毒ガスから身を守る


これが防毒マスク

 第一次世界大戦でドイツ軍が毒ガスを使用して以来、戦争に毒ガス攻撃はつきものでした。実は毒ガスって、純度を別にすれば素人科学者で も簡単に作れるんですね。
 
当 然、日本でも戦争中は、かなり神経質になって毒ガス攻撃&防御について研究がなされていました。そんなわけで、当時の毒ガス研究についてまとめます。まずは総論編。時間があったら、当時の軍内部資料を基に、専門的に分析する予定!



 毒ガスには次の主に5タイプあって、

●窒息性ガス(塩素、臭素、ホスゲンなど)
●催涙性ガス(臭化ベンジル、塩化ピクリンなど)
●くしゃみ性ガス(ジフエニール、アダムサイトなど)
●中毒性ガス(青酸、一酸化炭素など)
●びらん性ガス(イベリット、ルイサイトなど)

 このうち、一酸化炭素なんて木炭に水蒸気を通すだけでできるし、なんだかやばそうなイベリットだって塩化硫黄とエチレンだけで生成可能だし、臭化ベンジルだってトルエンと臭素だけでできるわけで、なんだか、簡単そうでしょ?
  そこで、いつ毒ガス攻撃を受けても大丈夫なように、治療法を書いておきましょう。出典は、昭和6年(1931)に旧日本陸軍築城部本部が発行した「築城業務技術必携」です。60年以上前の本だけに、本当に使えるかどうかは知りません。とにかく治療は早いほうがいいのですが、
1 新鮮な空気を吸う。
毒ガスは吸収した時間によって被害が重くなるので、速やかに風上に移動させて新鮮な空気を吸う。
2 体の除毒
中毒者は往々にして体にガスが付着しているので、急いで体の毒をのぞき、着替えさせる。
3 安静及び保温
中毒者は呼吸器が侵されるので、酸素の摂取が十分にできなくなる。そのため、なるべく安静にして酸素使用量を減らす。人工呼吸も有害である。同様に体を温めることで酸素消費が減る。
4 十分な看護
できるだけ早く病院へつれていく。
 だそうで、軍部でも対応策はこんなもの。ならば、防御策はないのでしょうか?

 基本は外気に触れないところ(核シェルターみたいな物?)にいるしかないけれど、毒ガスは一般に空気より比重が大きいので、状況が許せば上部に開口部を作って毒ガス濃度の低い空気を吸うよう努力しろだって。
 ……もしかして、バカにしてる?

  また、毒ガスは濾過できるそうで、活性炭60%とソーダ石灰40%の濾過材とフェルトで、毎分2立方メートルの濾過が出きるそうな(ただし、吸収剤は毎時5〜7キロ必要)。
  本当でしょうか? すげー不安。こんなことやってたから負けたんじゃねーの?

 ま、いずれにせよ、外気と触れない密封された部屋にいるのがいちばんみたい。
 
 ではここでクイズです。縦横5メートル高さ2メートルの密閉された部屋に2人でいた場合、じっとしていれば、酸素は何分持つ? 答えは10時間以上だそうで、これなら、毒ガス攻撃にも耐えられるかも。

 計算式を知りたい人は以下に公開。
V立方メートル =室内の容積
v立方メートル =毎分の室内炭酸ガス発生量
n人      =棲息人員
m立方メートル  =毎分の各人炭酸ガス発生量
a立方メートル =毎分の各人呼吸量
b =呼気中の炭酸ガス含有量(通常4%)
C        =室内初期炭酸ガス濃度
c         =室内の現在の炭酸ガス濃度
T 分       =室内に棲息し始めてからの時間

c=(v/V)×T+Cだから、T=(V/v)(c - C)。m=a×b、v=m×nだからv=a×b×n
よって、T=(V/mn)(c-C)
この式において、通常cは1%まで棲息可能で、Cは実用上省略するとして、
T=Vc/mn
aは静止の場合8-10.5、仕事中15-20、労働中30、激務中50-60だから仮に15として、bは4%とすると、
T=V×0.01/0.60n=おおよそ17V/n
同様にa=15とすると
T=25V/n
この式に当てはめると、25×5×5×2/2=625
つまり10時間以上というわけ。意外に酸素って吸わないんだね。分かったかな?
なお、cは0.03-0.1%まで問題なし、0.5 - 0.8で多少問題が出始め、1-2で相当まずく、4以上で窒息死します。


 一応、各毒薬の解毒方法も書いておくと……

 塩素・臭素は次亜硫酸ソーダ乾性油で、ホスゲンは過酸化ソーダやアルカリ・水で、ベンジル、ジフエニールはアルカリで、ピクリンはアンモニアとグリセリンの溶液や過酸化ソーダで、イベリットや ルイサイトも過酸化ソーダで、青酸はアルカリ水とグリセリン溶液などで、分解可能だそうです。

 まぁ、実際のところ、毒ガス攻撃があったら一般人は生きていられないわけで……。
 そんな人は防毒マスクを付けるしかないでしょう。

 戦時下、内務省防空局は、大日本防空協会とともに、防毒マスクの普及に努めました。もちろん、本土への毒ガス空襲を心配してのことです。そのため、通常は購入ではなく、配給だったようです。

 実は俺は昭和17年式防毒マスクを持ってるんですが、ちょっと現物が見あたらないので、そのマニュアルを公開しときます。


これがマスクの構造

 このマニュアルによれば、マスクは連続で5時間使用可能。
 装着自体は、ムリヤリ頭にはめていく感じですが、重要なのは付けた後、吸収函の底孔(左下部分)を押さえ、強く息を吸って覆面の周囲から空気が漏れないかどうか確認する点です。ま、当たり前といえば当たり前ですね。
 ちなみに毒ガスがないところでは吸収剤の劣化はありませんが、予想以上に息苦しい……正直やってられません。

 それにしても、
普通の庶民の家に防毒マスクがあるってのも、いやな時代ですな。

更新:2006年5月8日

●焼夷弾対策はこちら
●毒ガス島はこちら

<おまけ>
 現在、化学兵器は神経剤、血液剤、窒息剤、びらん剤、催涙剤、催吐剤、無能力化剤の7種類に分類されています。
 話題の硫化水素は温泉に行けばいくらでもあるし、薄いと効果がないので化学兵器ではありません。
 ちなみに硫化水素で自殺すると、血液中のヘモグロビンと結合して緑色の死体になります。きれいになんか死ねません。

草津温泉で硫化水素を見てきたよ