聖火リレーを追いかけろ in 長野
「中国加油」と「フリーチベット」の間

聖火リレー
第16走者の千葉真子さん


 ご存じのとおり、中国では2008年夏の北京オリンピックに向けて、ものすごく国威発揚が行われています。
 2005年時点では、天安門広場近くの中国国家博物館に巨大なカウントダウン電光掲示板が設置されていた程度で、2006年でもポスターが増えてるくらいでしたが、その後、異常なほどの大宣伝が行われました。
北京五輪
巨大なカウントダウン看板(北京)


 この国威発揚が、そのまま世界を回る聖火リレーに投影されたわけです。
 もちろん、聖火リレーはナチス政権下のベルリンオリンピック(1936)で初めて行われただけに、存在そのものが「国威発揚」なわけですが。
 しかし、北京五輪ではエベレストの頂上まで出張したわけで、そりゃちょっとやりすぎだろうって(笑)。

オリンピック聖火
ギリシャで採火されたベルリンオリンピック用の聖火

オリンピックのオリーブ
こちらはヒトラーに献上されるオリーブの枝
(献上者は第1回近代オリンピックで優勝したマラソン選手)


 さて、中国の盛り上がりに対し、反中国派が「チベットに人権を」(フリーチベット)と言い出したことで、聖火リレーは大きな政治問題となりました。

 そんな状況のなかで、2008年4月26日、長野で聖火リレーが行われました。市内18.7kmのコースを全80人のランナーが火をつなぐので、まさに大混乱が予想されたんですが……いやぁ、確かにすごかった。すでに報道済みなんであんまり多くは触れませんが、朝7時15分、長野駅に着いたら「中国(ジョングオ)!中国!」と「フリー!チベット!」のシュプレヒコールが響き渡ってるという……もちろん赤が中国派、青が反中国派です。
 しかし、ホントにここは日本なの?

北京五輪聖火
長野駅前で一触即発の危機
(奥の建物が聖火が1泊したホテルメトロポリタン)


 で、そのまま歩いてスタート地点を目指す。沿道には中国人が列をなして大騒ぎ。巨大な旗のせいであたり一面真っ赤! たまにチベットの青い旗がかたまってているという状況です。

北京五輪聖火
これは前日の夜に偵察したスタート地点。点火式の会場、しょぼすぎない?


 スタート地点はほぼ完全に中国人とマスコミに占拠されていました。しかし、俺はこうした状況は慣れているので、人混みと中国旗をぬってなんとか正面に陣取り、第1走者・星野仙一の撮影に挑戦してみました。
 点火式の会場から出てきた星野監督に、100人以上の警護ポリスが合流する様子がよくわかるでしょ? あと中国の応援の様子も。


 
 その後、第16走者(陸上の千葉真子)と第44走者(一般人?)の撮影に成功。しかし、交通規制によりタクシーもバスもまともに機能せず、歩き回ったせいで疲れ果ててしまいました。この時点で敗退し、残念ながらゴール地点にはたどり着けませんでした。

北京五輪聖火
長野オリンピックのスピードスケート会場だったエムウェーブに向かう第44走者
(ちなみに第45走者は中国の駐日大使らしく、安全のためエムウェーブ内を走ったそうです)


 中国人はたまに日本の旗を持っていたり、「日中友好」なんてポスターを持っていましたが、ほとんどが「中国加油(ジョングオ・ジャーヨウ=中国頑張れ)」と叫ぶばかり。「加油」ってなぜか叫び声だと「帰ろ」って聞こえ、なかには「どこに帰ろうって言ってるのか」と不思議がってる人もいました(苦笑)。
 一方、中国人の過剰な愛国心に、「オリンピックは中国だけのイベントじゃないんだ!」と怒り出す市民も少なからずいました。

 たしかに平和を象徴する五輪の理念とは、まったくもって相容れない状況ではありました。せめて万国旗くらい持ってれば救われたんですが、俺が見た限り、万国旗は1つもありませんでした。

北京五輪聖火 北京五輪聖火
大混乱の沿道

 
 だいたい、日本ではこれまで誰もチベット問題なんて語ってなかったわけで、今回の件は、どう見ても反中感情が転化したにすぎません。あの朝日新聞まで「中国の過剰な愛国心」を批判してるのには驚きました。それだけ、中国に反感を感じてる日本人が増えてきたってことでしょう。
 日本だって東京オリンピックの頃には愛国心が花盛りだったはずで、今回の件にあんまり過剰反応するのもよろしくないかな、とも思いますが。

フリーチベット
沿道で配られてたフリーチベットのビラ

 まぁ、もちろんチベット問題が解決したわけではないので、ラサ・ポタラ宮の写真を公開しときます。
 俺がチベットに行ったのは1993年なんで、もう15年前。当時の中国は都会でさえ貧乏で、まさか現在のような経済発展をするとは思いもよらない時期でした。
 
 実は俺がチベットに入った前年(1992年)の春、鄧小平が武漢、深圳、上海などを視察し、「社会主義と資本主義の区分ではなく、生産力拡大こそが重要」という声明を発表しています。言葉としては「社会主義市場経済」、要は「豊かになれるものから豊かになれ」という内容で、これがいわゆる「南巡講話(なんじゅんこうわ)」ですな。

 この声明を受け、中国は一気に改革・開放が進み、年率12%以上という信じられない成長を続けます。それが現在の経済発展にそのまま直結。今では日本経済自体、中国の成長に支えられているのが実情です。

 バブル期の多くの日本人が「アメリカを超えた」と思っていたのと同様、今では多くの中国人が「日本を追い抜いた」と考えており、それが自信となって愛国心の発露につながっています。一方で、多くの日本人はまだ中国は格下だと思っている。こうした意識のすれ違いがある以上、残念ながら、お互いの反感はしばらく解消されないかもしれませんね。
(とはいえ、今回、長野に来た中国人の多くは中国政府が雇ったバイトなんだけどね・笑)


制作:2008年4月28日

<おまけ>
 下の写真は北京五輪のマスコット「福娃」(フーワー)です。奥から、

 ○ベイベイ(モチーフは魚。海洋を象徴)
 ○ジンジン(モチーフはパンダ。森林を象徴)
 ○ホアンホアン(モチーフは聖火。火を象徴)
 ○インイン(モチーフはチベットカモシカ。大地を象徴)
 ○ニーニー(モチーフはツバメ。天空を象徴)

 という名前で、すべての読みを合わせると「北京歓迎你」(「北京へようこそ」)になるそうです。「1つの世界、1つの夢」という北京オリンピックのスローガンとも一致してるんだとか。だけど世界が1つになるのって、やっぱり難しいんですな。
北京五輪

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