アイヌ民族の奇妙な習俗
●ノイボロクス
 ノイボロクスは少数の人間だけができるもので、日本語にはうまく訳せない。しいて言えば「動物電気」あるいは「以心伝心」と言うべきもので、ある種の脳の刺激により、獣や魚がいる場所を知る方法である。ノイボロクスを使えば、珍しい客が来ることも分かる。
 ノイボロクスの予言はみんな的中するから、現在でも狩人は名人に聞いてから猟に出かけるし、自分でもその能力を鍛える。

●オハインカラとオハイヌ
 オハインカラ(オハは空、インカラは見る)は蜃気楼のことで、神がアイヌに善悪を知らせるために示した物体であるという。平坦な野原に山や川が現れて行く手をふさぐような場合は、必ず引き返さなければならない。もし強引に通過すれば神の教えに背くことになり、熊に殺されるか様々な不運を招く。アイヌは現れた物体の後ろには悪魔がいると信じている。
 またオハイヌ(オハは空、イヌは聞く)と言うものもあり、これは神のお告げを聞くことである。2〜3代前までは最も崇高な人物が行っていたが、現在ではこのようなことは皆無である。

●イム
 イムは中年以上の婦人に多く見られるもので、物事に驚いたとき意識を失い、相手の言行と全く逆をすることである。たとえば「この子は憎い」と言われれば、その子の頭をなでながら「かわいい子」と言う。逆に「かわいい」と言われれば「こいつは憎い」と罵り、ひどいときは殴りつけもする。
 これはおそらくヒステリーの一種で、婦人はとにかく男に服従していて常に反抗心を持っているから、これがイムとなって顕れるのであろう。

●ツス
 ツスは一種の占い(予言)で、男女とも年を取れば行うが、特に老婆が多い。病気の原因や凶事の前兆を発見し未然に防ぎたい場合、ツスグル(易者)を呼んで教えを乞う。この風習は現在でも盛んである。
 ツスグルは家に呼ばれると恍惚自失の状態になり、病気の原因などを夢うつつのまま述べる。語るのは乗り移ったもの(祖先・狼・狐・熊・鳥など)であって自分ではないから、ツスグル自身何を言ったか分からない。
 心でものを見ているせいであろう、このときのツスグルは、息が荒く、玉のような汗が噴き出し、目はカッと開いて虚ろで、ひどく恐ろしく見える。
 予言の間、男どもは厳粛に座って祈祷に余念がない。その光景は何にたとえることもできない荘厳なものである。

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