ずいいち〔随一〕一ばん。すいくち〔吸口〕煙管の、ロをあてがってすうところ。すいこみ〔吸込〕遊びにゆく気のないものを、金のない男が巧くおだて、だましてつれて行くこと。すいする〔推する〕推量する。察しる。遊女が情人との苦労を朋輩にうちあけて「推してくんなまし」などという。ずいそう〔瑞相〕めでたいきざし。神々しい人相。すいづつ〔吸筒〕瓢箪(ひょうたん)。酒や水をいれて持ち歩いたからいう。今日の水筒の役目をした。ずいと
つと。ずかと。「のれんをはねてずいと入る」ずいとくじ〔随徳寺〕ズイと逃げ出すこと。「随徳寺をきめよう」。落語の「山号寺号(さんごうじごう)」に「一日山(一目散)随徳寺」というしゃれがある。すいばれ〔水晴れ〕雨天。寄席用語。涙を出すことを眼水(がんすい)ばらしという。すいもんぐち〔水門口〕樋(ひ)の口。鶴屋南北「東海道四谷怪談」隠亡堀(おんぼうぼり)の場の幕切れに、佐藤与茂七が非人の姿で出てくる所がそれである。すいれんば〔水練場〕水泳のけいこ場。大正の初期まで両国大川端には夏期に何々流水練場とあった。ずうにょう
図う体(ずうたい)。身体。
「手前はづうねうが大きいから我慢してもぐり出しゃア後のものが楽に出られらア。」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)すえ
取るに足りないもの。つまらぬもの。「宅(うち)のお父さんが鍛(う)っておいたお誂(あつら)へのすえが一挺(いっちょう)残ってあるんですが。」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)すえつかた〔下院〕下旬。「時は八月末つ方」と日露戦争の軍歌「橘中佐」にある。すがたみ〔姿見〕鏡。すがも〔巣鴨〕狂人のこと。あいつは巣鴨だとか、巣鴨行だとか、いった。今日の世田谷区松沢の精神病院が、豊島区巣鴨にあったからである。なおここには幾十年にわたって芦原金次郎という職人が入院しており、芦原将軍とよばれて大将軍を気取りつづけ、日華事変のころその一代は映画化までされて亡くなった。ずから
接尾語で、「によって」「をもって」などの意味をあらわす。わざわざ自分の手でを「手ずから」、隣人のよしみをもって、隣同士なのでを「隣ずから」、自分の心からを「心ずから」という。自分から、わざわざ、手を下しての意味の「みずから」もこれであろう。すがれる〔梢枯れる〕ほんのいささか老(ふ)けかける。すかんぴん〔素寒貧〕一文なし。貧乏。ずきがまわる
身辺が(犯罪者の)危険になる。ずきは、庇(きず)を逆さにしたもので、手負(ておい)の者から、手が廻ったという意味になった。すきみ
切身。すきみというと鮪(まぐろ)が多く、落語「雑俳(ざっぱい)」の地口(じぐち)には「禿(かむろ)の月見、まぐろのすきみ」のしゃれがあった。すぐち〔燧口〕小さい銃の口。すくなずくな〔少々〕少なくとも。「すくなずくなも○○円ぐらいはあろう」すこあま
少し足りない人。「あいつはスコアマだから」すこうべ〔素頭〕素っ首(そっくび)。首とただ単にいう場合よりも、やや強い意味になる。すごす〔過す〕生活する。生きてゆく。すこぶるつき〔頗るつき〕大へんに。途方もなく。超(ウルトラ)の意味。「頗るつきの別嬪(べっぴん)だよ」すごろく〔双六〕古代のは盤(ばん)双六といって、盤の上に左右に5
本の罫(けい)を引き左方右方に各々黒白の石を6
個ずつ2
段に並べるゆえ双六というのであるが、賽を振ってその目により例えば三一ならば自分の陣地の3
列目の石1
個と1
列目の石一1
個とを取る。六三ならば6
列目と3
列目の石各1
個を取る。自分の石を取りつくしたら相手の石を取り盤面の石が無くなった時数多く取ったものを勝ちとする。
歌舞伎の「玉藻前曦袂」(たまものまえあさひのたもと)三段目の道春館(やかた)で使用する双六で、のちに双六の盤の代りに官位(かんい)をかいたり、五十三次の宿場をかいたりした絵双六(官位双六、道中双六)が発達、今日に至った。子供の新春の遊戯で、道中双六は江戸の日本橋を振出して上り(終点)の京まで、賽の目の数につれて進み、早く着いた方が勝ち。途中、大井川とか箱根とかに「泊」(とまり)があって、ここへ入ると1
回休むといったようなスリルがあった。
近松門左衛門「待夜小室節(まつよのこむろぶし)」およびその改作「恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな)ーー重の井子別れ」に見ることができる。
道中双六すさ〔苆〕壁土にまじえてひびを防ぐツナギ。普通の荒壁にはきぎんだ藁(わら)、上塗にはきざんだ麻、または紙を海草を煮た汁にまぜてつかう壁すさ。壁つたともいう。すじ〔筋〕理屈。また筋道の略にもつかう。方向。「あいつはすぐスジをいう」。女とあいに行くのをからかって、「おたのしみすじなんだよ」。→「おつかれすじ」すじがねいりのはちまき〔筋金入りの鉢巻〕金属でできた筋がぬいこまれている鉢巻。斬り込まれたときの用心である。すじっぽい〔筋っぽい〕理屈っぽい。すじっぽねがぬける〔筋骨が抜ける〕筋と骨とを抜かれたように気力なく疲れはてる。すじぼり〔筋彫〕輪画だけで彩色のされていない文身(いれずみ)。痛くて中止したために、筋彫だけになった人もあり、気がきかない、だらしがないといわれた。すじをだす〔筋を出す〕額(ひたい)へ青筋を立てる。すすきだたみ〔芒畳〕芒の一めんに茂っているところ。すすはき〔煤掃〕江戸時代には、12
月13
日、一斉に煤掃(煤はらいーー大掃除)をやった。「手の甲で餅を受取る十三日」の古川柳があり、赤穂義士の大高源吾が売る竹も、煤掃用の竹である。明治期にも春秋の大掃除以外に12
月に行ったが、初旬から年末にかけて各戸別々にやった。広津柳浪(ひろつりゅうろう)「今戸心中」は、吉原の遊廓の煤掃と終了後の酒宴の光景をえがいて余さない。すそさばき〔裾捌き〕立居振舞。すたりもの〔廃り物〕通用しないもの。流行おくれ。時代にズレているもの。処女が姦された場合にもいう。すっとこかぶり〔すっとこ冠り〕手拭をひろげたままスッポリ頭を包み、顔面は出し、顎(あご)でその手拭を結ぶ滑稽な冠り方。馬鹿囃子のひょっとこなどが冠るやけな冠り方。ひょっとこかぶり。すっぱいうちまく〔酸っぱい内幕〕情ない苦しい生活の秘密。すっぱいこと〔酸っぱいこと〕やましいこと。すっぱぬき〔スッパ抜〕侍が往来で抜刀して暴れるのをいう。後には暴露することにもいう。「スッパ抜き記事だ」すっぱり
そっくり。すっぽりめし〔すっぽり飯〕湯茶をかけずに食べる飯。お茶なしで喰うめし。
「『茶も何もありゃしねえ。六里の間家もねえから。』(略)『ひどいねえ、すっぽり飯を食ふのだ。』と小言をいひながら弁当をつかって、」(三遊亭円朝「塩原多助一代記」)すてがね〔捨鐘〕時の鐘をつくときは、その時間より3
つ多くつき、それを捨鐘といった。すてごきょうじょう〔捨子兇状〕捨子をする罪。すてっぺん〔素天辺〕一ばん最初。大正時代の川柳に「薩摩琵琶すてっぺんから目をつむり」。この上ない、絶頂という意味にもつかわれる。→「しょてっぺん」すててこ
ナンセンス舞踊。吉原の幇間(たいこもち)の民中(みんちゅう)が乞食の踊りからおもいつき、初代三遊亭円遊(厳格には3
代目)に教えた。円遊は自分の大きな鼻をなでたり、脛(すね)をたたいたりして一流のものにして踊り、人気をとった。今日もこの踊にはいたので、ズボン下をステテコという。
「向う横丁のお稲荷さんへ、ざっとおがんで渋茶をのんで……
」が原歌である。
三遊亭円遊(初代)すてふだ〔捨札〕罪人を死刑にするとき、氏名年齢罪状を記して街道に立て、刑を執行した後もかかげておいた高札。
「松の六分板を横にし垂木(たるき)にて足を附し名前罪状を犯せしものを持行き之は梟首(さらしくび)の場へ建置くものなり。」(高砂屋浦舟「江戸の夕栄」)ずぬけ〔図抜け〕大へん。とんでもなく。特大を図抜け大(おお)一番などという。落語「附き馬」にも使われる。すばく〔寸白〕婦人の下腹の痛む病。すばこ。すぶた〔簀蓋〕人力車の腰掛の部分になっている簀の子製の蓋。取りはずしができた。ずべらしまりのないこと。すまたをくわせる〔素股を喰わせる〕スカをくわせる、ウラをかいてやる、意表にでてやるの意味。「すまた」は膣を使わない性交のことで、遊女などが嫌な客に対しておこなったりすることから、ごまかしたり期待をはずしたりすることにいう。すみいろ〔墨色〕筆蹟の墨色によってその人の吉凶をうらなうこと。墨色判断。すめんすこて〔素面素小手〕剣道に面小手をつけないこと。すもうじんく〔角力甚句〕江戸末期から明治時代を通じて歌われた流行歌。元来は越後地方の盆踊歌であったが、力士が土俵で余興に歌い、以来、一般の流行を見た。代表歌に「櫓太鼓にふと目をさまし、あすはどの手で投げてやろ」がある。→「じんく」すもどし〔素戻し〕何にももてなさないで来た人をかえすこと。スモル〔small
〕少女。「横浜市史稿」風俗篇(横浜市役所版)の「横浜言葉の資料」に、「小さきもの、すもる」とあり、立川談志が明治20
年代のナンセンス舞踊「郭巨(かっきょ)の釜掘り」にも「座蒲団かかへてスモルに見立てて」とある。スモルは横浜からの伝来の流行新語としていい。ずや
「故売屋(けいずや)」の略。→「けいずや」ずらかす〔退かす〕ずらせる。ずらす。ずらかる。ーー逃げるにもいう。すりあし〔摺足〕足をするようにして、畳ざわりしずかに歩む能狂言の人物の登場につかう歩き方。すりこかす〔剃こかす〕剃り落す。すりこわす〔摺りこわす〕すりむく。すりそこなう〔摺り損う〕胡麻(おせじ)を摺りそこなう。「しまった。すりそこなった」などという。→「ごま」すりつけぎ〔擦附木〕マッチ。はやつけぎ。すりびうち〔摺火打〕火打ち石のとがった角を火打ち鎌と打って火をださせる道具。すれすれ
仲が悪くなること。すわけ〔分配〕それぞれに分けること。ずんずら
みじかい太く短い。すんど
人力車夫が夏だけ着る白い法被(はっぴ)上着。すんぽう〔寸法〕具合。「いい寸法になりました」