真っ昼間は別な顔
伊勢名物「売春島」秘史

渡鹿野島
一見、南のリゾート地だけど。


 知ってるだろうか、三重県の売春島を。
 東京ではほとんど知られてませんが、関西ではわりと有名。家族には「賢島に観光に行く」とか言って、こっそりこの島に渡る人が多いんだな。昔は、女のコを借金のカタに監禁したとかなんとか、生臭い話も多かったこの島の名前は渡鹿野(わたかの)島といいます。
 渡鹿野島は、近鉄志摩線の鵜方から7〜8キロほどの乗船場から渡るわけですが……。この船も深夜0時まで運航してて、目的はみんな一緒という、なかなか珍しい島です。
 
 でだ。この島の夜の風景は風俗雑誌とかインターネットを見れば、それこそ山のように体験談が出てくるので、本サイトとしては、誰も知らない「昼の売春島」へ行ってみました。
 午前中に渡ったせいもあって、「ずいぶん静かだなぁ」というのが最初の感想でした。

渡鹿野島
昼間はみんな休息中(島の中心部)
 
 誤解のないように書いときますが、この島には住民が200人ほどいます。小さな子供は5人くらいしかいないとはいえ、ちゃんと保育園もあります。このあたりは昔は真珠養殖が盛んでしたが、今は牡蠣の養殖に変わっていて、昼間に行けば牡蠣の殻むきなんかを見ることができます。
 
 明るいうちは、どこにでもあるフツーの島なわけだな。
 
 実は、晴れた日には、この島から富士山も見えます。しかし、島自体の見所は、江戸時代の浮灯台に使われた石柱だけ。本当になんにもないぜ。

渡鹿野島渡鹿野島
(左)浮灯台の石柱。説明文は既に読めず
(右)これこそ唯一の「夜の証拠」ですな
 

 この島では、通常、ホテルで女の子を買うと1万5千円、ただし、お酌についた子を「置屋から呼ぶ」わけで、宴会代が別にかかるようです(つまり、売春にホテルは関知しないということです)。
 外で買うと、ショートで2万円、23時以降の1泊で4万円というのが相場らしいですが、実体験ではないので、本当かどうかは知りませぬ。
 まぁ、つまり男は「女の子の部屋」へ行くことになるわけで、島中いたるところに、アパ−トが建ってます。人形とかネームプレートとかで、けっこう、玄関はかわいい感じも多いです。
 最近は警察がうるさくて、女の子も島に住むのではなくて、外から通う子が多くなってるそうですが。
 数少ない島在住の子は、寂しいのか、犬を飼ってる子が多いんだな。だから、この島では「イヌ放し飼い禁止」の看板がよく見られます。

渡鹿野島
イヌの放し飼い禁止です

 いずれにせよ、最近は不況と警察チェックのため、仕事の方は順調ではないようで、女の子は「パチンコする金もない」と嘆いているそうな。
 
 さて、この島は、江戸時代は「風待ち」に寄る島で、人が集まると売春が盛んになるのは 当たり前。当時は島の女の子を「把針兼(はしりがね)」といいました。
 宮武外骨の『猥褻風俗辞典』によれば、把針兼とは、
 
《志摩の鳥羽港にて水上売淫婦を言う。この遊女は小舟に乗りて入港の大船に至り、船頭に春を売り、なお船頭の望みによっては、10日間とか半月間とかの買切りにて、他の港へ往復する期間、船に乗り込むもあり。その船に乗れる間は、着物の仕立、雑巾(ぞうきん)綴り、ボロの繕いなどもするなり》

 とあって、つまり「針仕事を兼ねる」と言う意味なわけです。さらに、
 
《近世この遊女は、陸上稼ぎと港湾稼ぎの2枚鑑札[営業許可証]なりしが、明治35(1902)年頃、娼妓の外出を厳禁され港湾稼ぎの鑑札を停止されて以来、この名物の「はしりがね」も廃絶せしが、いまなお私娼はその筋の眼をかすめて、密かに「把針兼」の実を存し居れりと言う》

 とあって、昔からお上の目を盗んで春をひさいでたことがわかります。

渡鹿野島
大正時代?の渡鹿野島の旅館
(看板にはアサヒビール)

 
 昭和に入ると、この島は、戦争の影響をまともに受けました。
 敗戦直前の昭和20年3月末、海軍の飛行予科練の生徒数百人がこの島に集結、極秘裏に特攻基地を建設していました。ところがその計画を米軍が察知、激しい空爆を受けました。
 結局、特攻基地は完成しませんでしたが、住民ともども犠牲者は何人もいたわけです。その碑が、島中央の神社に残されています。特攻基地は鹿児島の知覧が有名ですが、全国にこうした秘密基地がたくさん建設されていたことは想像に難くなく、いろいろ考えさせられるわけであります。
 
 とまぁ、ちょっとばかり感傷的な気分になってた俺ですが、夕方、島を出ると、船着き場にたくさんのオヤジとたくさんのギャルギャルの姿を見つけて、なんだか不思議な気分になりました。
 これが現実の姿ですな。うむ。

渡鹿野島
夕方、船着き場から望む渡鹿野島。これから島の時間が始まる

●渡鹿野島外伝「海女は売春婦?」

制作:2003年12月31日

<おまけ>
観光メモ:島の反対側から、的矢地区へ無料渡船があります。おヒマならどうぞ。
あと、『週刊SPA!』2006年6月13日号に渡鹿野島の写真を提供しました。