レアメタルの王国


VERTU
ロンドンにて


 2009年、ノキア傘下の携帯メーカーVERTUが東京・銀座に直営店をオープンしました。VERTUというのは超高級携帯電話で、価格はなんと370万円! 売りは24時間のコンシェルジュ・サービスで、必要であれば象でも調達できるんだそうです。
 今回は、このケータイをスタート地点にして「レアメタル」(希少金属)を探しに行きます。

 VERTUにはいろんなタイプがあるんですが、いちばん安いのが端末本体にチタンを使った「Ascent Ti」で、67万円だって。
 チタンはもう日本でもおなじみですが、軽くて硬いので、最近はゴルフクラブからメガネのフレームまであらゆるところに使われています。
 チタンの最大の特徴は塩にも酸にも強いことで、そのため戦闘機や人工衛星、はたまた淡水化装置、そして建材に使用されています。


東京国際展示場 浅草寺宝蔵門の屋根瓦
建材としてのチタン
左:東京国際展示場(ビッグサイト)、右:浅草寺宝蔵門の屋根瓦


淡水化装置 戦闘機F2
左:淡水化装置、右:戦闘機F2



 地殻にある元素の割合をクラーク数というのですが、酸素が49.5%で1位、以下、珪素(25.8%)、アルミニウム(7.56%)と続き、チタンは0.46%で第10位。つまり希少な金属ではないんですが、基本的には酸化チタンの形で存在するため、なかなか酸素と分離できず、利用が遅れました。
 純粋な金属チタンを取り出すことに成功したのは1910年のことで、量産化に適したマグネシウムによる還元法(クロール法)が確立したのは1946年。ちなみに日本でクロール法によるチタンの生産が始まったのは戦後の1952年のことでした。

チタンスポンジ
チタンスポンジ

 で、実はチタンが役立つのは、建材とかの「物」以外にもあるんですよ。

 たとえばチタンをガラスに入れると、屈折率が大きく上がるんですね。つまり高品質のレンズ製造に必須というわけ。また、酸化チタンは強い酸化作用があるため、光触媒と呼ばれる有害物質の分解、ガラスの曇り止めなどに利用できるのです。

 VERTUの最高級品は「Signature(シグネチャー)」というモデルですが、これは2000度の溶鉱炉で2週間以上かけて精製したサファイヤクリスタルをディスプレイに使用しています。これは人工的に作られたサファイアのガラスで、硬さを示すモース硬度がダイヤモンドに次ぐほど。つまり、何やっても傷つかないでしょうというわけ。透明度も高いので、ディスプレイには最適です。
 特許公報を見てみたら、サファイヤクリスタルの製造工程でも酸化チタンが使われているみたいです。


 さて、携帯電話には非常に多くのレアメタルが使われています。レアメタルとは希少金属のことで、ニッケル、コバルト、タングステンなどよく知られたものから、インジウム、タンタルなど珍しいものまで合計31種類あります。
 これに15種類のランタノイド元素、スカンジウム、イットリウムを加えた合計17種類を希土類元素(レアアース)と呼んで、まとめてレアメタル1鉱種と数えています。
 レアrareというだけあって埋蔵量が少ないのですが、実は身近なハイテク製品にはほとんど必ずといっていいほど、レアメタルが使用されているんですよ。

 歴史的に有名なのが、次の2つ。
 ソニーのウォークマンがどうしてあれだけ売れたのか? それは、サマリウムを磁性体に使ったことで、ヘッドがきわめて小さくなり、大幅な小型化が実現したからです。
 カラーテレビが普及したのは日立の「キドカラー」というテレビのおかげですが、これはイットリウムを使ったことで、鮮明な赤が出せるようになったからです(キドは輝度と希土から来ています)。

 では、現在、携帯電話に利用されているレアメタルにはどんなものがあるのか?

ニッケル インジウム
左:ニッケル、右:インジウム

●アンテナ:ニッケル、チタン、ホウ素
●液晶ディスプレイ:インジウム
●発光ダイオード(LED):ガリウム
●発信器:チタン、チタン酸バリウム
●コンデンサー:タンタル、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム
●スピーカー、マイク:ネオジテツボロン、サマリウム、コバルト、ジルコン
●コネクター:ベリリウム
●電力増幅器:ガリウム
●バッテリー:コバルト、マンガン

タンタル
タンタル

 このほか、製造工程で必要な小型精密モーターにはネオジウムが、プリント基板の穴開けに使う超硬工具にはタングステンが使われたりと、もはやレアメタルがないと日本の産業自体が成り立たないのですよ。

タングステン
タングステン

 ところが、そのレアメタルは中国をはじめとする外国にほぼ全面的に依存しており、価格高騰が続いています。特にレアアースは輸入の9割が中国で、輸入制限により大きな問題となりました。
 困ったなぁ、と思うわけですが、逆に言えばレアメタルで大儲けできそうじゃないですか。
 それで、まずはいくつかレアメタルの現物を見にいくことにしたよ!

アンチモン モリブデン
左:昔から難燃性材料として使われたアンチモン
右:ロケットや液晶パネルで使われるモリブデン


 さて、どんな高額でも携帯電話は消耗品なので、何年か経ったら破棄せざるを得ません。その携帯電話、経済産業省が回収を義務付ける方針を固めました。小型電子機器にはレアメタルが含まれているため、これを回収すれば、再利用できるわけです。これを「都市鉱山」と呼んでいます。
 ちなみに独立行政法人「物質・材料研究機構」の計算によると、日本は世界有数の都市鉱山があるそうです。金は約6800トンと世界の埋蔵量の約16%、銀は22%、インジウム61%、錫11%、タンタル10%と、世界埋蔵量の1割を超える金属が数多くあるそうです。


制作:2009年1月23日

<おまけ>
 鉄、銅、亜鉛、アルミニウムといった金属はメジャーなので、ベースメタルとかコモンメタルと呼ばれます。金、銀、白金(プラチナ)は貴金属(precious metal)ですが、プラチナはレアメタルにも含まれています。
 半導体や太陽電池に必要な珪素(ケイ素)は日本にも大量にあるのですが、酸化物から還元するには大量の電力が必要なため、やはり輸入頼みです。日本って、ホントに天然資源がないんですね。
ケイ素
ケイ素

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