円遊の幇間(たいこもち)物や「五人廻し」の通人などにつかわれ、後者は下町の旦那衆がつかったが、一般人がつかうときは「げ」「ご」が強くなかったから、イヤ味にひびかなかった。

げせわ
〔下世話〕下等社会。「そこが下世話に申す魚心あれば水心で」
けだし
〔蹴出〕腰巻。女の腰から脚にかけてまとう布で、古い甚句に「赤い蹴出しに迷わぬ奴は、木仏金仏石仏(きぶつかなぶついしぼとけ)」。
げたをはく
〔下駄を履く〕10円のものを15円だといい、5円自分のふところへ入れるのをいう。下駄をはけば、自分の足でじかに地面を歩くより高いからである。
けちりんも
ほんの少しも。「いわない」「しない」と否定した場合につかう。
「けちりんも嘘は申しません。」(三遊亭円朝「名人長二」)

げっきん
〔月琴〕中国から来た楽器で、琵琶に似て小さく、胴が丸く、絃(いと)が4本、柱が8つある。
けっちゃく
〔結着〕おさまりがつくこと。きまること。「話がそういう風に結着した」
けづな
〔毛綱〕女人の髪で編んだ綱。女の髪の毛大象をつなぐたとえのように、大へん強いもの。
げっぱくする
〔月迫する〕12月も末に迫る。
けどり
〔気取り〕他から気がつかれること。けどられる。
けぬきあわせ
〔毛抜合せ〕はずれようとしてやっとあうこと。印刷技術の世界では今日なおこのことばが生きている。すなわち、多色刷の場合にA色とB色とを重ねず離さず、ぴったりと隣接させる技術をいう。粗悪なマンガなどは、「毛抜合せ」のうまくいっていない好例である。
げびぞう
〔下卑造〕下等な性格の人。げびた男。
けぶ
〔煙〕フイといなくなること。
けぶだし
〔煙出し〕けむだし。きゅうくつな人がいて困ること。煙りにいぶされて苦しむことからはじまった。
けぶり
〔気ぶり)ほんのちょっとした態度。「そんな下心は気ぶりにも出さなかった」
げほう
〔外法〕上が大きく下が小さい頭。福禄寿をもいう。
けむだし
〔煙突〕エントツ。
けらざえ
〔螻才〕オケラほどの才。少しずつあれこれとできはするが、一つとして満足なことはできないこと。
げりょう
〔外療〕外科の医者。外療(がいりょう)ともいった。古川柳に「外れうを祭の形(な)りで呼びにやり」。落語「百川」で、「魚河岸(かし)の若い方が今朝がけ(袈裟がけ)四五人来られ(斬られ)やして」と聞いて駈けつける鴨地大哲(鴨池玄林)なる先生もその一人。
けれん
インチキ。舞台でアクロバットにちかい早変りを専門にする役者を、けれん師といった。浪曲では、笑わせることを「ケレンをふる」。反響があって客が笑うと、「ケレンが落ちた」という。

けろけろと
ケロリと。すぐ全快する。

けん
〔権〕権利のこと。
「いや小僧だって番頭だって、開化の世界は同じ権だ。」(河竹黙阿弥「人間万事金世中(にんげんばんじかねのよのなか)」)

げん
〔顕〕ききめ。けん。験(しるし)。「いくら薬をのんでもはかばかしくげんがみえない」
けんかすぎてのぼうちぎり
〔喧嘩過ぎての棒ちぎり〕いろはがるたにあり、喧嘩の終ったあとで手に手に棒を持って駈け付けること。あとの祭。無意味のこと。
げんかんをひらく
〔玄関を開く〕玄関附の邸宅へ入り、門戸を張る。
けんさば
〔検査場〕遊女が性病の検査をうけにゆく所。
けんしざた
〔検視沙汰〕変死体を役人が来て取り調べる手続き一切。
げんじな
〔源氏名〕おいらんがつけている名前。高尾とか、薄雲とか、千早とか、小式部(こしきぶ)。落語「千早ふる」によれば千早太夫の本名は「とわ」というのだそうだが。
けんじょうはかた
〔献上博多〕博多帯地に独鈷形(とっこがた)の模様を織り出したもの。藩主黒田侯から江戸幕府に献上したので、こうよばれる。→「いっぽんどっこ」「こんけんじょう」
けんそう
〔見相〕人相。
けんちゅう
〔繭紬〕杵蚕(さくさん)の糸で織った、淡茶いろで節のある織物。中国山東省産が多いが、日本では多く合羽にもちいられた。
けんつく
〔剣突〕頭ごなしにおどかすこと。
げんとう
〔幻灯〕映画以前にはやった、ドイツ人キルヘルの発明した娯楽品で、ガラスに色とりどりにかいた風景や草木花鳥を、幻灯機械の中から灯火をつかって、大きく映像幕へうつしだしてみせた。ゆめのように美しいエキゾティック(異国情緒ゆたか)な画面が、明治の少年をたのしませた。今日のスライド。
げんなり
いやになること。あきてガッカリすること。「たべすぎてゲンナリした」

けんにかける
〔権にかける〕鼻にかける。「権にかかったもののいいようだ」
けんにかぶる
〔権に冠る〕勢力を笠に着る。
「宮さまを権に冠って理不尽に(中略)さうなっちゃア事が面倒(めんどう)だが、」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)

けんにんじ
〔建仁寺〕建仁寺垣の略。京都市東山区小松町建仁寺ではじめて造って以来、一般につたわった垣根。四つ割竹の皮を、外にして平たく並べ、竹の押縁を三段横に取り付け、縄で結んだ垣。
けんのん
〔剣呑〕あぶないこと。「けんのんだからおよし」
げんばいし
〔玄蕃石〕3尺に1尺ぐらいの長方形の蓋石(ふたいし)。敷石または蓋石につかう。略して玄蕃。
げんばおけ
〔玄番桶〕水汲用の大桶。
けんぷぐるみ
〔絹布ぐるみ〕常に絹の衣類に包まれて生活している状態。贅沢な生活。おかいこぐるみ。
けんべつ
〔軒別〕軒並。一軒一軒。戸別。
けんぽうぎょうぎあられ
〔憲法行儀あられ〕黒茶に小紋の霰(あられ)が行儀正しく並んでいる模様。明暦から万治のころ、京都で染物屋で剣術の達人だった吉岡憲法(けんぽう)が黒茶に小紋を染め出したので、この名称がある。
げんまん
〔拳万〕子供が小指をくみ合せ、約束すること。指切りげんまん。
けんもん
〔見聞〕権門(けんもん)にこびる賄賂(わいろ)や宴会。大名屋敷で、その藩のえらい人が集まるときをもいう。また、権力のある人のことにもつかう。
「しかし、またかうなると見聞があって、重役達に御馳走をしたり、遣ひ物や何や彼やで、物入(ものいり)が多い。」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)
こ○○
〔小○○〕「小綺麗」「小長い」「小甘い」「小ざっばり」「小ぎてい(気体)」「小気のきいた」「小憎らしい」「小汚い」「小じれったい」「小しゃくにさわる」など、それほど物量の大小にこだわらず「小」の字をかぶせることばが幕末明治の江戸弁には多い。元禄時代の豪放な感覚から、文化文政以後、繊細な情調に変っていったことがよくわかる。洗練された都会人感覚の一つである含羞(はにかみ、はじらい)から、自分の話の内容を卑下する意識が働くからであろうか。
こあきない
〔小商売〕ちょっとした商売。大規模でない営業。
「蘭蝶どのに身を立てさせ小商売でも始めさせ人並相応な暮しもして末々長う添はうとの楽しみばかりに恥も世間もかえりみず」(新内「若木仇名草(わかぎのあだなぐさ)ーー蘭蝶」お宮くどきの段)

こあげ
〔小あげ〕「小挙ーー小挙人足で、普通には舟着場、宿場の荷物を運搬する人夫をいふが」(杉浦正一郎「続猿簑註釈(ぞくさるみのちゅうしゃく)(六)」)とあるが、転じてその小挙人足の待機している宿場の入口ーーという意味のときもある。浄瑠璃「伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)」沼津の段の序は、小挙人足(平作)と旅人(十兵衛)とのやりとりがあるところから俗に「小あげ」とよばれている。
ごあんない
〔御案内〕ご存じ。既知。
こいぐちをきる
〔鯉口を切る〕すぐ刀の抜けるよう鯉口(刀の鞘と鍔(つば)のあうところ)をゆるめておく。
こいち
〔小一〕芝居の舞台の一ばん前の桝(ます、座席)でたった2人入れる所。
ごいんもん
〔御印文〕御印というにおなじ。
「老中方(ろうじゅうがた)の御印文が据(すわ)らぬうちは御処刑には相成らぬぞ。」(三遊亭円朝「名人長二」)

こう
江戸人はいせいを付けてものをいうとき「コー」をもちいた。「コ一聞いてくれ」「コーおぼえとけよ」のごとし。「オイオイオイ」と畳みかけて掛け合う場合は「コーコーコー」といった。

こうえきしょこく
〔交易諸国〕貿易をし、つきあっている諸外国。
こうえんげいしゃ
〔公園芸者〕浅草の芸者。
こうか
〔後架〕便所。夏目漱石「吾輩は猫である」の珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)先生がいつも便所で用便中、「これは平の宗盛にて候」などと下手な謡をうなるので「後架先生」と仇名をとっている。→「そうごうか」
こうがんじ
〔仰願寺〕江戸浅草仰願寺でつかいはじめたゆえにいう小蠟燭。
「仰願寺様(よう)な(仰願寺のような)蠟燭を点(つ)けて和尚は一人でお経をあげ、」(三遊亭円朝「松操美人生埋(まつのみさおびじんのいきうめ)」)

ごうぎ
〔強気・豪儀〕大そう。立派。えらく。「強気と」「強気な」「強気に」と使う。
「親方、ごうぎに手を広げなさるね。」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)ーー髪結新三」富吉町新三内の場)

こうきゅう
〔口吸〕キッス。接吻。「くちくち」と「土佐日記」にあり、又その元日の項には「ただおこあゆのくちをのみぞすう」とある。
こうきん
〔高金〕高価。
こうしつ
〔後室〕良家の未亡人。

こうしどづくり
〔格子戸造〕中流以上の家。こうしづくり。
こうしゃ
〔功者〕技術の巧い人。河竹黙阿弥「綴合於伝仮名書(とじあわせおでんのかながき)ーー高橋お伝」に「功者な医者が其辺(そのへん)にござります」。単に巧いことという意味にもつかわれ、「功者のことをいうねえ」。
こうじる
〔嵩じる〕つのる。増長する。「酒が嵩じて」
こうしんのよる
〔庚申の夜〕庚申の夜に情交して宿った子は盗人になるの俗説が、江戸時代にはあった。(岡田甫「川柳末摘花詳釈」有光書房版・上巻弐篇に詳しい。)
こうすい
〔香水〕明治中年までの香水はじつに珍しがられたもの。
「香水を附けると、親父が頭が腫(は)れるといって心配する。」(三遊亭円朝「黄薔薇(こうしょうび)」)

こうずに
〔好事に〕凝って。センシブルに。
こうぞり
〔香剃〕死者に戒(罪悪防止のいましめ)を与えて、戒師(かいし、戒を与える僧)がその仏の髪をそること。「髪剃(かみそり)がこうぞりになった」
ごうせい
〔豪勢〕ごうぎに同じ。「このごろは豪勢おかせぎになるそうで」
ごうだん
〔強談〕強談判(こわだんぱん)。無理に激しく掛け合うこと。
ごうつく
〔業突〕強情。強情な人を「ごうつくばり」という。
ごうてんじょう
〔格天井〕格子組(格子の形に組み合わせた)にした天井。
こうとうちゅうがく
〔高等中学〕今日の六三制以前の高等学校を明治時代にはそういった。
こうばいがのろい
〔勾配がのろい〕気が長い。
こうばいやき
〔紅梅焼〕梅の形に焼いたあまい煎餅の一種。浅草仲見世のが殊に有名で、うどん粉に米の粉をまぜ、卵と砂糖で堅くこねて薄くのばし、胡麻(ごま)油で焼く。
こうばこ
〔香箱〕香を入れる箱。猫が背を高くうずくまっている姿が似ているので、昔の人はそうした場合の猫の姿を香箱をつくると呼んでいた。
こうばしい
〔香ばしい〕いいこと。プラスになること。「香ばしい話」
ごうはらがつっぱる
〔強腹が突っ張る〕腹が立ってならない。ムシャクシャしていけない。
こうもと
〔講元〕組合を組んで神仏へ詣でる講中の主催者。
こうようにん
〔公用人〕大名小名の家で、主君の公用をした人。
ごうりき
〔合力〕金をめぐむこと。「合力しよう」
こうろへる
〔甲羅経る〕年をとって熟練すること。年を経てその道でえらく物凄くなること。
こかあいがり
〔子可愛がり〕子煩悩(こぼんのう)。
こがいのこめ
〔小買の米〕少しずつ買い入れる米。
こがえり
〔子返り〕器量の好かった幼児が、年と共に大した器量でもなくなること。
ごかじゅう
〔御家従〕御家令(ごかれい)。その邸の支配人にあたる人。
こかす
〔転かす〕ひそかに品物を他へ移す。無断で商品を転売する。
こがら
〔子柄〕青少年の容貌(姿や形)。
こぎく
〔小菊〕鼻紙に用いる小型半紙。
ごきこんに
〔御気根に〕ごゆるり。
こぎれい
〔小綺麗〕ちょいと気が利いて綺窟の意。→「こ○○」。江戸弁に「小」をかぶせた言葉の多いのは、元禄時代の豪放な感じから、文化文政以後、繊細な情調に変っていったことがよく分かる。
ごきんとうさま
〔御均等様〕うらみっこなしに。一列一体に。「おかどの多い(おつきあいの多い)のに、こんなものをとどけて下すって、御均等様で……
ごくさいしき
〔極彩色〕ゴテゴテに厚く化粧すること。
こくしょく
〔国色〕この国にならぶものなき美人。
こくす
〔告す〕いうこと。「ぽくが引き受けると告しやァ彼だって困るよ」という風に、漢語を自慢に明治の書生がつかった。
ごくせい
〔極製〕上等品。念入りにこしらえたもの。極上製。
こぐち
〔小口〕端緒。はじまり。発端。悪事の発覚するいとぐちを「あらわれ小口」という。
ごくない
〔極内〕ごく内しょのこと。大へん秘密のこと。
こくぼたん
〔黒牡丹〕紫黒色の牛。その色にちなんで白髪染にもこの名があった。
ごくもん
〔獄門〕刑死後、犯罪者の首を、獄門台へ乗せ、刑場または犯罪地ちかくへさらす昔の極刑(重い刑)のこと。
こくる
くくるのなまり。

ごけ
〔後家〕一と組そろっている器の一つがこわれ、半パになったもの。
こけおどし
〔白痴脅し〕つまらぬ奴がビックリするようなあさはかな方法。表だけすばらしそうで、内容が下らないやり方。
ごげじょう
〔御下城〕お城へおかえりになること。
ごけにん
〔御家人〕将軍直参(じかにやとわれている)の家来で、お目見得以下(将軍にお目通りのできぬ)の身分の低い武士であるが、それでも直参なので、天下の御家人であるとうそぶき、良民を苦しめるものが多かった。幕府が倒れてからは困って人力車夫となるものが多かった。三遊亭円朝「松と藤芸妓(げいしゃ)の替紋(かえもん)」の車夫大西徳蔵や、河竹黙阿弥「女書生」の御家直(ごけなお、御家人の直の通称)のごときである。
こけのみれん
〔こけの未練〕おろかしいほどの未練。こけみれん。
こけをおどす
〔こけを脅す〕こけおどかし。「こけおどし」をする。
こけん
〔沽券〕値打。
ごこうおんさまになる
〔御高恩さまになる〕大へん御恩になる。
ごこうせい
〔御厚情〕厚いなさけ。親切。今日はゴコウジョウと発音する。
「返す返すも御厚情、有難うござりまする。」(河竹黙阿弥「霜夜鐘十字辻筮(しもよのかねじゅうじのつじうら)」)

こごころ
〔子心〕わかいものの量見。
こころぐみ
〔心組〕心づもり。思案。
こころだて
〔心術〕心のあり方。気だて。
こころづきのある
〔心附のある〕気のつく。
こころにおちる
〔心に落ちる〕満足する。納得する。得心(とくしん)する。腑に落ちる。
こころのたけ
〔心のたけ〕心のあり方。心にあるすべて。心のありったけ。
こころやすだて
〔心安立て〕親しきに馴れて遠慮のないこと。
ごこん
〔御懇〕御懇意。おねんごろ。したしく。
ごこんめいをこうむる
〔御懇命を蒙る〕お引立てを頂く。
こざこざがり
〔こざこざ借り〕コマコマした借金。小さく方々へした借金。
こざつ
〔小札〕小額紙幣。中で、20銭紙幣は青い印刷ゆえ青べらといった。→「さつぎって」
ごさっこん
〔御昨今〕きのうきょうのお交りーーの意味であるが、「お宅さまとは御昨今で」などという風につかった。
こざんくずし
〔小算崩し〕小さいそろばん玉をくずした模様。
こしかけ
〔腰掛〕ベンチのことだが、裁判所のベンチから変って、民事の腰掛にいるというと、民事の裁判所にいるということになった。
「両御番所は言ふに及ばず、御勘定から寺社奉行、火附盗賊改めの加役へ出ても深川の、長兵衛といやあ腰掛で誰知らねえものもねえ金箔附の家主だ。」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)ーー髪結新三」富吉町新三内の場)

こしごろも
〔腰衣〕下半身へまとう衣。
ごじさん
〔御持参〕他人の子を宿しながらそれをかくして嫁に来たとき、その腹の子をいう。
ごして
〔後して〕後日を期して。のちになって。「後してお目にかかろう」「後してはいざしらず」
ごしはい
〔御支配〕お取締り。
こしべん
〔腰弁〕腰弁当の略。小役人。
こしゃく
〔古借〕古い借金。「古借の抵当(かた)に家蔵(いえくら)を渡して家がござりませねば、」(河竹黙阿弥「人間万事金世中(にんげんばんじかねのよのなか)」)
ごしゃくじょうご
〔五酌上戸〕5酌の酒でトロリとするくせに酒の大好きな人。
こしゅ
〔古主〕昔の主人。旧主人。
「古主のために斬取りも鈍き刃(やいば)の腰越(こしごえ)や、」(河竹黙阿弥「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)ーー白浪五人男」稲瀬川勢揃の場)

ごしゅいん
〔御朱印〕将軍の朱印。徳川幕府で将軍みずから朱の印をおしたかきものを、名高い神社や寺へつかわして、その社や寺の領している土地をみとめた。
こじゅうはん
〔小中飯〕ちょっとの間にたべる食事。
「小中飯に野良(田畑)へ持って行々、くすぶり返った銅薬鑵(あかがねやかん)。」(河竹黙阿弥「霜夜鐘十字辻筮(しもよのかねじゅうじのつじうら)」)

ごじゅうめかけ
〔五十目掛〕50日というに同じ。かけは、荷物を数えるにつかった言葉で、荷という字をほんとうはあてた。
ごしゅつやく
〔御出役〕役目として御出張。
ごしゅでん
〔御守殿〕三位(さんみ)以上の諸大名に嫁にいった将軍家の姫の尊称。大名にとっては荷厄介で、ありがた迷惑だった。河竹黙阿弥「網模様灯籠菊桐(あみもようとうろのきくきり)ーー小猿七之助」で、御殿女中の滝川が数奇(さっき)な運命に弄ばれて、切見世女郎にまで転落するが、立居振舞のはしばしにノーブルな品が消え残っているところから「御守殿お滝」と異名をとる。「御守殿」の権高(けんだか)さがうかがえる。
ごじゅらい
〔御入来〕おいでで。
「これはこれは御両所共に、見苦しきあばら屋へ、ようこそ御入来。」(竹田出雲他「仮名手本忠臣蔵」与市兵衛内勘平腹切の場)

ごじゅんかとく
〔御順家督〕年の順にその家の跡をつぐこと。
ごしょうぎ
〔後生気〕死後の安楽を願う心。「そのとしで、もう後生気が出たのか」
ごじょうぐち
〔御錠口〕城内の女たちのいる局(つぼね)の入口。
ごじょうまわり
〔御定廻り〕→「じょうまわり」
こしらえ
〔拵え〕扮装。
「五分月代(ごぶざかやき)に着流しで、小長え刀の落し差。ちよっと見るから往来の人も用心する拵へ、」(河竹黙阿弥「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」大川端庚申塚の場)

こじりとがめ
〔鐺咎め〕ほんの一寸したことを、うるさくとがめる。昔、侍が刀の鐺のふれたことで口論したことからでたことば。
ごしんさま
〔御新様〕御新造様の略。おくさま(今日ならば)。→「しんぞう」。
「商人なら、たいていの大所(おほどこ)でも『おかみさん』であり、徳川時代なら苗字帯刀御免(ごめん)といふ格ぐらゐのを『御新造』、ものを学ぶ先生の夫人を呼ぶにもさう呼んでゐた。」(鏑木清方「明治の東京語」)

ごしんさん
〔御新さん〕御新造(ごしんぞ)さんの略。当時は中流以上の町家の家庭では奥さまでなく御新造さん。奥さまとは山の手の高級官員(役人)や軍人の家庭でよばれた。→「しんぞう」
ごしんし
〔御親子〕親と子を一しょに呼ぶのにこうしたいい方があった。
「殊に御親子お揃ひで斯様(かよう)な処へおいでは何とも痛入(いたみい)りましてござる。」(三遊亭円朝「菊模様皿山奇談」)

ごしんるい
〔御親類〕自分と同じ女に情交した人々。似ているもの同士をもいう。御親類筋。「すぐ泣くから、あの女はきりぎりすの御親類筋だよ」
こずむ
かたよる。偏在する。「くすむ」こともいう。

ごずめず
〔牛頭馬頭〕牛の頭をした鬼と馬の頭をした鬼とで、閻魔大王に従う地獄の獄卒。尾崎紅葉「金色夜叉」に「間貫一が捨鉢(すてばち)の身を寄せて、牛頭馬頭の手代とたのまれ」とあるのは、鬼のような高利貸の下ではたらくことをいったのである。
コスメチック
チック。今日ならばポマードをコテコテに塗った人という所。ややキザないい男ぶった人をからかっていうことばにつかった。

こする
〔擦る〕いたしめる。「こいつをこすってやった」
ごぜ
〔瞽女〕めくらで町を唄を歌い、三味線をひいて流して歩く乞食芸人。彼女らと関係をしたあとは、悪女の深情(ふかなさけ)をはらう心でか、わざとなぐる習慣があった。
ごぜん
〔御膳〕膳部、転じて食事・米飯をていねいにいうとき。
ごぜんかご
〔御膳籠〕食品を入れ、天秤の両端にかけてかつぐ籠。
ごぜんじょうとう
〔御膳上等〕とんでもなくすばらしいこと。第一級品。「御膳上等の料理屋だ」「御膳上等の別嬪だ」
ごせんそく
〔御洗足〕足を洗う盥(たらい)。
ごぜんてい
〔御前体〕殿さまの前。「御前体よしなにお願い申す」など。
こぞう
〔小僧〕膝のこと。膝ッ小僧。児童語。
ごそうばしゃ
〔護送馬車〕犯罪者をのせて行く馬車。
ごそしょう
〔御訴訟〕公的な裁判的な意味でなく、個人同士で心の内をうったえるという場合につかった。
こそっぱゆく
きまりが悪い。面羞い。くすぐったい。

こそで
〔小袖〕袖の小さいふだん着。河竹黙阿弥作・髪結新三の外題(げだい、タイトル)に「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)」。
ごぞんりょ
〔御存慮〕お考え。
ごだいしゅうな
〔五大洲な〕大へんな。世界的な。「五大洲な熱」とは、勝手ないいぐさ。
「此奴(こいつ)五大洲な熱をふき出したナ。野蛮土人のぶんざいで、」(仮名垣魯文(かながきろぶん)「西洋道中膝栗毛」)

ごたいしん
〔御大身〕いい身分。立派な地位と財産のある人。
ごたく
〔御託〕いい気なこと。勝手なこと。能書(のうがき)。
「柄(え)のねえ所へ柄をすげて油ツ紙へ火のつくやうに、べらべら御託をぬかしゃあがりゃア、こっちも男の意地づくに
……」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)ーー髪結新三」永代橋の場)
こたつびょうほう
〔炬燵兵法〕実地の役に立たない話。「畳の上の水練(すいれん)」に同じ。
こたつべんけい
〔炬燵弁慶〕「内弁慶」に同じ。
ごたぶん
〔御他分〕世間並。「御多分にもれず私も……」。何でも大ぜいのいうとおりになる人々を、御多分連(ごたぶんれん)。
ごちゃまかす
いい加減なことをやる。無責任なことをやる。

ごちょうじ
〔御停止〕高貴の人が死んで何日か歌舞音曲を御遠慮の意味で中止すること。大老の死が10日、老中が7日、若年寄が3日と、篠田鉱造「明治開化奇談・塚越繁子談」にある。
こづつ
〔小筒〕小銃。大筒(大砲)の対。
こっぽり
ふくよか。ふっくら。

ごてい
御亭主の略。

こていた
〔小手板〕壁などへ鏝(こて)で泥などを塗りつけるとき、また漆喰(しっくい)を塗るとき、その泥や漆喰をもるのにつかう小さい板。鏝板。
ごてごて
弥造(拳を固めて胸の辺りへ入れる)。

こどうぐや
〔小道具屋〕刀剣の附属品を売る店。
ごどうながや
〔御同長家〕おなじ長屋。相長屋。
「御同長家の内に懇意な者が居りますので、」(三遊亭円朝「業平文治漂流奇談」)

ことずみ
〔事済〕解決。
ことばをつがえる
〔言葉を約える〕約束をする。
ことばがえし
〔辞返し〕口答え。かえしごと。
こども
〔子供〕芸者置屋・遊女屋が、自家のかかえている芸者・遊女をいう。また、遊女が禿(かむろ、遊女づきの少女)を呼ぶ場合にも使う。
こどもしゅう
〔子供衆〕こども。「こどもし」とも発音する。→「しゅ(う)」
ことをわける
〔事を分ける〕道理を説く。「事を分けてのお話で恐れ入ります」
ごないじん
〔御内陣〕内幕。内容。「とんだ御内陣を拝見しちまった」
こなべだて
〔小鍋立〕小鍋でものを煮ながらむつまじくたべること。冬の夜、愛人と一杯やりながらのたべものをいう。→「ちんちんかもなべ」
こにだ
〔小荷駄〕小荷駄馬の略。馬におわせる荷を小荷駄という。だから小荷駄をはこぶ馬。
こぬかさんごう
〔小糠三合〕小糠を3合でももっていられる身分、つまり最低の余裕があったら養子にはゆくなというたとえがあり、小糠三合といえば養子のことになった。
こねつける
〔捏つける〕あっちを叱り、こっちを直して、芸を大成させる。
こはく
〔琥珀〕琥珀織。平織で、「ななこ」に似た織目のある絹織物。羽織地袴地(はかまじ)にもちい、天和年間、京都西陣で織り出したもの。
こはな
〔小花〕無尽(むじん)で当る小さい花。かりに一等を1円とすれば、10銭の当りくじ。無尽で、本くじ以外になにがしかの金銭を分配するため、引かせるくじを花くじという。ゆえに、小花。
こはるなぎ
〔小春凪〕風のない小春日和。
ごばん
〔御番〕→「ばん」
ごばんしょ
〔御番所〕奉行所。両御番所といえば北・南の町奉行所をいう。
「両御番所は言ふに及ばず、御勘定から寺社奉行、」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)ーー髪結新三」富吉町新三内の場)

ごぶいん
〔御無音〕ごぶさた。のちに「ごぶおん」と発音した。武家用語。
ごふくがみ
〔呉服紙〕衣類を包んで売っている厚紙。
ごふくりゅう
〔御腹立〕お腹立ち。御立腹。
ごぶだめし
〔五分だめし〕憎い相手を一どに殺さず、苦痛を深くあじわわすために全身を五分ぐらいずつ斬りきざむをいう。一寸刻み五分だめし。
ごふだんめし
〔御不断召〕ふだん着。
ごふない
〔御府内〕江戸。
ごふれい
〔御不例〕貴人の御病気。
こほうか
〔古方家〕古医方(こいほう、漢方医学のルネッサンス)のよさをとなえる人。杉田玄白もその脈を引く。
こほうばい
〔古朋輩〕旧友。昔の友達。
こほん
〔小本〕人情本(昔の恋愛小説)のこと。
ごま
〔胡麻〕追従。おべっか。「おつう胡麻をいうぜ」「胡麻をすりやがる」など。
こまいかき
〔小舞かき〕壁の下地にわたす竹をこしらえる職人。
ごまいがさね
〔五枚重ね〕刑死直前の囚人には、この世の名残りにひとえものの差入れを大幅に許したから、1人で5枚も重ねて着るものもあったのである。差入れは、1人で5枚送る場合もあるし、5人から1枚ずつ送る場合もある。
こまいぬ
〔狛犬〕神社の前に2頭並んでいるあま犬こま犬の石像のよう、いつも2人づれで歩く人々。男女のアベックではなく、お神酒徳利(みきどくり)に同じ。コンビにもあたるか。
こまえのもの
〔小前の者〕貧民。
ごまがらじま
〔胡麻がら縞〕ごまがら(ごまの実を取り去った茎)にかたどった縞。唐桟(とうざん)などに使われた。
こまたがきれあがった
〔小股が切れ上がった〕キリリとした女の形容。
「女がソク(足を割らないでまっすぐに立つこと)で立つ場合に、内輪の足つきは、足が両方からつくに反して、踵(かかと)は双方離れる。ーーこの間にスキ間があいて、『小股が切り上る』のであるーーと僕は解釈する。」(木村荘八随筆「しばや・モード・粋」)

ごまのはい
〔胡麻の灰〕旅人の懐中をねらう盗人(旅人風をしていて相手をあざむく)。昔、高野山の僧の姿をして、弘法大師の護摩の灰だといって押売りしたものからこの名が起った。
ごまふだ
〔護摩札〕護摩を上げて祈ってもらった記念の札。
こまよせ
〔駒寄〕馬の逃げ去るを防ぐために門前などに設ける低い柵(さく)に似せて、墓碑や境内の神木の廻りを囲む石造の柵。
ごみくた
〔塵芥〕ごみのこと。ものをゾンザイにすること。「ごみくたにする」
ごみょうせき
〔御名跡〕名字の跡目をうけつぐこと。
こめつきばった
〔米搗ばった〕むやみに頭を下げる人。
こめやかぶり
〔米屋冠り〕米屋や搗屋(つきや、米つき)が糠(ぬか)のかからぬようにする手拭の冠り方。
こめる
〔籠める〕圧迫する。圧力をくわえる。いじめる。やっつける。いいこめる。
「囲者(かこいもの)や芸者屋を年中籠(こ)めて幅をきかせる二つ名のある弥太五郎源七。」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)ーー髪結新三」富吉町新三内の場)
「遊び交際(づきあい)をするものが、籠められぎりぢゃあ顔が立たねえ。」(同・深川閻魔堂橋の場)

こもちじま
〔子持縞〕太い線と細い線と並行している縞。
こもの
〔小物〕遊廓で勘定書へつけてだす雑費のこと。
「小物とは雑費を意味するよし、この程は明かに書出すやに聞けど、囊に大阪に徙(うつ)りし老作者の、之(これ)を香の物とおもひとりて、楼丁共(おとこども)に打向ひ、もっと小物を持って来い。」(斎藤緑雨「ひかへ帳」)

こもりっこ
〔児守子〕子守。守(も)りっ子ともいう。今日のターバンのように手拭で額(ひたい)を結び、子供をおぶい風車(かぎぐるま)などであやしていた姿は、邦楽や舞踊にもとり上げられている。
こもん
〔小紋〕小形の模様を織物の地一面に染め出したもの。
ごもんきって
〔御門切手〕大名屋敷の門を通用できる証明の切手。門鑑札。
ごもんしゅ
〔御門主〕門跡(もんぜき、本願寺の俗称)の住職。江戸人はなまって、もんずきさまといった。浅草菊屋橋及び築地本願寺。
こや
〔小屋〕大名屋敷にあるその藩の武士の住居。
こゆすり
〔小強請〕ちょっとしたゆすり。
「小耳に聞いた音羽屋の似ぬ仮声(こわいろ)で小強請(こゆすりかた)り」(河竹黙阿弥「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)ーー白浪五人男」雪の下浜松屋の場)

ごよう
〔御用〕「御用聞」の略。
ごようおお
〔御用多〕お忙しいという場合につかう。「御用多の所をすみません」
ごようきき
〔御用聞〕岡っ引。手先。下っ引。与力や同心の下に付いて捕物のとき働く者。商店の注文取りをもいう。
ごようたし
〔御用達〕諸大名(維新後は華族)の金融を引き受ける商人。ただし御用達も金融以外単にそれぞれの営業面のものだけを引き受ける人々もあった。
ごりん
〔五厘〕寄席出演者のブローカー。昔、1人に付き5厘ずつの周旋料を取っていた。
ころころ転がるように。手の舞い足の踏むところを知らないほどに。
ころす
〔殺す〕質へ入れること。ぶち殺す。「この時計を殺して一ぱいのもう」
ごろっか
ごろごろ。「暑かったので、家でごろっかしていた」

ころっぷ
〔コロップ〕ブドー酒や洋酒の壜(びん)の口に、昔は多くキルクの栓がしてあり、それをコロップといった。のちにコルクともいい、その栓ぬきをコロップぬき。
ころまけ
〔転負〕一も二もなく負けること。
こわげだつ
〔怖げ立つ〕ぞっとする。
こわごわしい
〔怖々しい〕怖らしい。怖そうな。
こわたり
〔古渡り〕古く異国から渡来した品。「古渡り唐桟(とうざん)」
こわめし
〔強飯〕昔は、葬礼の会葬者に白くたいた強飯を与えた。人情噺「子別れ」の上には、この光景がえがかれている。
こわもて
〔怖もて〕畏怖して応待すること。こわごわうやまってもてなすこと。
ごん
〔権〕「権妻(ごんさい)」の略。
「それぢやどこかへ権のやうな者でも置きますか。」(三遊亭円朝「黄薔薇(こうしょうび)」)

こんかんばん
〔紺看板〕→「かんばん」
こんけんじょう
〔紺献上〕紺色の博多帯。→「けんじょうはかた」
こんこんちき
狐のこと。言葉の調子で「そんなことは大知(おおし)りのこんこんちきでさあ」という風にもつかう。

ごんさい
〔権妻〕お妾。権妻二等親(にとうしん)ともいった。略して、権。今日でなら、二号。
「明治二十年前後までで、用ひた間はさう永くない。」(鏑木清方「明治の東京語」)
こんで
〔込んで〕一しょに。コミーー入れ込みで。
ごんてき
〔権的〕権妻(ごんさい)をふざけていったことば。
ごんのじ
〔五の字〕5銭とか5円とか50円とか500円とかいう代りにつかうことば。
ごんぱち
〔権八〕居候(いそうろう)のこと。白井権八が、幡随院長兵衛宅の厄介になる筋の数種の芝居(史実とは違う)にはじまる。「権八をきめている」
ごんべえ
〔権兵衛〕頭のつむじの後方。
さいくはりゅうりゅうしあげをごろうじろ
〔細工は流々仕上げを御覧じろ〕胸を叩いて引き受け、安心して出来栄(できばえ)を期待せよ、というときに江戸人が使ったややユーモラスな表現。
ざいご(う)ことば
〔在郷言葉〕田舎ことば。
ざいご(う)もの
〔在郷もの〕田舎者。
さいそくかた
〔催促方〕催促する役。→「かた」
さいづちあたま
〔才槌頭〕頭の前後が突き出て、小形の木の槌(つち)の頭に似た頭。
さいづちやろう
〔才槌野郎〕出しゃばり野郎。
ざいてい
〔在体〕在郷らしいありさま。田舎風。
さいとり
〔才取〕ブローカー。「さやとり」のなまり。
さいとりぼう
〔宰取棒〕足場の上の左官にしっくい壁土を、下から差し出してあたえるため適当の容器や「たち板」を一端に取りつけた棒。
さいふじり
〔財布尻〕金銭の出入りする権利をもっていること。「財布尻をおさえる」
ざいめい
〔在銘〕刀に製作者の銘(署名)があること。
ざいもくやのとんび
〔材木屋の鳶〕お高くとまっている人。「火の見のからす」ともいう。
さいりょう
〔宰領〕団体旅行の取締人。
さかとんぼ
〔逆蜻蛉〕まっさかさま。とんぼが飛びながら急にくるりところがって又飛び上るが、その逆の道の方向ーーつまり爆撃機の急降下のような形で落下することを「さかとんぼを打つ」という。
さがみおんな
〔相模女〕相模生れの女。昔、相模者は多情として、「相模下女いやとかぶりを縦に振り」以下、古川柳にいろいろとりあげられている。斎藤昌三氏に「相模女考」がある。
さかやきぎわ
〔月代際〕額の頭髪を半月の型にそった際(きわ)のところ。
さかん
〔壮〕嫁取り盛り。結婚適齢期。
さかん
〔査官〕巡査のこと。査公ともいった。
さきずら
〔先遁〕先へずらかるの略。先へ逃亡すること。
さきども
〔先供〕主人の先に立って供をすること。
さきばらい
〔先払い〕行列の先頭に立ち、往来の人たちに道をさけさせる。
さきぼう
〔先棒〕駕籠の前部。またそこをかつぐ者。先肩。他人の手先に使われる人をもいい、やたらにことあれかしと騒ぎ廻る者を「先棒かつぎ」ともいう。→「あいぼう」
さくい
きさく。気がる。淡白。

さくりょう
〔作料〕製作料。お代。
ざくろぐち
〔柘榴ロ〕銭湯の湯ぶねの前を湯がさめないように深くおおった入口。鳥居のような形で、芝居絵・武者絵などが美しくえがかれてあったという。(今日の湯屋のペンキ絵はそのなごりか。)
「寒いはな。ちょっと温(あったま)って聞かう。オオ寒。柘榴ロヘ這入(はい)り、からだをしめしながら」(式亭三馬「浮世風呂」)。
「風呂の柘榴口と云ふものは矢はり十八九年頃から段々に姿を変へてしまった。あれも一種の装飾であって、なかなか金のかかったものもあった。今日のやうに着物をぬいで流しへ這入ると、正面の風呂のなかには幾つもの首が浮いてゐるなどは、あまり見よい図ではない。矢はり正面に立派な柘榴口が立ってゐる方が感じがいいやうである。その代り、柘榴口のある風呂はどうしても踏み段をまたいで這入らなければならない。あわてて飛込まうとすると柘榴口でこつッと遣られる。おまけに風呂のなかは昼でも薄暗い。人の悪口を云って、その人が隅の方にゐたなどと云ふ失敗はしばしば繰返された。」(岡本綺堂「銭湯今昔物語」)

さげしたじ
〔さげ下地〕諸大名の奥方、姫君が多くゆった髪。大きな輪に結び、櫛(くし)、笄(こうがい)、簪(かんざし)、色元結(いろもつとい)を配した派手な髪。
さげもの
〔提物〕腰へ下げるもの。
さざえのしり
〔栄螺の尻〕心のねじれている人。世間づきあいのきらいな人。木村友衛の浪曲「河内山」に「栄螺のけつではないけれど、どこまでねじれてでるやも知れぬ」。
さし
〔差・縒〕わらや紙でよったひもで、穴開き銭をさしとおすもの。両端に結びこぶをつくって止める。また、さしにとおされた一定のーー100文、300文という単位の銭をもいった。上品ぶりたがった遊女が、これをわざと大きな毛虫と見違えたふりをして失敗するユーモアが江戸小咄にある。さしの有様がわかる。
さし
〔差〕差さわり。具合が悪いこと。差合。
さじ
〔匙〕薬の調合。「匙を投げる」というと、医者が病人をあきらめたことから、一般にあきれて手をひいた意味になった。「さじかげん」も薬をもる塩梅(あんばい)からはじまって、自分の考え一つでどうにでもなることをいうようになった。
さしあい
〔差合〕差しつかえ。差。
さしうら
〔差裏〕腰にさした場合、刀の鞘(さや)の内方(からだにちかい方)。「差表」の対。
「かように切れる刀でも、差裏・差表にガマの油を引くときは、引いて切れない、叩いて切れない。」(落語「蟇(がま)の油」)

さしおもて
〔差表〕腰にさした場合、外側を向く方。「差裏」の対。
さしかつぎ
〔差担ぎ〕前後2人で荷物をかついでいくこと。また、棺桶をそうして運んでいってやるような、まずしくさびしい葬い。さしにない。
さしがみ
〔差紙〕政府が特別に目をつけた人を指名して呼び出す命令状。
ざしききり
〔座敷限り〕遊女が顔を見せるだけで、共に寝ないこと。
ざしきろう
〔座敷牢〕自家内にもうけた檻禁所(かんきんじょ)。狂人や遊蕩児を入れた。古川柳に「座敷牢大工を入れてしめて見る」
さしこみ
〔差込〕胃痙攣
さしぞえ
〔差添〕大刀にそえて身につける短刀。
さしぞえ・さしぞい
〔差添〕介添(かいぞえ)。附添い。「差添は別府新八で、曲者(くせもの)は森山勘八と申す者で、」(三遊亭円朝「菊模様皿山奇談」)
さしにない
〔差担〕→「さしかつぎ」
さしひかえ
〔差控〕武士があやまちをおかしたとき、出仕(お城へ出ること)をやめ、自分の家につつしんでいること。謹慎。
さしむき
〔差向〕さしあたり。
さしりょう
〔差料〕自家用の刀。自分が差してつかう刀。
さすまた
〔刺股〕突棒(つくぼう)、袖搦(そでがらみ)と共に、江戸時代3道具の1。二叉(ふたまた)にわかれた鉄製の頭部に長い木の柄(え)を付け、狼籍者をおさえるのに使った。
ざそう
〔坐相〕坐っている姿。
さたやみ
〔沙汰止〕中止。取り止(や)め。
さっきがた
〔先刻方〕いまし方。
さつぎって
〔札切手〕紙幣(さつ)のこと。
さつく
さくく。砕けて。さばけて。
さっしごころ
〔察し心〕察し。デリカシイ。
さつまげた
〔薩摩下駄〕書生がはいた、台の幅がひろく、杉でできた駒下駄。「書生さん、ことば鹿児島さつま下駄」という「まっくろけぶし」がはやった。
ざとうしらず
〔座頭不知〕粟餅。青森地方では今日も粟餅を座頭不知という。
さとっこながれ
〔里っ子流れ〕里にやっていた子の、そのまま実家へかえらずじまいになったもの。
さとなれる
〔里馴れる〕廓に馴れる。里は、色里。「勘平が妻のおかるは酔さまし、はや里馴れて吹く風に、憂(う)さを晴らしてゐる所へ、」(竹田出雲他「仮名手本(かなでほん)忠臣蔵」祇園町一力の場)
さとぶち
〔里扶持〕子供を預けてある家へおくる毎月の扶育料。
ざどる
〔座取る〕場所を取る。
さなだひも
〔真田紐〕平たく組み、または織った木綿の紐で、天正のころ真田家で刀の柄を巻くにつかった。明治の中期まで真田家の遺法として織り出していたゆえに、この名がある。古川柳に「重宝な紐に勇士の名がのこり」。
さはいにん
〔差配人〕貸地や貸家の取締をする人。
さばをよむ
〔鯖を読む〕数をごまかすこと。鯖をとる網は大へん大きく、一と張りの長さ1213ヒロあるのを五重にしたもので、むらがる鯖を一どにとるゆえ、これを数えるとき、使用人がごまかすことからはじまったのではないかといわれる。
さびた
さびたは木材の名称で、明治時代にはさびたのパイプが流行した。単にさびたといえば、パイプの代名詞だった。

さびれ
〔寂れ〕衰微。繁昌しないこと。賑やかでないこと。
さま
〔様〕お方。
さみする
〔悔みする〕あなどって悪くいう。
さむさをひっこむ
〔寒さを引っ込む〕風邪をひく。
さむらいぶん
〔侍分〕侍の身分。息子分、養子分などの「分」である。
さや
〔紗綾〕さあやの略。綾に似て、鞘形(さやがた)その他の模様をあらわした絖(ぬめ、光った絹)の織物。
「をんな肌には白無垢(しろむく)や、上にむらさき藤の紋、中着緋紗綾(なかぎひざや)に黒繻子(くろじゅす)の帯。」(岡本綺堂「鳥辺山心中」)

さようしからば
〔左様然らば〕改まった口のききようをいう。「左様然らばで口をきかれると困るんですが」。
さらす
〔曝す〕太陽の光りの下に「もの」をだしておくことがはじめで、刑場で死体の首を多くの人々に見せること。隠したことが世間へ分かるときにも、恥をさらすなどという。
さらんばん
めちゃめちゃ。元も子もなくなるという意味。

さりじょう
〔去状〕離縁状。退(の)き状。
さるばしご
〔猿梯子〕取りはずしの出来る室内用の梯子。
さわさわそわそわ。「なんぼ年がいかないからといって、さわさわばかりして居るよ。」(三遊亭円朝「塩原多助一代記」)
さわり
〔触り〕聞かせどころ。義太夫においてその以前の音曲の曲節をとり入れて節づけした所を、他の節にさわっているとの意味でいう。主に女主人公の心理、弁明、詠嘆などの「くどき」の部分に使われたところから、「くどき」およびクライマックスの表現にも転用するようになった。
ざん
〔残〕残金のこと。
「旦那、残(ざん)を忘れちやいけませんぜ。」(河竹黙阿弥「富士額男女繁山(ふじびたいつくばのしげやま)ーー女書生」)

さんかい
〔参会〕集会のこと。寄り合い。「参会の崩れ」といえぼ今日の二次会である。
さんきらい
〔山帰来〕中国や印度にある竹に似た木の根からこしらえた梅毒の薬。古川柳に「いただいてのむもくやしき山帰来」。
ざんぎり
〔散髪〕明治4年断髪令がでて、髷(まげ)をそり落したころ、その頭をざんぎりととなえた。今日も河竹黙阿弥の「島鵆」(しまちどり)その他明治の世界を扱った戯曲をざんぎり物といっている。当時の俗謡に「ざんぎり頭を叩いて見れば文明開化の音がする」。
さんざい
〔散財〕多くの金をつかうこと。色町で派手に遊ぶこと。「散財するがいい」「とんだ散財だった」
ざんさいいれ
〔残菜入〕油紙製の、食品を入れるもの。多く茶人が使用した。
さんしたやっこ
〔三下奴〕バクチ用語。三という数は、およそ勝てない目で最高点の九に遠いが、さらにその三より下なら二と一しかなく、全然問題にならない奴という意味。
さんじつ
〔三日〕朔日(ついたち)、15日、28日を三日(さんじつ)といい、江戸時代、毎月の3つの式日(しきじつ)。おついたち、お十五日、廿八日ともいい、きょうは廿八日あしたはおかめの団子の日ともいった。おさんじつ。
さんじゃく
〔三尺〕へこ帯。兵児帯とは、はじめ薩摩の兵児(へこ、15歳以上25歳以下の青年)が使ったからによる。三尺とは、木綿などを長さ鯨尺3尺くらいに切った帯のことで、三尺帯をしめる人種が活躍するため、浪曲や講談では俠客物を三尺物(さんじゃくもの)という。
さんじゃくたかいところ
〔三尺高い処〕はりつけのお仕置になること。土で3尺、木で3尺、6尺高い木の空ーーそうした高さのところに、はりつけになる自分がしばり付けられる木が立てられていたという意味。
さんじゃくど
〔三尺戸〕木戸におなじ。縦が3尺あるのでいう。
さんじゅうりょうひともとで
〔三十両一資本〕30両あると、最低ながら一仕事の資本となったことをいう。
さんだらぼっち
〔桟俵法師〕米俵の両端にある太い藁(わら)の蓋(ふた)。桟俵(さんだわら)の江戸弁。さんだらぼうし。
さんどがさ
〔三度笠〕面部をおおえるように深く造った菅笠。月に3回往復の三度飛脚が冠ったゆえ。
さんとめじま
〔桟留縞〕はじめ印度の東岸Santomeから渡来した絹物をいうが、のちには竪縞(たてじま)、赤または浅葱(あさぎ)のまじった縞柄の織物はみな桟留縞と呼んだ。
さんのきり
〔三の切〕義太夫狂言(人形浄瑠璃芝居)の三段目の最終部。五段形式のクライマックスにあたるところから、ほとんどが切腹や殺人、別離などの悲劇になっている。愁嘆場(なげきかなしむ場面)ともいわれる。それから応用して「昨夜はあれからとんだ三の切さ」などと使う。
さんばらがみ
〔散ばら髪〕バラバラに乱れた髪。
さんぴんやっこ
〔三一奴〕バクチ用語で、三両一人扶持(ぶち)だから、下級の武士を三一といったのとはまたちがう。九を最もよしとするバクチの勝負、三だの二だの一だのという目は、どうでても勝利への途ではない。すなわち、出世のおぼつかない奴の意味。
さんぷ
〔三府〕江戸、京、大阪。
さんまい
〔三枚〕「三枚肩」の略。駕籠は普通は2人でかつぐものだが、特に急ぐ場合は3人でかついだ。明治になって人力車が駕籠にとって代るようになっても、このことばはそのまま残り、「三枚で急がせる」などといっていた。人力車の三枚とは梶棒をにぎる車夫と梶棒につけた綱を引く車夫と車体の後押しをする車夫とである。「後押し綱引き三枚」などとつづけていう。
さんみょうさわがし
〔三めう騒がし〕辺りを騒がす。(春陽堂版円朝全集鈴木行三氏註に「さんまいさわがして」とある。)
「そんな事をしても三めう騒しで、やっぱり内を外にして、尚、心配でございまする。」(三遊亭円朝「緑林門松竹(みどりのはやしかどのまつたけ)ーーまたかのお関」)
じあか
〔地赤〕赤地に松竹梅など豪華な刺繍のある女性用の晴れ着。じあけ。
「はい。と出て来た姿は文金の高髷、地赤の縫模様、大和錦の帯を締め、白の掛で、」(三遊亭円朝「鏡ケ池操松影(かがみがいけみさおのまつかげ)」)

しいくる
生活の苦しいこと。苦しいを逆さにいった。「何しろ今はシイクルですから」

じいじいもんもん
字と絵。児童語。

しいたけたぼ
〔椎茸髱〕髱を張り出し、椎茸のような形にした御殿女中特有の髪。
しいのみ
〔椎の実〕幼い男の子の局部をいう。
しおいり
〔汐入〕海の水が流れいっている川口の川。
「江戸向(えどむき)都心には見られぬ汐入の高く反(そり)の附けられた小橋を幾つともなく渡って、」(小栗風葉「恋慕(れんぼ)流し」)。邸や別荘や料亭で海や川の水をそのままとりいれた池をも、汐入の泉水という。

しおき
〔仕置〕取締り。処罰。親が子をしかってぶったりすることも仕置をしたという。
しおく
〔仕置く〕しておく。仕置いたこともあるという風につかう。
しおたれる
〔萎たれる〕しょんぼりする。今日でも出版界では、保管不完全や売残りのため見るかげもなくなることを「しょたれる」といい、そうなった本を「ショタレ本」といいならわしている。
しおばな
〔塩花〕芸者屋でいやな客がかえるとまく塩。葬礼からかえったときにまくのもいう。
しおびき
〔塩引〕塩引(塩漬)の鮭の略。
しおふき
〔汐吹〕ひょっとこ。
しおものだち
〔塩物断ち〕→「たちもの」
しおものや
〔塩物屋〕塩づけの魚や漬物を多く売っていた店。
じか
〔自火〕自分の家から火事をだすこと。
しかくなじ
〔四角な字〕漢字。本字。かなに対していう。
しかけ
〔襠〕帯をしめた上にうちかけて着る長い小袖。うちかけ。
じかぜ
自然に吹いて来る風。「帯まきつけて風(じかぜ)の透(す)く処へ行けば、」(樋口一葉「にごりえ」)

しかたばなし
〔仕方話〕身振り手真似をまじえてする(ジェスチュアたっぷりの)。
じがみおり
〔地紙折〕扇に使う紙を折って売る商売人。画商(画家の所へ出入りしてその絵を売りさばく商人)をもいう。
しがらき
〔信楽〕信州産の籐(とう)の一種。笠にもなる。
しき
手数料。
「お嬢様を自分の三階で男と密会(そっとあわす)をさせて、いくらかしきを取る。」(三遊亭円朝「敵討札所霊験(かたきうちふだしょのれいけん)」)

しぎ
〔仕儀〕次第。「殺さにやならぬ今日の仕儀」(二上り新内「うつぼ猿」)
しきがみ
〔敷紙〕紙製の敷物。厚く貼り合わせた渋紙。
しきしがあたっている
〔色紙が当っている〕貼交屏風(はりまぜびょうぶ)の色紙のように、着物の諸方へ継があたっていることのユーモラスな表現。
しきせ
〔仕着〕季節に応じて商家が奉公人へ、また客が芸者幇間にやる絆纏(はんてん)や羽織。ユニ・フォーム。牢獄における囚人服をもいった。多く「お」をつける。→「そうばおり」
しきだいぐち
〔敷台口〕玄関先の板敷の一ばん外にちかい部分。
じきに
〔直に〕じかに。直接に。
しきぶくろ
〔四季袋〕手さげ袋ーー今日のボストンバッグの一種。布でできている。
しきまつば
〔敷松葉〕庭の苔や芝などが霜の害を受けぬよう枯松葉を敷いて予防とするをいう。松などへ雪よけをしたのと共に、いかにも冬の庭らしい風情が、あの枯れた松葉の色から感じられた。
じきょうきごうとう
〔持凶器強盗〕刃物やピストルをたずさえていて入る強盗。
しきり
〔欄木〕昔の劇場の、約4人ずつ入れた場席と場席の間を仕切ってある細い棒にちかい歩み板。
「左右の人の肩を押分けて、危険相(あぶなそう)に細い欄木を渡ると、」(小杉天外「初すがた」)

しきり
〔仕切〕取引の決算。計算書・勘定伝票のことを今でも「仕切書」というところが少なくない。
しきりば
〔仕切場〕昔の芝居小屋で、金主座元会計方などが詰めていて勘定をした場所。木戸の左手にあった。
じぐち
〔地口〕蕎麦(そば)がいい、側(そば)がいいという風に、似た音でしゃれること。
じぐちあんど
〔地口行灯〕洒落(しゃれ)をかき、その洒落をも絵にした行灯で、初午祭などにかけつらねる。絵の具が一種変っていて、いかにも市井的(しせいてき)な色調に、かえって味がある。例を引くなら、婉豆(えんどまめ)の顔をした鎧武者(よろいむしゃ)がもりそばを10個たべている絵に、えんどうむしゃもり十(遠藤武者盛遠(もりとお))とあるたぐい。
じくねる
すねること。グズグズいうこと。反対すること。じぶくる。

じぐる
地口をいう。

じくん
〔二君〕「にくん」と現代ではいうが、昔は「じくん」といった。
しけこむ
一室へ入りこむ。情痴にもつかい、男女が泊りに行くこと。

じこう
〔時好〕はやり。時代時代の好みという意味。「時好に投じる」
じごく
〔地獄〕淫売。私娼。
「坊間の隠売女にて、陽は売女に非ず、密に売色する者を云。昔より禁止なれども、天保以来特に厳禁也。」(「守貞漫稿(もりさだまんこう)」)

しこくざる
〔四国猿〕昔、四国の人をののしっていった言葉。
じごくばら
〔地獄腹〕女の子ばかり生む女のこと。
しこたま
たくさん。どっさり。

じざい
〔自在〕自在鈎(かぎ)の略。炉(ろ)、竈(かまど)の上につるし、自由に鉄瓶、鍋、釜を上下させる装置の鈎。
じじっけ
襟(えり)の毛のこと。児童語。
しじめ
蜆(しじみ)のなまり。

しじめっかい
〔蜆貝〕内にいては大きな顔をし、外へでると小さくなっている子供。内弁慶に同じ。「内の中の蛤貝、外へでると蜆ッ貝」とはやした。
じしょくしょ
〔辞職書〕辞職届。
じそ
〔自訴〕自首。みずから訴人(そにん)すること。→「そにん」
しそく
〔紙燭〕松の木を長さ約15寸、太さ3分(ぶ)ほどの棒のようにけずり、先の方を炭火であぶって黒くこがし、その上に油を塗って火をつけるもの。下を紙屋紙(かみやがみ)で左巻きにした。これが宮中でつかわれた紙燭であるが、粗末な手燭(てしょく)のまわりを紙で筒のようにおおい、上部だけあけたものをもいう。
じだい
〔時代〕古びがかかっている様子。「この茶碗は時代がついた」などという。「過去」「歴史上」をも「時代」と表現した。例「時代狂言」。いまだに「時代劇」「時代小説」のよび方がある。
しだいがら
〔次第柄〕経路。すじ道。
したかた
〔下方〕弟子(植木屋などの)。見習職人。また、囃子(はやし)とその演奏者である囃子方(はやしかた)をもいう。→「かた」
したかねかし
〔下金貸〕下等な金貸。
したぐみ
〔下組〕下地。土台。
したじめ
〔下締〕着物(上衣)の下、つまり下着にしめるひも。「うわじめ」の対。
したっぱらにけのない
〔下っ腹に毛のない〕男から男をあさりつくし、下腹部の毛がすり切れてしまっているほどのあばずれ女という意味。
したて
〔仕立〕往来で客待ちをしている辻車でなく、若い衆を沢山かかえ、一軒構えている宿車(やどぐるま)をいう。今日ならハイヤーである。
じたて
〔地たて〕すんでいる土地から立ち退くこと。家を追われるのは「店(たな)だて」という。
したみ
〔下見〕家の外部の壁をおおうもの。普通は横板張りで、その上に薄板を直角に15寸〜3尺の間隔で縦に打って押さえにする。下層の家ではねじけた竹(ひしぎ竹)などを使っている。
じだらける
〔自堕落ける〕のぼせ上がる。理性、判断力が低下する。自堕落になる。
しちがつのおやり
〔七月のお槍〕ぼんやりーー盆の槍だからーーというしゃれ。
しちけつ
〔七穴〕左右の耳、左右の目、左右の鼻孔、口。「七穴から血を吐いて死んだ」
しちょう
〔紙帳〕紙製の蚊帳。
しちりけっぱい
「七里結界(仏教語で七里四方に境界線を結ぶこと)」のなまり。きらって寄せつけないこと。
「金がなければ七里けつぱい、摘(つま)んで捨てるげじげじ同様。」(河竹黙阿弥「人間万事金世中(にんげんばんじかねのよのなか)」)

しちりょうがえや
〔質両替屋〕質屋と両替屋をかねている店。→「りょうがえや」
じつ
〔実〕真実。まごころ。誠実味。「実をつくす。」
じつい
〔実意〕真情。まごころ。
しっこし
〔尻腰〕気概(きはく)。決断力。気魄。なまってヒッコシという人もいる。忍耐力。気力。
しっちょぐる
放尿する。小便をする。→「しょぐり」。もとは「ひょぐる」であろう。
「ヱヱ己(おれ)も小便がしたくなった。一寸ひょぐって来よう。」(芝全交「年寄之冷水曾我(としよりのひやみずそが)」)

じってい
〔実体〕実直。まじめ。誠実。
じっぷ
〔実否〕今日では「じっぴ」と発音する。ほんとうかどうか。「実否をたしかめよう。」
じつめい
〔実銘〕実直。
してかた
〔仕手方〕自分に従う職人。「棟梁のはしくれをいたし、仕手方を使ふ身分になりました。」(三遊亭円朝「英国孝子之伝」)。
じてんしょう
〔自点鐘〕音立てて鳴る時計の針。
じとう
〔地頭〕土地の頭立つ人。土地の管理役人。「泣く子と地頭には勝てぬ」
しどけない
取り乱している姿。

しとしと
しとやかに。しずかに歩いて来るとき。しずかにふる雨などにいう。

しとみ
〔蔀〕家の前にはめ込む2枚の横戸。昼は柱の上部に取り付けた戸決(とじゃくり)にしまい、夜だけ下ろして戸締とする。商家に多い。
しとをつけ
「ひとをつけ」のなまり。

じない
〔地内〕境内。浅草観音境内に河竹黙阿弥が住んでいたときは、「地内の師匠」とよばれた。
しにがね
〔死金〕老人が自分の葬式費用にたくわえておく金をいう。効果のない金を浪費する場合にも死金をつかうという。
しのびがえし
〔忍返し〕東京下町風景の1つだった忍返しは、いまや二番目狂言の舞台面以外には見られなくなった。塀の上にとがった板や木(明治以後の鉄のは風情がない)を組み合わせて取り付けた設備。盗賊の入るのを防ぐためである。
しばや
〔芝居〕明治中頃までは、東京人はシバイと発音しなかった。そのころの畳をしいて飲食しながら観劇した劇場の内部は図のごとくで、上流の客は芝居茶屋から行き、茶屋へ一々食事に戻り、この料理が大へん美味。女客は、茶屋へ着替えの衣類を預けた。大衆的な人たちは出方(でかた、たッつけばかまをはいた男の案内人)からじかに入場した。みな午前中に早くはじまり、夕方に終った。ただし午前11時開演だと午後8時頃まで。のちに松竹経営となって一手に本家茶屋ができたが、それも廃止された。中流席の後方には松・竹・梅の区別もあり、また前船という席もあった。→「まえふね」
しばり
〔○○縛り〕金貸しの返却期限。四月(よつき)縛りといえば4カ月を切って貸す金。「二月(ふたつき)縛りで一割」とは期限2カ月、利息1割。
じひき
〔地弾き〕舞踊の伴奏者。地方(じかた)。
しぶいちごしらえ
〔四分一拵え〕銅にその重さの4分の1以上銀をまぜた、日本独自の合金で、朧銀(おぼろぎん)ともいい、暗い茶色の美しい金属。落語「錦明竹(きんめいちく)」中の「お道具七品」のいい立てにもでる。
じふく
〔地幅〕玄関先のタタキまたは土になっているところ。
じぶくる腹を立つこと。「いつまでじぶくれているんだ」
じぶくろ
〔地袋〕床脇にこしらえたちがい棚の下にある小さな袋戸棚(ふくろとだな)。
しぶとい
強情なこと。ガンコなこと。

じぶんてに
〔自分手に〕自分の手で。
じぶんどき
〔時分時〕食事をするのにちょうどいい時間。
「時分になったら御膳でも食べておいでなさい。」(三遊亭円朝「緑林門松竹(みどりのはやしかどのまつたけ)ーーまたかのお関」)

じぶんみがたつ
〔自分身が立つ〕自分ひとりのからだがたべて行かれる。
しべがたつ
〔蘂が立つ〕袋物(ふくろもの)の革に立っている皺の具合に味のあること。
しま
〔島〕洲崎の廓。一般の花柳界のことも「どのシマも忙しい」という風につかう。花柳界のある土地。
しまいしごと
〔仕舞仕事〕仕事の完成したことをいう。
しまかず
〔島数〕流罪になった数。
しまつかた
〔始末方〕始末。方法。→「かた」
しまつや
〔始末屋〕遊廓で勘定のできない客を引き受け、着物をはいだり、金算段のできそうな家までその家の若い者がついていって解決することを一切代行する店。
じまま
〔自儘〕自分の自由。
しみん
〔四民〕士農工商をいう。
しめし
〔戒示〕意見。いうこと。みせしめ。また「お前がしっかりしないとほかの人にしめしがつかない」という場合にもつかう。
じめんうち
〔地面内〕地所の内。地内(じない)。
しもがた
〔下方〕武士階級が町人の世界をさしてよぶことば。
しもよけのかざりなわ
〔霜除けの飾縄〕霜の害を防ぐため草木に藁(わら)や莚(むしろ)などをかこむが、雪による松の枝折れの予防には黒く染めた縄を張る。すなわち、その縄。
「蛇の目をひろげたように幾条もの縄が」と山本勝太郎「江戸趣味の話」にはある。→「しきまつば」

しもゆば
〔下湯場〕花魁が客とねたあと、洗滌する所。
しゃあつく
心臓の強いこと。ツラの皮のあついこと。しゃあつくばり。いけしゃあしゃあ。

じゃがぬまでへびをとるまでしっている
〔蛇が沼で蛇を捕るまで知っている〕自分のもっている財布の中の金額を暗記しているごとくよく知っているという意味。
「どうしたって蛇が沼で蛇を捕るまで知って居るのだ。すっかり種が上(あが)っているのだ。」(三遊亭円朝「松操美人生埋(まつのみさおびじんのいきうめ)」)

じゃがらっぽい
じゃけらっぽい。ジャガタラ(蘭領バタヴィアーー現インドネシア共和国の首府)唐人臭い、西洋臭いという意味。目につくような、派手な、ということになる。邪綺羅(じゃきら)っぽい。またジャガタラっぽいから変ったという説もある。真山青果は「西鶴語彙考証(さいかくごいこうしょう)第一の「好色一代女、一ノ一」で、「邪気乱(じゃけら)つのってたどり行かれし道は」という所をあげて、「着物の模様のぱッと目に立つをいう」と解釈し、さらに青果は、文政時代の方言集「浜荻(はまおぎ)」をも引き、作者の郷里仙台にもこの言葉はかなり近頃までのこっていたと書いている。
「へだての襖(ふすま)をあけて入った人の扮装(なり)はじゃがらっぽい縞の小袖にて、」(三遊亭円朝「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)」)

しゃぎり
〔砂切〕歌舞伎や寄席で、一つの番組が終ったときの後奏楽。それを奏するのを「シャぎる」という。
しゃく
〔癪〕烈しい胃けいれん。または胆嚢炎(たんのうえん)や、肝臓障害などの痛みをもいう。
しゃくきれ
〔尺切れ〕一尺切れくらいの小さい布。
しゃくざいかた
〔借財方〕借財。借金。→「かた」
しゃくとりおんな
〔酌取女〕酌婦。
「『姐さんここのおかみさんですか。』『酌とり女さ。白粉(おしろい)で面(つら)の皮が焼けてる阿婆摺(あばず)れさ。』」(長谷川伸「一本刀土俵入」取手宿安孫子屋の場)

しゃくばや
〔借馬屋〕馬を貸してのらせる店。その家の馬場の中でのる者と、馬を借りて市中をのり廻す者とあり。都内の火除地(ひよけち)に多くあった。→「ひよけち」
しゃぐま
〔赭熊〕赤く染めた白熊(はぐま)の毛に似た髪の毛やちぢれ毛で作った入れ毛をいう。遊女の髪に多い。「赭熊立兵庫」(しゃぐまたてひょうご)
しゃくる
そそのかす。
「どうしたんだ。何か人にしゃくられでもしたのか。」(三遊亭円朝「名人長二」)

じやしき
〔地屋敷〕地面と邸。
しゃじくをながす
〔車軸を流す〕大雨の形容。
じゃじゃちんちん
そのころは珍しかった時計の鳴る音。→「じてんしょう」。
「追々(おいおい)夜がふけてまゐりますと、地主の家の時計がじやじやちんちんと鳴るのは最早十二時でございます。」(三遊亭円朝「英国孝子之伝」)

じゃじゃばる
〔邪々張る〕出しゃばって邪魔をする。
しゃしんきょう
〔写真鏡〕箱の中をのぞくと正面に写真があり、それがレンズの仕掛で拡大されてみえる。
しゃっきんをしちにおいても
〔借金を質に置いても〕どんなひどい工面(くめん)をしても。
しゃっぴてえ
〔しゃっ額〕額(ひたい)を強めていう言葉。しやっつらともいった。
しゃっぷ
しゃっぽ(帽子のフランス語シャポウー
chapeauの日本読み)のなまり。
しゃにかまえる
〔斜に構える〕おつに気取る。おごそかに身構える。剣道で手にしている得物(えもの)をななめにかまえることにはじまる。「しゃに構えやがって、いやな野郎だ」
じゃのみちはへび
〔蛇の道は蛇〕蛇の通路は他の蛇がよく知っているごとく、同類のもののすることは同類のものが一ばんよく知っている。
しゃばっけ
〔婆婆っ気〕世間体を考え、体裁をつくる人。老いて野心のある人もいう。
しゃばっぷさぎ
〔娑婆っ塞ぎ〕いつまでも下らなく生きている人。しゃばッぷさげ。
しゃばりでる
〔しゃばり出る〕しゃしゃり出る。邪魔するように横合(よこあい)から出る。
しゃも
〔軍鶏〕肉食をいやがった余風で、明治中頃まで軍鶏は中流以下の食品、軍鶏屋はのちの馬肉屋級の存在であった。東両国には坊主しゃもが今日ものこっている。
じゃらくらイチャイチャすること。
しゃりき
〔車力〕大八車をひき、荷の運搬を業とする人。
しゃりむり
〔差理無理〕無理にの意を強めた場合。「遮二無二(しゃにむに)」のなまりか。
しゃれもん
〔洒落もん〕意気なやつ。
じゃんこ
〔菊石〕アバタのこと。
しゅ(う)
〔衆〕複数の表現よりもむしろ敬意をこめた使い方である方が多い。「芸者衆」「新造衆」「子ども衆」
じゅうあくにん
〔重悪人〕大悪人。
しゅうごくしょ
〔囚獄所〕刑務所。
じゅうそうのしのびがえし
〔銃槍の忍び返し〕軍隊で突撃用に銃の先へつける短剣の払い下げでこしらえた忍び返し。無風流な感じだった。→「しのびがえし」
じゅうにざかぐら
〔十二座神楽〕12の曲目があるお神楽。
じゆうのけん
〔自由の権〕自由にしていられる権利があること。自由権ともいった。
「好い着物を着ようと、どんな真似をしようと、私が自由の権で当り前です。」(三遊亭円朝「黄薔薇(こうしょうび)」)

しゅうは
〔秋波〕ながしめ。ウインクのこと。→「あきのなみ・はるのいろ」
じゅうばこよみ
〔重箱読み〕「じゅう(重)ばこ(箱)」のように上の字を音(おん、漢字本来のよみ方)で、下の字を訓(くん、漢字の日本語よみ)でよむよみ方。甲高(こうだか)、古渡(こわたり)、先殿(せんとの)など。合羽(かっぱ)読みともいう。「湯桶(ゆとう)読み」の対。
じゅうはちばん
〔十八番〕天保年度、7代目市川団十郎が市川家代々のヒット作品、「暫(しばらく)」「矢の根」以下18種あつめて、歌舞伎十八番と名づけた。以後、他の人の得意な芸も十八番という。
じゅうや
〔十夜〕陰暦105日から14日まで、浄土宗の寺院で、十昼十夜(じゅっちゅうじゅうや)の法会を行なう。
しゅくゆう
〔祝融〕火災。中国で火をつかさどる神の名が語源で、火事の意味。
しゅっせい
〔出精〕元気をだす。熱心にやる。
じゅっぽうはっぽう
〔十方八方〕諸所方々。
しゅでい
〔朱泥〕中国江蘇省宜興窯(ぎこうがま)に産する黒っぽい赤茶色の陶器。質が緻密で、石器のような質になるまで焼いたもの。多く急須(きゅうす)にもちい、愛知県常滑(とこなめ)、岡山県伊部(いんべ)、三重県四日市にも産する。
じゅはい
〔受杯〕杯をうけること。「受杯したまえ」
しゅふく
〔修復〕修理。修繕。こわれている所を直すこと。のちには「しゅうふく」という。
しゅみだん
〔須弥壇〕寺院の中堂にそなえ、仏像厨子(ずし)を安置する壇。もとは須弥山(しゅみせん)にかたどった。
「さっき来たが人目がある故、須弥壇の下に隠れてゐた。」(河竹黙阿弥「三人吉三廓初買」(さんにんきちさくるわのはつがい)巣鴨在吉祥院の場)

じゅみょうのばし
〔寿命延し〕長生きのできるようにたのしみをすること。→「しわのばし」
しゅようはんた
〔主用繁多〕御主人の用が忙しい。
しゅらば
〔修羅場〕講談の合戦のくだりをいう。江戸のなまりで、ヒラバ。張扇の拍子(ひょうし)おもしろく、美文沢山で戦場の光景、勇士のいでたち、名乗りなどを朗々と口演し、戦場の光景をアリアリと写しだす。空板(からいた、前座)の舌をほぐれさせ、地方出身者のなまりを直す基本となるが、同時に老練の真打がやればまた無限の興味がある。ゆえに講談の妙は修羅場にはじまって修羅場におわるといわれている。
しゅらをもやす
〔修羅を燃やす〕ヤキモチをやく。じりじりして怒る。修羅は仏教に説かれている神で、ねたみ、うらみ、うたがい、いかりの妄念。阿修羅。
しゅをうつ
〔朱を点つ〕相手のいうことを直す。
じゅんこう
〔順講〕一中節のみ、おさらいのことを、こうとなえる。
じゅんたつちょう
〔順達帳〕順次に送達する廻状。今日の回覧板。
じゅんようし
〔順養子〕長男がその家を相続できぬため、次男をくり上げし相続人にするのをいう。
しょう
〔妾〕めかけ。二号。
しょう
〔小〕小刀のこと。「大(だい、大刀)」に対する。
しょう
〔性〕品物・人物のたち。「この珊瑚の性はいいかしら」などいう。
しょう
〔生〕生きているよう。そっくりそのままのよう。「○○は××に似ていて生でみるようだ」
しょうえんじ
〔生臙脂〕中国渡来のクッキリと美しい紅色の染料(友禅、更紗染または絵の具用)で、綿に染めてかわかしたものを湯にひたし、その汁をしぼって使用する。
じょうかく
〔定格〕格式を正しく守ること。堅苦しいこと。
じょうがこわい
〔情が強い〕気が強い。感情が烈しい。転じて泪もろい。泣きすぎる。
しょうかん
〔傷寒〕烈しい熱病、今日のチブス。
しょうぎこじり
〔将棋鐺〕将棋の型をした刀の鞘の末端。
じょうきしゃ
〔蒸汽車〕汽車のこと。
じょうぎら
〔常綺羅〕いつもすばらしい着物をまとっていること。
「上(常)綺羅で光って居るのが流行(はや)るから、」(河竹黙阿弥「綴合於伝仮名書(とじあわせおでんのかながき)ーー高橋お伝」)

しょうごくがつ
〔正五九月〕正月・5月・9月のこと。今日も正月・5月・9月には、成田不動への参詣が多い。「成田山史」はこの事実に何ら意味付けた説明はしていないで、1年のうちで右の三月が一ばん参詣者の多いときであるとのみ記しているが、正月・5月・9月は忌むべき月で結婚などを禁じ、災厄を祓うために神仏へ詣ったのである。正月が忌むべき月とはまことに奇妙な話ではないか。
じょうさま
〔嬢様〕当時はお嬢さまでなく、嬢さまであった。「うちの嬢が」などという呼び方が落語「おせつ徳三郎」にはのこっている。→「おじょう」
しょうしけん
〔小試験〕臨時試験のこと。本試験のことは大試験(おおしけん)といった。
しょうじびょうぶ
〔障子屏風〕衝立(ついたて)障子のごとく、障子仕立の屏風。
じょうじゅう
〔常住〕しじゅう。ふだん。「常住坐臥、それを忘れない」
じょうじゅうぎのはれぎなし
〔常住着の晴着なし〕いつもいいキモノを着ているくせに、それに手入れをしないで常に汚したまま着ている人。
しょうじんもん
〔精進もん〕魚肉以外の料理。「もん」は「もの」。
しょうつう
〔小通〕小便のこと。
しょうでん
〔聖天〕庄伝ともかく。祭礼囃子の名称。宮庄伝(みやしょうでん)なる囃子も、他にある。
しょうどう
〔正道〕正直。行いの正しい。「正道の者であると榊原様おかかえになり、後には立派な棟梁に、」(三遊亭円朝「敵討札所霊験(かたきうちふだしょのれいけん)」)
しょうどがない
〔生度がない〕生度は生きている程度。生きているか死んでいるか分からないの意味。
「やいわれのやうな生度のねえ畜生はねえなア。」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)

しょうとく
〔生得〕生れながら。
しょうねだま
〔生根玉〕量見。性質。
しょうばいて
〔商売手〕本職。専門家。
じょうふだん
〔常不断〕常日頃(つねひごろ)。常に絶えず。
しょうぶつ
〔正物〕ほんもの。
しょうへい
〔正平〕染料の一種。正平染。
しょうへいがわ
〔正平革〕唐草(からくさ)、獅子、牡丹などの模様と正平661日の文字を柿色地(かきいろじ)に白く染出したなめし皮で、後年はその染め方を応用して、衣服の定紋など速製した。
しょうへいぞめ
〔正平染〕正平革の模様の染め方。
しょうほう
〔商法〕商売。「商法にならない」。幕臣の奉還金(ほうかんきん)で不馴れの商いをして
失敗するものを士族の商法といった。落語「素人鰻(しろとうなぎ)」は士族の商法をえがいた名作。「商法事」は商用、「商法師」はすばやい商売をする人、「商法仲間」は商売なかま、同業者。「商法向き」は商売上。
しょうほうねこ
〔娼法猫〕娼妓(しょうぎ)のようにだれとでも客とねる芸者。みずてん。二枚鑑札。商売を商法といったので、娼と商とをしゃれていった。
じょうまわり
〔定廻り〕八丁堀の同心で専門に市中を見廻っている者。岡っ引同道のときと単独のときとあった。
「お前の悪事が露顕して定廻りへ御下知になり、」(河竹黙阿弥「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)ーー河内山と直侍」入谷村蕎麦屋の場)

しょうみょう
〔称名〕仏の名号(みょうごう)をとなえること。転じて南無阿弥陀仏をとなえる場合にも俗間では称名といった。念仏称名。
しょうめいのうぶげ
〔蟭螟の産毛〕蚊のまつ毛へ巣をくう虫。
「蟭螟の産毛ほどもこめられて(やりこめられて)なるものか。」(仮名垣魯文「西洋道中膝栗毛」)

しようもよう
〔仕様模様〕方法。やり方。「仕様模様もあったろうに」と、ことばを重ねて意を強める場合につかった。
じょうもんく
〔定文句〕きまり文句。→「きまり」
しょうもんにさせる
〔証文にさせる〕遊客が勘定に困ったとき、証文をかいて金は一時そのままにすること。
しょうろ
〔正路〕正しい行状。正常ルート。
「何を隠さう、これまでに遣った金は百でも、正路な金はありやアしねえ。」(河竹黙阿弥「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)ーー河内山と直侍」入谷村大口寮の場)

じょうをさす
〔丈をさす〕長さを計らせること。
じょうをたてる
〔情を立てる〕真心(まごころ)を示す。
しょかい
〔初会〕はじめてある遊女を買ったときをいう。そのときに遊女が客に惚れるのを「初会惚(ぼ)れ」という。「初買惚れしてわしゃはずかしと、ウラ(再会)に来るやら来ないやら」と篠田実の浪曲「紺屋
高尾」にある。→「うら」
しょき
〔書記〕遊女屋の書記は遊女屋の事務をとり、遊女のてがみの代筆もした。
しょくかた
〔職方〕職人。→「かた」
しょくだい
〔食台〕テーブル。
しょぐり
放尿のこと(多く幼児の)。ひょぐりともいう。→「しっちょぐる」

しょけん
〔初見〕初見参。初対面。
じょさい
〔如才〕ぬかり。ておち。「如才ない人」といえば万事によく気のつく、察しのいい人の意となる。また「あなたのことだから、そこは御如才はございますまいが」などと念を押すのに使う。
しょしき
〔諸式〕諸物価。また、日用品。「かう諸式が高くっちゃあ、うっかり嫁にもいけねえのさ。」(小山内薫「息子」)
しょせいばおり
〔書生羽織〕普通より丈長(たけなが)の羽織。
しょちふり
〔処置振り〕態度。進退挙措。
しょて
〔初手〕はじめ。
「断られても為方(しかた)がないが、ナゼ初手から云うては呉れぬ。」(河竹新七「籠釣瓶花街酔醍(かごつるべさとのえいざめ)」八ツ橋部屋の場)

しょてっぺん
〔初天辺〕一ばん最初。一ばんいいことをもいう。すてッぺん。
しょにん
〔諸人〕多くの人々。
しょにん
意地悪。不愛想。
「『湯から上(あが)ったらの、あのの貝々打(けえけえぶち)をしねえか』『おいら否(いや)』『しょにんな子(がき)だなア。そんなら今度(こんどっ)から、おめえたア遊(あす)ばねエ』」(式亭三馬「浮世風呂」)

しょぼくたない
しょぼしょぼした。よぼよぼした。老衰した。

しょむずかしい
七面倒臭い。小むずかしい。

じょろうこども
〔女郎子供〕遊女の世間見ずであるところからいう。類語「役者子供」
じょろうのせんまいぎしょう
〔女郎の千枚起請〕遊女が起請を1000枚もかく。真実のないことをいう。「女郎の誠と卵の四角、あれば晦日(みそか)に月が出る」の唄があった。→「きしょうもん」
しらをきる
〔しらを切る〕知らないような顔をする。
しらたまじり
〔白質まじり〕杉材の白い部分がまじっているもの。
しらち
〔為埒〕ハッキリした結果。してらちをあけること。処置。始末。「しらちをつける」
しらっこ
〔白っ子〕全身の皮膚の色素が足りないため、皮膚が純白で、髪も白色または黄白色、多くはからだが弱くて若死するものが多い。
しらはり
〔白張〕提灯・傘に字も紋もかいてないもの。
「覚えはねえと白張のシラを切ったるからかさで、」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)ーー髪結新三」永代橋の場)

しらみひも
〔虱紐〕昔は衛生のためノミやシラミの発生しないような薬を入れた細紐を発売していた。
しらりっと
〔白りっと〕カラリと。夜明けの形容。
しりくらいかんのん
〔尻喰い観音〕尻に帆をかけて逃げてしまうこと。アトはどうでもなれと逃げること。
「自己(おのれ)は尻くらい観音にて何処(どこ)をぶらつきゐるやらん。」(仮名垣魯文「西洋道中膝栗毛」)

しりつき
〔尻突〕第三者がしゃべって(悪事を)しらせること。
「『聞込んであることがあるから、一調(ひとしら)べ調べてやらう。』『それぢゃア尻突がありますか。』」(河竹黙阿弥「霜夜鐘十字辻筮(しもよのかねじゅうじのつじうら)」

しりにめぐすり
〔尻に目薬〕何のききめもないこと。見当ちがいのこと。
しりもみやもこず
〔臀も宮も来ず〕苦情も来ず。
しるこぼし
〔汁翻し〕高瀬舟へ屋根を付けたような形の船。遊覧用の船の一つ。
しるし
〔効〕甲斐。験。効果。ききめ。
「一日逢はねば千日の、思ひにわたしゃ患(わずろ)うて、針や薬の効さへ、泣きの泪に紙濡らし」(清元「忍逢春雪解(しのびあうはるのゆきどけ)ーー三千歳)」

じれつく
じれて腹を立てる。

しろうま
〔白馬〕どぶろくのことを、白馬と呼んだ。大正中頃になくなった盲の落語家柳家小せんの落語集にも白馬の語があり、下谷の佐竹に専門店があり、神楽坂では戦前まで市販していた。
しろおに
〔白鬼〕酌婦。淫売。今日ではパンパン、それも青線にあたろう。白鬼がのちに白首(しろくび)と変った。白粉をつけた鬼という意味。
「誰れ白鬼とは名をつけし、」(樋口一葉「にごりえ」)

しろこくら
〔白小倉〕白の小倉織(木綿糸を織り合わせた博多織の類似品)。
しろねずみ
〔白鼠〕忠実な番頭。転じて「あの白鼠はただの鼠ではない」などともいう。
しろむくでっか
〔白無垢鉄火〕表面は上品に見せていて、じつは破戸漢(ごろつき)。しろむくてっか。
しわのばし
〔皺伸し〕老人の気晴らしの意。
「たまだから皺伸しでもしておいでよ。」(三遊亭円朝「緑林門松竹(みどりのはやしかどのまつたけ)ーーまたかのお関」)

しん
〔真〕真実。まじめ。
じんあい
〔人愛〕人に好まれる愛嬌。
しんうち
〔真打ち〕講談・落語の中堅以上で、その晩の最後に力演する人。最後に出演するを、真をうつという。真剣にその興行をうつという意味。今日は主任という。→「とり」
しんかい
〔新開〕新しくひらけた町。新開地。
「誰しも新開へ這入(はい)るほどの者で菊の井のお力を知らぬはあるまじ。」(樋口一葉「にごりえ」)

しんかぞく
〔新華族〕大名や公卿(くげ)でなく、単なる武士だったものが、明治維新の勲功で華族になった、その人々をいう。
しんがん
〔心願〕今日は、単に願(がん)という。心に念じた願の意味で、円朝作の禅味ある落語にも盲人の煩悩をテーマとした「心願」があり、初代円左、三世円馬を経て、当代桂文楽の専売となっている。
じんく
〔甚句〕七七七五の歌詞の派手な唄で、角力甚句、品川甚句、日露戦争記念のラッパ甚句は俗曲で、名古屋甚句、米山甚句は民謡からでて都会化した。甚九と昔はかいた。
しんけいびょう
〔神経病〕神経衰弱。ノイローゼ。明治の文明開化時代、幽霊はないという言論が一世を風靡し、すべて神経病(強度の神経衰弱)のゆえであるとした。河竹黙阿弥「木間星箱根鹿笛(このまのほしはこねのしかぶえ)」は神経病がテーマであり、三遊亭円朝「真景累ケ淵(しんけいかきねがふち)」の真景は神経をきかせたもの。
しんこ
〔新子〕新しくでた遊女や私娼をいう。→「こども」
しんざん(もの)
〔新参もの〕きのうきょう来た奉公人。「古参」の対。
しんしょうはたく
〔身上はたく〕のこらず持っている金をつかってしまうこと。
じんじんばしょり
〔じんじん端折〕背縫(せぬい)の裾(すそ)から78寸上をつまんで、帯の結び目へはしょり込むこと。
じんすけ
〔腎助〕多淫な人。やきもちやき。「あいつがじんすけを起している」というと、後者にあたる。
しんせいこう
〔真誠講〕今日の交通公社に似たもので、諸国の旅館とタイアップして道中の便宜をはかる。宿の前には指定旅館である看板がでており、他に浪花講とか一心講とか、いろいろあった。
しんぞ
→「しんぞう」

しんぞう
〔新造〕若い女の総称。20歳前後の嫁入り前をいうこともあれば、新妻をさすこともある。→「としま」。
「お前もいい新造になったねえ」といえば前者、「あすこへいくなあ、娘(処女)か新造か」「どこの新造だ」といえば後者。吉原ではお職女郎(スター級の遊女)につき従って働く遊女をいう。昔は番頭新造、振袖新造などの別があり、それぞれ番新、振新と略称もあった。

しんぞうおち
〔新造落〕遊女が売れなくなり、引き取る客もなく、おばさん(遊女の世話をする女)に転落すること。
しんそこ
〔心底〕ほんとうに。
しんぞしゅう
〔新造衆〕→「しゅ(う)」。「しんぞし」とも発音する。
しんだいかぎり
〔身代限〕破産。
しんたか
〔新高〕新高土間の略。高土間の前列にある席。→「たかどま」「しばや」
しんち
〔新知〕新しくもらえる知行(ちぎょう、禄)。
しんちゅうまき
〔真鍮巻〕仲間(ちゅうげん)の差す真鍮胴輪(どうわ)の木刀から転じて、仲間。→「かん
ばん」
しんてい
〔心底〕量見。本心。胸底。本心がわかったとき「心底見えた」といった。
しんにゅうをかける
〔辵をかける〕一般の場合以上にひどいこと。「あいつにしんにゅうをかけていらあ」
しんぱつ
〔進発〕でかけること。ゆこうゆこうということを「サー進発進発」。
しんばのちょうちん
〔新場の提灯〕日本橋本材木町(江戸橋の南)の魚河岸から、浅草観世音へ奉納した大提灯のこと。
しんびょう
〔神妙〕今日は、神妙(しんみょう)と発音する。
「まづ今日は何事も、言はぬが花の花道をお下りなすつて神妙に、御見物をなさいまし。」(河竹黙阿弥「極付幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべい)」村山座舞台喧嘩の場)

しんぷく
〔心腹〕心と腹。量見。胸中。
しんぼうにん
〔辛抱人〕あきず怠けずに働く人間。また、道楽をやめ、改心して働く人間をもいう。
しんみち
〔新道〕露地(ろじ)のこと。町中の裏のしずかな横丁。
「表通りに門戸(もんこ)を張ることの出来ぬ平民は大道と大道との間に自(おのずか)ら彼等の棲息(せいそく)に適した露地を作ったのだ。(中略)夏の夕は格子戸の外に裸体で涼む自由があり、冬の夜は置炬燵に隣家の三味線を聞く面白さがある。新聞買はずとも世間の噂は金棒引(かなぼうひき)の女房によって仔細(しさい)に伝へられ、喘息持(ぜんそくもち)の隠居が咳嗽(せき)は頼まざるに夜通し泥棒の用心となる。かくの如く露地は一種云ひがたき生活の悲哀の中(うち)に自(おのずか)ら又深刻なる滑稽の情趣を伴(ともな)はせた小説的世界である。」とある永井荷風の「日和(ひより)下駄」がよく意をつくしている。
「何処ぞ近所の新道へ小粋な家を拵(こしら)へて、こっそり囲っておく心。」(河竹黙阿弥「綴合於伝仮名書(とじあわせおでんのかながき)ーー高橋お伝」)

じんみらい
〔尽未来〕未来のそのまた未来。
じんみんほご
〔人民保護〕よんで字のごとく、人民の安全を保障するという意味だが、明治初年には「人民保護の警官が」とよくいった。
しんもって
〔真以て〕ほんとうに。心から。
しんわら
〔新藁〕稲の新しいのへ熱湯をかけ、かわかした浅黄いろのを、そのころの女は髪のかざりにかけた。植えつけられるほどの稲がよいそうで、明治の東京下町の夏の風物詩として、これを売りに来る小商人(こあきんど)があった。
「七月五日。朝、雨のざあざあ降る中を、女の子が、『新藁あ新藁あ。』と売って歩く声が、何となく悲しい。」(小山内薫「瓦町にて」)
ずいいち
〔随一〕一ばん。
すいくち
〔吸口〕煙管の、ロをあてがってすうところ。
すいこみ
〔吸込〕遊びにゆく気のないものを、金のない男が巧くおだて、だましてつれて行くこと。
すいする
〔推する〕推量する。察しる。遊女が情人との苦労を朋輩にうちあけて「推してくんなまし」などという。
ずいそう
〔瑞相〕めでたいきざし。神々しい人相。
すいづつ
〔吸筒〕瓢箪(ひょうたん)。酒や水をいれて持ち歩いたからいう。今日の水筒の役目をした。
ずいと
つと。ずかと。「のれんをはねてずいと入る」

ずいとくじ
〔随徳寺〕ズイと逃げ出すこと。「随徳寺をきめよう」。落語の「山号寺号(さんごうじごう)」に「一日山(一目散)随徳寺」というしゃれがある。
すいばれ
〔水晴れ〕雨天。寄席用語。涙を出すことを眼水(がんすい)ばらしという。
すいもんぐち
〔水門口〕樋(ひ)の口。鶴屋南北「東海道四谷怪談」隠亡堀(おんぼうぼり)の場の幕切れに、佐藤与茂七が非人の姿で出てくる所がそれである。
すいれんば
〔水練場〕水泳のけいこ場。大正の初期まで両国大川端には夏期に何々流水練場とあった。
ずうにょう
図う体(ずうたい)。身体。
「手前はづうねうが大きいから我慢してもぐり出しゃア後のものが楽に出られらア。」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)

すえ
取るに足りないもの。つまらぬもの。「宅(うち)のお父さんが鍛(う)っておいたお誂(あつら)へのすえが一挺(いっちょう)残ってあるんですが。」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)

すえつかた
〔下院〕下旬。「時は八月末つ方」と日露戦争の軍歌「橘中佐」にある。
すがたみ
〔姿見〕鏡。
すがも
〔巣鴨〕狂人のこと。あいつは巣鴨だとか、巣鴨行だとか、いった。今日の世田谷区松沢の精神病院が、豊島区巣鴨にあったからである。なおここには幾十年にわたって芦原金次郎という職人が入院しており、芦原将軍とよばれて大将軍を気取りつづけ、日華事変のころその一代は映画化までされて亡くなった。
ずから
接尾語で、「によって」「をもって」などの意味をあらわす。わざわざ自分の手でを「手ずから」、隣人のよしみをもって、隣同士なのでを「隣ずから」、自分の心からを「心ずから」という。自分から、わざわざ、手を下しての意味の「みずから」もこれであろう。

すがれる
〔梢枯れる〕ほんのいささか老(ふ)けかける。
すかんぴん
〔素寒貧〕一文なし。貧乏。
ずきがまわる
身辺が(犯罪者の)危険になる。ずきは、庇(きず)を逆さにしたもので、手負(ておい)の者から、手が廻ったという意味になった。

すきみ
切身。すきみというと鮪(まぐろ)が多く、落語「雑俳(ざっぱい)」の地口(じぐち)には「禿(かむろ)の月見、まぐろのすきみ」のしゃれがあった。

すぐち
〔燧口〕小さい銃の口。
すくなずくな
〔少々〕少なくとも。「すくなずくなも○○円ぐらいはあろう」
すこあま
少し足りない人。「あいつはスコアマだから」

すこうべ
〔素頭〕素っ首(そっくび)。首とただ単にいう場合よりも、やや強い意味になる。
すごす
〔過す〕生活する。生きてゆく。
すこぶるつき
〔頗るつき〕大へんに。途方もなく。超(ウルトラ)の意味。「頗るつきの別嬪(べっぴん)だよ」
すごろく
〔双六〕古代のは盤(ばん)双六といって、盤の上に左右に5本の罫(けい)を引き左方右方に各々黒白の石を6個ずつ2段に並べるゆえ双六というのであるが、賽を振ってその目により例えば三一ならば自分の陣地の3列目の石1個と1列目の石一1個とを取る。六三ならば6列目と3列目の石各1個を取る。自分の石を取りつくしたら相手の石を取り盤面の石が無くなった時数多く取ったものを勝ちとする。
歌舞伎の「玉藻前曦袂」(たまものまえあさひのたもと)三段目の道春館(やかた)で使用する双六で、のちに双六の盤の代りに官位(かんい)をかいたり、五十三次の宿場をかいたりした絵双六(官位双六、道中双六)が発達、今日に至った。子供の新春の遊戯で、道中双六は江戸の日本橋を振出して上り(終点)の京まで、賽の目の数につれて進み、早く着いた方が勝ち。途中、大井川とか箱根とかに「泊」(とまり)があって、ここへ入ると
1回休むといったようなスリルがあった。
近松門左衛門「待夜小室節(まつよのこむろぶし)」およびその改作「恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな)ーー重の井子別れ」に見ることができる。

すさ
〔苆〕壁土にまじえてひびを防ぐツナギ。普通の荒壁にはきぎんだ藁(わら)、上塗にはきざんだ麻、または紙を海草を煮た汁にまぜてつかう壁すさ。壁つたともいう。
すじ
〔筋〕理屈。また筋道の略にもつかう。方向。「あいつはすぐスジをいう」。女とあいに行くのをからかって、「おたのしみすじなんだよ」。→「おつかれすじ」
すじがねいりのはちまき
〔筋金入りの鉢巻〕金属でできた筋がぬいこまれている鉢巻。斬り込まれたときの用心である。
すじっぽい
〔筋っぽい〕理屈っぽい。
すじっぽねがぬける
〔筋骨が抜ける〕筋と骨とを抜かれたように気力なく疲れはてる。
すじぼり
〔筋彫〕輪画だけで彩色のされていない文身(いれずみ)。痛くて中止したために、筋彫だけになった人もあり、気がきかない、だらしがないといわれた。
すじをだす
〔筋を出す〕額(ひたい)へ青筋を立てる。
すすきだたみ
〔芒畳〕芒の一めんに茂っているところ。
すすはき
〔煤掃〕江戸時代には、1213日、一斉に煤掃(煤はらいーー大掃除)をやった。「手の甲で餅を受取る十三日」の古川柳があり、赤穂義士の大高源吾が売る竹も、煤掃用の竹である。明治期にも春秋の大掃除以外に12月に行ったが、初旬から年末にかけて各戸別々にやった。広津柳浪(ひろつりゅうろう)「今戸心中」は、吉原の遊廓の煤掃と終了後の酒宴の光景をえがいて余さない。
すそさばき
〔裾捌き〕立居振舞。
すたりもの
〔廃り物〕通用しないもの。流行おくれ。時代にズレているもの。処女が姦された場合にもいう。
すっとこかぶり
〔すっとこ冠り〕手拭をひろげたままスッポリ頭を包み、顔面は出し、顎(あご)でその手拭を結ぶ滑稽な冠り方。馬鹿囃子のひょっとこなどが冠るやけな冠り方。ひょっとこかぶり。
すっぱいうちまく
〔酸っぱい内幕〕情ない苦しい生活の秘密。
すっぱいこと
〔酸っぱいこと〕やましいこと。
すっぱぬき
〔スッパ抜〕侍が往来で抜刀して暴れるのをいう。後には暴露することにもいう。「スッパ抜き記事だ」
すっぱり
そっくり。

すっぽりめし
〔すっぽり飯〕湯茶をかけずに食べる飯。お茶なしで喰うめし。
「『茶も何もありゃしねえ。六里の間家もねえから。』(略)『ひどいねえ、すっぽり飯を食ふのだ。』と小言をいひながら弁当をつかって、」(三遊亭円朝「塩原多助一代記」)

すてがね
〔捨鐘〕時の鐘をつくときは、その時間より3つ多くつき、それを捨鐘といった。
すてごきょうじょう
〔捨子兇状〕捨子をする罪。
すてっぺん
〔素天辺〕一ばん最初。大正時代の川柳に「薩摩琵琶すてっぺんから目をつむり」。この上ない、絶頂という意味にもつかわれる。→「しょてっぺん」
すててこ
ナンセンス舞踊。吉原の幇間(たいこもち)の民中(みんちゅう)が乞食の踊りからおもいつき、初代三遊亭円遊(厳格には
3代目)に教えた。円遊は自分の大きな鼻をなでたり、脛(すね)をたたいたりして一流のものにして踊り、人気をとった。今日もこの踊にはいたので、ズボン下をステテコという。
「向う横丁のお稲荷さんへ、ざっとおがんで渋茶をのんで
……」が原歌である。
すてふだ
〔捨札〕罪人を死刑にするとき、氏名年齢罪状を記して街道に立て、刑を執行した後もかかげておいた高札。
「松の六分板を横にし垂木(たるき)にて足を附し名前罪状を犯せしものを持行き之は梟首(さらしくび)の場へ建置くものなり。」(高砂屋浦舟「江戸の夕栄」)

ずぬけ
〔図抜け〕大へん。とんでもなく。特大を図抜け大(おお)一番などという。落語「附き馬」にも使われる。
すばく
〔寸白〕婦人の下腹の痛む病。すばこ。
すぶた

〔簀蓋〕人力車の腰掛の部分になっている簀の子製の蓋。取りはずしができた。
ずべらしまりのないこと。
すまたをくわせる
〔素股を喰わせる〕スカをくわせる、ウラをかいてやる、意表にでてやるの意味。「すまた」は膣を使わない性交のことで、遊女などが嫌な客に対しておこなったりすることから、ごまかしたり期待をはずしたりすることにいう。
すみいろ
〔墨色〕筆蹟の墨色によってその人の吉凶をうらなうこと。墨色判断。
すめんすこて
〔素面素小手〕剣道に面小手をつけないこと。
すもうじんく
〔角力甚句〕江戸末期から明治時代を通じて歌われた流行歌。元来は越後地方の盆踊歌であったが、力士が土俵で余興に歌い、以来、一般の流行を見た。代表歌に「櫓太鼓にふと目をさまし、あすはどの手で投げてやろ」がある。→「じんく」
すもどし
〔素戻し〕何にももてなさないで来た人をかえすこと。
スモル
small〕少女。「横浜市史稿」風俗篇(横浜市役所版)の「横浜言葉の資料」に、「小さきもの、すもる」とあり、立川談志が明治20年代のナンセンス舞踊「郭巨(かっきょ)の釜掘り」にも「座蒲団かかへてスモルに見立てて」とある。スモルは横浜からの伝来の流行新語としていい。
ずや
「故売屋(けいずや)」の略。→「けいずや」

ずらかす
〔退かす〕ずらせる。ずらす。ずらかる。ーー逃げるにもいう。
すりあし
〔摺足〕足をするようにして、畳ざわりしずかに歩む能狂言の人物の登場につかう歩き方。
すりこかす
〔剃こかす〕剃り落す。
すりこわす
〔摺りこわす〕すりむく。
すりそこなう
〔摺り損う〕胡麻(おせじ)を摺りそこなう。「しまった。すりそこなった」などという。→「ごま」
すりつけぎ
〔擦附木〕マッチ。はやつけぎ。
すりびうち
〔摺火打〕火打ち石のとがった角を火打ち鎌と打って火をださせる道具。
すれすれ
仲が悪くなること。

すわけ
〔分配〕それぞれに分けること。
ずんずら
みじかい太く短い。

すんど
人力車夫が夏だけ着る白い法被(はっぴ)上着。

すんぽう
〔寸法〕具合。「いい寸法になりました」
せいしごえ
〔制し声〕大名の行列に際し一般通行人に注意をあたえる掛声。「下にいろ下にいろ」「下にィ下に」など。
せいぞうば
〔製造場〕工場のこと。
「夜のことなれば製造場も見えず橋場今戸の人家鐘ケ淵小松川の樹影(じゅえい)唯(ただ)蒼茫(そうぼう)として月光にかすみ渡りたる河上の光景。」(永井荷風「大窪だより」)

せいふとう
〔情婦湯〕清心丹と共に中央区日本橋元大阪町(八重洲口の東)高木与兵衛が発売した血の道(婦人病)の薬。
せいようい
〔西洋医〕漢方医に対して、いう。
せいようかざり
〔西洋飾り〕祝祭日につくるアーチなど。
「山轢(だし)や踊り屋台、又大通りの西洋飾り、」(河竹黙阿弥「朝日影三組杯觴」(あさひかげみつぐみのさかづき))

せいようげんぷく
〔西洋元服〕眉もそらず鉄漿(おはぐろ)も付けず大丸髷にゆうこと。→「はんげんぷく」
せいようしょうほう
〔西洋商法〕親兄弟でも利害はハッキリとしている商取引。→「しょうほう」
せいようづくり
〔西洋造〕西洋館。洋館。
せいようどこ
〔西洋床〕斬髪専門の床屋。今日の理髪店。ちょんまげをゆう髪結床(かみゆいどこ)に対していった。
「明治二年に銀座四丁目東仲通りの中央の処に開業せる松村庄太郎の床なり、庄太郎は、横浜の西洋人に斬髪法を習い来りて開店せしものにて当時第一着に来りて断髪せしは、鳶頭の亀と市と笊勝(ざるかつ)なりとの説あり。」(石井研堂「明治事物起原」)

せいようばな
〔西洋花〕ダリヤ、コスモス、サルビア、ベコニア、グラジオラスその他、今日ではありふれた西洋種の花をも、そういっていた。
せいようひばち
〔西洋火鉢〕ストーヴ。
せきぞろ
〔節季候〕年末、忙しい町々へやかましく三味線をひいて口早に歌って金をもらい歩く女。特殊部落の出身が多かった。
せきてい
〔席亭〕寄席の亭主の略。寄席のことを、席亭というのはまちがっている。ただ「席」というと、関西では寄席のことになるが、今日では東京でも席といい、逆に関西で寄席というようになっている。
せきのやま
〔関の山〕せいぜい。せめてもの絶頂という意味。やっとこさ。「あすこへ行く位が関の山だ」
せぎょう
〔施行〕僧侶貧民などにものをやって功徳(くどく)をすること。布施の行(ぎょう)。
ぜげん
〔女衒〕遊女専門の紹介、あっせん人。例外はあったが、概して口先が達者で相手の弱身につけこみ、不当な安値で身売りを強行したり、契約金のさやを抜いたりした非人道的な人間がほとんどであった。
「今世に人の口入するを『けいあん』といひ、遊女の口入するを『ぜげん』といひ、これらのことを媒するをすべて肝煎と云。」(山崎美成「世事百談」)

せけんしなれない
〔世間師馴れない〕世わたりになれていない。世なれない。
せっき
〔節季〕歳末。年がおしつまったことをいう。「怠け者の節季働き」
せっくせん
〔節句銭〕1年に5回あったいわゆる五節句(正月7日=人日(じんじつ)、33日=上巳(じょうし)、55日=端午(たんご)、77日=七夕、99日=重陽(ちょうよう))に長屋中がつきあいにだす銭。
せっくまえ
〔節句前〕五節句の前、遊女は節句のたびに美しい衣裳をこしらえたり、つかっている人たちへ祝儀をやったり、金がかかり、いい客のないものは鞍替(くらがえ、さらに借金して他の廓へ行く)したり、自殺したりした。
ぜっけ
〔絶家〕家名が絶えること。断絶。
せつせつ
〔節々〕ちょいちょい。「節々うかがいますから」
せった
〔雪駄〕近時すたれたが、千利休の創案とされ、竹の皮の草履(ぞうり)の裏に牛皮を張り、多く後部の裏に金物が打ってある。
明治
30年代の俗曲さのさ節には「それだから、僕が注告(ちゅうこく)したではないか、芸者の誠と雪駄の裏の皮、金のある内アちゃらちゃらと金がなくなりや切れたがる」。
せっちんのじょうまえ
〔雪隠の錠前〕昔はノックで答えないで、便所へ入っている人が「エヘン」と咳(せき)をした、それをいう。
せっぱつまりになる
〔切羽詰りに成る〕ギリギリのところに追いつめられた心持ちになる。そののちの時代の人々は、「切羽詰る」といった。
ぜっぴ
〔是非〕ぜひ。通人のことば。
せびら
〔背びら〕背中。そびら。
「デップリ肥って居る身体を、肩口から背びらへ掛けて斬付ける。」(三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」)

せみおもて
〔蟬表〕下駄の籐表(とうおもて)で、蟬の羽に似ているゆえにいう。
せりごふく
〔糶呉服〕諸家へ店員をつかわし、品物を販売している呉服店。
せわりばおり
〔背割羽織〕背縫(せぬい)の中央以下を裂けたようにしたもの。乗馬、旅行用に便利。ぶっさきばおり。
せんおくさま
〔先奥様〕前の奥様ーー現在の夫人の母で故人になったをいう。「先殿様(せんとのさま)」の対としてよかろう。
せんがじまいり
〔千ケ寺詣り〕方々の寺を詣って歩く一種の乞食。
せんきすじ
〔疝気筋〕「他人の疝気を頭痛に病む」のたとえから、まちがった方面を気にすること。
せんこくしょうち
〔先刻承知〕いわないでもよく分かっていること。衆知(しゅうち)のこと。
せんころ
〔先頃〕先ごろ。いつぞや。
せんざいもの
〔前栽物〕野菜。前栽は庭さき。
せんじゅかんのん
〔千手観音〕虱(しらみ)のこと。観音さま。
せんしゅじん
〔先主人〕昔の主人。
ぜんぜん
〔前々〕以前。かって。ズッと前に。
せんぜんの
〔先前の〕かっての。昔の。
せんたくばなし
〔洗濯話〕同じ話を何べんもすること。
せんだんまき
〔千段巻〕槍の柄(え)の刃と接する部分を麻苧で巻いてある、そこをいう。
せんとう
〔煎湯〕茶湯(ちゃとう)に同じく、茶を煎じた湯。牢内で囚人が飲むのであるが、ツル(金)さえあれば鰻飯すら食べ得たのだから煎茶などは容易に入手できたろう。→「つる」
せんばい
三杯酢(さんばいず)の江戸なまり。また、塩物の魚を汁で煮だしたのを船場煮(せんばに)ともいい、古川柳に「から鮭をせんば煮にする照手姫(てるてひめ)」。
「お前が鮭のせんばいでお酒を飲みてえものだといふから、」(三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」)

ぜんび
〔全尾〕結末。完結。
せんぴ
〔先非〕昔の悪事。昔のよからぬおこない。「先非を悔いています」
ぜんぴょう
〔前表〕前(まえ)じらせ。前兆。
せんべいにかなづち
〔煎餅に金槌〕何の苦もなくこわされること。楽にモノを解決することを、「鬼が煎餅を噛むようだ」といった。
そうごうか
〔総後架〕裏長屋にあった共同便所。三びき立ちの総後架というと、大便所が3戸ならんだ共同便所ということになる。落語「へっつい幽霊」の熊五郎が道具屋の裏手の総後架で用便中、道具屋夫婦のひそひそ話を聞いて運をつかむ。もって総後架の長屋における位置が察しられよう。→「こうか」
そうざい
〔惣菜〕家庭でつくるありあわせの料理。惣菜屋はそれにひとしい簡単な食品を売る店。惣菜料理屋という軽い食事をさせる店もあった。「ほんのお惣菜ですが召し上がって下さい」
ぞうさく
〔造作〕顔立ち。目鼻立ち。建築用語の転用。
そうししばい
〔壮士芝居〕明治20年度の保安条例で、東京から3里以外の地へ追われた政治家のひとりに中江兆民があり大阪へ下ったとき、政府へ対する反抗を自分たちで劇にして自作自演しようと、大阪市新町の高島座で、兆民を顧問として須藤定憲(さだのり、世間ではていけんとよんだ)一座が旗上げをした。女形が裾(すそ)をまくって舞台から政府攻撃をしたり、殺伐な立廻りをやって評判になった。つづいて川上音二郎一座が起り、山口定雄の一派が出来、これを壮士芝居といったが、のちに書生芝居、また新派劇と改められた。
そうじまい
〔総仕舞〕その店のものをのこらず買ってやること。「ないが意見の総じまい」などという。
そうじや
〔掃除屋〕下肥(しもごえ)の汲取人。汲取屋。おわいやに同じ。
そうじゅうろうずきん
〔宗十郎頭巾〕黒縮緬(ちりめん)の袷仕立(あわせじたて)で四角な筒の形をし、額(ひたい)、頬、顎(あご)を包む。寛永のころ俳優沢村宗十郎がはじめてつかったので、この名がある。
そうする
〔相する〕人相を見る。
そうせき
〔送籍〕戸籍謄本。
そうはい
〔壮俳〕壮士俳優の略。できはじめたころの新派俳優。→「そうししばい」
そうばおり
〔総羽織〕関係者全部へ羽織を新調してやる。「総花」の「総」に同じ。→「しきせ」
そうはつ
〔総髪〕額の月代(さかやき)をそらず、全体の髪をのばし、束ねてゆったもの。茶筌髪(ちゃせんがみ)の遺風といい、若年の茶坊主、医師、山伏がゆった。おなじみのところでは由比正雪、天一坊らの髪。
そうばな
〔総花〕花柳界で全員にやるチップ。
そうもんぐち
〔総門口〕本郷根津遊廓の入口。吉原の大門に当る。
そえぶし
〔添臥〕添寝(そいね)。同衾(どうきん)。そいぶし。男女が一しょにねること。
「見れば見るほど美しい、そんな殿御と添臥の身は姫御前(ひめごぜ)の果報ぞ。」(近松半二他「本朝廿四孝」十種香(じゅしゅこう)の場)

そくそく
スーッと。
「すぐにそくそく玄関から案内も待たず上り込みます。」(三遊亭円朝「月謡荻江一節(つきにうたうおぎえのひとふし)」)

そくにたつ
〔束に立つ〕両足を揃えることをソクといい、足をわらず、両足をつけて真直に立つこと(芝居用語)。
そくらをかう
おだてること。けしかけること。

そこつ
〔粗忽〕念の入らないこと。つまらない。つまらない男だと自分でへりくだっていうときにもつかう。
「浪島文治郎と申します。エエ粗忽の浪士でござる。」(三遊亭円朝「業平文治漂流奇談」)
そこをいれる
〔底を入れる〕振舞いにあずかる公の席へ出るか、または見栄の場へ出るかする前に、自費でまかなえるような安い酒を呑んだり飯を食ったりすること。
そぜいきょく
〔租税局〕税務署のこと。
そそける
髪がみだれていること。「そそり髪」

そそり
芝居の千秋楽(最終日)に、シャレに女形の巧い役者が武士になったり、滑稽な役をやる人が悲しい役をして余興のような芝居をすること。廓をただ歩き廻ることもいう。ぞめき。

そだばし
〔麁朶橋〕海苔をつくるために切り取った木の枝をそだというが、それを組み合わせて庭へかけた風流な橋。
ぞっき
一とまとめに安く売買すること。売れない新本を安くうることをぞっき本という。また、何々一と色という場合もぞっきといい、「あいつは唐桟(とうざん)ぞっきだ」といえば、上も下も唐桟ばかり着ている人ということになる。

そっくび
〔素首〕首を強めた意味でいう場合。
そっくびだい
〔素首台〕獄門台。打たれた罪人の首をのせて、みせしめのため通行の人たちに見せる台。
そっくら
そっくり。残らず。
そっこうし
〔即効紙〕即効紙は頭痛膏(ずつうこう)。それを適当に四角に切ってこめかみ顳顬(こめかみ)へ貼った。即効紙には「江戸桜」などというのがあり、江戸前の癇癪持(かんしゃくもち)らしい女房が額(ひたい)へ貼っていると一種の風情があった。
ぞっこん
〔属根〕心底から。しみじみ。
そつじ
〔卒爾〕突然。
そっちゅう
〔始中終〕しょっちゅう。しじゅう。
ぞっとしない
いいものじゃない。

そっぽ
〔容貌〕器量。面体(めんてい)。顔。→「かんぼやつす」。落語「妾(めかけ)の馬」の大工八五郎、赤井御門守(あかいごもんのかみ)の邸で用人三太夫に「即答を打(ぶ)て」といわれ「そっぽをぶて」と聞き違えて三太夫の横顔をなぐりつける。
そでくらつき
〔袖蔵附〕店土蔵(みせぐら)とて、店の片方または両方に土蔵をもうけてあるのを、袖蔵という。中央の店を人のからだに見立てれば、左右の土蔵は、両方の袖の感じだからである。
そでない
つれない。無情なこと。袖にする(すてる)も、このことばからはじまる。
「花魁(おいらん)、そりやちと袖なからうぜ。」(河竹新七「籠釣瓶花街酔醍(かごつるべさとのえいざめ)」八ツ橋部屋の場)

そでなしばんてん
〔袖なし半纏〕ちゃんちゃん子。
そでにする
〔袖にする〕のけものにする。つれなくする。じゃけんにする。すててしまう。
そでのした
〔袖の下〕わいろのこと。
そどく
〔素読〕書をよむのに、意味を説かないでただ文字ばかりを読むこと。
「江戸の武士の男子の教育には文事と武事との二つがあった。文事の方は五歳から七歳までは手習ひ、七歳から読書をはじめる。最初から大学中庸(ちゅうよう)などと云ふものを読む。(略)十歳までの間に四書五経小学の素読を終る。(略)十一二歳の二年間は複習をして素読吟味を受ける準備をする。」(岡本締堂「聖堂講武所」)

そなわる
〔具わる〕人物ができている。
「多助は別に学問もありませんが、実に具はって居りますので」(三遊亭円朝「塩原多助一代記」)

そにん
〔訴人〕訴えること。
そのひおくり
〔その日送り〕その日ぐらし。気まぐれの意味にもいう。
そのもと
〔其許〕あなた。
そばがき
〔蕎麦掻〕蕎麦粉を熱湯でこねて、餅のようにちぎり、蕎麦のつゆまたは生(き)醤油、辛子醤油でたべる。冬の夜にからだの暖まる食品。
そばやのゆとう
〔蕎麦屋の湯桶〕人の話へ口をだす人。そばやでそば湯を出す塗り桶は口がとがっているので、それにたとえた。
そま
〔杣〕木こり。
そら
〔空〕空々しい出まかせ。うそ。とぼけ。「空をつかう」「空をつく」という。
そりがあわない
〔反が合わない〕しじゅう一しょにいて気があわないこと。
そりをうたせる
〔反を打たせる〕刀をそらせてすぐ抜けるようにしておく。
それしゃ
〔其者〕その道の人。くろうと。商売人。色町育ちの女。
それだとって
それだといって。
「夫(それ)だとって貴君(あなた)今日お目にかかったばかりでは御座りませんか。」(樋口一葉「にごりえ」)

それというとそれ
何々をしようとおもいついたらすぐそれを気早に実行にうつすこと。
「それ例の気短かで、それといふとそれだから、」(三遊亭円朝「怪談乳房榎(ちぶさえのき)」)

ぞろっか
ぞろぞろ。

ぞんき
のんきで無責任な奴。「あいつはぞんきだ」

そんじ
〔損じ〕破損。こわれ。
ぞんじのほか
〔存じの外〕案外。おもいのほか。
ぞんしょう
〔存生〕生き永らえること。存命。生存。
「『由良之助は』『いまだ参上仕りませぬ』『存生に対面せで、残念なと申せ。』」(竹田出雲他「仮名手本忠臣蔵」扇ケ谷塩冶館(おうぎがやつえんややかた)切腹の場)

ぞんじより
〔存じ寄り〕心得ていること。承知している所。考えるところ。
「もし隠すなら存寄があるから、ずんずん上って明けるからさう思へ。」(三遊亭円朝「月謡荻江一節」(つきにうたうおぎえのひとふし))

ぞんじよりしだい
〔存じ寄り次第〕おもうまま。
ぞんぜえもん
〔ぞんぜえ者〕ぞんざい者。がさつな人。
ソンデイ
サンデイ(
sundayーー日曜日)。明治初年の読み方。
そんりょう
〔損料〕損料貸しする衣裳。「これは損料物ですよ」
たあた
足袋のこと。児童語。
だい
〔大〕大刀のこと。「小(しょう、小刀)」の対。
だいがくよびもん
〔大学予備門〕のちの高等学校。今日の高校の3年から大学の2年までに当る。
だいかぐら
〔太神楽〕今は曲芸という。伊勢の神宮からでて、丸一、大丸、海老一、巴家、港家、寿家、宝家など流派があり、籠毬(かごまり)、一つまり、茶碗の立場(たてもの)、ナイフの曲、ビール瓶の曲、火焔撥(かえんばち、火を放つ輪の曲)その他があり、昔は往来でやったが、のちに寄席へ進出、道化役がからんで口上をいい、曲の間で音曲をきかせたりする。
だいくみあい
〔代組合〕組合代理。江戸時代には近隣数戸を一と組に五人組という自治組織があって、共同責任で取りしまりに任じた、その総代。
だいげんにん
〔代言人〕弁護士。「三百代言」と軽蔑的にもいった。
だいこく
〔大黒〕寺の住持(じゅうじ)の女房(昔は世をはばかって持ったから)。
だいこくがさ
〔大黒傘〕番傘。
「一銭職(いっせんしょく)と昔から下った稼業の世渡りで、にこにこ笑った大黒の口をつぼめた傘(からかさ)も、列(なら)んでさして来たからは、相合傘の五分と五分。」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)ーー髪結新三」永代橋の場)

たいこしゅ
〔幇間衆〕太鼓持ち。→「しゅ(う)」
たいこばり
〔太鼓張〕戸または間仕切(まじきり)の両面を張って中に「すき」をのこしたもの。書斎とか別荘とかによくつかった。
たいこをもつ
〔太鼓を持つ〕たいこもちをする。
だいそれる
〔大それる〕その人の柄にないとんでもないことをする。
たいだん
〔対談〕話すこと。
「それは対談が違ふが、請人(うけにん、保証人)のお前のいふことだから、それでよろしい。」(三遊亭円朝「月謡荻江一節(つきにうたうおぎえのひとふし)」)

たいちょう
〔隊長〕軍隊用語からでて、その道の一ばんえらい人という意味。酒のみの隊長といえば、大酒のみになる。
だいちょうこみせ
〔大町小店〕遊女屋の中流のなかで第一流にちかい店。
だいてゆく
〔抱いて往く〕相手の悪事をもいい立て、共に犯罪者として入牢させるの意味。
たいてん
〔退転〕その家にいられなくなって引越すこと。
「抵当(かた)に取られて定(じょう)は退転、家内の衆も散り散りに、」(河竹黙阿弥「人間万事金世中(にんげんばんじかねのよのなか)」)

だいどうごうしゃく
〔大道講釈〕高砂屋浦舟著「江戸の夕栄(ゆうばえ)」に「木戸銭なし其講談の漸く佳境に入らんとする所へ来れば先生自ら笊(ざる)を提げて持廻り銭を集めて又話し始む天気なれば夕景より始め四ッ時近くまで納屋前(なやまえ)或は川岸蔵前(かしぐらまえ)などにてやる」とあるとおり、野天の往来で口演していた講談師である。やや高級なるが辻講釈とて葭簾(よしず)を張り、莚(むしろ)を敷いて客を集めた。これも演者みずからが口演料を集めること前者と変らず、明治の中頃まで残存していた。通行の人々へ呼びかけて演じ、収入を得るのであるから、悪達者にもせよ、相当の腕のある人々のみであったとつたえられる。
だいなし
〔体無し〕元も子もない。全然仕様がない。台なし。
だいのもの
〔台の物〕吉原の遊女屋に上った客がとりよせる料理。豪華なもの、手がるなものといくつかの種類、段階がある。豪華なものを「大台」、手がるなものを「小さい台」、お代りの料理は「代り台」、瓦せんべいや餅菓子だけをとりよせるときには「甘台」。
たいはく
〔太白〕太い絹糸。
たいへいらく
〔太平楽〕勝手な気焰(きえん)。「太平楽をならべる」。オダを上げるに同じ。
だいみゃく
〔代脈〕代診(だいしん)。古川柳に「代脈はやんまを追った小僧なり」
だいみょうあるき
〔大名歩き〕楽な道路を選んで(本街道を)歩くこと。
だいもん
〔大門〕その寺の入口の山門をいう。今日、芝大門と都電停留場にあるは、芝増上寺山門前の意味である。総門。
たいや
〔逮夜〕忌日(きじつ、命日)の前夜。
「取分け今宵は殿の逮夜。ロにもろもろの不浄を云うても、慎みに慎みを重ぬる由良之助に、よう魚肉をつきつけたなア。」(竹田出雲他「仮名手本忠臣蔵」祇園町一力(いちりき)の場)

だいや
〔台屋〕台の物の仕出しをする家。→「だいのもの」。
「よし原の台屋は、ずっと古くは、喜の字屋と云った。また、『向ふの人』も台屋の代名詞であった。『向ふの人と呼子鳥』といふ小唄もある。これは、どこの台屋を指したのか、その台屋の前側に遊女屋が軒を並べてゐたやうに見られる。おそらく明治以前に新町と云った、京町二丁目ではあるまいか。これは最初片側町であったから、」(増田竜雨「浅草寺を中心に」)

たいろく
〔大禄〕沢山の知行(ちぎょう、俸禄)。
たいわんいちょう
〔台湾銀杏〕台湾が日本の領土となった時代に、在来の銀杏返(いちょうがえ)しへ新しい工夫をこらした、それをいう。日露戦争の記念に、激戦地だった二〇三高地という名の束髪(そくはつ)がはやったのに似ている。
たか
〔高〕禄高の意味。武士として主君から貰っている米禄(ろく)の額。
たかしょう
〔鷹匠〕将軍家の鷹狩に使う鷹を世話する人。
「鷹匠はその役目として、あづかりの鷹を馴らすために、時々野外へ放しに出るのである。由来、鷹匠なるものは高百俵、見習五十俵で、決して身分の高いものではないが、将軍家の鷹を預ってゐるので、『お鷹匠』と呼ばれて、その拳(こぶし)に据ゑてゐるお鷹を嵩(かさ)に被(き)て、むやみに威張りちらしたものである。彼等は絵で見るやうに、小紋の手甲脚絆草鞋(てっこうきゃはんわらじ)穿きで菅笠をかぶり、片手に鷹を据ゑて市中を往来する。その場合にうっかり彼等にすれ違ったりすると、大切のお鷹をおどろかしたと云って、むづかしく食ってかかる。その本人は兎も角も、その拳に据ゑてゐるのは将軍家の鷹であるから、それに対しては何(ど)うすることも出来ないので、お鷹をおどろかしたと云ひかけられた者は、大地に手をついて謝(あやま)らなければならない。万事が斯(こ)ういふ風で、かれ等はその捧げてゐる鷹よりも鋭い眼をひからせて、江戸市民を睨みまはして押歩いてゐた。」(岡本綺堂「半七捕物帳・鷹のゆくへ」)

たかどま
〔高土間〕劇場の舞台の前の観客席を平(ひら)土間といったが、それよりやや高い所にこしらえてある席。→「しばや」「しんたか」
たかはた
〔高機〕手織磯(ておりばた)の一種。丈(たけ)も高く、構造やはたらきも普通のよりは一段進歩したもので、踏木(ふみき)を踏んで織る仕掛のもの。大和機(ばた)、京機(ばた)ともいう。
たかはり
〔高張〕高張提灯の略。長い竿(さお)の頭に付けて高くあげるようにこしらえた提灯。
たかもち
〔高持〕禄のもらえる身分。
たき
〔滝〕明治10年代の夏、東京都内の諸所に人造の滝をこしらえて、涼みの客をむかえた。
「何でも今年の当りは、滝に温泉に氷屋だ。」(河竹黙阿弥「千種花月氷(ちぐさのはなつきのこおり)」)

たぎって
特別に。
「器量はたぎって好いと云ふのではありませんが、何処(どこ)か男惚れのする顔で、」(三遊亭円朝「業平文治漂流奇談」)

だきね
〔抱寝〕抱いて寝ること。同衾(どうきん)。都々逸(どどいつ)に「色は黒うても浅草のりは白いマンマを抱寝する」。
だくだく
ボテボテ。部厚な。
「だくだくした股引(ばっち)をはきまして、どうだ気がきいてるだらうと、」(三遊亭円朝「敵討札所霊験(かたきうちふだしょのれいけん)」)

たくでし
〔宅弟子〕内弟子。
たくばん
〔宅番〕蟄居(ちっきょ)を申し付けた家来に番をする侍を付け、その家を看守させたこと。
たけなが
〔丈長〕平元結(ひらもとゆい)。また奉書(ほうしょ)のごく厚い、ノリのきいていない紙をもいった。
たけのふし
〔竹の節〕若い男の髪。前髪立ちで、うしろの髷が小姓髷に次いで一文字に太い。
「竹の節といふ近年商家の丁稚皆此風なり。」(「魯文珍報(ろぶんちんぽう)」明治
6年版)
「年ごろ十五六の小僧が髪を竹の節といふ若衆に結(ゆ)ひ前髪を取り、」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)

たけやのかじ
〔竹屋の火事〕ポンポンいうこと。「竹屋の火事じゃあるまいし、ポンポンいいなさんな」
たけん
〔他見〕はたの見る目。
たこにゅう
〔蛸入〕蛸入道の略。
たこをつる
〔蛸を釣る〕人を詰問して掣肘(せいちゅう)を加える。
たしなめる
注意をする。しかる。小言をいう。嗜(たしな)みとは、心がけ、作法、教養などの意ゆえ、転じて「たしなめ」は無分別を気を付けて改めろとなる。

だしめぬき
〔出し目貫〕本来は柄糸(つかいと)の下にある目貫(刀の柄を刀の身に固く着けさせるための目釘の頭の部分)が外部から見えるようになっていて、装飾も美しいもの。
たしゅつ
〔他出〕外出。
たじるし
〔田印〕田舎者の田で、地方人をののしっていった。赤毛布(あかげっと)。いな。
たじれる
夢中になって気ちがいじみる。

たたきしめる
〔叩きしめる〕ぶちのめす。のす。
たたきっぱなし
〔叩きっ放し〕さんざ使ってわずかの金で追っ払うこと。刑罰としても竹で叩いて放免した。
ただのねずみじゃない
〔通常の鼠じゃない〕「伽羅(めいぼく)先代萩」床下(ゆかした)の場における荒獅子男之助(あらじしおとこのすけ)のセリフ「うぬもただの鼠じゃあンめえ」が一般に流行し、尋常一様の人ではあるまいの意味。
たちくらみ
〔立暗〕立ったまま目まいがすること。
たちまえ
〔出立前〕出発直前。
たちまえ
〔立前〕労働に相当した賃金。利益。稼ぎ。日給。日当。「これっぱかしじゃ、立前にもなりやしません」「いくらの立前になっても、そんなことはいやだ」
たちめえ
→「たちまえ」
たちもの
〔断物〕神や仏に念願したことが成就するまでは口に入れないとちかった食物・飲物。塩を使ったものを食べないのは「塩物断ち」、煮焼きしたものを断つのは「火の物断ち」。
たちやく
〔立役〕歌舞伎で和事実事荒事(わごとじつごとあらごと)の主人公である善人になり、その一と狂言をしょって立つ役をいう。転じて、現実の社会でも同様の立場にある人を「何といっても今回は君が立役だ」とユーモラスにいう場合もある。
たちゆき
〔立行〕世間を立って行くこと。世間を渡って行くこと。
たちんぼうのやすぐるま
〔立ん坊の安車〕車もきたなく、素性の分からない人力車をいう。多く客をゆすって高い酒手(さかて)をとったり、のせた女をもてあそんだりした、悪質の車夫が多かった。
だっそう
〔脱走〕一座(酒席などの)からそっとぬけ出すことにいう。幕臣の函館五稜廓脱走などから流行したとみている。
たっち
立つこと。児童語。

たっつけ
〔裁着〕たっつけ袴(ばかま)の略。裾(すそ)を紐(ひも)で膝のところにくくり付け、脚絆(きゃはん)をはいたようにするもの。旅行用。伊賀袴(いがばかま)ともいう。
だっても
だって。

たてうたい
〔立謡〕邦楽でその曲の重要中心の部分を歌う人。タテ唄。
たてすごす
〔立て過す〕女の方が働いて、男をたべさせてやる。
たてばぢゃや
〔立場茶屋〕街道筋の立場(人足たちが休む場所)にある茶屋。立場酒屋(ざかや)。
たてひき
〔立引〕意気地を張って、することをいう(金をだしてやる場合もあり、喧嘩の味方をしてやる場合もある)。
たとう
〔畳紙〕糸屑(いとくず)や櫛(くし)などを入れるように紙を折りたたんだもの。
たな
〔店〕建築物としての家屋を広く「たな」といった。表通りにある大きく豊かな家を「表店」、裏通りにある小さく貧しい家を「裏店」、家賃を「店賃」、立退要求を「店立て」、貸家を「貸店」、家の貸借を「店貸」「店借」、借家人を「店子」、母屋によせかけた小さな建物を「孫店」という。また「みせだな」、つまり商店の総称でもある。大商家を「大店」、商店員を「店者(たなもの)」、店頭を「店先」「店下」、商人らしさを「店風(たなふう)」、開店を「店開き」、商家の転宅祝いを「店振舞(たなぶるまい)」という。借屋住まいの町人は××町○丁目のだれそれ店(たな)というふうに住所をとなえる。職人などが「お店へいってくる」という時の「お店」は恩ある出入り先のことである。
たないど
〔棚井戸〕井戸のそばに柱を立て、屋根をつくり、棚を作って、手桶(ておけ)その他を置く。
たなっちり
〔棚っ尻〕棚のように大きく突き出た尻。
たなふう
〔店風〕→「たな」
たなぶるまい
〔店振舞〕→「たな」
たなもの
〔店者〕→「たな」
たにのもの
〔谷の者〕浅草山谷(さんや)、新谷町辺には非人が多く居住したので、谷の者といった。
だによって
であるから。講談の神田派にはこの語がのこっており、先代ろ山、当代松鯉は常にもちいている。文学作品では、岡鬼太郎の花柳小説に見られたのが、最後であろう。
たぬきのくそ
〔狸の糞〕石衣(いしごろも、干菓子)の下等品。
たねとり
〔種取〕探訪新聞の社会面の記事をさがして歩く下級記者。
たのしみなべ
〔楽鍋〕寄せなべ。鳥や魚や野菜をいろいろいれて、自分で煮ながらたべる鍋。
たばね
〔束ね〕取締。監督。
たびざかなや
〔旅魚屋〕方々、旅をしながら売り歩く魚屋。
たびたもう
〔給び給う〕「給(た)ぶ」と「給(たま)ふ」を合わせてつかう。「下さる」の非常にていねいないい方。「守らせたびたまえ」などと使う。
たべよう
〔喰べ酔う〕酔っ払う。昔は飲酒に「たべる」という動詞をも頻用した。落語「妾(めかけ)の馬」でも殿さまが八五郎に「その方、ささ(酒)をたべぬか」という。
たま
謀者のこと。→「ちょうじゃ」

たま
〔玉〕利益を得る手段、道具となる人間、物品、人身売買によく使われた。大いに役だちそうなものを「上玉」、男を「男玉(おだま)」、女を「女玉(めだま)」などという。
「男玉はおいてもいいが、女玉だけ渡してくれねえか。」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)

たま
〔玉〕○○玉刻(きぎ)み。たばこの数え方。→「つかみたばこ」
だまくらかす
〔訛くらかす〕訛す。
たませえ
魂(たましい)のなまり。

たまり
〔溜〕控え所。待合室。
たもとおとし
〔袂落し〕「町家の旦那衆は、銀の長い鎖の両端へ、青ラシヤでこしらへた、今でいふ巻煙草入みたいなものをつけて、懐中を通して、両の袂へ落してゐました。ソレを『袂をとし』と申したもんです。」(篠田鉱造「明治幕末女百話」)
たもともち
〔袂持〕袂持の煙草入れの略。すなわち腰さげでないもの。
たゆう
〔太夫〕五位の通称であるが、江戸時代の庶民語では、芸人・遊女の一定の格式に対するよび方であったり、単に敬称であったりする。
たらずまえ
〔足らず前〕足りない分。
たらたら
不平、せじなどをいうさま。噂たらたらというと、噂ばかりしていたの意味。「たらだら」ともいう。
「ある行為をさんざんするといふ意味でたらだらといふ語を用ひる。即ちお世辞たらだらとか愚痴たらだらとかいふのである。この語は勿論たらと上を澄んで発音し、下をだらと濁って発音するのだ。ところがその頃の印刷物には上のたらをだらと印刷してゐるのを度々見受ける。尤もこの方は誤植の場合もあらうかとは思ふものの、同じ新聞などで、何時もたらだらがだらだらなってゐるのを見ると全く誤植とも断じ兼る。」(馬場孤蝶(こちょう)「変りゆく東京語」)

だらにすけ
〔陀羅尼助〕だら助。陀羅尼(だらに、梵文を原語で音読するお経)をよむとき眠くならないため僧侶が口中にふくんだ薬。黄蘗(おうばく)の生の皮やせんぶりの根など煮詰めたもので、今日は腹病薬。
たるい
不足。未熟。充分でない。「あの人の腕ではたるい」。舌たるい、おかったるい、など。

たるだい
〔樽代〕酒を買う金のこと。祝儀におくる酒の代金。昔は家を借りるのに敷金はほとんどなく、前家賃と小額の樽代というものを支払った。それは、敷金とちがい、移転にも返金はせず、明治のはじめまでこの風習がのこっていた。
だるまがえし
〔達磨返し〕「下等の年増にこの風あり」と岡本昆石「吾妻余波(あずまのなごり)」にはあり、多く酌婦などのゆう髪である。特に意気がって中流以上の人がゆう場合もあった。じれった結びを髪のうちへおし入れたもの。
だんき
〔暖気〕あたたかいこと。
「外は殊の外、曖気であった。」(河竹黙阿弥「富士額男女繁山(ふじびたいつくばのしげやま)ーー女書生」)

だんじる
〔談じる〕文句をいう。掛け合う。
だんだん
〔段々〕数々。次第。「段々との仔細」「段々御苦労」など。
だんなば
〔旦那場〕得意先。
ちいちい
虫のこと。児童語。
チーハ
〔字花・一八〕筋紙(すじがみ)に36の言葉を記してくばり、胴元の伏せた言葉をあてると、かけた金の30倍がもらえ、当らないと胴元にとられる。中国の下等社会で行われ、明治年間、わが国の中国居留地から一般にはやり、大正初年までつづいた。36の言葉とは合海(ごうかい)がはまぐりで、安土(あんし)が狐といった式のもの。「うんそう」という配達人が、このクイズの紙を毎朝配達して来るバクチ。
チェスト
演説のクライマックスヘ、聴衆がかける声。Chesttone voice(チェスト・トーン・ボイス)の略。
ちかげどんす
〔千蔭緞子〕天明のころの歌人であり賀茂真淵門下の国学者であり八丁堀の与力であり、かつ最高度に洗練された通人でもあった加藤千蔭が、自筆の「蓄薫鶯(ちくくんおう)」の歌を織り出したどんす。吉原や深川の芸者に帯として与えていたという。
ちかづき
〔近づき〕知己。知り合い。
「まだ知己(ちかづき)にゃあならねえが、顔は覚えの名うての吉三。」(河竹黙阿弥「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」大川端庚申塚の場)
ちからもち
〔力餅〕一種の捩切(ねじきり)餅。たべると力が強くなるという。
「小麦粉を鉄板で焼いて赤蜜をかけたうどん粉餅、油くさいのを我慢して、」(染谷忠利「食道楽三日行脚」)
ちからもちのいし
〔力持の石〕力くらべをして持ち上げるための石。神社境内に何貫匁ときざんだ丸い石が、今日も置かれている。明治の中頃までは各町内の力持の番附までできた。現代ならボディ・ビル。
「是でも能登の七尾在で五十貫目の石をさした、人に負けねえこの次六。」(河竹新七「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」八ツ橋部屋の場)
ちぎしょう
〔血起請〕血でかいた起請文。→「きしょうもん」
ちちくりあう
〔乳繰り合う〕いい仲になる。
ちどりがけ
〔千鳥掛〕千鳥の飛び方のように、糸を交互に斜めに交叉させていくのを「千鳥かがり」というが、そのように糸をかけていくこと。また、単に斜に交叉する状態をもいう。
「からかさの骨はばらばら紙や破れても離れ離れまいぞえ千鳥がけ」という意味深長な小唄もある。
ちのみ
〔乳呑〕乳呑子(ちのみご)。
ちびっちょ
小男のこと。
ちびる
少しずつ出すこと。チビチビ出すこと。だしおしむように金をつかう場合にもいうし、放尿のときにもつかう。
ちみちをあげる
〔血道をあげる〕夢中になる。
ちみどり
〔血みどり〕血みどろ。血だらけ。
ちみどろちんがい
血まぶれ。血みどろ血がい。
ちゃう
〔茶宇〕茶宇縞(ちゃうしま)の略。印度Chaulという地の産でポルトガル人のもたらした舶来(はくらい)の薄琥珀織(うすこはくおり)の一種。いい絹糸をつかって織ったのを本練(ほんねり)という。わが国では袴地(はかまじ)にする。天和年間には、京都の織物師も製するに至った。
チャキチャキ
生粋(きっすい)。
「おぎやアと生れると水道(すいど)の水で、産湯(うぶゆ)を使った江戸っ子のチャキチャキが、」(竹柴其水「会津産明治組重(あいづさんめいじのくみじゅう)」)
ちゃじん
〔茶人〕変り者。粋狂な人。
ちゃたばこぼん
〔茶煙草盆〕お茶と煙草盆。お客をもてなす必需品で「茶たばこ盆のもてなしで、下へもおかぬ……」と初代木村重友の浪曲「河内山ーー松江屋敷」にはある。
ちゃちゃくる
〔茶々繰る〕ごまかす。
ちゃちゃふうちゃ
めちゃめちゃ。ただ何ということなしに。元も子もなしに。フワフワと。だらしなく。
「君からもらった三百円の金はちゃちゃふうちゃにつかひ果して仕方なく、」(三遊亭円朝「英国孝子之伝」)
ちゃづけや
〔茶漬屋〕簡易な飲食店。
ちゃにする
〔茶にする〕バカにすること。
ちゃのこ
〔茶の子〕何でもなくできること。「お茶の子サイサイ」
ちゃばん
〔茶番〕茶番狂言の略。その場にありあうものを材料として、仕方(しかた)また手振りで、地口のようなおかしいことを演じる道化(どうけ)狂言。さらに大がかりで歌舞伎を滑稽化し、衣裳道具鳴物で演じ、奇抜な落(おち)を付けるものもある。前者は、口上茶番、後者は、立茶番(たちちゃばん)。江戸末から明治へ通人や戯作者が集まっては上演した。幇間や太神楽やかっぽれの人々も演じ、のちには本職にちかい茶番師も生れ、深川にはその上手が多く出て、祭礼の余興などを賑わした。
「昔の戯作者は茶番狂言の道楽を競ったもの、中にも松亭金水(しょうていきんすい)が不忍の弁天の後(今の観月橋の傍)に住んで居た時、梅亭金鵞(ばいていきんが)、万亭応賀(まんていおうが)、竹葉舎金瓶(ちくようしゃきんペい)、杉亭金升(さんていきんしょう)、金浄(きんじょう)、梅の本鶯斎(うめのもとおうさい)、(金鵞の弟、人情本の画工)鶴亭秀我(かくていしゅうが)、外二三の作者や筆工などが毎日集まって騒いで居るので自然に八笑人和合人(わごうじん)の様な事になる。毎月仲町道りの某家を借りて茶番を催し、口上茶番、立茶番、三題噺の智慧くらべ芸くらべを演るのを楽しみにして居た。」(鶯亭金升「江戸ツ子のチヨン髷」)
ちゃぶちゃぶ
食事のこと。食堂をちゃぶやといったのが、のちに売女をおくチャブ屋に変った。
ちゃめしや
〔茶飯屋〕夜更けの路上に荷をかついで茶飯を売り歩く者をいう。6代目林家正蔵(先々代)の「饅頭嫌い」には、深夜、侍が茶飯屋のお櫃(ひつ)を斬って辺りを飯だらけにした。これがほんとの茶飯(試し)斬りだというのがあり、茶飯屋が江戸市井(しせい)の夜の風景だったことが、よくうなずかれた。幕末の浮世絵に残る茶飯屋の看板には12文とある。
ちゃもない
〔茶もない〕茶気もない。茶気とは、風流な心。
ちゃり
〔茶利〕滑稽。ユーモラスな邦楽を、チャリものという。
チャルメラ
唐人笛(とうじんぶえ)のこと。昔は飴屋が吹き、今は夜半に流す中華そば屋が吹いて来る。「ホニホロ」ともいった。
ちゃんから
中国人のハイカラな人。悪口には「ちゃんから亡者(もうじゃ)」。
ちゃんぎり
〔叩鐘〕今日でも祭礼や寄席の囃子には使用する楽器。さしわたし3寸ぐらいの丸いフタのような鉦(かね)で、左手に持ち、右手に先に玉のついている撥(ばち)を持って、内面をするように打ち鳴らす。よすけ。
ちゃんちゃらおかしい
片腹いたい。問題にもならないほど下らないことでおかしくてならない。笑止千万。
チャンチャンぼうず
〔ちゃんちゃん坊主〕支那(中国)人をののしっていう言葉。明治27年にはやった改良剣舞に「日清談判破裂して、品川のりだす吾妻艦(中略)遺恨かさなるちゃんちゃん坊主」。
ちゃんば
〔占城〕鮫(さめ)の皮。
ちゅうげんこもの
〔仲間小者〕武家の下男のなかの頭分(かしらぶん)が仲間。小者は、武家の雑役夫。
ちゅうだん
〔中段〕はしご段の中途の段。「ゆうべ夢みた大きなゆめを、芝の愛宕の中段ごろから、ステテンコロリと落ちた夢」という字余り都々逸があった。
ちゅうとうぎっぷ
〔中等切符〕二等の切符(劇場などの)。→「かとう」
ちゅうとうまちあい
〔中等待合〕今日の汽車の二等待合室。
「誰とも知らで中等待合の内より声を懸けぬ。」(尾崎紅葉「金色夜叉」)
ちゅうぼうしょ
〔中奉書〕奉書には、大中小とあり、そのうちの中。皺(しわ)がなく、純白で、昔、上意を奉じて下知(げち)するにつかったのでいう。今日も礼状や返事など目上の人にあげるものをしたためるときに用いる。
ちゅうもん
〔中門〕社寺の楼門と拝殿や本堂の間にある門。
ちゅうよぎ
〔中夜着〕掻巻(かいまき)のやや大きいもの。
ちょうえきば
〔懲役場〕刑務所。
ちょうじぶろ
〔丁字風呂〕

薬湯。香の高い沈丁花(じんちょうげ)の蕾(つぼみ)は丁字香という薬になるゆえ、香りあるそれらの薬でわかした湯。
ちょうじゃ
〔諜者〕探偵の下をはたらいて、いろいろ犯罪や犯人のことをきいて来る男。下ッ引(したっぴき)ともいった。
ちょうじょう
〔重畳〕結構。
ちょうしんする
〔朝臣する〕明治政府へ仕える。
ちょうずだらい
〔手水盥〕洗面用の小さな盥。
ちょうだい
〔町代〕名主の次位にある町役人。
ちょうちょう
〔蝶々〕遊女屋でおつりを、客が進んでいないのにムリに奉公人にやる、その金。遊女がもらう金が蝶頭(はな、花)なので、蝶々としゃれた。
ちょうちょうまげ
〔蝶々髷〕
「維新前十歳前後の少女多くこの風に結びしが今は少し」(明治
11年版「古今百風吾妻余波(ここんひゃくふうあずまのなごり)」)
ちょうちんでもち
〔提灯で餅〕老年の精力の衰えた男が情交することをいう。「提灯で餅をつく」
ちょうちんもち
〔提灯持〕臨時の手つだい。臨時の助手。またムダな人をほめてのさばらしたことを、泥棒の提灯持などという。必要以上にひとりの人をほめちぎって宣伝してやることをも提灯持という。
ちょうところばんち
〔町所番地〕町の名と番地。
「鼻紙へ町所番地迄、自身に書いて下さいました。」(河竹黙阿弥「綴合於伝仮名書(とじあわせおでんのかながき)ーー高橋お伝」)
ちょうなみ
〔町並〕遊女屋の中流以上の店。
ちょうば
〔丁場〕距離。仕事の受持区域。短距離をほんの一(ひと)丁場。遠いことを長(なが)丁場。転じて芸能の上演時間にも使う。
ちょうもく
〔鳥目〕金銭。
ちょうもと
〔帳元〕勘定の値段づけと取締をする人。
ちょうれんば
〔調練場〕兵隊の訓練をする広場。練兵場。
ちょく
〔直〕安直。勿体振(もったいぶ)らない様子。「あの人は直でいい」
ちょくちょくぎ
〔ちょくちょく着〕ちょいちょい着。ふだん着。
ちょちちょちあわわ
幼児をあやすことば。「ちょちちょち」で左右の手を返しながら軽く叩いてみせ「あわわ」で右手をひらいて指の先で自分の下唇を軽く叩き、あわわという音はわ、わ、わ、わとふるわせる。
ちょっきりむすび
〔ちょっ切り結び〕チョコンと無雑作に結んだ帯。
ちょっくらかえす
人のいる前で金や品物をごまかすこと。
ちょっくらもち
小泥棒。こそこそ泥棒。
「ちょっくら持ちゃ押借りでとうとうしまひは喰(くら)ひこみ、身体へ疵(きず)のついた新三だ。」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)ーー髪結新三」富吉町新三内の場)
ちょっくり
一寸。ちょっくら。
ちょん
足りない人のこと。「たとえバカでもチョンでも……
ちょんきな
「ちょんきなちょんきなちょんちょんきなきな」と歌いつつ踊り、横浜の遊女や芸者が一つずつ着物をぬいで行くストリップ。安っぽい人のことをいう。
ちょんちょこ
ちょこちょこ。
ちょんちょんごうし
〔チョンチョン格子〕小店(こみせ)。下流の女郎屋。小格子。大籬(おおまがき)の対。
ちょんのま
少しの間。転じて花柳界などでは少時間で情交することをいう。
ちらばら
バラバラのこと。チラホラ。
「柩(ひつぎ)は雪の中を冒(おか)して、漸く千住在(ざい)へ来た頃には、道傍(みちばた)の雑木林やちらばらに立って居る茅葺(かやぶき)の屋根などは、もう真白であった。」(永井荷風「夢の女」)
ちりからかっぽ
三下(さんさが)り騒ぎ唄を太鼓入りで歌っている遊里の光景の形容。ただし、本来は吉原のみが鼓と太鼓入りで騒ぎ唄をかなでるその形容ゆえ、新宿その他の廓にはつかわないの説もある。ちりかたっぼ。「ちりから」は鼓、「たっぽ」は太鼓(おおかわ)の擬音語。「ちりからちりからつったっぽ」などという。
ちりづか
〔塵塚〕ごみため。
ちりめんごろう
〔縮緬呉絽〕呉絽(オランダ語のgrofgreinの略)、もとは駱駝(らくだ)、いまは羊毛または麻、綿を混じた西洋の毛織物で、縮緬らしく見せかけたもの。
ちんけえとう
〔珍毛唐〕珍しい毛唐人の略。わからずやをののしることば。
ちんころ
〔矮狗〕日本特有の愛玩犬。頭が大きく、目が大きく突き出して上下の顎(あご)は上へそる。毛は綿毛のようにフサフサしていて、耳、股、尾に総毛(ふさげ)があり、色は黒と白、白と茶の斑(まだら)多く、稀に純白、純茶いろ、黒、茶、白をまじえるものもいる。名古屋が主産地というが、近年は少なくなった。
ちんちくりん
〔珍竹林〕背の低い人。
ちんちん
やきもちのこと。「俺もちんちんを起した」。「大分ちんちんだった」という風につかう。
ちんちんかも
〔ちんちん鴨〕男女の仲むつまじいこと。
ちんちんかもなべ
〔ちんちん鴨鍋〕好いた同士が冬夜、鴨鍋をむつまじくつっついている光景。
ちんどく
〔鴆毒〕中国でその羽を酒に浸して毒殺するに用いた鳥の毒。中国南方の山中に住み、形は梟(ふくろう)に似、紫黒色、首が長く、くちばしが赤黒く、全身の毒気が烈しいという。斑猫(はんみょう)などとともに江戸期の毒殺事件ではおなじみのもの。
ついえ
〔費〕無駄な費用をいう。さらに江戸なまりでは、つうええともいった。
ついっとおり
ついひととおり。普通。通り一ぺん。ありふれた。
つうべん
〔通弁〕通訳。
つかいはやま
〔使い早間〕手早くいろいろの人から頼まれた使いをしてやること。
つかぶくろ
〔柄袋〕刀の柄へ冠せる袋。前袋。
つかみたばこ
〔掴煙草〕昔は60匁一とたばのきざみ煙草を、小束(こたば)5匁ずつに分けて、むきだしにつかみだしては売っていた。5匁の小乗を紙の輪で結び、それが12個、さらに大きな紙の輪にキチンと並べられ、一と玉(60匁)と呼ばれていた。→「たま」
つかみりょうり
〔掴み料理〕即席料理。
つき
〔附〕とっつき。第一印象。「あの人はツキがわるい」
つきあいがはる
〔交際が張る〕交際費のかさむ。「あいつの女房は派手だからつきあいがかさむよ」
つきあわせ
〔突合せ〕対決。「いっそのこと2人を突合せにさせてみようじゃないか」
つぎかたぎぬ
〔継肩衣〕上は肩衣、下は常の袴(はかま)で色のちがうもの。千代田城では、継上下(つぎがみしも)。
つきぎれ
〔月切〕返済期限がつきる。
つきだし
〔突出し〕遊女がはじめて客を取ること。
つきだす
〔突き出す〕面会を謝絶して追い返す。また、番所につれていく。興行場で無料入場者をことわることを、「木戸をつく」という。
「さあ、これから二人とも、ここから突出してくんなせえ。騙(かた)りが現(ば)れたその時は、送られる気で新しく晒布(さらし)を一本切って来たのだ。」(河竹黙阿弥「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)」ーー白浪五人男」雪の下浜松屋の場)
つきはな
〔月花〕たのしむこと。「この家だけが私の月花で」
つきまち
〔月待〕十七夜、廿三夜、廿六夜などに月の出を待っておがむこと。
づく
「○○次第」「○○がある限り」といった意味の接尾語。金銭や腕力にまかせるのを「金づく」「腕づく」、前々からきまっているのを「因縁(いんねん)づく」「義理づく」「得心(とくしん)づく」「納得づく」などという。
づくしもん
〔尽し文〕虫づくし、花づくし、山づくしなどでつづった文章や手紙。
つぐなむ
〔屈なむ〕身をかがめる。
つくばい
〔蹲台〕一般の場合は庭の手水鉢(ちょうずばち)のあるところ。奉行所では縁先にあたる部分をいう。
つけ
運または廻り合せ。「つけがわるい」という。
つけあわせ
〔付合せ〕→「つけあわせもの」
つけあわせもの
〔付合せ物〕料理の主体になっているもののワキへ配す食品をいう。もちろん、味も、みた目も、主体とつりあうものでなければいけない。
「折へ詰めてちょっと附合せもなりたけくさらぬものを、よいか、それはおみやげだよ。」(三遊亭円朝「怪談乳房榎(ちぶさえのき)」)
つじうらうり
〔辻占売〕多くは少年少女で、つじうらと赤い文字でかいた提灯をさげ、「淡路島かよう千鳥恋の辻うら」と悲しい声を上げて花柳界その他を売り歩いた。大阪では「河内山ひょうたん山恋の辻うら」。その紙を買うと、「今夜はあえる」とか、「あきらめた方がいい」とか、かいてあった。河竹黙阿弥に「霜夜鐘十字辻筮(しもよのかねじゅうじのつじうら)」がある。
つじぐるま
〔辻車〕流しの人力車。→「したて」
つじばんしょ
〔辻番所〕江戸市中大名屋敷のある屋敷町に造り、街路を警衛させたところ。
つじべんじょ
〔辻便所〕共同便所のこと。公衆便所。
つっかけげた
〔突っかけ下駄〕爪先へ足の指をはさむだけではくこと。
つっころばし
〔突転ばし〕二枚目。やさ男。ちょっとついたらすぐころびそうな柔弱さをもっているのでいう。紙屋治兵衛・
藤屋伊左衛門など。
つつしみ
〔謹慎〕武士の刑罰で、一定のいる所を定められ、公用以外には外出を許さなかったこと。きんしん。えんりょ。
つつなしもの
〔筒なし者〕いつものんきに遊んでいる人。
つっぱぬける
〔突破抜ける〕突破する。
「御用をくったからやうやく裏山通しで突破ぬけて粕壁(かすかべ)へ来て、」(三遊亭円朝「緑林門松竹(みどりのはやしかどのまつたけ)ーーまたかのお関」)
つつみさつ
〔包紙幣〕一と包みになっている紙幣。
つなひきぐるま
〔綱引車〕人力車をひく車夫の前に、もうひとりの車夫が綱を梶棒へ付け、それをひいて走り、速力を倍加させる。→「さんまい」
つねふだん
〔常不断〕いつも。
「あれでは七蔵様のお気に入るのもコリヤ尤(もっとも)だと、常不断お伝と申して居りまする。」(河竹黙阿弥「綴合於伝仮代書(とじあわせおでんのかながき)」ーー高橋お伝」)
つのづきあい
〔角突合〕不和のこと。
つばめをつける
〔燕をつける〕不足分を足す。
「さあ兄い、お前この金を持ってつばめを付けて、早く松葉屋の常磐木(ときわぎ)を身受けして、」(三遊亭円朝「緑林門松竹(みどりのはやしかどのまつたけ)ーーまたかのお関」)
つべらなべら
おしゃべりをすること。ツベコベ。
つぼかん
〔坪勘〕考えちがい。大工が坪数をまちがえることから、いう。
つまおりがさ
〔妻折笠〕町家や農家より山詣りに出る者は、男女共にこの笠をもちいた。正面に山形yamagataの印がある。
つまはずれ
〔つま外れ〕相手にされないこと。仲間はずれ。爪はじきにあうこと。
つまりさかな
〔末肴〕宴会で一ばん最後にだす料理。転じて、どうにも仕方がなくなって出すちえ。
つみにどんや
〔積荷問屋〕取引品を水陸それぞれの便利に托(たく)すことを一切扱っている問屋。
つむ
〔紡む〕綿を糸縒(いとより)車にかけ、その繊維を引き出し、撚(より)をかけて糸にする。つむぐ。
つめいん
〔爪印〕花押(かきはん)または印の代りに、署名した下へ、指の頭に爪ぐるみ墨を付、これを押して証拠としたもの。
つめがながい
〔爪が長い〕金を借りてなかなか返さない人。
つめる
〔詰める〕詰め寄る。膝詰談判をする。
「参るとか参らぬとか答へろと詰めれば泣くより外は無いので、誠に心配を致して居ります。」(三遊亭円朝「月謡荻江一節(つきにうたうおぎえのひとふし)」)
つもる
〔測る〕計量する。測定する。推察する。「そんなこと、はじめからつもっても知れそうなものじゃねえか」「つもっても見るがいい」などという。
「私は、最(も)うこれ、生先(おいさき)の測れた体で、明日(あす)が日も分らない。」(小栗風葉「恋慕(れんぼ)流し」)
つりえだ
〔釣枝〕歌舞伎で舞台の上部へ、天井から横に一列につりおろしてある梅や桜や松などの枝。
つりやぐ
〔釣夜具〕身体に夜具(やぐ)の重みを感じさせぬため、夜具の表面の中央に鐶(かん)をつけ、紐で天井からつるすようにしたもの。
つる
〔蔓〕蔓とは入牢のさい、ひそかに牢内へ持って行く金。その金の算段を蔓ごしらえ。蔓なしで入牢すると、牢名主(ろうなぬし)の指図でキメ板(→「きめる」)で叩かれ、スッテン踊をさせられる。
「これ、ここは地獄の一丁目で二丁目のねえ所だ。(略)命の蔓は何千何百両もってきた。」(河竹黙阿弥「四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)」伝馬町牢内の場)
つるかめつるかめ
〔鶴亀鶴亀〕ツルもカメもめでたい動物なので、縁起の悪いときにこうとなえる。
つれいん
〔連印〕自分以外の者と連れ立って証書へ印をおすこと。
つれしゅう
〔連衆〕お連れの人。
つれだしちそう
〔連出し馳走〕自宅以外のところへ招いて御馳走すること。
つれぶし
〔連れ節〕合唱すること。一しょに歌う。
「連れのざんぎりにつきあッて角力甚九(すもうじんく、俗曲)をつれぶしにうたひ、」(仮名垣魯文「西洋道中膝栗毛」)
ツンケン
ツンツン。プリプリ。

〔出〕芸者がお座敷へゆくこと。また、役者・芸人が扮装して舞台・高座に出てゆくこと。「こおろぎに出を待っている楽屋かな」の句がある。
てあい
〔手合〕なかま。連中。類(たぐい)。「仕事師(しごとし)手合(でええ)のすることだ」といえば「職人風情(ふぜい)のすることだ」「たかが、仕事師の分在(ぶんざい)のやることだ」という意味。
であい
〔出合い〕あいびき。男女密会。また「出合茶屋」の略。
であいぢゃや
〔出合茶屋〕出合専門の茶屋。今の「つれこみホテル」の類で江戸の諸所にあったが、上野不忍池弁天島の周囲に十数軒集まっていたのが有名。
「ちと髪をなでつけねえと出合茶屋」の川柳にその生態を見る。

てあて
〔手当〕扱い。もてなし。サービス。労にむくいるための金銭。「十分なお手当を頂きました」。また金などの用意。「それだけの手当はない」。さらに逮捕、捕縛(ほばく)にも使う。「あいつもとうとうお手当になった」
ていたらく
〔為体〕有様。
でうたい
〔出唄い〕舞台の山台(やまだい)へ並んで長唄を演ずること。→「でがたり」
てええ
「てあい」
てえてえ
大抵。ぞんざいにいったことば。
てえてえ
手を重ねること。児童語。
ておい
〔手負い〕負傷。怪我。傷ついた猪を「手負い猪」。
デカ
刑事または探偵。
でがいい
〔出が宜い〕家柄がいい。良家の出身。
てかぎ
〔手鉤〕鳶口の一種。鳶口は、棒の端に鳶のくちばしのような鉄製の鉤(かぎ)を付け、消防夫が火事場の塀や家屋や瓦をひっかけるに使う。
でかた
〔出方〕劇場で客を案内し、その用をたす男。たっつけ袴(ばかま)をはいていた。とめば。また、出演者をもいう。また商家では出方のものというと、住込の奉公人でなく、外から働きに来る人々。
でがたり
〔出語り〕義太夫・常磐津・清元・新内といった浄瑠璃の演奏者たち(浄瑠璃連中)が上下(かみしも)姿で舞台へ出て演奏することをいう。浄瑠璃は音曲ではあるが語りものなので「語る」といい「唄う」とはいわない。転じて出しゃばりやおしゃべりのことをもいう。「あいつは出語りだから」「どこでも出語りをしやがる」
でかばちもない
必要以上に大きい。とんでもなく大きい。
てきき
〔手利〕剣術の達者なこと。手者(てしゃ)。
でくでく
いやに肥っている形容。
でくのぼうがまえ
〔木偶構〕人形同然の魂の入っていない剣のかまえ方。
でくぼく
凸凹(でこぼこ)のこと。
でくま・ひくま
〔凸間・凹間〕出っくま、低まの意味。デコボコ。
てぐるま
〔手車〕自分で車夫と共にかかえている人力車。今日なら自家用車というところ。「手車へ乗れる身分だ」などという。
でげいこ
〔出稽古〕出張げいこ。
でごうし
〔出格子〕窓の格子で、壁の面より外の方に張り出して作ってあるもの。
てこをあげる
食事をすること。
でこす
〔出越す〕上廻る。先廻りする。行き過ぎる。
「私は与久村(よくむら)の者だから駄賃(賃金)より出越して来たんだからここで下りて下せえ。」(三遊亭円朝「塩原多助一代記」)
でこでこ
沢山あること。またしつこくお化粧をすることをもいい、明治時代には進水式や観艦式の軍艦が派手にかざり立てる所から、満艦飾(まんかんしょく)ともいった。
てこまい
〔手古舞〕祭礼に芸者が男装し、鉄棒(かなぼう)をひいて神輿(みこし)の先を行くこと。木やりに挺(てこ)を用いて大木の運行を円滑にする役を挺前といい、それを手古舞に改めたともいう。特殊の男髷に、右肌ぬぎの派手姿、伊勢袴(いせばかま)に脚絆、足袋わらじ、花笠を背にかけ、鉄棒を左に突き、右に牡丹をえがいた黒骨の扇を持ってあおぎつつ、木やりを歌って神輿の先に立つ。歌舞伎舞踊「神田祭」(清元「〆能色相図」(しめろやれいろのかけごえ))の舞台で今も見ることができる。
てごみ
「てごめ」
てごめ
〔手込〕乱暴。暴力をふるうこと。強奪すること。暴行。強姦。「手込な」と乱暴の形容にも使う。
てさき
〔手先〕江戸だと、問っ引、地方なら目明(めあ)かし。召捕の役人に追い使われるもの。
「幕が開くと手先と呼ばるる捕吏(ほり)があたりに目を配りながら出て来る。」(小山内薫「息子」)
でしこ
〔弟子子〕弟子のこと。
「弟子子といへば我が子も同然。」(竹田出雲他「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」寺子屋の場)
てじまん
〔手自慢〕字の巧いのを自慢すること。
てしょう
〔手証〕現場の証拠。

てしょく
〔手燭〕火を点じた蠟燭を立てて、手に持って歩く道具で、柄(え)のある小さい燭台。
でずいらず
〔出ず入らず〕無駄のないこと。面倒のないこと。
てすじ
〔手筋〕書風(しょふう)。
てづかえる
〔手支える〕さしつかえる。
てつきしゅう
〔手附衆〕部下となってしごとを助ける人々。
てっきゅう
〔鉄弓〕昔の家庭では、よく鉄弓で魚を焼いた。細い鉄を格子(こうし)のようにつくり、火の上にかけ、肉などをのせてあぶるのにもちいるもの。
てづくね
〔手づくね〕手製。自家製。自分ひとりでこしらえる。
てっとう
〔鉄刀〕無反(むぞ)りで刃がなく、鉄ののべ棒の刀。十手に似た用をする。
てつどうばしゃ
〔鉄道馬車〕線路の上を走る馬車で、東京では明治15625日、新橋日本橋間を6輌の馬車で往復したのがはじまり。
てっぽうばなし
〔鉄砲話〕与太な話。でたらめな話。ラッパ。
てづめの
〔手詰の〕どうしてもどうしても必要な。手詰は、手詰まり、緊迫の意味。どうでも解決しなければならないさしせまった相談を行うのを、「手話の掛合をする」などともつかう。

てづよい
〔手強い〕情熱的。
「女が手強いから、男は逃げは(逃げる道)もなく、そのままにておりおり逢引きをするうちに、」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)
でてゆけがし
〔出て行けがし〕すぐにもでて行けといわないばかりの態度。「これ見よがし」「聞えよがし」の「がし」と同じ。
てどうぐ
〔手道具〕手廻りの諸道具。
てとぼし
〔紙燭〕手燭(てしょく)。
てならいこ
〔手習子〕習字に来る子供たち。
てのうち
〔手の内〕虚無僧(こむそう)や門に立つ乞食僧などに金や米を恵むこと。
てのごい
手拭(てぬぐい)の江戸なまり。
てのこっぽうする
〔手の骨法擦る〕手と手をすって骨がすりむけるまでにたのんだり、あやまったりすること。
てばる
〔手張る〕骨がおれる。「この道は手張った」
てふだ
〔手札〕名刺のこと。「手札代りに差し上げます」と、品物を人にやるときにいった。
でふねやど
〔出船宿〕客船の発着所ちかく、その船による旅人を専門に迎える旅籠(はたご)。
てぶりあみがさ
〔手振り編笠〕素手(すで)で網笠一つ持って、着のみ着のまま。
「故郷がなつかしいまま無理に離縁を取って出ましたが、手振り編笠、」(三遊亭円朝「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)」)
てまるぢょうちん
〔手丸提灯〕丸い形の弓張(ゆみはり)提灯。
てめえぎわめ
〔手前極札〕自分で勝手にきめてしまうこと。ひとり合点(がてん)。
てもとづかい
〔手許便〕身のまわりの用をたさせる奉公人。
てやり
〔手槍〕柄(え)の細く短い槍。
テリガラフ
テレガラフ。テレグラフ。電報のこと。
でれすけ
女に甘い人。
でろれん
でろれん祭文の略。「今日の浪曲の前身に当り、門附(かどづけ)の説教祭文の一種。デロレンはその囃子言葉」と「辞苑」にはあるが、法螺(ほら)貝、錫杖(しゃくじょう)を伴奏とし、盛り場へ小屋がけで演じることもあり物語がクライマックスへ達したとき急に演芸を中止して観客から銭をもらうこと、他の大道芸と同様であった。
演題も「鬼神お松」あり「神崎東下り」あり、のちの浪曲と異るところなく、「吾妻余波(あずまのなごり)」の図では小屋がけの祭文は惣髪の男が三絃、もうひとりの惣髪の男が釈台を前に語っている。そして門附の方が祭文語りとて同じく惣髪でひとりで法螺貝を吹き鳴らしている。一般大衆(ことに下層の)に親しまれた。落語「とろろん」にでろれんをうなる場面があるのをみても庶民的のものであったかがわかる。

てんがい
〔天蓋〕本尊、導師(どうし)、棺などの上にかざすもので、形はシャンデリアのようなもの。その下べりに瓔珞(ようらく)を垂れ、先のまがった柄(え)につるすもの。その形からの連想で蛸(たこ)を「天蓋」という陰語も寺僧の間にある。「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」「こんにゃく問答」にもでて来る。
でんがく
〔田楽〕豆腐を長方形に切って串に貫き、味を付けた味噌を付けて火にあぶった料理。
「昔は非常に美味かった筑波第一の名物五軒茶屋の木の芽(このめ)田楽(中略)焼豆腐と蒟蒻(こんにゃく)を湯であたためて、」(染谷忠利「食道楽三日行脚」)
でんがくどうぐ
〔田楽道具〕舞台転換の方法の一つ。舞台背景の中央に田楽豆腐の串のような棒をつらぬき、これによって背景を廻転して変化させるもの。田楽がえし。舞踊「小鍛冶(こかじ)」のように、人物が一瞬で現われたり消えたりするときに使う。
でんきとう
〔電気灯〕電灯のこと。頭のはげた人のこともいった。
てんじくだま
〔天竺玉〕一ばん高いところ。
てんじくろうにん
〔天竺浪人〕浪人生活になれている人。永年職業のない人。
でんしょ
〔伝書〕その家につたわっている重要書類。伝家の書。
てんしるちしるおのれしる
〔天知る地知る己知る〕悪事は隠すともまず天が知り地が知り何より自分自身が知っているから隠しおおせはしないという諺。
でんしん
〔田紳〕田舎紳士の略。
でんしん
〔電信〕秋波(目の稲妻即ち電信)。ウインク。ピリリと目を動かす感じから、いう。
てんじんがえし
〔天神返し〕銀杏(いちょう)がえしの上に毛をかけた、女の髪のゆいようの一種。
でんしんをかける
〔電信を掛ける〕電報を打つこと。
てんちきん
〔天地金〕扇の地紙の上部と下部が金いろのもの。
てんつるてん
つんつるてん。
てんてん
手拭のこと。児童語。
てんとうぼし
〔天道干〕大道商人。いつも陽光(おてんとうさま)にさらされているから。
てんぼう
〔亀手〕腕なし。または腕の役に立たなくなったもの。
といとむらい
〔訪い弔い〕葬式。
「訪弔も御回向(ごえこう)も、逆縁ながら衆のゆかり。外の千僧供養(せんそうくよう、多くの僧の供養)よりうれしう二人が死出の旅」(新内「明烏後妻夢(あけがらすのちのまさゆめ)」)
といやば
〔問屋場〕街道の宿場で継立(つぎたて)をした問屋。継立とは前後の駅からの人や馬や駕籠や荷物を次々とおくる世話をすること。
どういん
〔導引〕中国の長生法に発し、もみ療治のことをいう。按摩(あんま)導引。
どうがなして
何とかして。どうかして。
どうがね
〔胴金〕刀の鞘の中ほどにはめてある環のようになっている金具。胴金づくりの刀のこともいう。
「血だらけの胴金をひっさげて上って来ました。」(三遊亭円朝「敵討札所霊験(かたきうちふだしょのれいけん)」)
とうき
〔当期〕さしあたり。当分。
どうぎ
〔胴着〕上着と襦袢(じゅばん)の間へ着る防寒用の短い下着。
とうきゅうじゅつ
〔陶宮術〕天源術から出た開運の教義。天保
5年、横山丸三が創始。宮は本心の宿れる宮の意味。もっぱら生年月日の十干、十二支の配合により、宿命的な判断をなすもの。
とうけいこ
〔東京子〕昔はとうきょうといわず、とうけいとよんだ。東京生れの人。
とうさい
〔当歳〕1歳。以前は数え年計算であったから誕生と同時に1歳である。したがって誕生したその歳というところから、1歳を当歳といった。
どうさびきのみのがみ
〔礬水引の美濃紙〕礬水(明礬(みょうばん)を溶かした水(膠液))を引いた(墨や絵の具のにじまぬため)岐阜県土岐郡恵那から産する強くて厚い日本紙の一種。
とうざらさ
〔唐更紗〕唐から渡来した更紗。今は、ほとんど見ない。
とうざん
〔唐桟〕細番の諸撚(もろより)綿糸で平織にした趣のある通人向の綿布の縞織物。
どうじき
〔堂敷〕ばくちをやる座敷。
「色の仲宿(なかやど)やばくちの堂敷が何ほどの罪だ。」(三遊亭円朝「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)」)
どうじごうし
〔童子格子〕昔、丹波の大江山に住んだ酒呑(しゅてん)童子の衣服からとったという。荒い太い格子縞(こうしじま)。「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」車引の松王丸・梅王丸・桜丸が着ている。
どうしゃ
〔道者〕巡礼、修行者の意味もあるが、講中に加わって参詣する人々もいう。
どうしゅう
〔銅臭〕金銭ばかり崇拝してからだじゅうから金の匂いがしているとののしったことば。「あいつは銅臭芬々(ふんぷん)だ」
どうしん
〔同心〕原胤昭(はらたねあき)「与力同心の由来」によると、同心は250人あり、同心も世襲(子があとをつぐ)で南北町奉行所へ属したことは与力に同じ。市中巡廻(パトロール)を廻り方と称え、定(じょう)廻りと臨時廻りと陰密(おんみつ)廻りとあり、みな同心の役であった。同心も八丁堀に多く居住したが、与力のような邸宅ではなく町屋住居で、同心のみ本所に一部が住んだこともあった。
三村竹清「江戸地名字(あざな)集覧」には「本所中之郷若町」がかっての同心町であったと記している。小石川にも同心町があるが、明治
14年版「改正新版東京案内」には誤記か「同新町」とあり「江戸町づくし」にはその名の見当らないのは同新町が元の名で、のちに同心の存在しない時代となってから「同心町」と称えられるようになったのであろうか。
とうしんのさんばいず
〔灯芯の三杯酢〕二日酔のとき、さっぱりしたものがたべたいときにいうしゃれ。「しつこいものはいやだから灯芯の三杯酢でもくんねえ」
どうちゅう
〔道中〕旅行の途中。「花魁(おいらん)道中」の略。
とうとう
刀のこと。児童語。
どうぬき
〔胴抜〕胴の部分に別の色の布をつかった、派手な下着。
とうはちけん
〔藤八拳〕狐拳の一種。続けざまに3度勝ったものを勝と定めるもの。天保のころ花村藤八なる売薬行商人の呼声から「藤八ーー五文ーー奇妙」と通人が狐拳の掛声にもちいたにはじまるという。一説には、吉原の幇間藤八の創始ともつたえられる。
とうゆ
〔桐油〕桐油製のおおいを略していう。少し前までは「油紙」「防水加工布」「ゴム引」などの類、今日ならビニール布である。
とうらい
〔到来〕よそからおくりものがとどくこと。また、そのとどいた品(到来物)。さらに他へそのままおくる場合は「到来合せですが」「到来にまかせ」などとことわりをつけた。
どうらん
〔胴乱〕草で製した四角な袋。薬や印などを入れて腰へ下げる。今日では昆虫採取の獲物入にその名をとどめている。

どうりで
〔道理で〕なるほど。そういえば。
どうれ
道理(どうり)のなまり。
どうわすれ
〔胴忘れ〕ちょいと忘れたこと。ど忘れ。
どうをすえる
〔胴を据える〕膝を左右にひらいて胴体のあり方をしっかりとさせる。
とおしえり
〔通し襟〕絆纏(はんてん)の一ばん裾まで長く襟のかけてあるもの。
とおしかご
〔通し駕籠〕遠い道中を一つ駕籠へ乗り通して行くこと。「通し駕籠で行こう」
とおっところ
〔遠っ処〕遠方。
とおどお
〔遠々〕遠方。遠路。
とおどおしい
〔遠々しい〕暫くお見えがない。
「おや美濃部さんお遠々しいねえ。」(三遊亭円朝「黄薔薇(こうしょうび)」)
とおみ
〔遠見〕見えがくれ。
とおりあくま
〔通り悪魔〕ふってわいた災難。通り魔。
とおりかぐら
〔通り神楽〕町をとおって行く獅子舞などの囃子をあらわした歌舞伎の音楽。下町の商家の場の幕あきなどにつかう。
とおりもの
〔通り者〕通人。
「茶の一本緒のすがりました雪駄(せった)をはいて、その頃の通り者の打扮(なり)で、」(三遊亭円朝「錦の舞衣(にしきのまいぎぬ)」)
とがにん
〔科人〕罪人。
とき
〔斎〕お寺で檀家(だんか)、信者に供養のために出す食事。また、檀家や信者の家で僧侶、来客にあげる食事。食事は正午をすぎないうちにだすべきで、午後のは非時(ひじ)という。
ときうま
〔駿馬〕体格も走る力も大きい名馬。
ときより
時折(ときおり)のなまり。
とくしんづく
〔得心づく〕承知の上。→「づく」
とぐち
〔戸口〕出発点または原因のこと。
「人の噂は戸口を言わず、中程(なかほど)を言わず、吃度果(きっとはて、結果)を言う。」(斎藤緑雨「朝寝髪」)
とくぶん
〔得分〕利益になるもの。
とけどけと
心の苦しみが解けて楽になったをいう。
遊女若草「サバサバしたんざますよ。今夜はとけどけと寝られようかと思ふんざますから、」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)
とこいそぎ
〔床急ぎ〕男女関係で、一しょにねるのを急ぐこと。早く共にねたがること。
とこさかずき
〔床盃〕新郎新婦が床に入る前に祝ってかわす盃。
とこさし
〔床さし〕遊女が客とねるのに病気その他で都合が悪いこと。床の差合(さしあい)。「床さしをついてことわる」
とこなじみ
〔床なじみ〕遊女とねてから特別にやる金。床花(とこばな)。
どくはい
〔独杯〕ひとりで酒をのむこと。「独杯でやっていた」

とこみせ
〔床店〕商品を売るのみで人は住めないごく小さな店。
ところばらい
〔所払〕その土地を追われること。
とざい
〔徒罪〕昔の五刑の1つで島流しより軽く杖罪(じょうざい、杖で打って追放)より重く、1年から3年までが期間で、半年を増すたびに一等を加え、すべて五等ある。徒罪(ずざい)ともいう。単に「刑罰」という意味にも使う。
とさん
〔土産〕みやげ。明治時代は漢語ばやりで、こういうことばづかいをした。
とし
〔年〕年廻りの略語でもある。
としあい
〔年合〕年の具合。
どしごみ
入れ込みのこと。大ぜい一しょにいること。「あの座敷へどしごみに入れられた」
としごろ
〔年頃〕年来。近来。「この年頃にこんな変ったことはない」
どしつけな
無理な。
としま
〔年増〕女。やや若い盛りをすぎた女。昔は2425からをいったが、今日では約10年はずれたようだ。→「むすめ」「しんぞう」
としをひろう
〔齢を拾う〕としをとる。
どじをふむ
しくじってしまう。「とんだどじな野郎だ」などともいう。
とせい
〔渡世〕くらし。業。「酒屋渡世」は酒屋、「香具渡世」は香具師。改まった場合、たとえば町奉行所白州(しらす)などで「××町○○店△△渡世某」などと。生活手段。職業。「渡世人」
どぜえむ
土左衛門(どざえもん)のなまり。
とぜん
〔徒然〕退屈。落語の横町の隠居が「サアサア今日は徒然だからゆっくり遊んでおいで」などという。
どだいをまたぐ
〔土台を跨ぐ〕敷居をまたぐ。家へ足をふみ入れる。
とたんをうたす
〔途端を打たす〕はずみをつける。
とちおくまんりょう
〔栃億万両〕何億万円ということ。栃は十千(とち)にあたる。
とちめんぼう
うろたえ、さわぐ姿。「とちめん棒を振った」
とちる
あわてる。しくじる。
どっきり
ハッとおどろく形容。今日は、ドキンとした、ドキッとしたという。
どっこいどっこい
大道でやるばくちの一種。「どっこいお張りよ」と声をかけるゆえで、この商売をする人を、どっこい屋。
とっこにとる
〔とっこに取る〕言質にとる。真言宗の修行にもちいる独鈷(とっこ、銅または鉄製)は尖った両端がわかれていないゆえ、動かすことのできない言葉の証拠の意味になったと見てよかろう。
「何しにお前に当つけよう、この子があんまり分らぬと、お力の仕方が憎らしさに思いあまって言った事を、とっこに取って出てゆけとまでは酷(むご)うござんす。」(樋口一葉「にごりえ」)
とったかみたか
〔取ったか見たか〕アッという内に。考える間もない内に。すばやいずるい金もうけのこともいう。「とったかみたかだよ」
トッタリ
芝居の捕手のこと。大勢で一せいに「捕った!」といってからとびかかるから。
どっちり
どっさり。たくさんの意。
とってかえし
〔取って返し〕取返し。「もう取って返しがつきません」
とってもつかぬ
話にならないこと。おもいがけないこと。
とっぱくさ
急ぎ、あわてること。「とっぱくさしていた」
とと
魚や鳥のこと。児童語。
とどく
〔届く〕(祈念、思慕などの)反応があらわれる。企画が成功する。「私の一念が届いた」→「ねん」
どどくる
都々逸を歌うこと。
「どどく(都々逸)る、ちゃづつ(茶漬)る、などいうは落語家より始まりしものなるべし。」(斎藤緑雨「ひかへ帳」)
とねがわにする
〔利根川にする〕ここにあるだけの酒でやめること。利根川のはては銚子ゆえ、ここにある銚子だけでやめるという洒落。
とば
〔鳥羽〕着物の陰語。芸人が多くつかう。
とばり
〔○○斗張〕臼(うす)の大きさのいい方。「
5斗ばりの臼」は五斗つけるだけの大きさの臼。
とび
〔鳶〕消防夫。鳶グチという棒の先へ鳶のくちばしに似た鉄の鉤をつけたものをいつも持ち、彼らが働くときにこの棒でモノをひっかけたから、この名が起った。
どびさし
〔土庇〕座敷の外側へ深くさしかけて土間をおおうひさし。捨廂(すてびさし)
とほかみ
神を祈ることば。
「登保加美恵美多米祓賜清賜(とほかみえみためはらひたまへきよめたまへ)と唱(とな)ふれば天地の諸神あわれみをたれたすけたまうなり。」(瀬山佐吉編「善悪夢はんじ」明治21年版)
黒住教(くろずみきょう)「『トホカミ、エミタメ』。信者はいずれも、沸き上る興奮をおさえているのであろう。その声は外へ吐くというよりも、内へのむ形であった。」(邦枝完二「白扇」)
とま
〔苫〕茅、菅であんだ菰(こも)に似たもので、船の上部をおおう。「苫小舟」
どま
〔土間〕劇場の舞台の前から中央一帯にかけて、やや広い部分の観客席。平土間(ひらどま)ともいう。中等席である。→「しばや」
とまえ
〔○○戸前〕土蔵の数え方。「二(ふた)戸前」は土蔵
2つ。
とまくら
〔苫枕〕萱(かや)であんだ菰(こも)のようなものでふいた船の屋根(苫)で、取りはずしができる。

とめ
〔留〕
2つの木材が直角またはある角度で出あうとき、その角を折半して接目(つぎめ)をもうけたもの。
ともまえ
〔供前〕自分の供の歩いて行く先。「供前をよぎって無礼だ」
とや
〔塒〕鳥がねぐらにつくよう、旅へでた芸人が不況のため宿屋なり興行場なりに泊ったなりで、どこへも行けないこと。また病気で家にいることをもいう。放蕩ものの間では梅毒に感染することをも「トヤにつく」といった。→「はんどや」
どやす
なぐりつける。
どようかし
〔土用菓子〕なつかしいこと。夏菓子のしゃれ。
どようのたけのこ
〔土用の筍〕むだなこと。
どら
〔放蕩〕遊蕩。道楽(どら、どうらくに同じ)。古川柳に「労咳(ろうがい、肺病)の親は世間のどらをほめ」。「どら息子」
とり
寄席用語。真打(しんうち)。今日では主任といい、寄席の最後へ出演する花形や大家の落語家や講談師や浪曲師。昔は、一と晩の収入は寄席と分けたのこりをみな一応真打が貰い、それを出演者へ分けた。だから大入なら分けたのこりを全部真打の収入としてもうかる代りに、不入りのときは自分の銭を足して他の人々の給金を払った。その晩の収入をみなとるゆえ、トリといった。
とりおき
〔埋葬〕死んだ人を埋めるのにこうしたいい方があった。
とりおとしもの
〔取落し物〕落しもの。
「何か取落し物はないか。」(河竹黙阿弥「霜夜鐘十字辻筮(しもよのかねじゅうじのつじうら)」)
とりこす
〔取り越す〕忌日を繰り上げて法事をする。
とりこわし
〔取壊し〕取りはらい。
とりさえる
〔取り支える〕取りなす。
とりしきる
〔取り仕切る〕身に引き受けて扱う。専行(せんこう)する。一切やる。
とりつぎ
〔取次〕面会人。取次(受付・案内)を求める訪問者。「おい、玄関に取次があるよ」
とりなし
〔執成〕斡旋。
とりのまちのあわもち
〔酉の町の粟餅〕今日の酉の市では粟餅を売るが、そこかしこの店で沢山うっているので、コテコテという意味につかう。「酉の町の粟餅ほど紙幣(さつ)をだした」
とりまわし
〔取廻し〕客あしらい。とりなし。扱い。
「以前、芸妓(げいぎ)だったそうで、定めし座(ざ)の取廻しもよかろう。」(三遊亭円朝「業平文治漂流奇談」)
とりやり
〔取り遣り〕やりとり。
ドリンケン
泥酔。ドロンケン。英語drink(動詞・飲む)、ドイツ語trinken(動詞・飲む)からきたのだろう。
ドルだん
〔弗旦〕横浜ことばで、貿易商などドルをかせぐ金持ちのこと。芸者の旦那のこともいうときがある。
どれ
どこ。どんな場所。
「お見受け申せば、お若えのにはお一人旅でごぜえやすか。シテどれからどれへお渡りでごぜえやす。」(桜田治助「鈴ケ森」)
どろどろ
ぞろぞろ。
「今、新助が車に乗る様子を見て居ると、表までどろどろ送り出し、」(三遊亭円朝「松と藤芸妓(げいしゃ)の替紋(かえもん)」)
どろぼっけ
〔泥ぼっけ〕泥だらけ。
ドロンケン
「ドリンケン」。明治開化期の都々逸に「毛布(フランケン)質においてブランデン飲んで、それであたしがドロンケン」。
どをすえる
〔度を据える〕度胸をきめる。
どん
〔午砲〕明治499日から毎日正午を期して、東京では宮城内から大砲を打ち、時をしらせた。昭和4年になってサイレンに変った。
「先生と大きな声をされると、腹のへった時に丸の内でドンを聞いたやうな気がする。」(夏目漱石「坊ちゃん」)
どんじまい
最後。どんづまり。どんじり。
どんずりやっこ
〔どんずり奴〕伊達奴(だてやっこ)のごとく頭の前を後方までそり上げ、幇間銀杏(ほうかんいちょう)というゆい方をさらにユーモラスにしたもの。
とんする
落ちること。児童語。
とんだ
大へんに、すばらしくの意味。「とんだいい天気」とか「とんだ災難」とか、いい場合にも悪い場合にもつかった。
どんたく
日曜日。休日。オランダ語のzondagをなまっていう。
とんちき
間抜けな人のこと。
とんとん
五分五分。
とんびとろろ
〔鳶とろろ〕鳶のなき声だが、昔は鳶がよく地上へ舞い下りて、油揚(あぶらげ)や魚のはらわたなどをさらって逃げたので、ものをさらわれることをいった。昼間くる泥棒を「昼とんび」といったのもこのためである。
「拾って店へ並べて置きゃ札をつけて軒下へぶら下げて置くと同一(おんなじ)で、忽ち鳶トーローローだい。」(泉鏡花「註文帳」)
とんぼ
〔蜻蛉・筋斗〕歌舞伎の立廻りの用語で、宙返りのこと。「とんぼを打つ」「とんぼを切る」という。
ないぎき
〔内聞〕改まらずに内々(ないない)に聞く。

ないきゃく
〔内客〕秘密の客。

ないげんかん
〔内玄関〕家庭内の人が出入するために表玄関のほかにこしらえた玄関。うちげんかん。
ないしょ
〔内所〕吉原の廓で遊女屋の主人のいる部屋。品川ではお部屋といったという。御内所(ごないしょ)。
ないふく
〔内福〕うちわの生活が楽なこと。生活が豊かなこと。有福。
ないぶんざた
〔内聞沙汰〕うちわの話。内々での解決。内済(ないさい)。
なうて
〔名うて〕名題。有名。

なか
○○など。○○なんか。「等(なか)いいまして」
なかあい
〔交情〕間柄(あいだがら)。
なかいりまえ
〔中入前〕寄席で3分の2の演芸がすむと、中入り(休憩)をする。その少し前をいう。中入前にでられる芸人は相当な所で、若手ならホープ。
なかうり
〔中売り〕劇場や寄席の場内で菓子その他を売りに来る人。「甘納豆はよしかな、ラムネはよしかな」といって歩いた。
ながき
〔名書〕落款(らっかん)。署名。サイン。
なかご
〔中子〕刀の身の柄(つか)に入った部分で、ここに銘が打たれている。
なかじきり
〔中仕切〕部屋と部屋の間を区切ってある障子やふすま。
ながじけ
〔中時化〕雨つづき。
なかじく
〔中軸〕芝居の看板や寄席の出演者の名をかいたびら(ポスター)などのまん中にある名のことをいう。書出し (右端)とおさえ(左端)と中軸(中央)とにかかれるのが、最も大家や花形なのである。
ながしら
〔名頭〕源(げん)・平(ペい)・藤(とう、藤原)・橘(きつ)にはじまって、いろいろさまざまの氏名をならべてある、子供たちに教える手本。
ながす
〔流す〕遊里で翌日も帰らず、いつづけること。
ながそで
〔長袖〕武事に参与せず長袖の衣服を着した医師、神主、僧侶、画家をいう。
ながぢょうちん
〔長提灯〕弓張(ゆみはり)提灯。
ながつぼね
〔長局〕殿中で局(つぼね、しきりをへだててもうけた、つとめている女たちの部屋)のながくつづいているところ。
なかどこ
〔中床〕床屋の職人で親方の次位にある若い衆。
なかどん
〔仲どん〕女部屋の若い衆。
なかなかもって
〔中々もって〕どうつかまつりまして。どういたしまして。
なかにわ
〔中庭〕家の中の室と室との間にある庭で、昔は料亭や遊女屋ばかりでなく、町中の普通の家にもあった。
「研出(とぎだ)した様な月は中庭の赤松の梢(こずえ)を屋根から廊下へ投げて居る。」(広津柳浪「今戸心中」)
なかぬき
〔中抜〕藁草履(わらぞうり)。
なかのちょうばり
〔仲の町張り〕吉原仲の町切っての。
ながばこ
〔長箱〕つなぎ棹(ざお)でなく、三味線全体をそのまましまえる箱。
なかばたらき
〔中働〕奥と勝手(台所)との間の雑用を働く女中。「下働き」に対するいい方。
ながもちのふた
〔長持の蓋〕こっちがあいて向うがあかないこと。長持の蓋は長くて重いからそういうことがあった。
ながもの
〔長もの〕長脇差。
ながよじょう
〔長四畳〕横一列に畳の4枚並べて敷いた部屋、所謂座敷でなく、実用本位に道具の置いてある部屋に多い。
なから
〔恰ら〕さながら。
「お前様の顔を一日みねえとは、恰ら百日も見ねえやうで、」(三遊亭円朝「塩原多助一代記」)
ながれ
〔流れ〕不用品。質流れの品。
「奥蔵(おくぐら)の左の方に積んである模様物の流れの口を目を通したいから、一寸一しょに来ておくれ。」(三遊亭円朝「鏡ケ池操松影(かがみがいけみさおのまつかげ)ーー江島屋怪談」)
ながれのしち
〔流れの質〕質流れの品。
なかをとる
〔仲裁を取る〕間へ入る。仲裁する。
なぎなたぞうり
〔薙刀草履〕カカトがすり切れて薙刀の刃のような形になっている草履。
なきをかける
〔泣きを掛ける〕泣かせる。苦しませる。他に、催涙戦(さいるいせん)に出る、という場合にも、いう。
「女房が死んで一周忌もたたねえうち、女郎を買って子供に泣きを掛けるやうな、」(三遊亭円朝「敵討札所霊験(かたきうちふだしょのれいけん)」)
なぐれる
道楽者になる。売れのこった品、のこと。
なげこみ
〔投込み〕投込寺(かねてもうけてある大穴へ死骸を投込むことを許した寺)から転じて、葬礼も何もしないでわずかの銭で埋葬だけすることをいう。
なさけらしい
〔情らしい〕人情がありそう。親切そう。
なざし
〔名指し〕売女などの場合、客が特に誰某を買度(かいた)いと指名して登楼するをいう。今日では、女給、ダンサーにもつかうが、ただし「御指名」という無風流ないい方になっている。「鈴木主水」のご瞽女(ごぜ)唄に「我も我もと名指しであがる」。
なしじ
〔梨地〕金銀の粉を散らした蒔絵(まきえ)の一種。梨の実の肌に見立てての「となえ」であるが、その蒔絵を連想させるよう、夜空に火事の火の子のちらばっているのを形容する場合にもいう。
なだかのほねだか
〔名高の骨高〕きいているほどの値打ちのないもの。
なだれくだりに
〔なだれ下りに〕傾斜の地を下って。
なだれぐちした
〔雪崩口下〕傾斜している。山坂のとばくち。
なだれした
〔なだれ下〕なぞえ(傾斜)な坂になっているその下の方。
なつけ
〔夏気〕夏に同じ。
なってえ
何でえ。
「なツてえなツてえ(中略)一人二人の色があったってなんでえ、男の働きで当前(あたりめえ)だ。」(三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」)
なつばおり
〔夏羽織〕いてもいないでもいい人のこと。
なっぱのこやし
〔菜っ葉の肥し〕菜(な)の肥料は根にやらないでかけるから、かけ肥(ごい)ーー掛け声のシャレで、掛け声だけで実行のできない人。

なつもこそで
〔夏も小袖〕小袖は冬の着物であるが、貰えるものなら夏も貰おう。即ち、無代で入手するのなら、どんな不急不用品も貰うの意味。同じ意味で「冬も帷子(かたびら)」ともいう。
ななこ
〔魚子〕斜子ともかく。金彫の技法で、粟粒を並べたように細い粒を凸起(とっき)させ、先端を鑿(のみ)で打ったもの。
ななつさがり
〔七つ下り〕古いよごれたきもの。七つ(午後4時)下り(日暮れ以後)でないとみっともなくて着られないか
らいった。
なぬか
〔七日〕初七日、なのかでなく、なぬかである。江戸のなまり。
なべしまだんつう
〔鍋島緞通〕鍋島藩の領土、佐賀県下に産する絨毯(じゅうたん、絨毯は、敷物や壁掛などにつかう毛を主体とする交織(まぜおり)物)。
なまえい
〔生酔〕微醺(びくん)。少し酔っている状態。「生酔本性(ほんしょう)たがわず」
なまえにん
〔名前人〕戸主。
なまえもく
〔名前目・名号〕名前のこと。こういうと意味が強くきこえる。
「これ、己(おれ)の名号(なめえもく)をきいてきもツ玉を天上(てんじょう)に飛ばすな。」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)
なまぎき
〔生利〕生意気。生じ。半可通。未成熟。
なまこ
〔海鼠〕有松絞(ありまつしぼり)をもっと細かくしぼったもの。布がなまこのような形をしているので、いう。「藤むらさきのなまこ」
なまざいかく
〔生才覚〕生じの知恵。猿知恵。
なまなか
なまじ。
「この家の留守を預って、女の役の針仕事、勤着替(つとめぎかえ)の裾直(すそなおし)、楽すぎるだけ生なかに、」(瀬川如皐(せがわじょこう)「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)ーー切られ与三郎」源氏店(げんじだな)妾宅の場)
なまりほうげん
〔訛方言〕なまりのこと。昔は重ねて強くこういった。
なまわかい
〔生若い〕まだ一人前になっていない。

なみぎり
〔浪ぎり〕浪しぶき。
なみよけぐい
〔浪除杭〕烈しく浪の打ち寄せるを緩和するため、岸近くの水中へ立てた棒杭。震災前の東両国百本杭(ひゃっぱんぐい)もその一つ。河竹黙阿弥作の世話狂言「小袖曾我薊色縫(こそでそがあざみのいろぬい)ーー十六夜清心(いざよいせいしん)」稲瀬川百本坑の場、「三人吉三廓初買」(さんにんきちさくるわのはつがい)大川端庚申塚の場では舞台中央に立っている。
なやばき
〔納屋穿き〕物置へものの出し入れに行くときのための履物、おもに草履。
ならうちわ
〔奈良団扇〕奈良市で産する風流な団扇。春日神社につかえる人の創案で、判じ物の絵(わざと奇妙な絵をかいておき、何であるかを当てさせる)がかいてある。
なりたけ
〔成たけ〕じつに。
なるみのようろう
〔鳴海の養老〕愛知県鳴海産の養老しぼりの意味。縦(たて)ヒダをつくって染め、縦の線の模様をあらわした杢目絞(もくめしぼり)が、養老絞である。
なわつき
〔縄付〕しばられること。「うちから縄付を出したくないから」
なわぬけ
〔縄脱〕脱獄囚。
なわめのほだし
〔縄目の絆〕縄でしばられ、手伽(てかせ)をはめられていること。
「落す涙を隠さうにも身はままならぬ縄目の絆。」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)
なんきんさん
〔南京さん〕中国人。
なんたら
〔何たら〕何という。「なんたら事」「なんたら愚痴(ぐち)」
なんどりと
じっくりと。事を分けて。
なんぴ
〔難批〕わるいところを批評する。「難批をいう」
なんぶ
〔南部〕南部(岩手県)産の紬(つむぎ)織物。

〔荷〕包み。荷厄介なこと。きらい。迷惑。
「拙(せつ)はもう割烹店(かっぽうてん)料理店のものなぞは荷でやすな。」(落語「酢豆腐」)
にうりざかや
〔煮売酒屋〕肴、莱(な)、豆などを煮て、酒も飲ませる簡単な飲食店。煮売屋。
にえちゃ
〔熱茶〕非常に熱いお茶。
にかい
〔二階〕遊女屋の2階をいう。一般に遊女屋では正面に大きなはしご段、2階に遊女と客と顔を合わせるひきつけもあれぼ、客がおひけ(寝にゆく)になる部屋もある。それゆえ2階廻しといえば、遊女屋の用事を取りしきるもの。2階をあずかるともいった。2階をとめるといえば、遊女のためにならない客の出入りをことわること。「おはきもの」に同じ。
にかいかた
〔二階方〕劇場の2階の頭で、権威のあった人。
「七口(くち)の頭から詫びをする事になりましたが、この七口と申しますのは西東の頭、大束(おほふだ)の頭、裏木戸の頭、小札場(こふだば)、二階等と申して七人の頭があります。」(伊坂梅雪「五代目菊五郎自伝」)
にくいたかにはえをかえ
〔憎い鷹には餌を飼え〕苦手の人には金や品をおくれ。
にげど
〔遁途〕逃げ道。「あいつは逃げどをうしなった」。にげは。
にごりや
〔濁屋〕濁酒(どぶろく)を売る大衆酒場。
にざいぐはつ
〔二罪倶発〕2つの罪が一しょに発見されるをいった。
にさんのみずだし
〔二三の水出し〕洗面器のようなものに水を入れ、紙切れを相手にとらせて水中へ入れる。一がでれば洗面器のまわりに積んである賞品が取れるが、二と三では駄目。ところがこの紙切れ、すかして見ると一、二、三がわかるので、客は一ばかり買うと、客に取らせる一は明礬(みょうばん)でかいてあるため、水中で一の字が消え、二か三になり、従って客は全くの損となる。その道では、水入れという由。→「やらずのもなか」
にしきたまご
〔錦玉子〕玉子を白味と黄味に分けて裏越しにかけ、味を付けてから蒸籠(せいろう)でむし、形は好みで角にも細長くもして、会席膳にだす。羊かんまたは伊達巻のようにしたもので、口取の前もの(そえもの)、拍子木(2つ揃えるのでひょうしぎ)にした場合は口取にもするし、また塩焼の前にもつかい、鮑(あわび)の塩むしにそえたりする。三色卵は同様の製法で白、黄、それに青海苔で青く着色して、口取につかう。
にしきで
〔錦手〕上絵附(うわえつけ)の磁器(いしやき)。五色の模様をかいたもの。上絵附とは、陶磁器に釉薬(うわぐすり)をつけて焼いた上に、さらに絵をかいて焼くこと。
にしさじき
〔西桟敷〕舞台へむかって西側の2階の上等な観客席。→「しばや」
にじゅうござ
〔二十五座〕25曲の種類がある里神楽で、東京界隈に多い。いわゆる馬鹿囃子、葛西(かさい)囃子など。
にじゅうさんや
〔廿三夜〕同夜の月を賞する風習は地方に多く、江戸では陰暦726日の月に興じて、廿六夜待と称え、「高きに登り、又は海川の辺酒楼(しゅろう、料亭)等において、月の出を待つ、左に記せる地は分(わけ)て群衆する事夥(おびただ)しく、宵より賑へり」と「東都歳事記」(天保9年刊)はつたえ、高輪、品川、築地、洲崎、湯島天神、九段坂、日暮里諏訪神社、目白不動尊などをあげている。庶民の生活にも「詩」の織り込まれていたことがうなずかれる。
にす
にぶい腕のこと。
「汝(うぬ)が腕の薄弱(にす)な所為(せい)だと言ひなさるか知らねえが、」(小栗風葉「恋慕流(れんぼなが)し」)
にたき
〔煮焚〕おかずごしらえ、御飯ごしらえ。
にたやま
〔仁田山〕まがいもの。仁田山という紬(つむぎ)に似て非なものが、明治時代にあった。
にたりぶね
〔荷足船〕下部は荷船に似て、上部は関船(せきぶね)に似ている小船。河川の運送や渡船などに使用し、漁船遊船にも用いられる。「高瀬船」「五大力」の類。
につき
〔荷付〕親がついて来ること。
にっきんぞうり
〔日勤草履〕毎日やたらにはいた草履。
にっこうおろし
〔日光颪〕日光男体(なんたい)山から吹き下ろす風。男体(なんたい)颪。
にっちもさっちも
〔二進も三進も〕どうすることもできないこと。進むも退くもならないこと。「二進も三進もいかねえ」
にどぞえ
〔二度添〕後妻。
にのまち
2回目の酉(とり)の町(二の酉)の略。美人でない女。一の酉にうれのこった熊手のおかめの意味。
にはちそば
〔二八蕎麦〕→「よそばうり」
にばん
〔二番〕二番煎じ(ふたたび煎じた分)。
にまいめ
〔二枚目〕第2位。色男のことをいう。劇場の看板の右から2番目に名前を書かれる役者のことで、多く恋愛を演じる美貌の役者だったところから一般に色事師(いろごとし)・濡事師(ぬれごとし)・和事師(わごとし)のことをいうようになった。→「つっころばし」。また遊女の位置にも使った。お職(ナンバー・ワン)のつぎの遊女、すなわち助六の芝居の揚巻に対する白玉などのことである。
にやす
なぐる。どやす。
にやっけえし
〔煮焼返し〕食物を煮たり焼いたりし直すこと。
にょい
〔如意〕説法や論義のとき仏家でたずさえるもの。骨、角、竹、木などにて雲の形のものを製し、これに1尺から3尺までの柄(え)を付けたもの。雲形は、仏徒は心という字を篆書の書きようで表現したという。
にょうぼうづくり
〔女房づくり〕女房でない女が女房らしい姿や態度をすること。
にょぼん
〔女犯〕

昔、肉食妻帯を許されなかったころ、僧侶がおかす色情の罪。にょはん。
にらみめ
〔白眼目〕白目を大きくだしてにらむ目付き。下三白眼(かさんぱくがん)。

「どうも白眼目が一通りでない。己(おれ)は気になって成らぬから、」(三遊亭円朝「怪談乳房榎(ちぶさえのき)」)
にをかきいれる
〔荷を書入れる〕責任を持つことをてがみにかく。
にんき
〔人気〕芸能人などの社会的に評判が高い意味のほかに、人柄(ひとがら)、住んでいる人たちの空気という意味もある。じんき。
「もっとも昔は人気が悪いから荒れて居りました。」(三遊亭円朝「緑林門松竹(みどりのはやしかどのまつたけ)ーーまたかのお関」)
にんじんのしらあえ
〔人参の白和え〕赤い顔の女が、濃く白粉を塗ってはげたのをいう。
ぬいもよう
〔縫模様〕刺繍(ししゅう)してある模様。
ヌータ
ぼんやり。間抜け。抜け作。
ぬかぶくろ
〔糠袋〕昔の化粧品の一つに、鶯の糞と共に糠があった。その糠を入れる小さな布の袋で、その袋のまま湯へ浸して使用した。茶番(滑稽かけあい)の俗歌に「そのこと(布子と)あわせにひとえ物、じゅばんの古いの糠袋」。
「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」の横櫛お富が源氏店の妾宅の裏手へ下女をしたがえて湯屋から帰ってくる、その口にくわえられているすてがたい風情ではある。
ぬき
柳川(やながわ)鍋。どじょうの骨をぬいてあるから。天ぷらそばなどの、そばをやめたのもいう。
「天(てん)か玉子の抜きで呑むのも、しみったれなはなしだから、」(河竹黙阿弥「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)河内山と直侍」入谷村蕎麦屋の場)
ぬくぬくと
ぬけぬけと。平気で。
ぬけあし
〔抜け足〕抜き足。そっと音を忍ばせて歩いて来ること。
ぬけさく
〔抜作〕バカな人。
ぬけまいり
〔抜け参り〕父母、主人の許可を得ずして家を抜け出し、伊勢大神宮へ詣でること。古川柳に「御用の書置いろはでおいせ様」といわせている。
「抜詣りからぐれだして、旅をかせぎに西国へ、廻って首尾も吉野山。」(河竹黙阿弥「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)ーー白浪五人男」稲瀬川勢揃の場)
ぬのこ
〔布子〕木綿の綿入。
ぬらくらもの
なまけ者。のらくら者。
ぬれぼとけ
〔濡れ仏〕お堂の外に雨露のぬれるのにまかせ、露出してある仏像。

〔根〕原因。「あのことを根に持って……」などという。
ねあし
〔寝足〕ながいこと長距離を歩かず、すっかり歩行に弱くなってしまっている足。また、くたびれきって早くは駈けられない足をもいう。→「ねごえ」
ねうり
〔値売〕相当の価値で売ることをいう。「急ぎのことで値売をしているわけにいかん」
ねぐさい
〔寝臭い〕しじゅう寝てばかりいて体臭がにおうこと。
ねこ
〔猫〕芸者のこと。猫といったのは、三味線の皮が猫だからで、仮名垣魯文がはやらせた。髭(ひげ)の官員(役人)を髯の見立てで鯰(なまず)と呼び、鯰に猫の戯れる図は、明治ポンチ絵にじつによく見られるところのものであった。小唄に「猫ぢゃ猫ぢゃとおしゃますが、猫が下駄はいて杖ついて絞りの浴衣でくるものか」。また、巾着切(きんちゃくきり)の小僧のことをもいった。現代語でなら、「チャリンコ」。
ねごえ
〔寝声〕(邦楽などで)長く修練をおこたっていたためにだらしのなくなってしまった声。→「ねあし」
ねこぎ
〔根こぎ〕根からそがれてしまうこと。根こそぎ。
ねこじたい
〔猫辞退〕ほんとうはほしいのをことわること。「猫の魚辞退」の略。
ねこのひゃくひろ
〔猫の百尋〕猫のはらわた。よれよれに疲れた帯を「猫のひゃくひろのような帯」といった。
ねこぶし
〔猫鰹節〕猫にやる粗末な鰹節。
ねこみざしき
〔寝込み座敷〕人がねている座敷。
ねこもちゃをのむ
〔猫も茶を飲む〕あんな下らないやつも人並に茶をのむ。生意気だ、笑わせるという意味。
ねこをかぶる
〔猫を冠る〕ほんとうはガラガラな人が、わざとおとなしそうに見せかける。猫っかぶり。
ねじかね
〔捻鉄〕鉄の棒をねじったような形をしたかりんとう。
ねずみこくら
〔鼠小倉〕鼠いろの小倉。(木綿糸を織合わせ、博多織に似る小倉産の帯、袴(はかま)用の織物)。
ねずみじゃがた
〔鼠蛇形〕鼠地へ白で蛇形を抜いた模様、手拭や浴衣の模様に多かった。蛇形は「まとい」にある籠目をちらした図案で、大井川などの沿岸にみられる蛇籠(じゃかご)を模様化したもの。
ねずみなき
〔鼠なき〕口をすぼめて鼠の啼き声に似た声をだし、売女が客を呼び入れなどするときにもちいるもの。大名の女中も下々(しもじも)を真似て、鼠なきをした。
「元日や、主の笑顔を見初(みそ)めてそめて、人に語らず鼠鳴きして、嬉しい春ぢやないかいな。さうぢゃえ」(小唄「元日や」)
ねにふしとらにおきる
〔子に臥し寅に起きる〕午前零時(子の刻)に寝て午前4時(寅の刻)に起きる、つまり正味(しょうみ)3時間くらいしか寝ないようにして働けという戒(いましめ)。
ねん
〔念〕思念。ものおもい。執着。願望。思慕。祈念。「念をつく(念を押す)」「念を使う(心配する)」「念をかける(おもいを寄せる)」「念を残す(執念が残って思い切れない)」「念が切れない(気になってならない)」「念がとどく(丁心が通じる)」
ねんぎょく
〔年玉〕としだま。
ねんごろする
〔懇する〕いい仲になる。情交する。
「おれがねんごろしてやらう。そなたもおれにほれてぢゃげな。」(近松門左衛門「曾根崎心中」天満屋の段)
ねんしゃ
〔念者〕念をいれる人。ものに凝(こ)ってよく気をくばり研究する人。
「例の念者でござりますか、あっちを見たりこっちを見たり、うるさく側(そば)へ行きます。」(河竹黙阿弥「風船乗噂高閣(ふうせんのりうわさのたかどの)」)
同じ字でも「ねんじゃ」と発音すると意味は全く違ってくる。男色の受け身の方である。
ねんじん
〔胡蘿蔔〕にんじん。
ねんとう
〔年頭〕年始。年礼。「年頭にうかがいました」
ねんね
赤ん坊。人形。また、ねること。児童語。
ねんねこうた
〔ねん寝子歌〕子守唄。
ねんばりねんばり
ゆっくりゆっくり。
ねんりょ
〔念慮〕おもんぱかり。おもい。心のこり。
ねんれい
〔年礼〕年始。
のうさつかき
〔納札書〕千社札(せんじゃふだ)を専門にかく書家。一種、独特な筆太(ふでぶと)の書風がある。
のがけしょうぞく
〔野掛装束〕野駈(ピクニック)用の服装。
のきらんぷ
〔軒ランプ〕各戸の軒先に苗字などかいてだしていたガラス(四角のが多かった)のランプ灯。
のけざま
〔仰様〕仰向(あおむけ)。のけぞった形。
のしめ
〔熨斗目〕熨斗目とは、練貫(ねりぬき)の一種で、経(たて)は生糸、横は練糸(ねりいと)をつかって織り、無地で、袖の下と腰のあたりにのみ、縞をあらわしたもの。江戸時代には士分以上の者の礼服として、麻裃(あさがみしも)の下に着用した。この熨斗目を派手にデザインした男性の衣服があり、今日でも浪曲師が高座用に使用してやはり熨斗目と呼んでいる。
のぞきのてぬぐい
〔覗きの手拭〕瓶覗(かめのぞ)きの手拭の略。瓶覗きは、紺屋の藍瓶(あいがめ)をちょいとのぞかせて染めただけの薄浅黄(うすあさぎ)の手拭。
のだァこと
勝手な熱。のたこと。
のだいこ
〔野幇間〕花柳界に籍があって正統の芸名を持ち、諸芸に通じているような存在でなく、ただ口から出まかせをいって客を取巻くもぐりの幇間。落語「干物箱(ひものばこ)」「王子の幇間(たいこ)」へでて来るのがその代表で、芸名は一八が多い。平助という名のは、「ますみ平助」という実在の人で、初代三遊亭円遊はモデルに使った。
のたる
もだえる。のた打つ。
のっけ
最初。のけ(仰)の音便(おんびん)という。
のっぺりくっペり
くっぺりは、語呂の上からのっぺりへそえたことば。
のづら
〔野面〕平気な顔。しゃあしゃあとしていること。「野面でいるのはひどい」
のでんちょうはん
〔野天丁半〕大道でやるばくち。
のどをふっきる
〔咽喉を吹っ切る〕音曲をやる初期の人が、一ど猛練習に声を枯らし、のちに今度はよい発声法にちかい声のでて来ることをいう。
ののさん
神や仏や日や月。のんのんさま。児童語。
のぼせかえる
〔逆上せ返る〕頭がクラクラする。
のみか
〔飲家〕酒家。愛酒家。
のみぬけ
〔呑ぬけ〕底なしに酒をのむこと。
のめずりこむ
入り込む。ふらふらとすべりこむ。
のめり
下駄の前の方の裏面をななめに切って造った形。くだり。
のりあいぶね
〔乗合船〕多人数が共に乗る船。いわゆるオムニバスであって、歌舞伎舞踊「乗合船恵方万歳(えほうまんざい)」にはこの風俗がよく伝わっている。
のりいれ
〔糊入〕米の粉を入れてこしらえた杉原紙(すぎはらがみ)。
のりかけ
〔乗掛〕「乗掛馬」の略。宿場の駄馬(だば)1頭に、人1人と荷20貫とを乗せて運んだ、その馬のことであるが、転じて「乗掛で行く」といえば、その駄馬へ乗って行くの意味。
のりじみ
〔糊染〕血がしみたことをいう。今日の歌舞伎では残酷だといって血汐の使用が大へんやかましいが、大正中頃までは芳年(よしとし)の錦絵のごとく血みどろの演出があり、凄惨そのものであって、血糊(ちのり)、糊紅(のりベに)などといわれた。
のれんつき
〔暖簾附〕その店の暖簾にかけてもきわめつき。その店で一ばんの人気と実力のある人。
「それとは違って鳥屋の暖簾附のお亀はね、此奴(こいつ)は一寸婀娜(あだ)っぽい女で、」(三遊亭円朝「松操美人生埋(まつのみさおびじんのいきうめ)」)
のれんをわける
〔暖簾を分ける〕分店を持たせること。
「江戸の商家にとって暖簾は軍隊の聯隊(れんたい)旗のごとく重要なもので、また大正震災以前の紺暖簾をかけ列ねた商店街は絵であった。暖簾の生地は、あれは何だったらう。恐らく木綿に違ひない。が、手触りは、まるで麻のやうにゴツゴツとしたものだった。紺一卜色に染めた真ン中に、丸に大とか、山形に利とか、それぞれ屋号の一字を白く染め抜いただけの意匠だが、商家では不思議に真新しい暖簾を年の暮に掛け替へる習慣があった。空ツ風の吹きすさぶ師走の町に、紺の匂のプンプンする暖簾が、冬の日を受けて深々と垂れさがった姿は、我々町人の子の目には、いかにも春を待つ心持にふさはしいものだった。(中略)と云っても、毎年新調されるものと思って貰ふまい。いいものを永く使ふといふのが、旧家の誇りであった時代のことだ。一度新調した暖簾は、五年、十年、繕(つくろ)ひ繕ひ使用に堪へる間は使ひ通す。小僧に来て、何年かの間勤め上げて番頭になって、主人に新店(しんみせ)を持たせて貰ふのを、暖簾を分けると云ったくらゐ暖簾を尊んだ時代のことだ。殊には一銭二銭の薄い利をはじき出すのが商法の商ン人(あきんど)が、毎年暖簾を新調する などといふ贅沢(ぜいたく)は許されない。が、そのまた年代を食った、紺の色がすっかり晒(さら)され、折り目に山のはひった暖簾を老舗らしく静かに垂れた店構へといふものが、また一種風情(ふぜい)のあったものだ。」(小島政二郎「蜜蜂」)
のろけっくら
〔惚気っ競〕のろけあうこと。のろけッこ。
のんこのしゃあ
平気で恥ずかしがらない。平気でずうずうしいこと。落語「錦明竹」の聞き違えのおかしみの中に「何をいってものんこのしゃあ」というのがある。
のんの
乗ること。児童語。
パイいち
〔パイ一〕
一杯のもうというとき、それをひっくり返して「パイ一やろうぜ」という。
はいかん
〔廃官〕役人をやめること。
「廃官の列に入り、其職(そのしょく)を免ぜらるれば、」(河竹黙阿弥「富士額男女繁山(ふじびたいつくばのしげやま)ーー女書生」)
ばいた
〔売女〕淫売婦。おのれを裏切って、他へ男をこしらえた女をののしるときにもいう。
ばいとくぶし
〔売徳節〕オイトコぶしのこと。「オイトコそうだよ紺ののれんに、伊勢屋とかいてだんよ」が原歌。
ばいばい
ばいは芝居のばい。役者のこと。
はいふ
〔配布〕犯人の人相その他を細かく記して各方面へ配るもの。
「義賊と噂高札(うわさたかふだ)に、廻る配布の盥越し、」(河竹黙阿弥「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)ーー白浪五人男」稲瀬川勢揃の場)
はいをいためる
〔肺を病める〕からだを壊す。病気になる。
ばうて
〔場打て〕その場の空気におしひしがれて、自信をうしなうこと。
はおりごろ
〔羽織ごろ〕お羽織ごろとも、羽二重(はぶたえ)ごろともいう。いい装(なり)をしていて、ゆすりやたかりをする人。町の紳士。
はおりしゅ(う)
〔羽織衆〕深川芸者。深川芸者だけは羽織を着たから。「はおりし」となまることもある。→「しゅ(う)」
「フン、私(わたい)かへどころか、最前から猪口(ちょく)のやり所もねえやうに、はばかりながらのおそれいるのと、下から出りゃアおそろしい、高(たけ)へ芸妓だのはおりさんだのがきいてあきれらア。」(為永春水「春色辰巳園(しゅんしょくたつみのその)」)
はがみ
〔片紙〕紙片。紙っきれ。
はくちょう
〔白鳥〕白い瀬戸物の徳利。白い鳥に似ているからいう。
ぱくぱくおやじ
〔ぱくぱく爺〕ぱくぱくは、老いて歯の脱けたことであるが、よぼよぼ爺。老いぼれに同じ。
ばくれん
〔莫連〕すれっからし、以前は「あばずれ」に「莫連女」の字を当てていた。
はぐろ
〔鉄漿〕お歯黒、また、「かね」という。婦人の歯を黒く染める褐色、黒褐色の悪臭ある液体で、鉄の小さいきれはしをお茶の汁にひたしたもの。これにふしのこ(自膠木(ぬるで)などの枝葉に生ずるコブを干して粉にした)をつけて歯を染める。
「誰に見しよとて紅鉄漿(べにかね)つけうぞ」(長唄「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」)
はけ
〔刷毛〕髻(もとどり)の尖端。
「刷毛先の間から覗いて見ろ。安房上総が浮絵のやうに見えるわ。」(津打治兵衛「助六由縁江戸桜(ゆかりのえどざくら)」三浦屋格子先の場)
ばけんば
〔馬見場〕

馬場で馬術を見学するための観覧席。のちには競馬の観覧席をも同じく呼んだ。
はこせこ
〔箱狭子・函迫〕婦人のふところにはさんで持つ、一種の紙入。奥女中や武家中流以上のわかい婦女が使用した。
はこぜん
〔箱膳〕塗った箱の蓋(ふた)が膳になり、箱の内部へ食器が入るようになっているもの。抽出(ひきだ)しの付いているのもある。奉公人用のもの。
はさみかじ
〔鋏鍛冶〕鋏専門に造る鍛冶屋。
はさみばこ
〔挟箱〕着替の衣服や年始のおくりものなどを中に入れ、棒をとおして、下男にかつがせた箱。挟竹(はさみだけ)の「しきたり」がのこったという。種々の法式があった。飛脚もこれを使った。
はしける
少しずつ盗むこと。
はしぢか
〔端近〕端の方。端っこ。「そこは端近、イザ先ずこれへ」などと、芝居の武士が訪問者へ対していう。
はしっぱた
〔端っぱた〕端っこ。
はしばん
〔橋番〕橋の番人。橋詰にいた。橋銭(渡り賃)を貰うところもある。身投げをよく助けた。大正中頃まで、この風習はのこっていた。
はしま
〔橋間〕橋の下の橋桁(はしげた)の中間であるが、いまはこうしたいい方をしない。講談の「小猿七之助」や歌舞伎の「鋳(い)かけ松」の名題に見るのみである。
ばしゃまわし
〔馬車廻し〕邸内へのりいれた馬車をつないでおく所。
はしらかくし
〔柱隠し〕柱の表にかけて装飾するもの。板、陶(せともの)、金属、ガラス製などあり、書画がえがかれてある。柱かけ。
はしらどうふ
〔柱豆腐〕馬鹿貝の貝柱と豆腐の鍋。
はずす
〔外す〕手を抜く。すっぽかす。欠席する。「どうしてもはずされない用事」「君がいるとまずいから、ここをはずせ」
はすぱ
〔蓮葉〕考えなし。軽薄。はすは。はすっぱ。
「都育ちは蓮葉なものぢゃえ」(長唄「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」)
ばせん
〔場銭〕テラ銭や各自の張っている金もふくみ(各自の懐中の金をのぞき)賭場にあるだけの金。
はだあいな
〔肌合な〕特別の心意気を持った。
「田舎者にはあアいふ肌合な気象(きしょう)だから肌は許さぬ。」(三遊亭円朝「敵討札所霊験(かたきうちふだしょのれいけん)」)
はたし
〔ハタ師〕仲買人(ブローカー)。明治56年ころ、兎が大流行したときの大津絵に「かごを立ちぬいて、兎の姿が目に立たば、さげかごに身をうつし、馴れぬはた師の手にかかり」とある。道具屋の仲買もハタ師という。
「はた師とあるのは特殊の名称らしいが寡聞(かぶん)まだ審(つまびらか)にせぬ。ただ前後のつながりで推(お)すと、仲買のやうなものではないかと思はれる。」(鏑木清方「兎後記(うさぎこうき)」)
はだしまいり
〔跣足参り〕跣足で神仏へ参り、祈願すること。
はたもと
〔旗本〕1万石以下の徳川につかえる武士のことであるが、ただ家来という意味に使うときがある。
はちざかな
〔鉢肴〕鉢肴は、鉢に盛ってだす肴。取り肴、挟(はさ)み肴ともいう。
はちじょう
〔八丈〕

東京都八丈島の植物染料で、黄や鳶や黒等に生糸(きいと)を染めて縞(しま)に織った、平織(ひらおり)の絹。
はちまえ
〔鉢前〕手水鉢(ちょうずばち)の前。
はちもんじ
〔八文字〕遊女の道中(著名な遊里で一流の遊女がある一定の日に盛装して廓内を練り歩くこと)の足の踏みかた。
はぢゃや
〔葉茶屋〕茶を売る店。大正年間までこういった。今日は料亭というが、昔は料理屋を料理茶屋、略して茶屋といったので、区別するためにとなえた。「生薬屋(きぐすりや、薬店)」のたぐい。
はつ
〔初〕はじめてその遊女屋へあがること。初会(しょかい)。
はつかしょうがつ
〔廿日正月〕120日をいう。京阪地方では、新年の御馳走につかった塩鰤(しおぶり)の骨や頭や尾をこの日まで貯えておいて、当日、大豆、酒粕、大根と煮て喰べるので、骨(ほね)正月ともいう。
はっしゃまえ
〔発車前〕でたらめ(チャランバラン)をいう人。明治時代の汽車は、発車前に駅夫が鈴を振った。その昔にたとえていう。
はっすん
〔八寸〕高さ8寸ある足のついた膳。八寸膳。
ばったりにうる
〔バッタリに売る〕叩っき売る。バッタに売る。
ぱっち
股引(ももひき)の長くて足頸(あしくび)まであるもの(朝鮮語Pachi
ばっちい
きたないこと。児童語。
はっつけめ
〔磔め〕お仕置になるほどの太い野郎めとののしることば。
「感が悪くって泥坊が出来るかえ、このはツつけめえ。」(三遊亭円朝「菊模様皿山奇談」)
バッテイラ
ボートのこと。大阪寿司の鯖(さば)ずしをバッテイラというは、小さく切らない前の形が似ているからである。
ぱっぱ
煙草、キセルをいう。児童語。
はつはつしい
〔初々しい〕新しい。
はつはつしく
〔初々しく〕春早々(そうそう)。お早々(はやばや)という意味にもなる。
はっぽうにらみ
〔八方睨み〕どの方面から眺めてもその方面を睨んでいるように見える竜の絵などにいう。江の島弁財天の天井にもある。
はつめい
〔発明〕悧巧(りこう)。「このお子さんは発明ですね」
はではでしい
大そう派手な。
はな
〔端〕もののはし。末端。もののはじまり。発端。「はなの方にばかり寄せるな」「はなから昨日は騒いでやった」

ばな
〔○○端〕ちょうどしかかったところ、なりかかった状態。「上り端」「上潮端(あげしおばな)」
はながい
〔花会〕幇間や博徒が廻状(案内文)を廻し、また手拭などを呈し、幇間の場合は諸芸人に無料の上、祝儀持参で、出演の演芸会を催し、その収入を全部自分がもらってしまう。博徒の場合は全国関係筋の親分たちがこれまた祝儀をたずさえて出席、花やかな会合を催す。「天保水滸伝ーー笹川の花会」に見られる情景のごとくにである。祝儀を義理ともいう。講談・落語・浪曲の社会では、花会を「読切り」という。一席読み終ったまま、その報酬を求めぬの意味。
はなガス
〔花ガス〕青白い光りを放つガス灯で、劇場の天井などに設けられていた。
はなかぶり
〔鼻冠〕鼻先を隠すように冠ること。切られ与三郎、因果小僧、鼠小僧、小猿七之助といった類の男たちがもちいている。明治になってからでも黙阿弥の「島鵆月白浪(しまちどりつきのしらなみ)」の松島千太に見る。
はなしのちゅう
〔話の中〕話の途中。「お話の中だがネエ」という風につかう。
はにあう
〔歯に合う〕口にあう。気に入る。適する。
はね
〔打出〕終演。

はねつるべ
〔撥釣瓶〕柱の上に横木を渡し、一方のハシに釣瓶を附け、他のハシに石などをしばりつけて、その重みで釣瓶をはね上げ、水を汲むようにしたもの。明治末年ころは、本郷5丁目辺の町家の井戸でも使っていた家があったことを、筆者幼年にして現に見た。
「町に育った今の女は井戸を知らない。刎釣瓶(はねつるべ)の竿(さお)に残月のかかった趣(おもむき)なぞは知ろう筈もない。そう言う女が口先で『重井筒(かさぬいづつ)の上越(うえこ)した粋(すい)な意見』と唄った処で何の面白味もない訳だ。」(永井荷風「雨瀟々(あめしょうしょう)」)
はねばし
〔撥橋〕

吉原のまわりにあったおはぐろ溝(どぶ)にかけられてある板橋。遊女が逃げないようふだんははね上げてあって、廓の内の者が用事のあるときだけ、それをかけて渡って行く。これは外から内へ渡すことはできず、廓の向う側には横板をうけとめる台があるのみで、必要に応じて廓の者は紐をあやつってこの橋をおろしてつかったものである。
はばもある
〔幅もある〕ハバがきく。いい顔である。いい存在である。
はま
〔浜〕横浜の略。

はまあきない
〔浜商い〕横浜でやる商取引。外国を相手ゆえ、利益も多く、金のやりとりも荒っぽかった。
はまぐりのすいもの
〔蛤の吸物〕婚礼の料理には、尾頭(おかしら)付きの肴と蛤の吸物をだすのが常例であった。「怪談小夜衣(さよぎぬ)草紙」では、浜田源二郎の婚礼にうらんで死んだ遊女小夜衣の亡霊が、当夜の蛤吸物をみな喰べてカラにしてしまう怪異がある。
はまぐりば
〔蛤刃〕刃と刃の間にふくらみを持たせた刃物。丸刃(まるば)のこと。
はまやき
〔浜焼〕鯛を塩釜の中に入れてむし焼にし、または炉(ろ)にかけて塩焼にしたもの。
はまる
女郎などに迷い込む。
はものざんまい
〔刃物三昧〕刃物沙汰。傷害行為。
はやおけ
〔早桶〕棺桶の下級品。短時間に簡単に造れたゆえ、早桶の名がある。
はやがくもん
〔早学問〕簡単にものをおぼえること。
はやす
細かくきざむ。
「お前が得手(えて、得意)の香の物を細かくかくやにはやしてうまくね。」(三遊亭円朝「月謡荻江一節(つきにうたうおぎえのひとふし)」)
はやだち
〔早立〕早朝出発の旅人。
はやなべ
〔早業〕早く起きてしごとをすること。
はやふね
〔早船〕前から申し込まないでもすぐでる船。
はらあわせのおび
〔腹合せの帯〕2枚の布の裏を帯芯(おびしん)に合わせて綴じた女帝。昼夜帯。
はらいかた
〔払方〕支払い。→「かた」
「晦日(みそか)のことで用もあるから払方をすませ、家で一ぱい飲むといふことをききました。」(三遊亭円朝「業平文治漂流奇談」)
はらがいえる
〔腹が癒える〕心持がすむ。胸がスーッとする。
「ずたずたに切りさいなんでも、何のこれで腹が癒やうぞいの。」(竹田出雲他「仮名手本忠臣蔵」与市兵衛内勘平腹切の場)
ばらがき
〔茨垣〕淫らで行儀のよくないこと。「あの女はばらがきだ」。茨(いばら)の垣根で、だれにでもひっかかるという意味。

はらからの
〔腹からの〕生まれついての。
はらさんざん
〔腹散々〕腹にあるったけ。さんざっぱら。
ばらす
人を殺す。女を売る。秘密を曝露(ばくろ)する。
はらにのる
〔腹に乗る〕同腹(どうふく)になる。共謀。腹をあわせる。
はりまぜ
〔貼雑〕貼交(はりま)ぜ屏風の略。諸家の式紙短冊の類を取りまぜて貼った屏風。
はりみせ
〔張店〕夕方になると遊女が化粧をこらし、盛装して、格子をめぐらした店先にならび、ひやかし(ただみて歩くだけの客)にも煙管(きせる)をだし、一服のませた。遊びたい客は、その中から好きな女を見立てた(えらぶこと)。明治末、故丸山鶴吉が警視総監のときに、廃止した。→「ひけすぎ」
はるけ
〔春気〕春先ののぼせ。
ばれになる
駄目になること。
「亭主があるとあけすけに言ってしまへば身も蓋(ふた)も、ないて頼んだ無心迄、ばれになるのは知れたこと。」(河竹黙阿弥「木間星箱根鹿笛(このまのほしはこねのしかぶえ)」)
ばろうのくし
〔散斑の櫛〕鼈甲(べっこう)などに浮いている斑(まだら)が面白く飛んでいる櫛。
ばん
〔番〕勤務(主に千代田城への)。御番。勤番。家督をついで出仕(しゅっし)の資格を得るのを「番人り」、自分の勤務時間が終るのを「番明け」「明(あけ)番」「番引(び)き」「番退(び)け」「番帰り」、勤務多忙を「番が込む」、つとめの疲れを「番疲れ」。
ばん
〔番○○〕ふだんの○○。そまつな○○。「番傘」「番下駄」「番差(常用の帯刀)」「番茶」「番手桶」「番夜具」

はんえんさつ
〔半円札〕50銭紙幣のこと。
はんがいせき
〔半会席〕手軽にゆける中流料理店。上等な料亭を会席茶屋といった。
ばんがた
〔晩方〕夕方よりややおそく。
はんがっぱ
〔半合羽〕享保年間から流行の丈(たけ)の短い合羽。
バンカラ
〔蛮カラ〕ハイカラの反対。野蛮な人や姿をいう。太神楽(だいかぐら、曲芸)の小林辰三郎と新坊は、バンカラ一座となのり、評判をとった。
はんぎょくや
〔半玉屋〕雛妓(おしゃく、幼い芸者)を専門に関係する男をいう。
はんぎり
〔半桶〕飴屋などが商品を入れて肩からかけて歩く桶。普通の桶の半分ぐらいであるところからいう。
はんきれ
〔半切〕書簡用の丈短く横にながい和紙。
ばんけい
〔晩景〕晩方。夜。
はんげんぷく
〔半元服〕女が嫁にいくと眉を落し、歯を鉄漿(かね)で染め、元服といった。それを眉だけ落している場合をいう。また丸髷(まるまげ)だけゆった場合もいう。
「西洋風の半元服に、根の下(さが)った丸髷、」(河竹黙阿弥「千種花月氷(ちぐさのはなつきのこおり)」)
ばんごと
〔番毎〕始終。「あいつは番毎しくじっている」などという風につかう。
はんしょうはんしょう
半死半生(はんしはんしょう)のなまり。
ばんしん
〔番新〕番頭新造の略。吉原第一流の遊女について、一切の取りさばき、参謀の役をつとめ、自分も色を売ったもの。→「しんぞう」
はんすけ
〔半助〕50銭のこと。また大阪では鰻の頭を焼いたのを半助という。
はんぞう
耳盥(みみだらい)のこと。左右の角のような柄(え)がでた「たらい」で、口や手を洗うためのもの。漆で塗ったのが多い。つのだらい。
はんだい
〔盤台〕食物を盛った盤をのせた台。盤とは4つの足がある机で朱塗、横に長く、上面はへりが高く中が低い。いまの食膳の類。台盤(だいばん)。
はんだい
〔判代〕保証人(売女の)として判をおしてやるその料金。→「はんにん」
ばんたろう
〔番太郎〕自身番に附属している小使。いかに低い身分であるかは、「八幡太郎と番太郎ほどちがう」ということばが、昔あったことでもわかろう。番太。どうかすると今でも交番の巡査を「番太野郎」とののしっているよっぱらいがある。
はんチク
半ぱのこと。「あいつは半チクだ」
ばんづけ
〔番附〕芝居のプログラムの一種。新聞紙の半分くらいを横にした大きさで上半分は舞台面をえがき下に役割(キャスト)をのせる。相撲の一覧表もいう。
ばんっさん
「番頭さん」のなまり。ばんっさん、おッ師匠(しよ)さん、乳母(ばあやあ)、みな江戸人独特の呼び方、佐藤さんをサッさん、岩佐さんをイワッさんなどもみなこれに等しい。
はんてんき
〔絆纏着〕職人のこと。「あっし共は絆纏着でござんすから」。近頃でははんてんぎというが、江戸前では「き」が正しい。
ばんとう
〔番頭〕商店の支配人。殊に経済都市たる大阪では、番頭の地位は主人よりも上にあった。
円朝物その他の番頭がしばしば大阪弁なのは、江戸時代には経済顧問として、特に上方の商家からその道のベテランをよび迎えたからで、講談の故人神田伯竜は、大阪風の手堅い商業振りを学ぼうとして、ことさらに番頭には大阪弁を使わせた店があったといっていたし、二代目小さん(禽語楼(きんごろう))の「口入屋(くちいれや)」も番頭は大阪弁である。同じ落語でも「おせつ徳三郎」「火事息子」などのは、江戸人。
また故中村吉右衛門におけるいまの中村吉之丞、五代目菊五郎における先々代尾上松助のごときは、「番頭」「大番頭」とよばれたのは身近に仕えていることにもよるが、始終その一座にいてワキ役ですぐれた腕のある役者は、座長の番頭役という意味でこうよばれたのである。
はんどざ
〔半土左〕水死しかけた人。半分土左衛門だという意味。
はんどや
〔半病床〕旅芸人が困って宿に引き籠っているのを「とや」というが、金はあっても病人その他のことで出発できないのをこういう。トヤは鳥屋で、鳥が小屋に入っているのに見立てていう。→「とや」
はんにん
〔判人〕印判をおして遊女の身売りに証人となる人。ぜげん。→「ぜげん」。「仮名手本忠臣蔵」六段目(ただし今日の歌舞伎の演出に出てくる)源六のように、文字や法律に暗い庶民に寄生して生血を吸う悪質な人間も多かったようだ。
はんはたご
〔半旅籠〕片手間にやっている旅宿。
はんはつせいてん
〔半髪青額〕半髪は、額(ひたい)と項(うなじ)の髪をそり、廻りの髪を頂きで結び、さらに曲げて髷(まげ)と刷毛(はけ)をつくったもので、一に野郎髪(やろうがみ)。青額は、わかわかしく青く剃り上げた額。
はんぼう
〔半棒〕町家で護身用に置いてある六角又は八角の赤樫(あかがし)の棒。
はんま
〔半間〕間の抜けた。半ちく。邦楽の間(ま)が半分ずつおくれることからいう。
はんみょう
〔斑猫〕鞘翅目斑猫科に属する小さい甲虫(かぶとむし)。首は金糸いろ、胸の前部は赤糸いろ、つばさは紫黒色で美しく、はげしい毒をふくむ。→「ちんどく」
ばんや
〔番屋〕番太郎が自身番のそばにいる家。今の「ポリス・ボックス」というところである。→「ばんたろう」
びいどろ
〔硝子〕ガラスの古いよび方。ポルトガル語のなまり。
びいびい
帯のこと。児童語。
ぴいぴいたぼ
〔ぴいぴい髱〕ぴいぴいはつまらないとか低級とかいう意味で、下等な売笑婦。
ひうちぶくろ
〔火打袋〕火打道具を入れる袋。
ひおおい
〔日覆い〕劇場の舞台の天井からつりおろしてある横に長い黒布。一文字(いちもんじ)ともいう。
ひかがみ
〔引屈〕膝の後のくぼんでいるところ。
びかちょう
〔鼻下長〕女にのろい人。鼻の下が長い人。「あいつらは鼻下長連(れん)だ」
ひきあい
〔引合〕連累(れんるい)。共犯。
ひきごと
〔引事〕説明のために他の文句を引用すること。講談の一節にひかれるエピソードのことをも、いう。
ひきずり
〔引摺り〕無精な女。
「ええ、おめえのやうな曳摺(ひきず)り嬶(かかあ)が『によろによろ』してゐたって何の役に立つものか。よし原の煤掃(すすは)きとは訳が違はあ。」(岡本綺堂「権三と助十」)
ひきずりもち
〔引摺餅〕賃餅(ちんもち)の一種。数人が組んで餅つきの道具をたずさえ、注文を受けた家でついた餅。
ひきだちのせっちん
〔○疋立ちの雪隠〕○戸つづいて建てられてある総後架(そうごうか)。→「そうごうか」
ひきだて
〔○疋立〕○疋で引く馬車。○頭立に同じ。

ひきつけざしき
〔引付座敷〕遊女がまず客に顔を見せ、飲食などする部屋。ひきつけ。→「にかい」
ひきつけじょう
〔紹介状〕紹介してやる手紙。
ひきつける
〔引き付ける〕呼び寄せてひいきにする。
「大事な男をそそのかし、夜ひるとなく引付けられ、しやうばいごとはうはの空」(新内「若木仇名草(わかぎのあだなぐさ)ーー蘭蝶」お宮口説(くどき)の段)
ひきてぢゃや
〔引手茶屋〕廓にあって、遊客を遊女屋へ送り迎えをし、また酒宴をなさしめる茶屋。第一流の遊女屋(正店(おおみせ))は、引手茶屋からおくられて来る以外は決して客にしなかった。また廓の情調を喜んで、引手茶屋で芸者や幇間をあげ、ここだけで遊んでかえる人々も少なくなかった。今日も吉原に松葉屋がのこっている。
ひきふだ
〔引札〕広告のこと。ちらし(人々へまきちらすから)ともいった。
「引札代りにお客様を、極(ご)く大事に致しまする。」(河竹黙阿弥「綴合於伝仮名書(とじあわせおでんのかながき)ーー高橋お伝」)
ひきゃくせん
〔飛脚船〕郵便船のこと。
ひきゃくや
〔飛脚屋〕島屋佐右衛門は日本橋瀬戸物町(三越本店のななめに向う裏)で、上方方面を専門に月3回往復した。三度飛脚のいわれ=飛脚の姿は、脇差を1本差して雨合羽(あまがっぱ)、脚絆草鞋(きゃはんわらじ)ばきで、小形の三度笠をかぶったと今井卯木「川柳江戸砂子(えどすなこ)」にある。またおなじ著者は、他に京屋弥兵衛(室町)、和泉屋甚兵衛(佐内町ーー日本橋通3丁目と4丁目の間の東横)、大坂屋茂兵衛(日本橋西河岸)をあげ、古川柳に「十七屋」と飛脚屋をいうのは旧暦十七夜の月を立待月(たちまちづき)と呼ぶゆえ「忽ち着き」の洒落(しゃれ)の由をしるしている。「十七屋日本の内はあいといふ」の川柳があるように、店によって受持ちの地域があったといえよう。
「昔は日本橋の上に戸板を出し、飛脚見世とて遠近諸国への手紙を取扱ひ、渡世となしたるが、至て瑣細(ささい)の業なりしが、太平に従ひだんだん繁昌して、今は島屋、京屋を始め、其余飛脚問屋の見世は、何れも広大になりしなり。」(喜多村香城「五月雨草紙」)
ひぎれ
〔日切〕期日。「日ぎれの仕事だ」という風につかう。
びけい
〔美形〕美人のこと。
「始の程は何者(なにもの)の美形とも得知(えし)れざりしを、」(尾崎紅葉「金色夜叉」)
ひげさん
〔髭さん〕明治の官員(かんいん)とか軍人とかは、八の字ヒゲをピンとはやしていた。その人々のことをいう。→「かんいん」
ひけすぎ
〔引過ぎ〕吉原遊廓では午後10時に大門をしめてくぐりから出入させ、12時に遊女は張店(はりみせ、張見世とは、夕方に遊女が盛装して店に並ぶことで、明治末年に亡びた)を退く、これをヒケ、その以後をヒケ過ぎ、午前2時を大ビケ、さらにその以後を大引(おおびけ)過ぎといった。
又、四つ(午後10時)には鐘と共に拍子木は四つ鳴らさない。ヒケの鐘のとき四つの拍子木を鳴らす(これを引け四つ)。遊女が張見世から退くとすぐ九つ(午後12時)の拍子木を鳴らした。
「もし星影さん、宵と違って引過ぎは、静かでよいぢゃござんせぬか。」(河竹黙阿弥「曾我綉俠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)ーー御所の五郎蔵」廓内夜更の場)
ひさしかぶり
〔久しか振り〕久しぶりのこと。
ひざともだんこう
〔膝とも談合〕困った場合には、自分の膝をも相談相手にするの意味。
ひしぎだけ
〔ひしぎ竹〕ねじけた竹。あばらやの下見などに使われた。→「したみ」
ひしさ
〔菱左〕菱形(ひしがた)の左半分だけを見せた紋。
ひじつ
〔日日・期限〕期限を切った日のこと。「ひじつをきめよう」
ひそう
〔撫育〕なでるように可愛がって育てる。
「一粒種(ひとつぶだね)の事なれば、なほさらに撫育されるうち、」(三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」)
ひだりまえ
〔左前〕運が悪くおちぶれて行くこと。
ひだりまがり
〔左曲り〕人間がとび上がり(オッチョコチョイ)で変っていること。
ひだるい
〔飢るい〕ひもじい。
「ハハア、聞えた。貴様はひだるいの。丁度よい時事に担ぎめが来たによって、どさくさ紛(まぎ)れにうどんをしてやらうとな。」(津打治兵衛「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」三浦屋格子先の場)
ひっくりかえる
裏切る。
ひっこうかき
〔筆耕書〕今日では、ただ筆耕という。
ひってん
〔必迫〕四方八方が貧しくつまってしまって困ること。
「必迫に必迫を重ねた際とて、到底五十と纏(まとま)った金の調(ととの)ふべき理(はず)が無い。」(小栗風葉「恋慕流し」)
ひっときの
〔引解きの〕解きかけ(着物の)。
ひっぱりのしき
〔引張りの宿〕街へでてお客の袖をひいて来る売女の宿。
ひつぽくだい
〔筆墨代〕昔は宿帳を宿の番頭が記すたび134文の記名料を筆墨代と称えてとられた風習があった。
ひでり
〔旱魃〕異性にめぐまれない状態。「おとこひでり」「おんなひでり」という。
ひと
〔人〕この「人」は、「いやだあね、ほんとに」もしくは「人を馬鹿に」又は「何を馬鹿を……」という位の、ほんの軽いすてぜりふで、旧東京人は軽妙にこれをつかった。
ひといっすん
〔人一寸〕人のからだはたった一寸で大へんなちがいがあるという意味。
ひとがら
〔人柄〕上品。品のいいを「人柄な」、上品な人を「お人柄」。
「なるほど世間はむづかしい。友禅入りの振袖で人柄作りのお嬢さんが追ひ落しとは気がつかねえ。」(河竹黙阿弥「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」大川端庚申塚の場)
ひとざかしい
〔人ざかしい〕人の出入りの激しい。「人さがしい」ともいう。
ひとしごと
〔他裁縫〕方々の家の仕立物(したてもの)を引き受けてぬうこと。
ひとだち
〔人立〕人がたかること。
ひとちょうば
〔一丁場〕一と区間。ほんのわずかの距離。→「ちょうば」
ひとつぶもの
〔一粒者〕ひとりしかない子。一粒胤(ひとつぷだね)。
ひとにひとおにはない
〔人に人鬼はない〕世間に鬼のような人ばかりはない。渡る世間に鬼はない。
ひとぬし
〔人主〕遊女に売る折の親代り。
「女房が人主となり、判代(はんだい)も金利(きんり)も取らず、」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)
ひとはしかける
〔人橋かける〕人を間に立てて交渉。
ひとべらし
〔人滅し〕奉公人を減らすこと。
ひとまちがい
〔人間違〕人ちがい。
ひどめせきゆ
〔火止石油〕
「初期その取扱を誤りて屢々(しばしば)火災の原因を為す。左に、明治十年八月十五日の〔読売〕に、東京向島須崎村千歳亭の名にて広告せる安全火止石油の一例を挙ぐ。『明治四年六月足立徳基発明いたし、東京府庁に於て検査の上官許(かんきょ)を蒙(こうむ)り、式部寮御用掛火止石油製造仰付(おおせつ)けられ、宮中一般御採用相成り品にて、有明に致し置いても燃込(もえこみ)の気つかひ無し云々』といひ、又一種蠟燭油とて、原質気発油(げんしつきはつゆ)をやわらかに製し器中に入れて蠟燭の代りに、燭台提灯等に用ゆべき様にせる物あるを広告せり。」(石井研堂「明治事物起原)」)
ひとりぐち
〔一人口〕ひとりぐらし。「一人口は喰えないが二人口は喰えるというくらいだから、お神さんをお持ちなさいよ」
ひとりゆき
〔独歩〕一人前。ひとり立ち。
ひとをツけえ
〔人を使え〕人をバカにしやがるなとか、なめるなとかいうような場合につかう。
「なんだ、まだ湯はあかねえか。朝寝なやつらだぜえ。エエ人をつけえにした。」(式亭三馬「浮世風呂」)
ひなたくさい
〔日向臭い〕日光の直射を受けがちの人や物は衣服や髪などがかわいた独特の匂いを発散する、その形容。転じて、しっとりした情趣を身につける前の少女を表現することもある。
ひのまわり
〔火の廻り〕火の用心。
ひのものだち
〔火の物断ち〕→「たちもの」
ひはかた
〔緋博多〕博多帯の緋いろのもの。男性用としては花やかすぎたが、特別にしめる人もあった。
ひばやい
〔火早い〕火事早い。
ひふ
〔被風・布〕女が着物の上に羽織るもの。羽織に似ているが、左右に立(たち)えりをつけ、えりの廻りにさらに小さいえりをつけた。色紐を編んだアクセサリーが、えりの前に4つついていた。
びふ
〔美婦〕美人。五代目三升家小勝(先代)の落語「熊坂」で常盤御前を源家名題の美婦といい、美婦(岐阜)は地震が多いからイヤだと、明治の濃尾大震災にかけて洒落をいった。
ひぶみ
〔日文〕毎日てがみをやること。「日文矢文(やぶみ)」ともいう。
ひぶん
〔非分〕いけない点。
ひぼ
紐(ひも)のなまり。さらに「しぼ」ともなまる。
ひまち
〔日待〕陰暦105日夜、精進潔斎(しょうじんけっさい)をして起きつづけ、朝日をおがむ。「だいまち」ともいう。
ひまどれる
〔暇取れる〕時間がかかる。
ひゃくしょう
〔百姓〕洗錬(せんれん)された文化人を以て自任した江戸人は、ユーモアの分からぬ地方人をこのようにののしり、江戸人同士でも話の分からぬ人たちを「百姓」といった。現に震災前後の劇場の立見ではツボはずれな声を舞台へ投げるものがあると「百姓黙れ」とどなった。また単に「百」とだけいうこともある。「俺はそんな百じゃねえや」→「いな」
ひゃくたたき
〔百叩き〕昔は、出獄のとき役人が出獄者を杖(つえ)で100回叩いて、のちのちへの戒(いましめ)とした。しかし役人へ金一封の届いている囚人の場合は「101825」という風に数を飛ばして数え、打たれる回数を少なくしてやった。→「おもたたき」「つる」
ひゃくどのさし
〔百度の縒〕神へ願事をしてその宮の廻りを日に100回廻ることを百度を踏むというが、その数をかぞえるためのさし。→「さし」
ひゃくまなこ
〔百眼〕厚紙でいろいろの人の顔の形をつくり、目にあたるところばかりくり抜いて見えるようにしてあるおもちゃ。同一人の泣いたり笑ったり怒ったりしている表情が表と裏に描いてあり、また男女の顔が両面にかかれていて一々それをひっくり返して一人芝居をみせる芸人もいた。
ひゃくまんだら
〔百万陀羅〕百万べん。百万べん真言陀羅尼(しんごんだらに)をくりかえす仏事の「百万陀羅尼」の略。転じておなじことを何度もくりかえすこと。→「だらにすけ」
ひゃくりょうのかたにあみがさ
〔百両の抵当に編笠〕気は心だから、どんなわずかの抵当(ていとう)でも入れておくという意味。
ヒヤヒヤ
演説をほめることば。英語のhear(聞く)の命令形を重ねて「聞け、聞け!」つまり「謹聴(きんちょう)、謹聴!」「賛成、賛成!」と使ったのである。
ひやめしをくう
〔冷飯を食う〕居候(いそうろう)をする。
ひやわい
〔庇間〕ひあわい。近寄った家の庇(ひさし)と庇の間。
ひょうぎ
〔評議〕相談。
びょうぶひとえなか
〔屏風一重中〕同衾(どうきん)中。遊女とねている床の中。高級な遊女屋のそうした部屋には、床の廻りに高い屏風が立て廻してあるからである。
「屏風一重中でいった事は皆、反故(ほご)同様だ。」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)
ひょうろうかた
〔兵粮方〕生活の全部を受け持ってくれる人。食生活の面倒を見てくれる人。→「かた」
ひよく○○
〔比翼○○〕比翼とは2羽の鳥がたがいに翼を並べることをいう。中国の伝説には、おすめす2羽でありながら翼がくっついていて、いつも一体で飛ぶ「比翼の鳥」というものがあった。玄宗皇帝と楊貴妃とのロマンスをうたった白楽天の「長恨歌」という詩には、「天に在りては作(な)らん比翼の鳥、地に在りては願はくは為(な)らん連理の枝」とこの鳥が美しくよみこまれている。この詩は非常な名作で多くの人々に愛誦されたから、後々にはただ「比翼」というだけで恋人や夫婦の間柄、恋の誓いの堅さなどをあらわすようになった。すなわち、情死したり、深くちぎり合って死んだりした男女の墓を「比翼塚」、おたがいの定紋を恋人同士が組み合わせてつけるのを「比翼紋」、それをおもしろく散らした図案を「比翼散らし」、1冊の書物をむつまじく2人で読むのを「比翼読み」、中央でつながれ、折りたためるようになっている2枚分のござを「比翼茣蓙」という。
ひょぐる
おかしい行動の人。「ひょうげた人だ」と昔はいった。小便をすることをもいう。
ひよけち
〔火除地〕火災や地震のときの避難のため、町中のところどころに大きな空地をこしらえ、平常は曲馬や大道芸人がかかって客を集めた。
ひよめき
〔顖門〕頭の一ばんやわらかい部分ーー厳密にいうと、赤ん坊の頭蓋骨のまだかたまらず、呼吸するたびにヒクヒク動くところ。
ひょろぬけ
(下痢などで)全部体内から排出してしまったのでヒョロヒョロすること。
ひょんな
万々一の。おもいもかけない。妙な。
ひらあぐら
〔平胡座〕普通のあぐら。
ひらき
〔開き〕木戸。
ひらきがつく
〔開きがつく〕気が付く。我に返る。覚醒したり心気爽快(しんきそうかい)になったりすることを「胸が開く」という。
「救命丸(きゅうめいがん)を一と粒か二た粒のますとぢきに開きがつく。」(三遊亭円朝「怪談乳房榎(ちぶさえのき)
ひらける
〔開ける〕心が洗錬されている。野暮でない。町が繁華になる意味のひらけるから転じて、進取的な性格の人をもいう。
ひらばかま
〔平袴〕半袴(長袴でない普通の袴)。
ピラミイデ
エジプトのピラミッドのこと、明治東京語はこう発音し、大石塚とかいてカナをふった。
ひるがえり
〔昼帰り〕遊んで朝かえるのを朝がえりといったが、さらに午後まであそんでかえる人々をいう。
ひるとんび
〔昼鳶〕小泥棒。→「とんびとろろ」
ひろ
〔披露〕今日は「ひろう」と発音する。
ひろいみち
〔拾い道〕盲人が杖で道をつついて判断しながら歩くこと。
ひろうな
〔鄙陋な〕取りちらした。むさくるしい。不潔な。
びろくする
〔微禄する〕落魄(らくはく)する。おちぶれる。
ひろそで
〔広袖〕袖口の下の方を縫い合わせない袖。
ひろちゃく
詮議(せんぎ)。
「これからだんだん『ひろちゃく』いたしましたが。」(三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」)
ひろぶた
〔広蓋〕着物を入れる函の蓋(ふた)にまねて造った食物を運ぶもの。
ひんきゅうぜん
〔貧窮然〕貧寒(ひんかん)とした。貧しく困り果てた。
ひんきゅうもの
〔貧窮者〕貧乏人。
びんた
〔鬢た〕首。昔の薩摩武士は「ビンタばちょちょ切るぞ」などといった。兵隊生活で顔をぶたれることも、ビンタをくらう」という。
ひんなり
すんなり。
「評判の美男で、婀娜(あだ)な、ひんなりとした、」(三遊亭円朝「菊模様皿山奇談」)
ひんのぬすみにこいのうた
〔貧の盗みに恋の歌〕貧すればこその盗みと、恋すればこそのその感じをうたう歌。自然の心理の成行(なりゆき)をいう場合に引く言葉。
ピンヘット
明治中頃にはやった西洋煙草。
「美人絵の煤(すす)けたピンヘットの看板を掛額にして、」(小栗風葉「恋慕流し」)
ぶあいさつ
〔不挨拶〕いやな態度。
「金が廻らなくなったの、有松屋へ行っても不挨拶をするゆゑ来にくくなり、」(三遊亭円朝「松と藤芸妓(げいしゃ)の替紋(かえもん)」)
ぶあしらい
〔不待遇〕冷遇。ひどいもてなし。

ぶいき
〔不意気〕野暮。「不意気者」

ふう
〔風〕柄(がら)。たち。「あの人は風が悪い」

ふういん
〔風韻〕風流の心。

「エエてめえは風韻のねえ男だぜ。我国に居てさへ名所旧蹟はわざわざ路用を遣(つか)って見にゆくじやアねへか。」(仮名垣魯文「西洋道中膝栗毛」)
ふうぞく
〔風俗〕警察の風俗係(風紀係)の略。
ふうてんびょういん
〔瘋癲病院〕きちがい病院のこと。巣鴨にあった。→「すがも」
ふうふう
〔灯々〕灯のこと。児童語。

「ソラ行灯(あんどん)に灯々(ふうふう)がついて居るよ。泣かずに寝んねなせえ。」(三遊亭円朝「怪談乳房榎(ちぶさえのき)」)
フウハア
うんうん。うなずいている姿。
ふえんぎ
〔不縁起〕縁起が悪い。
ふかいか
〔不開化〕時代おくれ。新しい時代にめざめないこと。
「神仏を祈るとは、さりとは不開化と見受けますて。」(河竹黙阿弥「富士額男女繁山(ふじびたいつくばのしげやま)ーー女書生」)
ふかがわねずみ
〔深川鼠〕薄浅黄(うすあさぎ)にほんの少し鼠いろを含んだもの。
ふかがわのはんだい
〔深川の盤台〕深川はバカ貝が多くとれたゆえ、バカですれている人をいう。夏目漱石「吾輩は猫である」に「行徳(ぎょうとく、千葉県行徳)の盤台」とあるも同じ。
ふかくご
〔不覚悟〕うかつな人。肚(はら)のすわっていないこと。
ふかげん
〔不加減〕からだの悪いこと。
ふかさんどがさ
〔深三度笠〕菅笠の一種で、三度飛脚がつかったため、三度笠といわれたが、普通の三度笠も可成に深く面部をかくせたのに、それのさらに深くできているもの。→「さんどがさ」「ひきゃくや」
ふかま
〔深間〕情人。間夫。離れがたくなっている仲。
ふかんど
〔深水〕水の深いところ。
「この血だらけの死骸は他(ほか)に仕方がねえから、河中へこぎ出して深水へ沈めにかけるより仕様(しよう)はあるめえ。」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)
ぶきぶきした
無愛想な。
「乗ってお帰りなすった車夫(くるまや)ね、何だかぶきぶきした奴ね。」(三遊亭円朝「松と藤芸妓(げいしゃ)の替紋(かえもん)」)
ふくざわぼん
〔福沢本〕福沢諭吉により外国の知識がいろいろ紹介されたので、西洋の翻訳書を何でも「福沢本」といった。
ふくぞうり
〔福草履〕下足をぬいで入った明治期の劇場の客が、幕間(まくあい)に近所を散歩をするのに、入場料を払いずみの客だと分かるために貸した白と赤とに太く鼻緒(はなお)をよった草履。
「その福草履が芝居の客であるという証拠になるので、若い男や女はそれを誇るやうに、わざと大勢繋(つな)がって往来を徘徊してゐるらしかった。」(岡本綺堂「明治の演劇」)
ふくふく
〔福々〕大当り。工面(くめん)のいいこと。
ふくりき
〔腹力〕腹の力。腹のこたえ。
「大分腹力が附いて参ったから、此分(このぶん)では遠からず杖でも突いて、」(河竹黙阿弥「富士額男女繁山(ふじびたいつくばのしげやま)ーー女書生」)
ぶけっこう
〔不結構〕よろしくないこと。
ふける
〔遁ける〕逃亡する。高飛びする。
ふさようじ
〔房楊枝〕楊枝の先が房のようになっており、歯を磨くのにも今日のとちがい縦にこいて使う。大正年代まで花柳界にはのこっていた。房楊枝用の昔の歯磨は、俗に石竹(せきちく)の花といったくらい、深紅なものであった。黙阿弥の「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)では、主人公の髪結新三がこれを頭にさして風呂から帰ってき、長火鉢でかわかすこまかいしぐさが当時の風俗をしのばせる。
ふじうめ
〔藤梅〕枝のたれ下がった梅。枝垂梅(しだれうめ)。
ふじかけ
〔藤かけ〕藤いろがかった。「藤かけ鼠」といえば藤色がかったねずみ色。
ふじこう
〔富士講〕信心で富士山へゆく講中(こうじゅう)。
ふじつい
〔不実意〕薄情。
ふしょう
〔不承〕不承知のこと。「不承をいう所はない」という風につかう。
ふしょう
〔不勝〕原意は、身心のすぐれぬこと。転じて、災難とあきらめての意。
「己(おれ)も中へ入ったが不勝だからかういたさう。」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)
ふじょうにん
〔不浄人〕不浄役人。罪人の管理にあたる役人。また、犯罪人をもいう。
ふしょぞん
〔不所存〕不心得。「不所存者め」
ふしんをうつ
〔不審を打つ〕疑問を持つ。不思議におもう。
ふせき
〔附籍〕他の戸籍に附随している戸籍。
「離別届けをした上で附籍に直した同居人、女房と言はれる覚えはねえ。」(河竹黙阿弥「木間星箱根鹿笛(このまのほしはこねのしかぶえ)」)
ふたこ
〔二子〕経糸(たていと)または経緯(たてよこ)糸に二子糸をつかい、平組織(ひらくみおり)に織った普通の綿織物。

ふだつき
〔札附き〕定評。
ふたつどり
〔二つ取り〕2つの品をみせて、どちらがほしいかという場合をいう。
「紙幣(さつ)と菓子との二つ取りにはおこしを呉れと手を出したる物なれば、」(樋口一葉「にごりえ」)
ふたつながや
〔二つ長屋〕2軒立ちの長屋。岡本綺堂「権三と助十」の舞台面が好例。
ふたつもの
〔二つ物〕お吸物とお刺身。→「みつもの」
ふたばのうちにからずんばおのをいるるのくいあり
〔嫩葉の内に刈らずんば斧を入るるの悔あり〕若葉のうちなら簡単に手でもむしり取れるが、大きくなると斧(おの)で切るなどいろいろ手がかかると同様に、自分に害のありそうな人なり事件なりは、はじめのうちに取りのぞいてしまえ、といういましめ。
ふため
〔不為〕ためにならない。不利益。「それは君に不為だよ」という風につかう。
ふだをうつ
〔札を打つ〕三十三カ所または八十八カ所など仏教の霊場を巡拝して、そのしるしに札を受けること。
ふちがしら
〔淵頭〕縁柄(ふちづか)。刀の柄のロの金具。
ふちかわ
〔淵川〕水中。「淵川へ身を投げはしないか」など、投身自殺専用語の観がある。
ふちのくいあげ
〔扶持の喰上げ〕クビになり失業すること。給料がもらえなくなること。
ぶっかけ
かけそば。
ふっさりと
くっきりと。
ぶっつけに
はじめに。直接に。
ぶっつけまど
〔打付窓〕格子窓。竹を打ち付けた窓という意味。
ぶっぱなす
〔打っ放す〕刀を抜き放してあばれることを素っ破抜(すっぱぬ)くというように、斬り殺す場合にこういった。
「習ひも伝授もないわ、引っこ抜いてから竹割りに打放すが男達(おとこだて)の極意。」(津打治兵衛「助六由縁江戸桜(ゆかりのえどざくら)」三浦屋格子先の場)
ふていさい
〔不体裁〕きまりの悪いなりをしている境遇。
ふでかし
〔不出来し〕失敗。
ふてかって
〔不手勝手〕理屈にあわない勝手な言葉。ふてくされた言葉。
「許してやらうと思ったが、さう不手勝手をいふからは、」(河竹黙阿弥「霜夜鐘十字辻筮(しもよのかねじゅうじのつじうら)」)
ふでさき
〔筆先〕筆致。
ふてまわり
〔不手廻り〕収入のないこと。ゆうずうのつかないこと。
ふでやく
〔筆役〕書記をいう。
ふどうのかなしばり
〔不動の金縛り〕不動尊の罰(または神仏の罰)で身体がすくんでしまうこと。
ふとうもの
〔不当者〕よからぬ奴。
ふところで
〔懐手〕懐手をしてくらせるいい身分。「何しろあいつは懐手だからネ」
ぶねん
〔不念〕不注意。「むねん(無念)」という意味とは別で、「これは私がブネンでした」などとつかう。
ぶへん
〔武辺〕武道の諸事。
ぶま
間抜けなこと。しくじり。「そんなブマはしません」
ふみしてもうしあげまいらせそろ
〔文して申し上げまいらせ候〕手紙で申し上げますの意味。この種の手紙体の文章は、大正初期まで一般女性に使用されていた。いい家のお嬢さまも、花柳界の女も、手紙のスタイルは全くこの以外にはなかった。
ふみたおし
〔踏倒し〕金払いの悪いこと。勘定を払わず逃げること。
ふみもち
〔不身持〕身持の悪いこと。
ふむ
〔踏む〕つぐ。踏襲する。
ふむ
〔踏む〕勘定を払わずごまかしてタダにしてしまうこと。
「ア、わかった。コリヤ親子夫婦馴合ひで、百両の金を踏む気だな。面白い、踏むなら踏んでみろ。」(竹田出雲他「仮名手本忠臣蔵」ーーただし現在の歌舞伎の演出でーー与市兵衛内勘平腹切の場)
ふやくや
不分明。いいかげん。わけの分からない。アヤフヤ。
ブラシテン
ビロードの一種で、おもてに長いケバがある。
ぶらちゃら
ぶらぶら。
ぶらぢょうちん
〔ぶら提灯〕細い柄(え)の付いた小さい提灯。略して、ぶらともいった。花柳界や料亭で客の送迎用によく使い、山谷堀の舟宿が猪牙(ちょき)舟で着いた吉原がよいの遊客を迎える情景をよんだ古川柳には「舟が着いて候とぶら持って来る」。
「柳島の料亭橋本のくだりで帰りに橋本とかいた、ぶら提灯を提げて堤の上を小梅まで出る風情(ふぜい)がよかった。」(笹川臨風「明治すきがへし」)
フラネル
フランネルのこと。→「ドロンケン」
フランケット
英語blanket(毛布)のなまり。フランケート、フランケンともいった。→「ドロンケン」
ふり
遊女屋、待合、料亭へ懇意(こんい)の客と同道、または紹介状なしに来た客。大阪では、一現。興行場で前売券または馴染のファンを中心に催した演芸会に臨時に来た客をもいう。
ふりくつ
〔不理屈〕理屈にならない理屈。
ふりこかされる
女にひどくふられる。
ふりだし
〔ふり出し〕千社札を張るつなぎ竿。
ふりもよおし
〔降催し〕いまにも降って来そうな天気。雨もよい。
ふりわけにもつ
〔振分荷物〕荷を前後へ1つずつ分けてかつぐこと。
ふるあかえ
〔古赤絵〕古渡(こわた)り(中国渡来)の、主に赤い絵の具で絵をかいた陶器。
ふるそめつけ
〔古染付〕古びて時代の付いた呉須絵(ごすえ)。コバルト、マンガン等の化合物をふくむ鉱物を、粉にして水で溶かしてかいた絵模様の磁器。せともの。藍いろに焼き付けたもので、中国では青花(せいか)。
ふるまいみず
〔振舞水〕昔は大きな商家などで、水をいれた桶を出しておき、往来の人たちに自由にのませた。古川柳に「舌打ちで振舞水の礼はすみ」。
ぶんこ
〔文庫〕紙、筆など雑品を入れる手箱。また文庫紙の略。衣類などを包む一種の厚紙。
ぶんさん
〔分散〕破産。「武玉川(むたまがわ)」に「分散にうっかりと咲く冬牡丹」。
ぶんしょ
〔分署〕本署から分けて設けられた警察署。
ふんだに
沢山に。ふんだんに。
ふんづくろい
〔金粉繕い〕こわれたせとものをつぎあわせた部分のヒビをかくすため、金粉でカムフラージュしたるものをいう。
ふんぱつしん
〔奮発心〕おもいきって立ち上がる心持ち。おもいきってはずむ(金などを)場合にもいう。
「五十銭奮発心を起すがいい。」(梅亭金鵞(ばいていきんが)「滑稽立志編」)
ふんばり
すれて手のつけられない人。駄ふんばりともいう(女の場合が多い)。「このふんばりあまめェ」
ぶんまい
〔分米〕自分に分けられる扶持米(ふちまい)。仕送り。
へいきのへのへ
〔平気のへのへ〕今日でなら、平(へい)ちゃらというのに当ろう。また平気の平左、平気の平左衛門など、江戸人にはある状態を擬人化(ぎじんか)ーー人間のようにあつかって欣ぶユーモアがあった。へのへは、平左のへから来ているし、さらにその平左は平気の「平」から来ているのであるが、へは放屈にもかよわせ、相手をからかうのに尻を叩いて見せるあの感情をもあわせていると見てよかろう。
ぺいぺい
下廻りの役者。
へえつくもうつく
へイコラヘイコラ。ピョコピョコ下手(したで)にでて機嫌を取る。

へがす
はがす。ひっペがす。
へげねこ
〔卑下猫〕あかだらけのきたない人。

ぺケぺケ
中国人がいけないという言葉。ペケ、サンランパンの略。
へごすけ
〔へご助〕屈のような奴という意味の悪口。
へこむ
〔凹む〕一本参る。理屈に負ける。「なるほど、これは一番へこんだ」
べっけ
〔別家〕別れて他へ世帯を持つ。
べっして
〔別して〕とりわけて。特別に。
べっせかい
〔別世界〕廓のこと。ことに吉原は江戸の隣りの別世界などといった。
べつだんのなか
〔別段の中〕特別に懇意な間。
べっとう
〔別当〕馬の口をとる人(乗合馬車の場合もいった)。
べっぱい
〔別盃〕わかれの盃(さかずき)。「別盃をくもう」などといった。
べつはいたつのゆうびん
〔別配達の郵便〕速達のこと。
へなちょこ
下らない奴。へなへなした猪口才者(ちょこざいもの)という所からはじまった。
べにかけはないろ
〔紅かけ花色〕紅がかった縹(はなだ)いろ。
べにさしのにしきえ
〔紅差しの錦絵〕極彩色の錦絵。
へのへいき
〔屈の平気〕→「へいきのへのへ」
へやがた
〔部屋方〕召使たち。
へやぎ
〔部屋着〕遊女が部屋にいるときの着物。小唄に「船ぢゃ寒かろ着て行かしゃんせ、わしが部屋着のこの小袖」。
へやずみ
〔部屋住〕嫡男(あととりの男)の未だ相続しないで親の厄介になっている身の上。「まだ部屋住のくせに道楽ばかりして困る」
ぺら
紙幣(さつ)のこと。札ぺら。
へらへら
明治12年から1617年まで、初代三遊亭万橘が踊り、大流行したナンセンス舞踊。「太鼓が鳴ったら賑やかだ、大根がにえたら風呂吹きだ、ほんとにそうならすまないネ」と赤い手拭で頬冠(ほおかむ)りをし赤い扇をかざして踊った。へらへらのオモチャやへらへらのおこしが売り出されるほどに流行した。
べらぼうな
何を馬鹿なという意味。江戸人は、人をののしる啖呵(たんか)に「べら棒め」、威勢(いせい)好く「べらんめえ」となまっていったが、語源は飯を糊(のり)にする竹箆(たけへら)の棒、すなわち竹棒で穀潰(ごくつぶ)しの意味と、寛文12年春大阪道頓堀で漂流の異国人の見世物があり、その名をべらぼうと呼んだので「京師(けいし、京都)東武関東に及び(中略)賢からぬものを罵り辱むるの詞となれり」の「近代世事談(せじだん)」の意と2説ある。後者は、岡本綺堂戯曲作品中に「べらぼうの始」としてとりあげられている。
べろ
舌のこと。児童語。
べんけい
〔弁慶〕勝手道具で竹製の杓子(しゃくし)をさしておくもの。
へんし
〔片時〕ほんの少しの間。「へんじ」とにごらない。
へんてこらいな
妙な。変な。へんてこりん。
べんてんさまがじもぐり
〔弁天様が地もぐり〕美しい女神である弁天さまが面目なくて地面へもどってしまうほどあなたはお美しいというおせじ。中国の「沈魚落雁(ちんぎょらくがん)羞花閉月(しゅうかへいげつ)」とくらべて、いかにも庶民性ゆたかな表現。
へんのかわる
〔変の替る〕容態が急変する。臨終。
ヘンピコライ
へんてこ。へんてこらい。
べんべらもの
ペらペらして悪いきもの。
べんべんだらり
ぐずぐずしてキリのないこと。ノンベンダラリ。
べんりこうし
〔弁理公使〕その国の一ばんえらい人から、派遣される国の一ばんえらい人にやられる、特命全権公使の次の役で、職務や権利は大便や公使と変らない。
ほいほいいう
なあなあいう。何でもいうことを聞いてやる。
ほう
〔方・法〕方法のこと。どうしようもない状態を「方がつかない」。
ぼう
〔暴〕乱暴の略。「暴をいうな」「暴をするな」
ぼう
〔坊〕子供が自分自身のことをいう。「坊にもおくれ」。今日は男の子のみ坊やというが、昔は女の子をもいった。
「『坊(ぼう)はおとっさんにおんぶだから能(い)いの』せなかのいもと『坊おんぶ』」(式亭三馬「浮世風呂」)
ぼう
〔棒〕幕末に方々の藩の兵士が取締る間は、銃や槍など武器を持っていたが、その後は巡査は3尺ほどの樫の棒をたずさえ、パトロールをしていた。「市中巡査の棒、五年(明治)よりはじまる」と「珍奇競(ちんきくらべ)」にあり、
「三尺棒で五尺の身を諭(さと)し 松楽」
「泥棒を三尺棒がひいて行き 一笑」
の川柳がある。従って棒のときどき飛び込むような家といえば、ときどき臨検のある待合や今日の赤線青線の家ということになる。臨検を警八風(けいはちかぜ)といった。→「けいど」
ほういん
〔法印〕長髪で錫杖(しゃくじょう)を突き、法螺貝(ほらがい)を鳴らし、病人を直すおいのりをする修験者。
ほうがい
〔法外〕大そう。極端。
ほうかいぶし
〔法界節〕九連環節(きゅうれんかんぶし)。明治20年代にはやり、町々を男女が月琴、楊琴をかかえて流し歩いた。さのさぶしは、ホーカイと終りにはやしことばがつく、この唄から変化したものといわれる。
ほうがく
〔方角〕様子。
「忠之丞は腹立ちで坐(すわ)らう方角もなく抜身(ぬきみ)をさげたなりで立って居りました。」(三遊亭円朝「月謡荻江一節(つきにうたうおぎえのひとふし)」)
ぼうぐみ
〔棒組〕駕籠かきの相手の方(相棒)への呼びかけ。「オイ棒組、大そうお酒手(さかて)をいただいたぜ」→「あいぼう」
ほうこういってん
〔奉公一点〕奉公一とすじ。一てんばりの一てんである。
ほうこうずみ
〔奉公ずみ〕仕官して、その藩に住み込むこと。商家の場合にもいう。
ぼうしばり
〔棒縛り〕身動きのできぬよう6尺棒などへ縛り付ける。この状態を芸能にとり入れた能狂言も著名だが、岡村柿紅が同名で歌舞伎舞踊劇に改作したものの方が、六世尾上菊五郎の名演でなじみ深い。
ほうじょうさま
〔方丈様〕御住持さま。はじめは寺附内(じつきない)の長老の居所を方丈といった。
ほうそう
〔疱瘡〕昔の子供は、疱瘡にかかったあと菊石(あばた)にもならず全快すると、先ず人生第一の難関を経たとして、親たちが大いに祝ったのである。植疱瘡(種痘(うえぼうそう))が日本で創始されたのは文政期というが、幕末の頃に至っても一般人はこれをいやがっていた。岡本綺堂「半七捕物帳ーー海豚(ふぐ)太鼓」は、この種痘恐怖から生まれる江戸町家の悲劇をあつかっている。
ぼうた
古どてら。
ぼうにふる
〔棒にふる〕無駄にする。だまって持って行かれる。
ぼうばな
〔棒鼻〕宿(しゅく)はずれの里程を記した杭(くい)などの立っているところ。駕籠の棒の先のところをも、いう。「棒鼻へ立ちゃがって邪魔にならあ」
ほうべんな
〔方便な〕都合のいい。
ほえる
ギャーギャーさわぐ。
「弥左衛門歯がみをなし、『泣くな女房、何吠(なにほ)える。不便(ふびん)なの可愛のというて、こんな奴を生け置くは世界の人の大きな難儀ぢゃわい』」(竹田出雲他「義経千本桜」釣瓶鮓屋の場)
ほかと
サーッと。
「彼奴(あいつ)が抜いたらホカと逃げておしまひなせえ。」(三遊亭円朝「業平文治漂流奇談」)
ぽかぽか
どしどし。さかんな様の形容。
ほぐ
〔反故〕ほご。取消。実行しないこと。
ぼく
〔隠悪〕隠していた悪事。
「これは隠悪がわれたわい、もうこれまでと思って、」(三遊亭円朝「敵討札所霊験(かたきうちふだしょのれいけん)」)
ぼく
〔僕〕→「きみ・ぼく」
ぼく
〔僕〕下男。武家では仲間(ちゅうげん)である。下僕。
ぼく
唐変木(とうへんぼく、分からずや)の略。
「旦那はぼくだが連(つれ)の女は東京者だけ、」(河竹黙阿弥「木間星箱根鹿笛(このまのほしはこねのしかぶえ)」)
ぼくぼく
ボロポロ。
「名人清兵衛のこしらえたんで、きたない火鉢でございますが、不思議なことにはどんなぼくぼくの畳の所を引摺り引ん廻してもへりに引っ掛ることがない。」(三遊亭円朝「名人くらべ錦の舞衣(まいぎぬ)」)
また、老いぼれた意味にもつかう。「いつまで年をとってボクボクしているのもいやだ」
ぽくり
〔木履〕昔はあしだのことをいった。今日では祇園の舞妓のはく下駄で、裏を深くくって鈴を付けたものなどがある。また、仙台の殿さまの伊達綱宗は、男用の下駄を特に伽羅(きゃら)で作らせて、これをはいて吉原の遊女高尾へかよったという伝説がある。伽羅は沈香(じんこう)という香の別名で、昔は第一流の香であったゆえ、それで製された下駄となれば最高の贅沢品。
ホコトン
もののまちがっていること。衆議院議員が矛盾という字をホコトンとよんで以来、つかわれた。
ほそもの
〔細物〕細紐(ほそひも)の類。「かけもの」の書画の小品。
ほだし
〔絆〕束縛。牽制。「縄目の絆(きずな)」「義理のしがらみ、人情の絆」。手かせ足かせ。
ほだす
〔絆す〕つなぎとめる。束縛する。制御する。情にからむ。心をひく。
ほたるがり
〔蛍狩〕夏の夕、団扇(うちわ)を片手に浴衣姿、蛍を取りに行く遊楽。「東都歳事記」には「立夏の後四十日頃より」として、王子、谷中蛍沢、高田落合姿見橋の辺り、目白下通り、目黒、吾妻森(あずまのもり)、隅田川をあげている。明治14年版「改正東京案内」では王子、蛍沢、高田落合、目白下通り、目黒の他に赤坂今井谷をあげ、鉄道の発達した明治30年代の斎藤緑雨の随筆には大宮氷川神社をあげている。麻布広尾も数えられようし、伊藤晴雨の旧東京名所絵にはお茶の水に蛍の飛ぶ絵があった。
ぽっとりもの
しなやかな女。色っぽい美人。
ぽっぽ
〔懐中〕ふところのこと。子供の言葉であるが、他へ渡す金をつかってしまったときなど、「あいつはポッポへいれてしまやアがった」
ぽてれん
妊娠。はらんだことをいう。
ほど
〔○○程〕時刻のだいたいの見当をいう場合の接尾語。○○じぶん。「昼ほど」「晩ほど」「今ほど」などと使う。
ほとけのわん
〔仏の椀〕叶わぬこと。金椀(かなわん)のシャレ。
ほどこしび
〔施し日〕無料で診察をしてくれる日。
ボトル
壜(びん)のことを、明治時代、上流や文化人の間ではハイカラがってこういった。
ほねをぬすむ
〔骨を盗む〕骨を惜しむ。
ほまち
定収入以外に入る臨時収入。手内職。「ほまち仕事」
ぼやぼや
ボヤ(小火事)。
ばろんじ
〔梵論字〕虚無僧(こむそう)をいう。また、ぼろぼろの姿で諸国を歩くという意味もある。岡本綺堂の戯曲「虚無僧」にくわしい。
ぼんがぼんせき
〔盆画盆石〕美しい砂や石をもちいて盆の上に花鳥山水をかくのを盆画、自然石を盆に並べてその風趣(ふうしゅ)を味わうものを盆石、後者は足利期に茶の湯生花と共に行われ、多くの流派法式がある。
ほんけがえり
〔本卦帰り〕還暦。
ほんけんじょう
〔本献上〕ほんものの献上博多。→「けんじょうはかた」
ぽんこつ
拳骨で撲ること。「ぽんこつをくわす」などという。また、ばくちにもぽんこつがある。
「拳(こぶし)を振ること。インチキの意。札を切る者がひそかに札を見て置き、頭をなでたら何、鼻をこすったら何といった具合に符調を定めてインチキの共犯者に合図をすること。この場合賭博具(とばくぐ)の札に仕掛はないが、札を切る親の素早いゴマカシで大事な札を予(あらかじ)め見て置くのである。」(草賀光男「ばくち談義」)
ほんじん
〔本陣〕諸大名の参勤交替に往復の駅で公認した宿屋。→「わきほんじん」
ぽんつく
バカな人のこと。ぽんしゅう。
ぼんのくど
〔盆窪〕項(うなじ)の中央のくぼんでいるところ。ぼんのくぼ。
ほんぷく
〔本復〕全快。
ぼんぼん
〔盆々〕昔、盆の夜に子供たちが大ぜい手をつなぎ、盆々ぼんのと歌って町々を歩いた。
「七八歳より十五六歳位の一と群が盆になると夕暮より同じ年位の者七八名づつ一列となり年長のものは順々に跡に列して五六列をなし手を連ね竹の先きに紅ちやうちん又は切子(きりこ)灯籠を持つものもありて声張揚(はりあげ)て、『盆々ぼんの十六日にお閻魔様へ詣ろとしたら珠数(じゅず)の緒(お)が切れて鼻緒が切れて南無釈迦如来(なむしゃかにょらい)手でをがむ手でおがむ」(高砂屋浦舟「江戸の夕栄」)
 このため手をつないで歩くを、「盆々をして」といった。
「秋来ぬと目にはさやかに見えねども、灯籠(とうろ)や灯籠やと売る声に、おどろかれぬる盆前の怔忡(むなさわぎ)も、親の心子しらずとて、お閣魔さまの日をたのしむ、娘子供の一群。(略)お乳母どのを軍師と頼み、前後に備を配りて、隊伍整々とくり出すは、江戸流の盆踊。他国の御見物にまうす。江戸は他国のぼんをどりのごとく、対のゆかた音頭とりなどありておどる事たえてなし。只ぼんうたといふものをうたひて、三四だんにならびてゆくのみ。(略)『アレアレ向ふから男の子が盆々をして来たよ。』『皆(みんな)がきつウ手(て)を引合(ひきや)って往きな。構(かま)ふ事(こた)アねえ。たたきのめしてやらう。』」(式亭三馬「浮世風呂」)
ぽんぽん
腹または裸のことをいう。児童語。
ほんま
〔本間〕本部屋。
「此糸(このいと)『アアざしきざんすヨ。お長さんかへ。』お長『ハイ』此糸『本間へお這入(はいり)なんしなへ。』」(為永春水「春色梅児誉美(しゅんしょくうめごよみ)」)
ほんりや
ソーラ。道理で。
「ええ……江戸の深川……ホンリヤ……どうもただの鼠ぢゃアねえと思った。」(三遊亭円朝「名人くらべ錦の舞衣(まいぎぬ)」)
ほんりょうあんど
〔本領安堵〕武士の進退問題が起きた場合、元の知行(殿さまから頂いている領地)をそのまま再び下さる。領土へ傷がつかないこと。
まあい
〔間合〕具合。本来は剣道用語。
まいすぼうず
〔売僧坊主〕いんちき坊主。「売僧」だけでも僧侶をさげすんでいう言葉だが、強めていう。
まいまいつぶろ
蝸牛(かたつむり)のこと。自分の家へひっ込んだまんまの人のことをいう。
「今は見るかげもなく貧乏して八百屋の裏の小さな家にまいまいつぶろの様になって居まする。」(樋口一葉「にごりえ」)
まうけ
〔真受〕ほんとうにする。
「お前さんがおツかあにいったものだから真受に受けて(中略)行くがいいといふ。」(三遊亭円朝「月謡荻江一節(つきにうたうおぎえのひとふし)」)
まえおび
〔前帯〕帯を前結びにした形。
まえかけ
〔前掛〕膝掛け。人力車の客は、そうした毛布の膝掛けを掛けて防寒用とした。
まえかた
〔前方〕 以前。いつぞや。→「かた」
まえかん
〔前勘〕先へ勘定を払うこと。
まえはん
〔前半〕前半分。今日なら「ぜんぱん」と発音するところ。「大刀を前半(まえはん)にたばさんで……
まえぶくろ
〔前袋〕刀には柄(つか)へはめる柄袋。また鞘(さや)へはめる鞘袋(さやぶくろ)をもいう。
まえふね
〔前船〕劇場左右の花道よりやや高いところの中央以後にある中等席。→「しばや」
まきざっぽう
薪(まき)のこと。
まきたばこのかんばんのびじん
〔巻煙草の招牌の美人〕明治30年代、銀座千葉商店発売の細巻煙草の広告が、煙草の煙に包まれた和装の美人だったのをいう。
まきぶね
〔薪船〕薪を積んで来る船。
まくらがみ
〔枕紙〕頭髪で汚れぬよう枕へあてがっておく紙。
「まだまだ一層かなしい夢を見て枕紙がびっしよりに成った事もござんす。」(樋口一葉「にごりえ」)
まくらがやすい
〔枕が安い〕枕を高くねられない(身に悪事があって)こと。
まくらさがし
〔枕探し〕旅館などで客の熟睡中、品物や金をうばう賊。
「汝(われ)は旅稼ぎの按摩で、枕探しで旅を稼いで居たのが、」(三遊亭円朝「松操美人生埋(まつのみさおびじんのいきうめ)」)
まげのいち
〔髷のイチ〕 ちょん髷の元結(もっとい)より後の部分。
まごだな
〔孫店〕→「たな」
まじり
遊女屋の中流の店。中店(ちゅうみせ)
ますはな
〔増花〕他にできたさらに愛情の深い女。
ませ
〔籬〕ませがき。竹や木で作ったあらい垣や仕切り。
「田舎では厩(うまや)の前にませと云ふ丸太があります。」(三遊亭円朝「塩原多助一代記」)
まぜま
〔間狭〕ごくせまいこと。
またがい
〔又買〕買おうとおもった品物を、別人が間で買い取ってしまったことをいう。
またぞろ
〔又候〕またしても。
まだんや
角兵衛獅子。「まだんやまだんや」と往来で掛声をしながら曲芸をしたために、子供たちは角兵衛獅子をそうよんだ。「まだんや」とは「未だ未だ」という意味で、そういって曲芸をする少年に、太鼓を叩く男が元気をつけさせたのである。
まちあい
〔待合〕待合茶屋の略。今日のように花街にあって芸者と客の歓楽場でなく、同業者の寄合、商談などに用いられる席貸であった。
まちだかのはかま
〔襠高の袴〕まち(袴の内股の部分)の高い袴。乗馬用。
まちやずまい
〔町家住居〕町人の生活。
まちん
〔番木鼈〕馬銭科(まちんか)の植物。印度及びセイロン島等の産。葉は「かわ」に似た質で対生し、広い楕円形で3行の脈がある。葉腋に短くまいたヒゲを有し、花の先は緑白色の丸い筒の形。その実は蜜柑ぐらいで、その種子をホミカ、馬銭子といって興奮剤を製する。わが国では江戸時代、野犬の毒殺用にもちいた。
まつかぜ
〔松風〕うどん粉をとかし、表に一面さとうの液をぬり、けし粒をちらした干菓子。
まっくらさんぼう
〔真暗三宝〕しんの暗(やみ)。まっくら暗。
「三人はまっくらさんばう元来(もとき)し道へにげ走り、やうやうにおちのびて、」(仮名垣魯文「西洋道中膝栗毛」)
まっしょうじき
〔真正直〕余りにも正直なこと。「まっちょうじき」とも発音。
まっぴら
〔真平〕ひとえに。ひらに。絶対に。徹底的に。江戸の職人や火消やばくち打ちなどが人をたずねた時、「今日は」の代りに「真平御免ねえ」などといった。

「『もう真平、寿命が縮まるよ』と玉枝も笑ひながら、羽織の裾を払って腰を下したが、」(小杉天外「はつ姿」)
まぶ
〔間夫〕情人。
「間夫があるなら添はせてやろ。暇がほしくば暇やろ。」(竹田出雲他「仮名手本忠臣蔵」祇園町一力の場)
まぶな
間のぬけた。気のきかない。さえない。今日では「まぶい」などという。
「まぶな仕事も大峰に、足を留めたる奈良の京。」(河竹黙阿弥「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)ーー白浪五人男」稲瀬川勢揃の場)
まほんしん
〔真本心〕ほんとうの善心。
「やれやれ、真本心に立復(たちかえ)ってくれたかと、」(小栗風葉「恋慕流し」)
まむしをこしらえる
〔蝮を拵える〕足の親指を立てて人さし指の上へのせ、その間でゆるくなった鼻緒を挟(はさ)む場合にする恰好(かっこう)であるが、親指の立った姿が蝮の首を持ち上げたのに似ているところからいった。
まむしをだいてふところへはいる
〔蝮を抱いて懐中へ入る〕自分に害を加えるだろうと心中ではおもいつつ、それを隠して自分の身近におく。
まめぞう
〔豆蔵〕アイアイ左様(さよう)でございなどと滑稽な早口でまくし立てては愛嬌を売る大道芸人。見物人の円陣が縮まって来るとひろげるために水をまいた。
まるかなものず
〔円金物図〕円い図の中にほった金属類をいう。当時は水滸伝などの豪傑を好んでほり、その人物の刺青(いれずみ)をこまかくほって見せるのを得意とした。
まるぐけ
〔丸絎〕丸絎帯(まるぐけおび)の略。
まるくりがた
〔丸繰形〕刀の刃で、外部が丸く繰(く)られているもの。
まわしがっぱ
〔廻し合羽〕着物の上に引き廻して着る袖のない外套(がいとう)の一種。カッパは、ポルトガル語capaのなまりである。
まわり
〔廻り〕廻り髪結。→「まわりがみゆい」
まわり
〔週〕時刻。日月・年齢などの周期の数え方。「二週」(ふたまわり)で
2週間を表わすこともあれば、「あの人より一週(ひとまわり)若い」と10年一世代をいうこともある。また、「一週(ひとまわり)上の丑(のとし)だ」と十干や十二支の区別にも使う。
まわりえん
〔廻り縁〕室の二方以上に取りつけた縁。
まわりがみゆい
〔廻り髪結〕客先を廻って歩いて商売をする髪結。まわり。
「不断は得意(ちょうば)を廻りの髪結、いはば得意のことだからうぬがやうな間抜な奴にも、忠七さんとか番頭さんとか上手(じょうず)をつかって出入をするも、一銭職(じょく)と昔から下った稼業の世渡りに、」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)ーー髪結新三」永代橋の場)
まわりぎ
〔廻り気〕気を廻しがちの性分。
まわる
〔廻る〕廻しをとる。遊女が次々に遊客の所を廻り、情交をするをいう。「五人廻し」以外に、昔は「七人廻し」の落語もあり、故入舟亭扇橋(いりふねていせんきょう)青年期のレパートリイに題だけのこっている。
まんじゅうがさ
〔饅頭笠〕上は円く浅く、饅頭を横に切ったような形に作ったかぶり笠。
「花道より丸橋忠弥一本差し尻端折(しりばしょ)り下駄がけ、赤合羽を引っ掛け饅頭笠をかぶり、酒に酔ひたる思入にて出て来り、」(河竹黙阿弥「樟紀流花見幕張ーー丸橋忠弥」江戸城外濠端の場)
まんじり
ほんの少し眠るをいう。マンジリともしなかったといえば、一睡もしなかったということ。
まんすじ
〔万筋〕地のしま3本、経縞(たてじま)3本をならべて織り出した細い縞柄の一種。
まんぱち
〔万八〕でたらめ。大うそ。よくアテにならない人を千三(み)つといい、10003つしかほんとうのことをいわぬとののしるが、さらにひどくて万に8つしかほんとうのことをいわないという意味。
まんび
〔満尾〕おしまい。終局。
まんびょういちどく
〔万病一毒〕いろいろの病も毒はみな共通。
みあがり
〔身上り〕芸者や遊女が自分の情人のために自費で遊興させること。
みあて
〔見当〕目あて。
みいみ
果物のこと。蜜柑をもいう。児童語。
みいれ
〔身入れ〕刀の身をおさめる鞘(さや)の内部。
みえい
〔御影〕お姿。
みえのばしょ
〔見得の場所〕すべて見映(みば)えを大切にするところ。遊里。花柳界。
みかける
〔見掛ける〕見込む。
「『濡手で粟の百両を』『え』『見掛けて頼む、貸して下せえ。』」(河竹黙阿弥「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」大川端庚申塚の場)
みくだりはん
〔三行半〕昔の離縁状は、三行半にかいたものゆえ、離縁状という意味につかった。
みこしがぬける
〔身腰が抜ける〕その境涯から足を洗う。「なかなか身腰がぬけないので困ります」。釈放になることをもいう。
みじまい
〔身仕舞〕身なりをつくろい、ととのえること。身支度。化粧。身じんまく。
みじょう
〔身性・身上・身状〕人品。素性。身分。品行。健康。
「つまりわたしの身状が悪いからで……。左官屋の勘太郎は泥棒でもしさうな奴だ、人殺しでもしさうな奴だと、不断からおまへさん達に睨まれてゐるので、」(岡本綺堂「権三と助十」)
みずがし
〔水菓子〕果物のこと。
みずぐち
〔水口〕台所。
みずごり
〔水垢離〕神仏に祈願のため、水を頭から浴び、身体の汚れを落す。垢(あか)の離れる意味。「親の身は二千垢離(こり)でも取る気なり」と古川柳は子の病気の祈願に垢離を取るのをうたっている。
みずしょう
〔水性〕蓮葉女。多情な女。
みずせ
〔水勢〕水の流れ具合。みずせいというときもある。
みずのでばな
〔水の出花〕思春期。恋愛のしたくなる年ごろ。
みずぶね
〔水船〕今日のようなカランでなく、大正中期まで、男湯女湯の中央に共通の木でできた水槽湯槽(みずおけゆおけ)があり、桝(ます)でその水をくみだして使用した。
みずをさす
〔水をさす〕ねたんで、あることないことをいって、その人たちを不和にさせる。
みせにかい
〔店二階〕住居の方の2階でなく、店の方の2階で、多く奉公人が寝起するにあてられる。落語「七段目」で、若旦那と小僧が芝居の真似をして梯子(はしご)からころげ落ちるのも、店2階である。
みせのひと
〔店の人〕遊女屋の番頭。主人と同じように権力があった。
みそこしをさげる
〔味噌漉を下げる〕貧しい生活をする(奉公人がいないので味噌漉を自分で下げて味噌を買いに行く)。
落語「妾(めかけ)の馬」の殿さま赤井御門守が見染めるのも味噌漉を前掛の下にかくして露地(ろじ)を通るお鶴の姿である。
みそっかす
〔味噌っ滓〕まだそのグループに入る資格のない人。
みぞほり
〔溝堀〕深い溝。

みだしなみ
〔身嗜み〕護身用。用心。
「女の身嗜みだといって、小刀には余程大きい、合口(あいくち)にはちと小さいが、」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)
みたてがえ
〔見立替〕従来買った遊女を止して、他の遊女と替えること。
みちづか
〔道塚〕これより右、何々へ何里、左、何々へ何里と、曲り角など石にほりつけた道しるべ。今日も江戸時代のが諸所にそのまま残存している。
みちぶしん
〔道普請〕道路工事。
みちゆきぶり
〔道行振〕被布(ひふ)に似て襟(えり)のない衣服。道服。
みついしだたみ
〔三石だたみ〕縦横に並べた四形を、1つおきに白黒にした市松から応用した紋を、石畳また石畳車(いしだたみぐるま)。三石だたみは、それを品という風に三方にしたもの。
みつかい
〔見使い〕目にかけてつかう。
みつがなわ
〔三金輪〕31つになること。「あれが帰ってきたら三金輪で詮議(せんぎ)してやろう」
みつもの
〔三つ物〕刺身、お椀、焼肴(やきざかな)と三種ひと組の料理。→「ふたつもの」
みつわ
〔三つ輪〕徳川期に多く妾(めかけ)のゆった髪。
みでほん
〔見手本〕いい見せしめになる手本。
みとめ
あたり。あて。
「それぢゃあこれから兄貴にも一年たって蓬はれるか、二年経って蓮はれるか、みとめのつかねえ旅の空。」(河竹黙阿弥「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはなーー河内山と直侍」入谷村蕎麦屋の場)
ミニストル
ミニスター(minister、牧師)の明治的発音。
みぬけ
〔身抜け〕自分の身の苦労、責任がのがれられること。
みねのみつむね
〔刀背の三つ棟〕刀の切れない方の部分が、屋の棟(むね)を3つ重ねたようになっていること。
みのけだつ
〔身の毛立つ〕ぞっとするようだ。
みはぐる
〔見はぐる〕見落す。見失う。長唄「供奴(ともやっこ)」に「見はぐるまいぞよ合点(がってん)か」。
みひんにくらす
〔身貧に暮す〕貧乏にくらす。
みふしょう
〔身不肖〕自分に徳が薄いこと。「身不肖なれども福岡貢(ふくおかみつぎ)女郎をだまして金をば取らうか。なに、バ、馬鹿なことを。」(近松徳叟「伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」油屋の場)
みふたつになる
〔身二つになる〕赤子を生み落とす。
みまま
〔身儘〕年期があけて遊女の自由な境涯になるをいう。
「わたしや鶯、主は梅、やがて身まま気ままになるならば、さ、鶯宿梅(おうしゅくばい)ぢゃないかいな」(端唄「春雨」)
みみこすり
〔耳こすり〕相手の耳許へ口を寄せて内談すること。
みみっくじり
〔耳抉り〕耳かき。
みみっとう
〔耳っとう〕耳にロを寄せて「耳っとう」と大声でわめき、「こまく」をむずがゆくさせておどろかせるいたずら。
みもり
〔見守〕看護。看病。
みやこじ
〔都路〕
「都路は五十路(いそじ)余りに三つの宿」と東海道五十三次の景色を、美しい七五調で歌ったもの。寺子屋(習字や読書を教える所)でつかった読本の1つ。
みやさまし
〔宮様師〕上野の一品親王宮(いっぽんしんのうみや)家へ出入りのもの。
みょう
〔妙〕いいこと。おつ。今は「奇妙な」「変な」「あやしい」というふうによくない形容ばかりになっているが、昔の「妙な」は「微妙な」「幻妙な」という讃美の方が強かった。
みょうじたいとうごめん
〔名字帯刀御免〕武士以外は姓(みょうじ)を名乗り、刀を佩くことはできなかったが、町人その他の功労者には特に許された。
みょうしょ
〔妙処〕極意。
みょうせき
〔名跡〕名前。「お宅の名跡は出しません」。芸人が先代の芸名をつぐときに、「名跡をつがせてもらう」という。

みょうだい
〔名代〕遊女が病気または馴染の客が来た時に、普通の客に代りに出す妹分の新造女郎のこと。
みょうだいべや
〔名代部屋〕名代座敷。花魁のいる部屋は本部屋(ほんべや)といい、たんすや鏡台が美しくならび、スぺッシャルルーム(特別室)であるが、廻し部屋という普通の部屋はそまつである。もちろん、いろいろの遊女が共通につかえ、何人かの客がひとりの遊女へ来たとき、ひとりずつわりあてて泊らす部屋。
みようともち
〔女夫餅〕一対ずつ串にさしてある餅。
みるがもの
〔見るがもの〕見るだけの価値。「みるがものはない」とか、「あんな奴にやるがものはない」とか、いう風につかう。
みるめかぐはな
〔見る目嗅ぐ鼻〕閻魔の庁で人頭幢(にんずどう)といって幡(はた)の上に人の頭をのせ、よく亡者の善悪を分かち知るを見る目嗅ぐ鼻という。鬼のたぐいから転じて、世間のうるさいことをいう。またうるさい監視役をもいう。
むいっこく
〔無一国〕無上の一国もの。ひどい頑固。
むかいそう
〔迎い僧〕葬礼の棺(かん)が出るとき迎えに行く役目をする僧侶。
むかしもの
〔昔物〕昔の品物。流行遅れの品。
むぎゆのおんな
〔麦湯の女〕都会の往来には麦湯を売る店が方々にでていて、そこに若い女がおり、客をよんだ。のちのカフェーの女給にあたろう。
「麦湯の女に引っかかって、トドの詰(つま)りが瘡(かさ)を背負(しお)ひ込み、」(河竹黙阿弥「綴合於伝仮名書(とじあわせおでんのかながき)ーー高橋お伝」)
むぐり
「もぐり」
むこうさま
〔向様〕先方。
むこうづけ
〔向付け〕膳の向うがわにつける料理(の器)。
むこうづら
〔向う面〕敵のこと。「強い奴には向う面でぶつかって行く」
むこうまえ
〔向う前〕向側の家とこちら側の家と。
むさい
〔穢い〕汚い。「無妻」とかけて独身者の身の廻りのなんとなく薄汚いことをいったりする。
むしもち
〔虫持〕蛔虫(さなだむし)または消化不良のため弱くなり、不眠や癇癪(かんしゃく)を起す小児病の患者。かんむし。
むしゅく
〔無宿〕悪事のかどで故郷の人別(にんべつ、一種の戸籍)をけずられた無籍もの。上州・甲州などが多い。河竹黙阿弥「四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)」の野州無宿富蔵などが名高い。
むすこかぶ
〔息子株〕坊っちゃんとしてのおしもおされない位置。姉さん株、親分株もまた同じ。
むすびぶみ
〔結び文〕封筒へ入れないで手紙を細くたたみ、それをむすんだもの。封じ文。
むすめ
〔娘〕処女。若い女。今日は後者をいう方が多いが、昔は前者にきまっていたといっていいほど、こういう呼び方は厳格だった。→「しんぞう」「としま」

むすめ
〔娘〕
「深川の花柳界で変った風俗といふのは、御茶屋に、娘分といふものと、カルコといふものが居たことです」(葭町水戸屋隠居談「漫談明治初年」)
「深川の芸者は、江戸の女踊子と同じく生娘風であった。(中略)生娘風の踊子は多く男装をして、男羽織をきて、髷も若衆髷であった。そして、この男装はおそらく天保の頃まで続いたのであらう」(喜多壮一郎「江戸の芸者」)
同じ著者によると、娘分は、芸名も男らしい名であったという。一ところの花柳界に洋装と和装の芸者のある風景と同様であろう。
むじきん
〔無地金〕金一といろで模様のないこと。
むっくり
滋味(じみ)のある。こっくり。
むてっぽう
〔無鉄砲〕乱暴。
むにする
〔無にする〕台なしにする。ゼロにもどす。
「お約束を無にいたし、こんな者に成果(なりは)てまして、お目通りはいたさねえ筈でござんしたが。」(長谷川伸「一本刀土俵入」お蔦の家の場)
むになる
〔無になる〕無駄になる。なくなってしまう。徒労に帰する。
むねがはる
〔胸がはる〕胸がドキドキする。呼吸が苦しい。
むねがわらのたかい
〔棟瓦の高い〕立派な家のこと。「棟瓦の高いとなると出入もうるさく、」(斎藤緑雨「朝寝髪」)
むねき
〔無念気〕気まぐれのこと。
「ちよ、此節(このせつ)のやうな、無念気なお天気だっちゃ在(あ)りゃしない。」(小栗風葉「恋慕流し」)
むめいすりあげ
〔無銘擦りあげ〕刀を自分の使いやすい寸法に詰めるため、刀の身をすって前の方は切りすててしまうこと。そのために刀の作者の名をきざんだ銘(めい)の部分がなくなっている。
むやみなぐり
〔無暗撲り〕やたらになぐること。「無暗なぐりにしてやりました」
むりむたいに
〔無理無体に〕無理矢理に。
むりれんぼ
〔無理恋慕〕無理矢理にくどくこと。自分だけひとりぎめにほれておいて、それをしいること。
めかい
〔眼かい〕視力。「目かいのみえぬものでございます」
めかけてかけ
〔妾手掛〕妾のこと。手掛とは、手にかけて愛するものの意味。
めがたきうち
〔女敵討〕姦夫を夫が討つこと。近松門左衛門「鑓(やり)の権三重惟子(ごんざかさねかたびら)」はその典型的な例。
めがはいる
〔目がはいる〕確実な計算。
めくぎをしめす
〔目釘を湿す〕刀剣の身が柄(え)からぬけぬよう目釘孔(めくぎあな)にさす竹釘、それが接戦中飛び去らぬよう唾(つばき)などでしめして刀をぬく用意をすること。
めくじらをたてる
ほんの一寸のこともガミガミいう。目に角をたてる。
めしかえす
〔召し返す〕帰参を許す。解雇・追放した家来をふたたび採用する。
めしつれうったえ
〔召連訴え〕共に本人を引っ張って行って訴えること。
「失礼なことをいふと召連訴へをするぞ。」(三遊亭円朝「名人長二」)
めせんりょう
〔眼千両〕1000両の値うちがある美しい目。
めだま
〔女玉〕→「たま」
めつけ
〔目附〕若年寄にじかに属して旗本等を監察する役人。
めっける
みつけるのなまり。
めっけもん
みつけもの。未(ま)だしもよかった。不幸中の幸。
めっそう
〔滅相〕大そう。
メッチ
マッチのこと。
めっとうじん
〔女っ唐人〕女の外人。→「おっとうじん」
めっぱりこ
〔目張りこ〕目を見張り合うこと。大正中頃の米騒動のときの阪井久良伎(くらき)の川柳に「暴動がいまに来るよと目張りこ」がある。
めっぽうかい
〔滅法界〕バカに。ひどくの意味。滅法界に強い、滅法界におどろいたなど。
めつまに
〔目つまに〕目に。つまは強くいった場合。「人の目つまにかからぬうちに」など。
めづら
〔目面〕めつき。「目面がよくない」
めぬきもの
〔目貫物〕刀の目貫を煙草入、胴乱(どうらん)の金具にしたもの。
めのくりだま
〔目のくり玉〕目玉のこと。「目のくり玉がでんぐり返った」
めのよるところへたま
〔眼のよる所へ玉〕似たようなもの同士が集まる。黙阿弥の「髪結新三」では、ならず者の新三を上廻るしぶとい家主長兵衛が新三をぎゅうぎゅうしぼって、悪銭を半分まき上げると、そこへ長兵衛の女房お角が入ってきて店賃(たなちん)の滞(とどこお)りをごっそり2両取り上げる。そばで新三の子分勝奴が「おやおや、目の寄る所へ玉といふのだ」と苦笑する。この場面が実によくこのことばの感じをいかしている。
めはなのあく
〔目鼻の明く〕気の利いていること。
めみえちゅう
〔目見え中〕見習い中。奉公するかどうか、きまらないで来ている女中や下男。遊女が女郎屋につとめるはじめに、ためしに使われることもいう。落語「百川(ももかわ)」の百兵衛、「元犬」の白などが、ちょうどこの状態である。
めやすかたこうようにん
〔目安方公用人〕民事訴訟にたずさわり、奉行の公用をした諸役人。
めり
ものがへること。費用のかかること。損害。「大へんメリがでた」
めろめろ
めそめそ。
めん
〔面〕容貌。顔。「面がまぶい」などという。→「まぶな」
めんけん
〔瞑眩〕目のくらむこと。目まい。
「そちが飲ませし水薬に、めんけんなして死したる由。」(河竹黙阿弥「綴合於伝仮名書(とじあわせおでんのかながき)ーー高橋お伝」)
めんどり
〔面取〕木口の角を浅くけずってあるのを面という。すなわちそういう木取った造作の格子のこと。栂(つが)の木などがよく使われた。栂の面取の出格子は、舞踊や邦楽の師匠の家などに多かった。→「でごうし」
めんばれ
〔面晴れ〕白い黒い(正しいか正しくないか)をハッキリさせること。
「恋人ゆゑに庇(かば)ふとしても、其手(そのて)は喰はぬ御前(ごぜん)の面晴れ、但し不義をして居ずば、有様(ありてい)に言ふがいい。」(河竹黙阿弥「富士額男女繁山(ふじびたいつくばのしげやま)ーー女書生」)
もうしかけ
〔申掛け〕いいかけ。いいがかり。
もうしぐち
〔申ロ〕いうこと。
もうろうしゃふ
〔朦朧車夫〕客にいいがかりをつけたり、ひどい高い値段をふっかけたりする人力車夫。もちろん、きまった車宿(くるまやどーー人力車の置き場)に属していない存在で、今日、雲助、朦朧タクシーとよばれる流しの自動車の悪質な運転手に同じ。
もうろくずきん
〔耄碌頭巾〕濃い浅黄の太織(ふとおり)の頭巾で、中流以下の老人が寒さしのぎにかぶったもので、みるからにじじむさい(貧弱な)感じゆえにいう。
もくぎょこう
〔木魚講〕輪姦(りんかん)のこと。念仏講(ねんぶつこう)ともいう。葬式の費用を平常からためておく講中が、葬いのとき首に紐をかけた大木魚を鳴らし、順送りに念仏をいう。その順送りから輪姦の意味になった。単にはらんだことをも木魚の形に見立てていう。
もぐり
免許を得ないでやっている医者や弁護士。セミプロの芸人をもいう。むぐり。
もくろく
〔目録〕金一封。人におくる品物の名をかいた紙。芸道や武道では、一と通り教えつくしたとき門人にその由をかいて渡す紙。また、実物の代りに、まずかりにその品目の名のみを記しておくるもの。
もくろんじ
〔木欒子〕もくげんじのこと。無患樹科(むくろじか)にぞくす中華産の落葉喬木(らくようきょうぼく)。葉は羽のようで、小さい葉はまわりが鋸(のこぎり)のようになっており、花は小さく黄色。多く寺院にうえられ、薪(まき)になるし、種は珠数(じゅず)の玉にもちいる。
もじ
物品や状態をあらわにいわずに、そのことばの頭字につけて感じをやわらげる用法。いわゆる女房ことばの一つで、宮中の官女や将軍家大奥の女中たちの編み出したことばである。鯉は「こもじ」、すしは「すもじ」、髪および添(そえ)髪は「かもじ」、気の毒は「気もじ」、お気の毒さまは「お気もじさま」、お恥ずかしいは「おはもじ」、湯巻(腰巻)および浴衣は「ゆもじ」となる。「もじことば」という。
「おさめ『オヤオヤおしゃもじとは杓子の事でございますよ、オホホホホホ』むす『おさめさん、ほんにかえ。私は又おしゃべりの事かと思ひました。鮨(すし)をすもじ、肴をさもじとお云ひだから、お喋舌(しゃべりい)もおしゃもじでよいがネエ』(略)むす『此湯もじがあんまり熱(あつ)もじだからつい火傷(やけど)もじ』初『アレ又じやうだんをおっしゃるよ、オホホホホホ』ト二人大笑ひに笑ふ。初『チット水をうめませうか』むす『それはお憚(はば)もじだネ』」(式亭三馬「浮世風呂」)
もじっか
モジモジ。「ごろつか」「ぞろつか」のたぐい。
もじりつくぼう
〔錑突棒〕錑は、長柄(ながえ)の先に鉄製のTのような形のものが上下に沢山ついていて、捕物のとき先方の衣類へ引っかけて召し捕る。俗に袖がらみ。突棒は、鉄製で形は撞木(しゅもく)に似たやはりT字型、このTの先に多くの歯があり、やはり長柄で錑とほぼ同じ働きをする。
もじりまわす
グルグル廻すこと。「酔って首をもじり廻した」
もたつく
いちゃつく。もたもたする。
もちおもり
〔持重り〕やや身に余るほど重たいこと。
「そばに居た侍が持重りのするほど金を持ってるので、」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)
もちざっペい
〔持ざっぺい〕物持ち。
もちゃすび
「もちあそび(もてあそび)」のなまり。すなわち、おもちゃ。元来「おもちゃ」は「おもちあそび」つまり「おもちゃすび」のつまったことばである。
もっそうめし
〔物相飯〕刑務所でたべさせる飯。
「わっちも堅気の髪結ならお礼を申してお貰ひ申すが、きざなことだが獄中(なか)へも行き物相飯も喰って来た上総無宿の入墨新三だ。」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)ーー髪結新三」富吉町新三内の場)
もときにまさるうらきなし
〔元木に勝る末木なし〕幾回取り代えて見ても最初に関係したものにまさるものはない。
もとじめ
〔元締〕親分。
もとすえ
〔本末〕原因と結果。
もとのもくあみ
〔元の杢阿弥〕昔、筒井順昭病死ののち、その子順慶の成人まで、遺言により南都の盲人で音声のよく似た杢阿弥という者を招いて、ほの暗い寝所に置き、順昭病気の体として外来者にみせていたが、順慶の相続年齢に達したとき、はじめて順昭の喪を発表し、杢阿弥は再び元の町人に戻った。これを語源とし、出世したものが再び貧乏人となるをいう。
もとべつに
〔元別に〕元々、改めて。
「元別に証文をしたてえわけぢゃアねえ。」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)
ものいり
〔物入〕出費。外へ支払う金。「今度の会では随分物入りがした」
ものなり
〔物成〕物価。
「最(い)とど物価(ものなり)の高え吉原ぢゃねえか、五厘で腹のくちくなる食ひ物のあるところはねえやな。」(初代柳家小せん(盲人)の落語「白銅(はくどう)」大正8年版)
ものみだかい
〔物見高い〕見る価値のないものを珍しがって見ることをいう。
ももんじい
猪肉のこと。肉食をいやがった江戸時代には、今日高価な猪の肉も、下等な人たちや「ごろつき」の専用食品であった。
式亭三馬「浮世風呂」の「うんざり鬢(びん)とかいふ、ちうッぱらの中年増(ちゅうどしま)」が「例所(えて)へ行って、ももんぢいで四文二合半(しもんこながら)ときめべい」と生活ぶりをあらわしているが、この「ももんぢい」には「猪鹿の料理屋」と註がふってある(明治元年より57年前の文化8年に刊行)。
もよぎ
〔萌黄〕もえぎ。青と黄との間のいろ。
もらいにん
〔貰人〕物貰い。人の家へものをもらいに来る乞食。人の門(かど)に立つ乞食。
もらいひき
〔貰引〕もらって妓籍(芸者の籍ーー花柳界での存在)を抜くこと。
もりきり
〔盛切〕一ぱいにくむこと。盛切りの水。
もりじお
〔盛塩〕料亭や待合や遊女屋その他客商売の家で、縁起を祝って入口に三角型に塩をもる。玄宗皇帝が牛にのって、連夜、愛妾の所へ行くとき、牛が足をとめた家へその夜は宿る。牛は塩を好むので、愛妾たちが争って塩をわが家の入口へもったのがはじまりだという伝説がある。
モレアン
モールに同じ。緞子(どんす)に似た浮織(うきおり)の織物で、経(たて)は絹糸、横は金糸又は銀糸。金糸のを金モール、銀糸のを銀モールといった。後世の金モール銀モールは、金糸または銀糸のみをよりあわせたもので全く性質を異(こと)にしている。
もろこしで
〔唐土手〕中国産の系統のという意味。手は、種類と解すべきで、もろこし種。
もんがた
〔門形〕門の左右の柱だけあって、屋根のない入口の構え。
もんぎれ
〔門切〕門限。
もんじやき
〔文字焼〕今日のお好み焼。今日のは花街や歓楽街に小意気な一軒をかまえるようになったが、大正震災までは駄菓子屋の店頭、または往来を荷をひいて売り歩いていた。
もんぜんばらい
〔門前払い〕追放。客をことわること。
もんそ
〔門訴〕多くの人数が連れ立ち、領主代官の門前におしかけ自分たちの希望を訴えること。佐倉宗五郎の劇に見られた。今日の大臣や知事、議員に対して行う陳情運動に似ている。
もんどりうつ
とんぼがえりをする。さかさまに投げ飛ばされる。
もんながや
〔門長屋〕表に形ばかりの門がある長屋。
もんにゅう
〔門入〕入門。弟子入り。
もんば
〔紋羽〕地質があらくやわらかく毛の立った一種の綿布(めんぷ)。
もんびのしまい
〔紋日の仕舞い〕物日(ものび)ともいう。五節句、祭その他の遊里の行事当日を紋日といい、その日の遊興費は高価であるし、遊女自身も新しい着物をこしらえ交際費も多分にいるので、ためになる客に一切を負担させ、あそんでもらうをいう。
「廻(めぐ)る紋日や常の日も、新造禿(かむろ)にねだらせて」(新内「若木仇名草(わかぎのあだなぐさ)ーー蘭蝶」)
もんもん
「じいじいもんもん」
ヤア
香具師(やし)。てきや。ヤーさまともいう。
ヤアトコセ
住吉踊の掛声。坊主頭で派手なこしらえをした大道芸人が花万灯(はなまんど)をはやし立てておかしく踊った。かっぽれの豊年斎(ほうねんさい)梅坊主も、これにぞくした。
ヤイノヤイノ
ほれてのぼせ上がっている形容。「ヤイノヤイノと取りすがって」などという。女の方がほれている場合が多い。
やえぎょく
〔八重玉〕二重三重の祝儀(チップ)。
やおぜんがたのしょくだい
〔八百善形の燭台〕浅草山谷の料亭八百善の案出した大きい蠟燭立。普通の燭台同様の真鍮(しんちゅう)製なるも、一般用品よりガッシリと重量があるのが特色。芝居の小道具では今日も用いる由。
やかいむすび
〔夜会結び〕束髪(そくはつ)の一種。「たぼ」からねじり上げて左右に輪をつくり、銀杏返(いちょうがえ)しをおしつぶしたようにしたもの。
やかず
〔家数〕いえかず。
やかた
〔屋形〕屋形船の略。江戸中期には吉野丸、川一(かわいち)丸など、船上に屋形(屋根の形)をつけた豪華遊覧船が、すみだ川にうかべられた。「屋形船山の這(は)ひ出る如くなり」の古川柳に、そのおおらかな景色が想像される。こういう船には多くの芸者幇間をはべらして遊んだ。
今井卯木は「川柳江戸砂子(えどすなこ)」に宝暦天明に60余艘あった屋形船が文化年間には20艘に減り、かって5060艘だった屋根舟(屋形船ほど大人数を乗せず、華奢(きゃしゃ)なアベックにふさわしい舟)が文化期には500艘にふえ、これは大名と町人の盛衰が分かるとし、また侍が町人化した例であるともいっているのはおもしろい。
「芸妓が這入(はい)って、お肴(さかな)がはいって船頭が六人位で、これは屋根に居る、こいつは艪(ろ)でこぐのではなく、竿(さお)でさす。この屋形船には蓬萊丸(ほうらいまる)とか日吉丸とかいふやうな名がついてゐて相当になかなか大きな船です。」(高村光雲「両国の夕涼み」)
やかんしんじん
〔薬罐信心〕熱くなるが、すぐさめる信心。
やきぎり
〔焼切〕おさまり。始末。「早く焼切をつけろ」
やくざのもの
〔厄雑のもの〕ひどいもの。つまらないもの。最下級品。
「あんな厄雑な者だから、汝(われ)を力に思って居るんだから、」(三遊亭円朝「塩原多助一代記」)
やくじょう
〔約定〕極め。約束。
やくたいし
〔薬袋紙〕薬を入れる袋。楮(こうぞ)の木の皮から得た液体と雁皮(がんぴ)の液とを同じ量につかってすいた紙。
やぐだな
〔夜具店〕遊女屋で客用の夜具ふとんをいれておく部屋。
やくれい
〔薬礼〕薬代。
やけのなか
〔焼けの中〕火事で焼けている最中。
やけのやんぱち
ひどいやけのこと。
やじ
親父の略。
やしきまど
〔屋敷窓〕武者窓。門番のいる所の脇から、門の方をみる窓。
やしきもの
〔屋敷者〕武家階級。屋敷育ち。また、武家屋敷に奉公するもの、したものをもいう。「店者(たなもの)」に対することばといえる。
やしゃぶし
〔夜叉五倍子〕樺木科(かばのきか)の落葉喬木(らくようきょうぼく)。内地の到るところの山地に自然にはえ、葉は玉子のような形で、廻りが針に似たひらき方をしており、長楕円形で、春は、一重(ひとえ)の小花が同じ株にいくつもひらき、果実は褐色、茶黒色の染料(夜刃(やし)の実)。
やじりきり
〔家尻切り〕家、蔵の後方を切り落して侵入する盗人のしぐさ。
「とても悪事を仕出したからは、これから夜盗家尻切、人の物は我物と栄耀栄華(えようえいが)をするのが徳。」(河竹黙阿弥「小袖曾我薊色縫(こそでそがあざみのいろぬい)ーー十六夜清心」稲瀬川百本坑の場)
やすけ
〔弥助〕鮨(すし)のこと。大和五条の釣瓶鮨(つるべすし)へ弥助と名を変えて、平維盛がかくれていたという筋の「義経千本桜」の浄瑠璃からでた。
やだいじん
〔矢大臣〕居酒屋で酒をのむこと。「矢大臣をきめよう」。随身もの(家来)の酒をのむような下等な店ゆえ、矢大臣のいる随身門のしゃれ。
やたいっぽね
「やたいぼね」
やたいぼね
〔屋台骨〕家。店。身代の意味にも使う。
落語「景清」の定次郎が観音さまにかけた願が届かず、やけになって「こんな大きな屋台ッ骨をしやァがって、俺のこんなけちな眼が癒(なお)せねえのか、畜生めッ」。
やたいみせのかに
〔屋台店の蟹〕しゃちこばっている人をいう。
やちぐさ
〔谷地草〕山の間の土のようでいて、一と足入れると、56尺も入ってしまうところを、谷地、又は野地(やち)といい、谷地草はそうした湿地(ジメジメした所)にはえる草。
やっかむ
うらやむ。やきもちを焼く。
やつがれ
僕。私。へり下って自分をいうことば。
やっこ
〔奴〕武家屋敷の仲間(ちゅうげん)。折助。今でも舞踊などにその姿の伝わる、あの「奴さん」である。単に「やつ」とか「あいつ」とかいうぞんざいな第三人称にも使う。
やっこじゃのめがさ
〔奴蛇の目傘〕上下にのみ渋がぬってある蛇の目傘。一般の蛇の目より安い品。
やっこどうふ
〔奴豆腐〕賽(さい)の目に切った豆腐。「奴に切ってくれ」という。奴の紋の釘抜(くぎぬき)に似ているから、いう。
やっちゃば
青物市場のこと。ヤッチャヤッチャと取引のとき、高声でいうところから。
やっとん
舞踊のこと。その足拍子からいう。
やどぐるま
〔宿車〕車宿(くるまやど、親方がいて店をかまえ大ぜい人力車夫をやとっている)に属している、身もとの明るい人力車。自動車でいうと、流しでなくハイヤー。
やどさがり
〔宿下り〕奉公人が帰宅すること。
「当月武家奉公の女子、宿下り又は薮入とて家にかへり遊楽をなす、日定らず」と「東都歳事記」にあり、それゆえに往昔の歌舞伎の3月興行はこれをあてこんで「鏡山」「妹背山(いもせやま)」のごとき御殿女中の登場する狂言を選んで上演した。また古川柳には「一丁の血を動かした宿下り」。久々に生家へ戻って来た美しい御殿女中へ、町内の若人たちのワイワイという評判ぶりである。
やどやみせ
〔宿屋店〕宿屋。
やどろく
〔宿六〕ろくでもない亭主。「内の宿六、亭主野郎」
やなぎのおばけ
〔柳のお化〕さがるというしゃれで、失敗したこと、おちぶれたこと。「さがっちゃこわいよ柳のお化」
やなぎわら
〔柳原〕古着のこと。神田須田町から和泉橋への電車通り(今の裏通り)には、南側に古着屋が多くあったためである。「この羽織は柳原だ」
やねいたみたいなせった
〔屋根板みたいな雪駄〕屋根板のようにペシャンコにすりへった雪駄。
やねだい
〔屋根代〕木賃宿の宿料。雨露をしのぐ屋根の代金という意味。
やねぶね
〔屋根船〕屋根のある船で、芸者をはべらせてすみだ川の景色をあじわいながら盃を挙げるのに適した。屋形船ほど多人数を乗せることなく、小人数で浅酌低唱(せんしゃくていしょう)を主とした。
「気の利いたもので、夏は青簾(あおすだれ)、冬は引き障子、実に気の利いた遊びです。」(高村光雲「両国の夕涼み」)
やのむね
〔家の棟〕屋根の最も高いところ。「家の棟三寸下(さが)り、草木も眠る丑満(うしみつ)の頃」などとよくいったが、近頃は家の棟といういい方がほとんどなくなって来た。
やば
〔矢場〕→「ようきゅうば」
やばい
犯人が警察の探査がきびしく身辺が危いこと。
やぶさかて
〔藪酒手〕ちょっとやった祝儀の金。
やぼてん
〔野暮天〕気のきかない人。ものの分からない人。
やまいぬ
〔病犬〕狂犬のこと。
やまいわい
〔山祝い〕昔、箱根山を無事に越すとそれを祝って、山祝いの盃を上げたと「半七捕物帳」(岡本綺堂)にある。もちろん、箱根には限らない。
やまおかずきん
〔山岡頭巾〕藺(い)などでこしらえた頭巾で、木こり、猟師、江戸侍がもちいる。
やまがいる
〔山が入る〕帯が古くなり、芯(しん)などが痛んで露出していることをいう。
やまかご
〔山駕籠〕旅でつかうかご。
「四ツ手よりは稍(やや)広けれども前後覆(おおい)なく左右にも垂(たれ)なく雨天の時は桐油(とうゆ)を覆ふのみ冬抔(など)は随分寒し。」(高砂屋浦舟「江戸の夕栄」)
やまがたにおく
〔山形に置く〕中央が高く両方が下がり、山に似た形に品物を置くこと。徳冨蘆花「不如帰(ほととぎす)」に 「さうださうだ左様(そう)山形に置くものだ」。これは幾本かの酒徳利を、山形におけば見た目に美しいということ。
やまかわしろざけ
〔山川白酒〕白酒のことを、山川酒という別名があるのによる。
やまぐもり
〔山曇り〕山中で急に曇り、霧を生じること。
やまこ
〔山子〕大きなことをいう。「山子を張った」
やまぜげん
〔山女衒〕地方のさびしい村々を専門に歩くぜげん。→「ぜげん」
やまでおどす
〔やまで嚇す〕仰山(ぎょうさん)にして世間をビックリさせる。
やまとにしき
〔大和錦〕唐綾(からあや)をまねてつくった国産の糸錦(いとにしき)。
やまなしきゃはん
〔山なし脚絆〕脚絆の上部が山形になっていないのをいう。
やまをゆりだしたような
〔山をゆり出したような〕山をゆすぶりだして来て、ここへ置いて見たような。
やみあげく
〔病揚句〕病後。
やみくも
〔闇雲〕何にも分からず夢中に。「やみくもに逃げたよ」
やらずのもなか
〔遣らずの最中〕やらずぶったくりの最中という意味。餡(あん)の入っていない最中のなかへ数字をかいた籤(くじ)の紙を入れてやるばくちで、その出来のいいときを見はからって、「やばいよやばいよ」(危険の意味)といいながら、その場の金もばくち用具もーしょに持って逃げてしまういかさまをいう。→「にさんのみずだし」
やりだまにあげる
〔槍玉に挙げる〕槍先に突き上げる。槍玉とは槍の玉縁(たまぶち、装飾あるふち)のこと。そのふちの辺りまで相手に深く突っ込んで行くこと。相手の人を攻撃する場合に、辛辣(しんらつ)にののしることをもいう。
やりて
〔遣手〕遣手婆。遊女の取締りをし、万事を切り廻す老女で、例外はあるが、憎らしい貪慾(どんよく)の女が多く、「明烏(あけがらす)」の雪責めに見るように遊女を折檻(せっかん)するに一と役買ったりした。花車(かしゃ)、香車(きょうしゃ)ともいう。古川柳も遣手をよくいったのはほとんどなく、「知る人をひどくしばるは遣手なり」「つれ合ひの日さと遣手は梨を食ひ」「やりてとは仮(かり)の名じつは貰ひてえ」「そのとき婆(ばばあ)大音声に笑ひ」など。
やりてべや
〔遣手部屋〕遣手婆の部屋。
やりひとすじ
〔鎗一筋〕家来に槍をかつがせて歩くほどの武士。槍一筋の主。
やれこれ
かれこれ。
やんめ
〔病む目〕昔は眼病の人があると、「やんめあり」など、その家の表へ札をはってだし、それをみた人にうつって、病人の方は直るといった。大正期の童謡「港」に対して作られた「ドレミっちゃん耳だれ、目はヤンメ」という替え唄の普及状態からおしてみると、このことばはついこの間まで生きていたものといえる。
ゆうぎな
〔勇義な〕勇ましくて義心ある。
ゆうげい
〔遊芸〕謡、茶の湯、生花、踊、琴、三味線、笛、香など。
ゆうてき
〔幽的〕幽霊をユーモラスにいう。
ゆうびんばしゃ
〔郵便馬車〕郵便物を運ぶ馬車で、赤く塗ってあった。
ゆうぶつ
〔尤物〕尤(ゆう)なるもの。美人のこと。
ゆうほ
〔遊歩〕散歩のこと。
ゆきおろし
〔雪下し〕菅笠の一種。竹の皮をさらした白色の笠で普通の菅笠よりさらに深く全体に大きく、またふちに円味があって雪の日に冠って雪の積らぬ工夫のしてある笠。
ゆきたつ
〔行き立つ〕自分のからだの始末が付けられる。この世を渡って行ける。立つ瀬がある。
ゆきぬけ
〔行ぬけ〕やりっぱなし。だらしのないこと。
ゆきは
〔行端〕行くべきところ。「行端がなくてどうすることもできません」
ゆきもどり
〔行戻り〕列車の往復切符のことを、行戻りでいくらという風にいった。
ゆづけ
〔湯漬〕お茶潰ならず、冷飯へ白湯(さゆ)をかけたそまつな飯。
ゆとうよみ
〔湯桶読み〕「重箱(じゅうばこ)読み」の対。手本(てほん)、先生(さきしょう)、旅僧(たびそう)、話中(はなしちゅう)など。
ゆば
〔湯場〕温泉場。
ゆびきり
〔指切〕夫婦約束をしたもの(遊女に多い)が、誓いの印(しるし)に小指を切って男にあたえる。都々逸には「親に貰った五本の指を四本半には誰がした」。子供が約束をたがえないというとき、小指をかたく組み合わせ「指きりげんまん」という。→「げんまん」
ゆめまくらにたつ
〔夢枕に立つ〕ゆめで枕もとへ姿を見せる。
「その殺された晩、安兵衛が主人と私共の処へ夢枕に立ちまして、久津見の娘は安次郎の許嫁(ゆいなずけ)であるから夫婦にしてやってくれ。」(三遊亭円朝「鏡ケ池操松影(かがみがいけみさおのまつかげ)ーー江島屋怪談」)
ゆる
〔宥る〕許される。大正期の川柳に「勘当がゆりて日比谷のうれし泣き」。日比谷に大神宮があり、結婚式場だったので、その風景。
よいしょ
幇間(たいこもち)のこと。幇間が「よいしょ」と額(ひたい)を叩くことからいう。
よいぜっく
〔宵節句〕節句の前夜。宮祭の前夜を「宵宮(よみや)」というのと同類。
よいたんぼう
酔払い。よたんぼう。
よいよい
中風。式亭三馬「浮世風呂」の巻頭にも登場する。「虫の這(は)ふ様(よう)に歩み来るは、俗にいふよいよいといふ病の人」
ようがく
〔洋学〕外国の字間。→「ふくざわぼん」
ようきゅうば
〔楊弓場〕名高い神社の境内や娯楽街で、遊戯用の小さな弓をひいて遊ばせる店のこと。矢取り女といって客の放った矢をひろう美人が数名いて、淫もひさいだ。明治19年以後、次第に取締りがやかましくなり、明治末になくなった。
 それでも明治245年頃までは日本橋の郡代(ぐんだい、馬喰町4丁目)、芝神明前、浅草奥山(観音裏)にあった。
「明けっ放しの店を覗くと赤毛氈(あかもうせん)の上に黒塗扇形の矢函(やばこ)へ玩具(おもちゃ)のやうな弓と矢が七八本づつ、三組ほど、その奥三間ばかりの突当りに長方形の大きな太鼓、その表面へ大小三四個の的が吊してある、客は毛氈の上へ猫背に坐って的を狙ふ。大抵は外れて太鼓へドン、一隅に長火鉢を据えて例の白首が二三人、長煙管を手にして表を眺め『ちょいと眼鏡の旦那』『シャッポの兄さん』など、大びらに呼び込む。」(山本笑月「明治世相百話」)
ようきん
〔瑶琴・楊琴〕桐の胴で、真鍮(しんちゅう)の絃(いと)を13本または16本はった、持ち歩ける小型の琴で爪は鼈甲(べっこう)製である。川柳に「法界屋(ほうかいや)琴をコラショとしょって来る」。
ようご
〔洋語〕外国語。
ようずいさんこつ
〔腰髄三骨〕脊髄(せきずい)カリエス。
ようそう
〔洋装〕明治時代には男子の洋服姿を洋装といい、女子の洋装は女唐服(めとうふく)とさげすんだようにさえ、いった。
「窓に頬杖(ほほづえ)つきたる洋装の男と顔見合はしたり。」(徳冨蘆花「不如帰(ほととぎす)」)
ようだんす
〔用箪笥〕身のまわりの一寸したものをいれておく小だんす。
ようば
〔用場〕便所。
ようばいそう
〔楊梅瘡〕梅毒のこと。
ようふく
〔洋服〕袖がないからそでない、真実のない人のことをいう。
ようぶつ
〔洋物〕唐物。西洋小間物(こまもの)ともいった。
よくせき
よくよく。「身投げまでしようというのはよくせきのこったろう」
よくどうしい
〔欲どうしい〕欲深いこと。
よごしに
〔夜越に〕夜の道中を。
よごしのりょうせん
〔汚の料銭〕損料。
よこにわ
〔横庭〕その家の横がわに家とならんである庭。一流の料亭とか遊女屋とかでは、広い家のなかの、いろいろなところへ庭をこしらえ、風流な景色を見せた、その一つ。
よこぼね
〔横骨〕頬骨(ほおぼね)。横骨の出ていない顔を美とした。
よこみち
〔横道〕間道(かんどう)。
よしど
〔葭戸〕夏の襖(ふすま)や障子に代用する葦簀(よしず)を張った戸。
よしばい
〔夜芝居〕夜間興行の演劇。昔は、早朝より夕方までの興行が多かったゆえ、特にこういった。
よしびょうぶ
〔葭屏風〕夏になるとつかう葭でこしらえた屏風。

よしみ
〔好み〕好意。「友だちのよしみでしてやったんだ。ありがたくおもえ」
よしわらかぶり
〔吉原かぶり〕手拭を2つに折って頭へのせ、その両はしを後で結んで、前は左右へ蝶々のようにはねる。
新内流しその他、町を流して歩く芸人がこのようにしてかぶった。吉原を流す人々から起ったので、この名があるのか。落語家がよく踊る「花は上野か染井のつつじ」のときも吉原かぶりにする。
よそばうり
〔夜蕎麦売〕夜間、荷をかついで町を流し歩くそば屋。二八そば屋。風鈴蕎麦屋。二八そばとは、二八十六文で売ったゆえとも、そば粉とつなぎが28の割であるゆえともいう。かついでいる荷に風鈴が吊してあるため風鈴蕎麦屋。明治初年以後は鍋焼うどんと共に東京の夜の風物詩の一つとして、世話狂言にしばしば登場する。
「夜鷹が喰ふからではない、お鷹匠(たかしょう)の拳(こぶし)の冷えるに手焙(てあぶ)りを供する為、享保年間に手当を致し、其廉(そのかど)を以てそば屋甚兵衛と云ふ者が願って出て、お許しになったので、」 (三遊亭円朝「月謡荻江一節(つきにうたうおぎえのひとふし)」)
よたか
〔夜鷹〕街娼。寝所に敷く茣蓙(ござ)を持ち手拭を吹流しに冠って、柳原堤のような寂しいところで客を引いた。本所吉田町はその巣窟で、川柳に「吉田町お花お千代がお職なり」、また「柳原二八ぐらゐの声で呼び」。「三人吉三」の大川端に出るおとせはその一人。
よたかそば
〔夜鷹蕎麦〕→「よそばうり」
よたんぼう
酔払いのこと。東海道の旅人をよんだ古川柳に「よたんぼうめがと鶴見で待合せ」。品川を出発してから酔っておくれたひとりを、鶴見で他の連中が待っているという意味。
よつ
〔四つ〕四手駕籠の略。
よつで
〔四つ手〕四手駕寵。

「四ツ手駕籠は竹駕籠の四方を茣蓙(ござ)にて前後を包み左右にたれをおろし雨天の時などは其上を桐油(とうゆ)にて包む。夜中はたれの外に大なる提灯をぶら下げる。窮屈にて乗心地よきものに非ず。」(高砂屋浦舟「江戸の夕栄(ゆうばえ)」)
よってもつけない
〔寄っても着けない〕全然近寄れない。
よっぴて
夜どおし。一と晩じゅう。「夜がら夜っぴて」「夜っぴて介抱した」
よづめ
〔夜詰〕夜勤で警固(けいご)すること。またその侍。
よなし
昼は寝て、夜、吉原の廓へ客をおくる車夫。
よねんがない
〔余念がない〕罪がない。
「作さんの酔ったのは可笑(おか)しいよ余念がなくって。お前さん慾のない人だよ。」(三遊亭円朝「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)」)
よのぶとん
〔四布蒲団〕四布(4巾ある布)で作ったふとん。
よぶか
〔夜深〕夜更け。
よぼたん
よぼよぼな老人。
よぼれる
〔老耄れる〕老人をよぼよぼという。つまり老ぼれて、よぼよぼする意味。
よまんどし・かかんどし
〔読まん同士・書かん同士〕「おまんどし・かかんどし」とも、なまっていう。幼いときからの同期生という場合にいう。また別のつかい方では、「年齢のゆかない女中など二人以上で留守番でもさせる時『何しろよまんどしかかかんどしだから、』」(鏑木清方「明治の東京語」)とある。
よみうりぶし
〔読売節〕街上で書生風の男が歌う時事を諷刺(ふうし)したはやり唄。縁日その他でのちにはヴァイオリンをひいて歌い、その唄をかいた本を売った。
よみや
〔宵宮〕祭礼前夜の祭。前夜祭。節句の前夜を「宵節句」というのと同額。
よりき
〔与力〕原胤昭(はらたねあき)「与力同心の由来」によると、与力は50人あり、世襲(親代々)で南町奉行所北町奉行所いずれへか属し、隔月に両所でとり上げた事件をさばいた。奉行とちがい世襲のため奉行よりも勢力があり、奉行の前で訴え書を朗読、また斬罪、獄門、礫刑(たくけい、はりつけ)、火あぶりの検視役をつとめ、平常白洲(しらす)へでるときは継裃(つぎかみしも)で、上下ちがったいろの裃を着用した。知行(ちぎょう)は地方200石の他に大名から付け届けといって「出入り」(今日の法律顧問)をつとめ、2人位ずつ1軒の大名へ出入りになっていた。
与力や同心は八丁堀に住んだが、上野が御料地(宮家の直属地)になる以前は、広小路また日暮里元金杉辺にいたという。また都築幸哉(つづきゆきや)「与力の話」には、家の構えは冠木門(かぶきもん)、小砂利(こじゃり)が敷き詰めてあって数台、突当りが大きな鞘形(さやがた)の唐紙、正月に火消が挨拶に来ると主人は袴で敷台のところでそれを受け、そのとき火消は土下座であった。邸宅は、400500坪が普通とされた。
故田辺南竜(五世)談には、与力は乗馬の資格あるゆえ一騎二騎と数え、同心は一人二人と数えた由。本来は寄騎(よりき)。つまり近衛騎兵というわけである。
らくいす
〔楽椅子〕安楽椅子のこと。
らしゃめん
外人の妾(めかけ)。洋妾。
「文久元甲子(こうし)三月版、広重筆『横浜売物図絵』(大錦絵)に黒色のやぎを図して『ラシャメン』と傍記(ぼうき)し『此(この)毛を俗にラシャに成と伝(つた)ふなり』とある。らしゃめんは綿羊の毛で作った洋織物であって、現今単に羅紗(らしゃ)と称するものに当り、外国人は大方此羊毛織物に包まれて臥(ふ)すものと断じ即ちらしゃめんなる動物の毛を以て製織したものを抱擁して暖(だん)を取る事に及ぼし、果ては之(これ)を擬人化し日本婦人にて外国人の妾となれるものを称してらしゃめんと呼んだものと思はれる。」(昭和7年版「横浜市史稿風俗篇」)
 また洋妾は外人から貰ったラシャを身にまとうからだという説もあると同書はしるしている。外人が洋犬と共にベッドに眠るところから、犬や綿羊をおかすとおもい、犬羊と同じ境遇となる洋妾を、らしゃめんととなえたという説は古く「守貞漫稿(もりさだまんこう)」にある。
らそつ
〔羅卒〕今日の巡査。御一新直後はポリス、次いで羅卒、明治7年以後巡査となる。官服に3尺の樫(かし)の棒を持ち、角灯をかかげて市中を取り締る羅卒の姿は、河竹黙阿弥「霜夜鐘十字辻筮(しもよのかねじゅうじのつじうら)」)の杉田薫にのこっている。
らちくちのつかない
意味のない。次第のない。まとまらない。てんやわんやの。
ラッコのシャッポ
〔猟虎のしゃっぽ〕北太平洋にいるけもの(狸に似ている)の毛皮でこしらえた帽子。宗匠相子の頭部にあたる部分がさらに高く高くこしらえられてある。
「ラッコ高帽子。身分のよき者この帽子を用ふ。この類はみな裏に織物をつけて細かにさしたる物多し。」(岡本昆石(こんせき)「古今百風吾妻余波(あずまのなごり)」)
らりこっぱい
〔乱利骨灰〕めちゃめちゃ。こなごな。さんざん。台なし。
らんたつ
〔乱立〕乱立縞(じま)の略。幅広で薄紫の縞。やたら縞といって、地味な老人のひとえものにもあった。
らんとうば
〔卵塔場〕墓場。
らんびき
〔蘭引〕酒などを蒸溜する器具。多くは瀬戸物の深い鍋の上に、同じ深さの鍋をフタとし、その上に冷水を盛る。下の鍋から蒸気が昇って、フタの裏面に達すると、水のために冷えて露となり、その裏面の一方にある口から流れ出る。
ランプベや
〔ランプ部屋〕江戸時代の吉原の遊女屋には、行灯部屋(あんどんべや)といって、方々の部屋でつかう行灯を、昼は一とまとめに入れておく部屋があったが、明治以後それがランプ部屋に変った。無銭遊興をした男は、この行灯部屋へいれられるということだった。
りあい
〔理合〕理屈。道理。
りかい
〔理解〕わけ。理由。京阪地方の大津絵の一節に「髪(たぶさ)持つ手に取りすがり、打たずと理解をいわしゃんせ」。
りかた
〔利方〕徳。利益。
りきゅうがたのくし
〔利休形の櫛〕茶道の名人千利休ごのみの櫛。長方形の小さい櫛で、歯が浅く、鼈甲(べっこう)でできている。大きくても3寸ぐらい、小さいのは2寸ぐらいの長さ。
りはつ
〔利発〕悧巧。りはつもの。
りゃんこ
〔双刀〕大小を差すもの。2本差の人。武家。「りゃん」は唐音(とういん、唐の国のよみよう)で両(2つ)のこと。
りゅうえん
溜飲(りゅういん)のなまり。
りょう
〔寮〕別荘、寺院の寄宿所(今日の会社の寮は後者の意味に近い)。
 河竹黙阿弥「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)ーー河内山と直侍」の御家人片岡直次郎が空脛(からすね)に頬ツ冠りで冴(さ)え返る寒さの雪中を入谷田圃の畦道伝(あぜみちづた)いに忍んでいく先が、(注・花魁の)三千歳の出養生(でようじょう)している大口寮(大口楼という妓楼の別荘)である。
りょうがえや
〔両替屋〕甲の貨幣と乙の貨幣を取り替え、また有価証券と金と交換する店。
りょうがけ
〔両掛〕挟箱(はさみばこ)または小つづらに、衣服その他を入れて棒の両端に掛け、かついで歩く旅行用の行李(こうり)をいう。
りょうごしだっす
〔両腰脱す〕明治9年の廃刀令以後、武士が大小刀をすてたこと。
りょうしばこ
〔料紙箱〕書簡箋(今日ならまだつかわない手紙やハガキや切手)などを入れておく箱。
りょう○○ぶ
〔○○両○○分〕金額を数えるとき以外にこういういい方をするのは金の貸借りのときである。「51分で貸そう」といえば「5両につき1分の利息という約束で貸そう」という意味。
りょうまどをおろす
〔両窓を下す〕昔の劇場は照明が不完全ゆえ、夜の場面など場内両側の窓をしめて舞台を暗くした、それをいう。
りんご
〔林檎〕江戸時代の林檎は慶応44月渡来の記事があり、明治59月には成島柳北が洋種の林檎を試食した日誌があるが、和産の林檎はないとされている。しかし直輸入品以外は、その果(み)小さく、味も単純、今日の林檎とは余程異る素朴な味のを日本林檎と呼んでいた。栽培の技術が低調で、西洋種ながら別個にちかいものが生産されていたのであろう。
 山本笑月「明治世相百話」にも30年代の水菓子屋風景をかいた中に、林檎はない。一般化したのは、明治末年以後としていい。
るすいやく
〔留守居役〕大名の参勤交替で国へかえっている間、江戸の屋敷を守り、幕府の公用をたす武士。
れいぎさんびゃくいぎさんぜん
〔礼儀三百威儀三千〕形だけをおそわっておぼえる礼儀は300のねうちしかないが、自分からそなわる威儀は3000の尊さがあるというたとえ。
れいさま
〔令様〕県令さまの略。県令は県知事で、それを略しながらうやまってよんだ。
れいじょうもん
〔礼証文〕永々の礼をかいた書き付け。
れつうち
〔○列打ち〕○列にならんで鉄砲をうつこと。
れん
〔聯〕柱または壁などの左右に、相対してかける細長い書画の板。また、芝居見立(みたて)など、手拭とか扇とかかりそめな小道具をあしらって巧みにその狂言を象徴するしゃれた遊びの細長い板をもいう。
れんがながや
〔煉瓦長屋〕煉瓦造りの長屋。
れんじまど
〔櫺子窓〕櫺子(タテまたは横に一定の間をおいて取り付けた木)のはまっている窓。
れんじゃく
〔連尺〕二たきれの板に縄をつないで背につけ、物をおうときにつかう道具。この形から赤ん坊を連尺におんぶして、という。
ろいろ
〔蠟色〕生漆(きうるし)に油類を加えないでこしらえた黒色のもの。刀の鞘を塗り、かわかしてから角粉(つのこ)と木炭で研ぎ、光沢(つや)をだすと艶麗で「おもむき」が生じる。
ろうかとんび
〔廊下鳶〕遊女屋でなじみの遊女が来ぬため、客が廊下をさまよい歩くをいう。落語「明烏(あけがらす)」の悪党コンビ、源兵衛・多助のごときもその一類であろう。
ろうじょ
〔老女〕武家の奥向(おくむき)の侍女の一ばんえらい人。
ろうしょうだち
〔労症質〕肺病の気味。
ローズ
傷のついている品物。ローズもの。古くなったもの。転じて役に立たなくなることもいう。「いまのうち歌わないと、この唄はすたれるから、折角おぼえたのがローズになっちまう」
ろうつけぎ
〔蠟附木〕マッチのこと。
ろうなぬし
〔牢名主〕重罪犯人が牢内で囚人の頭となり、諸事、数段高い座にあって切盛りをする。牢内での権勢は絶対だった。→「つる」
ろうほう
〔牢法〕牢内に自然とできているおきて。
「少しは牢法も弁(わきま)へながら、そんな不法なことをすりゃあ、このままにゃあ許されねえ。」(河竹黙阿弥「四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)」伝馬町牢内の場)
ろくけん
〔禄券〕官吏の俸給に替えた公債証書。
ろくさい
〔六斎〕1カ月のうち、162738の日など日数を定めて事をおこなうこと。田舎で市の立つ日取にもいうし、殿様が幾人かの愛妾の所へ六斎の日を定めて寝所へかよう場合にもいった。
ろくしゃく
〔六尺〕6尺棒の略。樫(かし)でできたもの。商家では強盗その他の用心にこの棒をつかった。平手造酒(ひらてみき)が笹川一家の用心棒だといういい方もこのことばから。
「よく商人(あきんど)の家にはありますが、何の役にも立ちません。煤掃(すすはき)の時に畳を叩くぐらゐのもので、」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)
「用心の六尺棒を持って、」(初代三遊亭遊三・落語「六尺棒」)
ろくまくきんしょう
〔肋膜焮衝〕肋膜炎症。肋膜炎。
ろこうちゃ
〔路考茶〕二代目瀬川菊之丞(路考)、江戸随一の女形として名声高く、市村座で柳屋お藤に扮し濃い茶の着附で登場して大人気、以来その着附の色を路考茶といって、明和以後流行した。
「路考茶が秘蔵と見えて鈴をふり
 の川柳は若い娘が十九歳位で死んで寺へ納めた幢(はた)が、其死んだ娘の秘蔵してゐたヒイキ役者の路考茶の振袖であると云ふので、幢には小さな鈴が数個付けてある。『鈴をふり』とあるのは、川柳では多くお寺の幢を云ふのである。」(阪井久良伎「演劇より見たる宝暦天明期」)
ろじづたい
〔路地伝い〕町中の細い横丁から横丁をぬけること。
ロハだい
〔只台〕公園などのベンチ。ロハは「只」という字を2つにわけたので、無料でかけられる往来のイスのこと。
ろよう
〔路用〕旅行費。路金(ろぎん)。
「今夜の雪を幸ひに、草加まで出抜けておいて、上州の方へ行かうと思ひ、いま練塀小路の旦那へ行き路用の金を貰ったから、……」(河竹黙阿弥「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)ーー河内山と直侍」入谷村蕎麦屋の場)
ろれつ
〔呂律〕ことばの調子。
わかしゅ
〔若衆〕若衆頭(わかしゅうあたま)の略。「若衆にゆおう」
わかとう
〔若党〕若い郎党。武家の奉公人で仲間(ちゅうげん)と侍との中間的存在。侍になれる可能性がある。
わかはる
〔若春〕新春。早春。
わかれ
〔別れ〕特別によこす金。
「行くなら別れを置いて行け。」(河竹黙阿弥「木間星箱根鹿笛(このまのほしはこねのしかぶえ)」)
わかれ
〔別れ〕客が遊女の所からわかれてかえることをいう。「別れの鐘」
わきざまし
〔沸ざまし〕一たんわいたのち生(なま)ぬるくなっているお湯。
わきほんじん
〔脇本陣〕本陣に次ぐ宿。2カ国の大名が同時に宿泊するとき、知行(ちぎょう)領の多い方が本陣へ、少い方が脇本陣へ泊る。→「ほんじん」
わきまえ
〔弁え〕支払い。
わくわくする
ビクビクしながら暮す。
「貧乏の世帯(しょたい)にわくわくするも昔の罰と思って居りますよ。」(三遊亭円朝「敵討札所霊験(かたきうちふだしょのれいけん)」)
わざわいもさんねんおけば
〔災も三年置けば〕災難も3年たつと何かの役に立つという諺。
わたしもの
〔渡物〕人にやるものという以外に、外国からわたって来た音楽とか物品とかの場合もつかう。渡来品。
わたのふんどし
〔綿の褌〕贅沢(ぜいたく)すぎる生活のこと。
わたりことば
〔渡り言葉〕やくざが諸国を渡って歩いて、人を訪問したとき最初にいう挨拶。仁義。
わっけもない
わけもない人。罪のない。他愛のない。
「あんなわっけもない人だけれど、お前の事を思って、わが子のやうにふだん云って居るから、」(三遊亭円朝「名人くらべ錦の舞衣(まいぎぬ)」)
わっし
〔私〕女でも使っていた。
わやくもの
いたずらもの。聞分けのない子。
わようランプ
〔和洋ランプ〕行灯(あんど)の形にできていて、なかの灯火がランプ。今日でなら、行灯の形の電気スタンドというところ。
「わざと電灯の野暮を避けて例の和洋行灯を据ゑ。」(徳冨蘆花の「不如帰(ほととぎす)」)
わらかす
笑わすと同じ。「笑かしゃアがら」
わらじくい
〔草鞋喰〕旅行中、草鞋のために足へできる傷。
わらのうえから
〔藁の上から〕生まれたときから。
わりかえし
〔割返し〕割戻し。
わりどこ
〔割床〕遊女屋で遊ぶものが高い金が払えず、一つ部屋へ二つ床をしかせ、間を屏風でしきって女と寝るをいう。2人づれで割床にすることもあり、ひとりで遊んで全然知らない客と割床の場合もある。
わりな
〔割な〕割合のいい。「割な話だネ」
わるあし
〔悪足〕女を喰物(くいもの)にしているその愛人。
「しかし廓の方言に、悪足ともいふそなた故、一応念をついておき、」(河竹黙阿弥「曾我綉侠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)ーー御所の五郎蔵」五条坂甲屋の場)
わるいちゃものまず
〔悪い茶も飲まず〕道楽もせず。
わるいみみ
〔悪い耳〕いやな話を耳に入れること。気まずい話を聞かせること。
「悪い耳とちがっていい事をおきかせ申したいと思ってね。」(三遊亭円朝「松と藤芸妓(げいしゃ)の替紋(かえもん)」)
わるがたい
〔悪固い〕わるくは悪人の意味でなく、度をこえての意味。馬鹿固い。「悪達者」「悪止め」「悪じい」など。
わるずい
〔悪推〕悪意に人の心もちをおしはかって考えること。悪推量。→「すいする」
わんぐり
大きく口をあけてのもうとする姿。アングリ。
わんちゃんもの
やんちゃん者、腕白(わんぱく)者より転じ、大人の場合は乱暴者。手のつけられない奴。
をみたよう
〔○○を見たよう〕このいい方、今日ようやくすたれようとしている。「を」をとって「○○みたよう」、さらにつづめて「○○みたい」というような崩れた用法がむしろ普通になってしまった。
「堅餅の焼ぎましを見たような」についてみれば堅餅の焼ざましは堅過ぎる人間の形容であるが、現代人なら焼ざましをみたようなといわず、「焼ざましみたような」とすぐつづける。「次郎長伝」を得意とした故神田伯山及びその門人ろ山は、強い人間の形容に「鬼を見たよう」と必ずいい、それが「オニョウ見たよう」と聞えるので、「鬼見たよう」と云っては弱くなるため、ことさらにこんないい方ももちいたのかと考えていたが、じつは江戸以来の用語を墨守(ぼくしゅ)していたのである。