このサイトの目的は、様々な価値観を知ることにあります。そのためには、対象とする文化をあらゆる角度から検証しなければなりません。こうした作業の場合、特に有効なのは、価値観の集積である文章を読むことでしょう。
だとすれば、差別だと感じる人もいる「ちびくろサンボ」を読み解くことで、一つの価値観の理解につながるわけです。それが、この童話の全文を公開する理由です。 当然、差別を助長するのを目的として公開するわけではありません。
問題は著作権です。この全文はぼくが所有する講談社版と旺文社版を参考に、あらためて日本語訳したものです。原作の著作権はすでに切れているし、掲載文の著作権はぼくにあるので、多分問題はないと思うのだけど。
ちなみに、現在の著作権法では、小説のアイデアは保護されないはずですが……。
ある日のこと、マンボママが、ちびくろサンボに赤い上着と青いズボンを作ってくれました。そして、ジャンボパパは、市場できれいな緑色のカサと紫色の靴を買ってきてくれました。靴は底も内側も真っ赤です。ちびくろサンボには、とてもお似合いです。
うれしくなったちびくろサンボは、ジャングルに散歩に出かけました。すると、一匹の虎が向こうからやってくるではありませんか。
「ちびくろサンボ、お前を食ってやる!」
「お願い食べないで。この赤い上着をあげるから」
ちびくろサンボがこう言うと、
「よかろう。今回はその赤い上着で勘弁してやろう」
と、虎は上着を取り上げてしまいました。そして、
「おれはこのジャングルでいちばん偉いんだ」
といいながら、ジャングルの奥に行ってしまいました。
ちびくろサンボは、また歩き出しました。すると、向こうから、さっきの虎とは別の虎がやってきてこう言います。
「ちびくろサンボ、お前を食ってやる!」
「お願い食べないで。この青いズボンをあげるから」
ちびくろサンボがこう言うと、
「よかろう。今回はその青いズボンで許してやろう」
と、虎はズボンを取り上げ、
「おれはこのジャングルでいちばん偉いんだ」
といいながら、ゆうゆうとジャングルの奥に行ってしまいました。
ちびくろサンボは、ふたたび歩き出しました。すると、向こうから、なんとまた別の虎がやってくるではありませんか。
「ちびくろサンボ、お前を食ってやる!」
「お願い食べないで。この紫の靴をあげるから。ほら、底も中も赤いんだよ」
ちびくろサンボがこう言うと、
「ふん、そんな靴、おれさまには何の役にも立たないぞ。お前と違って、おれさまは足が4本もあるんだから」
サンボは必死に考えて、
「ならば、靴を耳に掛けてごらんよ」
と言いました。すると、
「なるほど、それはいい考えだ。よかろう。今回はその紫の靴で見逃してやろう」
と、虎は靴を取り上げると、やっぱり
「おれはこのジャングルでいちばん偉いんだ」
といいながらジャングルに消えていきました。
しばらく歩くと、4匹目の虎に出会ってしまいました。
「ちびくろサンボ、お前を食ってやる!」
「お願い食べないで。この緑色のカサをあげるから」
ちびくろサンボがこう言うと、
「カサなんてどうやってさしていけるんだ。おれは歩くときに4本の足すべてを使うんだ」
「しっぽの先に結んで歩けばいいじゃない」
「なるほど、それはいい。わかった。その緑の傘をよこせば、今回は食べないでやる」
そして虎はカサを取り上げると、遠くに行ってしまいました。もちろん、
「おれはこのジャングルでいちばん偉いんだ」
といいながら。
かわいそうなちびくろサンボ。お気に入りの上着もズボンも靴もカサも取られ、泣きながら歩き出しました。
すると、突然、恐ろしい声が聞こえてきました。
「グルルー」
声はだんだん大きくなってきます。
「大変だ、虎がぼくを食べに来る!」
ちびくろサンボはあわてて近くの椰子の木に隠れ、そっと様子をうかがいます。
「おれがいちばん偉いんだ」
「いや、おれだ」
どうやら、あの4匹の虎が、誰がいちばん偉いのか、ケンカしているようです。そのうち、みんな本気で怒りだし、いっせいに飛び上がって取っ組み合いの大ゲンカを始めました。上着もズボンも靴もカサも放り出し、爪を立てたり牙でかんだりと、たいへんな騒ぎです。
虎たちはぐるぐるともつれ合って、ちょうどちびくろサンボが隠れている椰子の木までやってきました。ちびくろサンボはさっと飛び出して、カサの陰に隠れます。
ケンカはいっそうひどくなっていき、それぞれの虎が互いのしっぽにかみつき始めました。4匹の虎が、それぞれ前にいた虎のしっぽをかんだわけですから、椰子の木を中心にして、虎の輪ができあがりました。
ちびくろサンボは遠くに逃げて
「虎さんたち、上着もズボンも靴もカサもいらないの?」
と大声で叫びました。けれども、虎はうなるだけです。
「いるのなら、いるといっておくれよ。でなきゃ、全部もっていっちゃうからね」
こう叫んでも、虎たちのケンカはいっこうに収まりません。そこで、ちびくろサンボは落ちている上着とズボンと靴とカサを取り戻して、逃げ帰ってきました。
虎たちのケンカはまったく収まりません。相手を食べてしまおうと、あいかわらずお互いのしっぽをかんだまま、木の回りをぐるぐると回るばかり。虎の輪はだんだんとスピードをあげていきました。輪の速さはぐんぐんと上がっていき、いまや、どれが足でどれが頭かさえ分からないほどです。それでも虎たちは早く早く走り続け、そのままとうとう溶けてしまいました。椰子の木の回りに、溶けた虎のバターができたのです!
ちびくろサンボのジャンボパパが仕事から帰ってくるとき、ぐうぜん、このバターを見つけました。
「これは上等のバターだ。おみやげに持ってかえって、おいしい料理を作ってもらおう」
ジャンボパパはこう言うと、持っていた大きな壺にバターをたっぷりと入れて、家に持ち帰りました。このバターにマンボママは大喜び。
「さぁ、晩御飯はホットケーキのごちそうよ」
マンボママは、粉と卵とミルクと砂糖とバターをこねて、ホットケーキのもとを大量に作りました。それを虎のバターで焼いてみると、ケーキは黄色と茶色に焼き上がりました。まるで虎そっくりです。
さぁ、晩御飯の時間です。3人はホットケーキをたっぷりと食べました。マンボママは27個、ジャンボパパは55個、そして、ちびくろサンボは、なんと169個も平らげてしまいました。
おなかがペコペコだったんですね。