問 香具師のおしまいは。

答 堅気になる人は少のうございます。頭の使える人は継ぎ目を引受けるとか金を残して堅気になるとかしますが、腕のないのは中途で親分の許しを受けて工場などへ転業するのもあります。初めから終わりまで続くのはなかなかございません。
  コロビ等に致しましても、腕のないのは人売や、おでん屋にまでなるのもありますが、腕のいいのは分家をさせて貰って乾児を持ち、それを監督してやっているのもあります。

問 あなたの直系の若い者は。
答 50人くらいで、これは盃をやった者です。

問 興行と遊技にも着到料がありますか。
答 安房の竹澤なら竹澤が、これは興行元でありますが、「ぶかた」と言いまして、自分の金で興行小屋を建ててやります。旅人はこの小屋で商売をするというわけであります。
  そして商売の上がりは自動車賃、電気料、税金などを差し引いた残りをぶかた4分、旅人6分の割合で分けるのであります。
  ぶかたの4分がつまり小屋架けの費用やその他の世話料になるわけであります。もし商売の上がりが不足の場合はぶかたが引き受けて、次の興行まで待つのであります。

問 ごく小さい見世物のようなのも大きなサーカスも同じですか。
答 そうです。みな同じ割でやっております。

問 東京角力はどうです。
答 東京角力や芝居はこの関係はありません。架設(小屋)の芝居をやるときには地元の興行師に一応渡りをつけますが、館へ入るときには渡りはつけずにやります。なかには渡りをつけて来る人もあります。

問 浪花節をやるときは渡りは。
答 つけません。

問 ぶかたにかからずにやることもありますか。
答 大きな興行師はぶかたにかからないで自分で小屋を作ってやります。このことを「ぬけうち」と申します。

問 あなたの興行は。
答 芝后をやります。県下(千葉県)であまりますから、よそに行くことはありません。縁日よりも平日に多くやります。

問 専属の一座がありませんか。
答 ありません。毎年春に芝居を組立てて招魂祭で終わります。今年はやりませんでしたが。

問 遊技というのは。
答 主に射的などですが、鑑札を持っている者ですからこれは地代を納めるくらいのものです。みなテキヤの盃を持っております。この市中にあるのもそうです。満更の素人はありません。

問 地代は。
答 地代は社務所へ納めます。

問 資産がないと親分は乾児の面倒は見られないでしょうね。
答 資産はないですけれども普段の興行で少しは作っていきます。
  東京では乾児が月掛をやっております。これは親分の名前を利用して商売しているので、月1円也を掛けるのです。
  親分はその半額を乾児の不幸や世話などに使い、残り半分は自分の家計に使っているのです。

問 乾児の数にもよりますが、ちょっとの宴会にも親分の出費は大変でしょうね。
答 宴合はたいてい会費制度でやります。例えば3円会費という通知をしますと、なかには儲けがあった者は5円くらい持って参りますし、金のないのはやって来ません。それで出て来ない者を呼びにやりますと「金がないから」と言うので、その分は親分が出してやって出席させます。よほどバカ騒ぎをしなければ親分の負担になるようなことはありません。

問 興行の際、一座を組んでやるのは一興行いくらばかりですか。
答 いえ、打った日すなわち打日いくらです。別に(食事は)食べさせてです。

問 休んでいた日は。
答 食べさせるだけで役者の給金は払いません。

問 運の悪いときは相当背負い込むわけですね。
答 雨降りは仕方がありませんが、お天気には遊ばせてはおきません。小屋は夏は架設小屋、冬は常小屋です。夏、常小屋なぞですと客は入りません。

問 途中で止めた場合は食費は。
答 一座はたいてい20人から28人くらいですし、20人として1日約15円くらいの食費を見積もっております。食事は解散するまでは食べさせてやります。

問 解散は自由ですか。
答 そうであります。解散するとちりちりになります。

問 座を組み立てる場合は。
答 座長に通知さえすれば役者はすぐ集まります。1人に対して3円くらいを旅費として渡してやります。そして一興行して役者の技倆を見てから座長と相談して給金を決めるのです。田舎廻りなので座長あたりで13円、役者はそれより下で、一番裾で40銭くらいです。食事は別でこちら持ちであります。    
  給金を月極めにするものもありますが、この場合は日給3円の価値がある者は12円くらいの割合として月給60円と致しております。これは本人の希望によってであります。寝泊まりは掛小屋へ寝ることもあり、近所へ間借りするなどして自炊致しますから、格別宿料は要りません。

問 衣裳は。
答 衣裳は太夫元の負担です。

問 テキヤは義理堅いとのことですが、親分に砂を掛けるような者はありませんか。
答 そうです。稀にはありますね。100人のうち5人や10人は不義理をするのがあります。

問 若い者は一般世間に対してはいかがです。
答 月寄りというのがありまして、毎月いっぺん集まりますから、その際「堅気の方には少しくらい無理があっても下手に出ろ」と常々言い聞かしておりますが、なかには守らない者もあります。それが度重なれば破門するのです。
  家名に迷惑を掛けたり親分方や他の家名の者の品物などを持ち逃げしたりした場合は一般破門致します。

問 親乾(親分ー乾児)の関係は絶対服従ですか。
答 そうです。親乾の間柄になれば決して逆らってはならぬと言い渡してあります。
  親分は無理を言わぬということになっているのだから、時に白いものを黒と言われても、決して逆らわないように取持人から普段注意を致しておきます。

問 長者町一家の中に兄貴、弟はありますか。
答 1日でも盃を先に貰った者を兄貴として立てております。しかし腕一つで飛び越すこともあるし、家名を継がせることもありますから、「商売を励め」と言っております。呼び方は兄貴と言っております。

問 親分は乾児が嫁を貰うのまでも世話をしてやりますか。
答 そんなことはありません。この商売に入るような者ですから、たいていは自由結婚が多いです。そして親分はそれを認めておくというだけです。

問 乾児同士で互いの女房を呼ぶのは。
答 姐(あね)さんと言っております。それから親分の家内は、いくら若い者であっても「おふくろさん」と呼んでおります。

問 女の乾児は。
答 ありません。市内に店を出しているのもありますが、あれは何々会という商売の会に属していて、会員ですからそれで露店に出るのです。その会の会長はもちろん盃を持っております。

問 乾児が死んだ後、親分とその乾児の女房との関係は。
答 もしその女が堅気になりたいという希望でもあればその希望に任せて面倒を見ます。夫婦揃っている者よりかえってよく扱ってやっております。

問 夫に準じて扱われるわけですね。
答 そうです。

問 神農会は県下には。
答 千葉県下にはありません。

問 話が大きくなりますがテキヤは千葉県下に何人くらいおりますか。
答 全部で約3000人くらいでしょう。その数は人売、コロビ、大占という順序ですが、詳しい数字はわかりません。

問 全国でテキヤの親分はどのくらいおりますか。
答 数はわかりかねますが、主なる者は各県下に1213くらいずつはおりましょう。

問 全国どこにも通ずるというような大親分は。
答 普通、大親分と立てられている者は1県に1人はおります。

問 テキヤと他の稼業の者との交際は。
答 稼業違いのときは仁義は言いません。従って素人同士の交際ということになってしまいます。

問 23カ月前に新聞に會津屋一家の跡目相続の話が出ていたが。
答 それは飯島一家5代目の披露の話でしょう。その前に通知がありまして、私も行き、ずいぶん方々から集まりました。

問 集まった大親分同士の仁義は大変なものでしょうな。
笞 いえ、あまり面倒なことはやりません。

問 親分の跡目を継ぐ場合、本当の親子でやるのがありますか。
答 それは絶対にありません。他の家名の親分なり従兄弟なりが跡目を継ぐべき者を選定して、その家名の親分に話してやるのです。跡目を継ぐ者はもちろん家内の信用も必要ですが、社会の信用がなければ駄目ですから、選定する際は社会の信用を考えて致します。

問 相続人が2人以上で競い合う場合はありはせぬですか。
答 その場合は投票に致します。同じ家名であった者が跡目を継いだ場合は、他の兄弟分は改めて相続人と親分乾児の盃を致しますし、相続人と互角以上の者は、あるいは分家させてやることもございます。分家した者は世話場の23カ所を分けて貰って、跡取りの許しを得て乾児を持つこともでき、改めて盃をせぬでも相続人と兄弟分となりやっていくのであります。
  ご参考までにテキヤの符牒を申します。
  ー(やり)、二(ふり)、三(かち)、四(ため)、五(しすか)、六(みず)、七(おき)、八(あった)、 九(がけ)、十(ちぎ)

立石所長 どうも長時間ありがとうございました。それではこれで閉会致します。


    昭和13912日午前10時に始まり、午後410分に終わる。

                       千葉地方裁判所