PAC3を見に行ってみた!
弾道ミサイル防衛の歴史

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防衛省に配備されたPAC3(左の四角はバッテリー)
 

 北朝鮮が、金日成主席の生誕100周年を祝って、独自開発した衛星「光明星3」号を打ち上げると発表したのは、2012年3月16日のことでした。
 打ち上げを担当する「朝鮮宇宙空間技術委員会」の発表によれば、「光明星3」は地球観測衛星で、国内の森林資源の分布、自然災害の程度、穀物予想収穫高などを調査し、さらに気象予報と資源探査に必要な情報を収集するのが目的です。
 打ち上げは2012年4月12日から16日の間とされました。

北朝鮮のミサイル発射場 北朝鮮のミサイル制御所
北朝鮮が公開した発射場と総合制御所
(北朝鮮の公式サイト「ネナラ」より)

 
 しかし、これは衛星打ち上げではなく、単なるミサイル発射であると世界中が断定し、日本も対応に追われました。
 北朝鮮は正々堂々と発射ルートを国際海事機関に通告しており、政府は、上空を通過すると予想された沖縄の石垣島などに迎撃態勢を整えるよう自衛隊に指示を出しました。

 結局、沖縄だけでなく、ルートから大きく外れた東京・市ヶ谷の防衛省と朝霞(埼玉県)、習志野(千葉県)の自衛隊基地にもPAC3(迎撃ミサイルのパトリオット)が配備されました。要は半分演習ということですね。

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正面から見た発射機。後ろの「コ」の字型の柵は爆風防止


 PAC3というのは、正確には迎撃ミサイルのことではなく、パトリオットを効果的に撃つための最新「形態」のことを指します。
 北朝鮮は、日本列島がすっぽり入る射程1500キロのノドンミサイルを数百基も配備しており、それを迎撃するのは、日本海に展開するイージス艦によるSM3(スタンダードミサイル)と、陸に展開するPAC3となります。要はPAC3こそ、「日本防衛の最後の砦」なわけです。


 戦後、日本のミサイル防衛は「ナイキ・ミサイル」が一手に担ってきました。
 これは1953年にアメリカで開発された高高度迎撃用地対空ミサイルで、日本では、航空自衛隊によって1994年まで運用されていました。
 名前の由来は、もちろんギリシャ神話の勝利の女神「ニケ(Nike)」で、これを英語読みしたのが靴の「ナイキ」ですな。

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地対空誘導弾ナイキJの発射機(航空自衛隊浜松広報館)

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左からナイキ用のレーダー統制トレーラー(RCT)、捜捉レーダー(ACQ)、ミサイル追随レーダー(MTR)


 PAC1は、事実上、研究だけで終わり、日本では1994年からPAC2が配備されました。
 これは発射装置、レーダー、アンテナマストグループ、射撃管制装置、電源車の5台がセットになっていました。1991年の湾岸戦争で活躍し、アメリカ軍の発表によれば命中率は40〜70%とされています。しかし、実際にはこれよりもはるかに低い9%とも言われています。

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PAC2のシステム模型(左から発射装置、レーダー、アンテナマストグループ、射撃管制装置、電源車)


 パトリオットは地上のレーダーが弾道を計算したうえ、ミサイル本体が自分でレーダーを出して追いかけていくんですが、PAC2は目標のミサイルの近くで弾頭部を爆発させ、破片でミサイルを破壊する仕組みでした。そのため、ある程度ミサイルが大きい必要があり、1基で4発しか撃てませんでした。ところが、それでは破壊できないことがわかり、新たに開発したのがPAC3だったのです。

 PAC3では、パトリオットを完全に弾頭に当てる仕組みが採用されました。しかも、ミサイルを小型化し、1基で16発も撃つことができるのです。ノドンミサイルが1発で、イージス艦が日本海で準備万端で待機していれば、実はかなりの確率で打ち落とせるのではないかと言われます。
 ただし、ミサイルが小さいため、射程距離は20キロとかなり短くなっています。
 まぁ、実際の性能はよくわかりませんが。

 そんなわけで、防衛省に配備されたPAC3を超望遠で撮影してきたよ。

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発射装置の先端部のアップ

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発射装置の付け根のアップ。右の矢印の先には「三菱重工」って書いてあるんだけど、さすがに読めないや


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左の車両が射撃管制装置、右の車両が隊員が乗り込む管制車


 グラウンドに配置されたのは2基。なぜかレーダーが見あたりませんでしたが、これは実戦状態ではないということかな??
 でもまぁ、満開の桜の中、みんな写メを撮ったりしてて、ずいぶんノンキな感じで笑っちゃいました。


 結局、北朝鮮はミサイルを13日午前に打ち上げましたが、途中で空中分解して失敗に終わりました。
 問題は、今後行われるであろう核実験です。北朝鮮は、2006年にはミサイル発射して3カ月後に、2009年には発射して1カ月後に核実験を行いました。もし核の起爆装置の小型化に成功し、ノドンの弾頭に搭載できるようになったら、日本は24時間態勢で北朝鮮を監視する必要が出てきます。なにせ、ミサイルは7〜8分で日本に届くのですから。

<追記>
 2013年4月、再び北朝鮮ミサイル発射の危機が迫り、防衛省にPAC3が配備されました。このときはレーダーも展開していたので、写真を掲載しておきます。
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レーダーを展開してるのはかなり珍しいです



制作:2012年4月16日

<おまけ>
 世界初の大陸間弾道ミサイル (ICBM)はソ連が開発したR-7です。核を搭載し、実戦配備されたのが1959年。以後、ミサイル防衛の歴史が始まります。

 アメリカがはっきり防衛対策として掲げたのが、1984年のレーガン大統領によるSDI(戦略防衛構想)です。湾岸戦争の後、1991年に父ブッシュ大統領が提唱したのがGPALS(限定的攻撃に対する地球規模の防衛構想)。
 そして、1993年、クリントン政権が打ち出したのがTMD(戦域ミサイル防衛)とNMD(国家ミサイル防衛)。簡単に言えば、TMDが近距離防衛で、NMDが遠距離(米本土)防衛のことです。
 2001年、子ブッシュ大統領がTMDとNMDを合わせ、全体をMD(ミサイル防衛)としました。現在は、このMDに弾道(ballistic)をつけて、BMD(弾道ミサイル防衛)と呼んでいます。

 PAC3はBMDの一環で、日本は2004年度に初めて1068億円の予算を計上しました。その後、毎年1000〜1800億円規模の予算が計上されてきましたが、2012年度予算は570億円。
 パトリオット1発の値段は、数年前の米軍の調達価格が388万ドルだそうです。日本の2012年度予算ではパトリオットミサイルの取得に41億円計上されています。1発2.5億円×16発+手数料くらいの感じですかね。まぁ、この値段じゃ、簡単には試し打ちできませんな。
パトリオット
発射されたパトリオット(米陸軍のサイトより)

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