中央構造線を旅してみた

中央構造線・長野地蔵峠
地蔵峠から見た中央構造線(中央の谷)


 誰が言い出したのかわかりませんが、日本の3大パワースポットは山梨・静岡県の「富士山」、石川県の「珠洲岬」、そして長野県の「分杭峠」(ぶんぐいとうげ)なんだそうですよ。
 分杭峠は伊那市と大鹿村の境界にある標高1424mの峠で、巨大断層である中央構造線の真上に位置しています。中国の気功師・張志祥が「この場所は磁場ゼロ」だと発見し、パワースポット業界で有名になりました。

 伊那市観光協会の公式ホームページでは、

《地球の断層部分にも地球内部の未知エネルギーの出入り口があり、これを「ゼロ場(相殺磁場、ゼロ磁場)」と呼んでいます。断層の両側から、(正)方向と(負)方向の力が押し合って、局部的には零になり、零場が形成されてこの周辺に未知エネルギーが集積されやすいことが判っています》

 と、いくらなんでも非科学的すぎることを書いてます。
 磁場がゼロだから、方位磁石が北を指さず、くるくる回ってしまうそうですが、それって本当なんでしょうか? 

 コンパスが北を指さないといえば、富士山の青木ヶ原樹海が有名ですが、かつて本サイトの管理人が試したところ、コンパスはちゃんと機能しました。ただし、鉄分を多く含んだ岩石などがあれば、狂うことはあります。分杭峠も似たようなものなのかな? そこで、さっそく見に行ってみたよ。

中央構造線・分杭峠
分杭峠の中央構造線(中央の谷)


 シャトルバスに乗って国道152号から分杭峠に。そこから100mほど歩くと「気場」に到着です。
 iPhoneの電子コンパスを起動してみると、しっかり北を指してやんの。このアプリは地磁気を検知する仕組みなので、残念ながら、ゼロ磁場ではないということになりますな。
 
 分杭峠は意外にしょぼく、来てがっかり系のスポットですが、まぁ、山の中なので気持ちいいことは間違いありません。そばで売ってる「ゼロ磁場の秘水」(250円)も、まぁ美味しい水ではありました。
 ちなみに、同じバスに乗ってた夫婦が「この場所はすごい。近くの六角堂(?)にはすべての光が集まる」などと言ってたので、効果は人それぞれみたいです。

 さて、本題はここから。

 分杭峠は北側の斜面なので、中央にある谷はほぼ真北に走っています。つまり、向かって左が西、右が東になります。
 実は、この谷を挟んで、左右の地質はまったく異なっているんですね。左側が「内帯」、右側が「外帯」といって、簡単に言えば、海の中で外帯の地層が内帯の下へ下へと食い込んでいったのです。

中央構造線
中央構造線の誕生(「南アルプスジオパーク」のパンフレットより)


 内帯の方が古い地層で、そこに新しい外帯がどんどんめり込んでいく。
 するとめり込んだ外帯が圧力で変成し、岩石の性質が変わります。低温高圧による変成で、緑色岩などになります。
 一方、めり込むときに海水も巻き込んでいくため、内帯の地下にはマグマができ、これが上昇して冷えて変成します。高温低圧で花崗岩などができます。
 つまり、分杭峠の向かって左側は花崗岩、右側は緑色岩が主な岩石となります。

緑色片岩
緑色片岩(大鹿村中央構造線博物館)


 分杭峠の近くでは、中央構造線が露出している部分が何カ所かあります。
 たとえば北川露頭では、向かって右が緑色岩、左が花崗岩。中央構造線の左側も緑色になってますが、岩質は花崗岩です。

中央構造線・北川露頭
中央構造線・北川露頭


 続いて、よりわかりやすい安康露頭。中央構造線が縦に入っていて、右側が緑、左側が白なのがわかりますね。

中央構造線・安康露頭
中央構造線・安康露頭

 別な場所では、中央構造線が動いて、折れ曲がった尾根も見ることができます。

折れ曲がった尾根
折れ曲がった尾根


 中央構造線は分杭峠から地蔵峠あたりまでほぼ真っ直ぐに延び、そこから西に流れ、紀伊半島から四国へ延びています。人工衛星ランドサットの画像で見ると、その線(を結んだ線)がはっきりわかります。

ランドサットから見た中央構造線
ランドサットから見た中央構造線

 中央構造線の下にもう1本線(を結んだ線=御荷鉾構造線)が見えますが、実はその下にももう1本(を結んだ線=仏像構造線)あります。要は四国は4つの地質に分かれており、上から「領家変成帯」「三波川変成帯」「秩父帯」「四万十帯」と呼んでいます。
(「四万十帯」をさらに2つに分ける場合はを結んだ線)

 どうして「変成帯」と「帯」の2種類あるのか。
 通常、大陸プレートに海洋プレートが潜り込んでいくと、海洋プレートが削られ、どんどん新しい土地が増えていきます。これが付加体と呼ばれるもの。

 日本全体でいうと、石川県あたりが4億年以上前の最も古い大陸の地形(下の図の紫)で、そこに九州北部・中国地方・上越など3億年前の土地(緑)が潜り込みました。続いて、九州中部・四国北部・近畿・中部地方あたりの2億年前の土地(蛍光緑)が滑り込みました。
 この2億年前の土地の真ん中で、1億年前に巨大な滑り込みが起きたのが中央構造線です。あんまり巨大だったので、岩石の質が変化してしまったわけです。それが変成帯。

西南日本の地体構造
大鹿村中央構造線博物館のサイトより


 これで四国は北から「領家変成帯」「三波川変成帯」「秩父帯」に分かれました。その後、九州南部や四国南部、紀伊半島南部などの土地(黄緑)が滑り込んできて、これが「四万十帯」です。つまり、四万十帯は一番新しい地層で、たとえば室戸岬は1800万年前の土地です。若い土地の方が、当然、急峻でゴツゴツしています。
 秩父帯では、東京でトップクラスのパワースポット神戸岩(かのといわ)が1億5000年〜2億年前となります。

室戸岬
室戸岬の空撮

神戸岩
神戸岩(東京都檜原村)

  
 さて、これとはまったく別の地層があって、かつて富山県と静岡県を結ぶ一帯は海底にありました。そこに生物の死骸や泥が沈殿していき、あるとき隆起したのがフォッサマグナです。そのため、フォッサマグナではチャートや石灰岩など生物の死体が元になった石が大量に出てきます。

 フォッサマグナが隆起したのは、伊豆半島が本州にぶつかったためだとされています。フォッサマグナの左端が糸魚川—静岡構造線で、これと中央構造線が諏訪湖でつながっています。

諏訪湖の中央構造線
諏訪湖の中央構造線は、糸魚川・静岡構造線によって12kmも分断

 
 日本にはたくさんのパワースポットがありますが、それを整理すると

 珠洲岬 =4億年以上前の日本最古の地殻
 秋吉台 =3億年前の付加体
 神戸岩 =2億年前の付加体(「秩父帯」)
 分杭峠 =1億年前にできた中央構造線(「領家変成帯」「三波川変成帯」)
 室戸岬 =1800年前の付加体(「四万十帯」)
 諏訪湖 =数百万年前に隆起したフォッサマグナと中央構造線の接点
 富士山 =フォッサマグナに位置し、1万1000年前に噴火で誕生

 となり、パワースポットをめぐると日本列島の成り立ちがわかるのです。
 ちなみに伊勢神宮も鹿島神宮も中央構造線の上にあり、パワースポットの一角をなしています。鹿島神宮には地震を抑えるという有名な要石があるのも注目ですね。

鹿島神宮の要石
鹿島神宮の要石


 なお、中央構造線とフォッサマグナを発見したのは、ドイツ人のお雇い外国人、エドムント・ナウマンです。
 日本初の本格的な地質図を作成し、ナウマンゾウを発見したことで有名です。

エドムント・ナウマンのフォッサマグナ
中央に「フォッサマグナ」と書かれたエドムント・ナウマンの本
(糸魚川市フォッサマグナミュージアム)


制作:2014年5月5日

<おまけ>
 断層の深い部分で生まれる岩石には、カタクレーサイトやシュードタキライトがあります。ともに強い破壊力を受けており、この場所で大地震が起こるとされています。そんなわけで、シュードタキライトは「地震の化石」とも呼ばれています。
カタクレーサイト
これはカタクレーサイト(大鹿村中央構造線博物館)

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