ぶあいさつ

〔不挨拶〕いやな態度。
「金が廻らなくなったの、有松屋へ行っても不挨拶をするゆゑ来にくくなり、」(三遊亭円朝「松と藤芸妓(げいしゃ)の替紋(かえもん)」)
ぶあしらい
〔不待遇〕冷遇。ひどいもてなし。

ぶいき
〔不意気〕野暮。「不意気者」

ふう
〔風〕柄(がら)。たち。「あの人は風が悪い」

ふういん
〔風韻〕風流の心。

「エエてめえは風韻のねえ男だぜ。我国に居てさへ名所旧蹟はわざわざ路用を遣(つか)って見にゆくじやアねへか。」(仮名垣魯文「西洋道中膝栗毛」)
ふうぞく
〔風俗〕警察の風俗係(風紀係)の略。
ふうてんびょういん
〔瘋癲病院〕きちがい病院のこと。巣鴨にあった。→「すがも」
ふうふう
〔灯々〕灯のこと。児童語。

「ソラ行灯(あんどん)に灯々(ふうふう)がついて居るよ。泣かずに寝んねなせえ。」(三遊亭円朝「怪談乳房榎(ちぶさえのき)」)
フウハア
うんうん。うなずいている姿。
ふえんぎ
〔不縁起〕縁起が悪い。
ふかいか
〔不開化〕時代おくれ。新しい時代にめざめないこと。
「神仏を祈るとは、さりとは不開化と見受けますて。」(河竹黙阿弥「富士額男女繁山(ふじびたいつくばのしげやま)ーー女書生」)
ふかがわねずみ
〔深川鼠〕薄浅黄(うすあさぎ)にほんの少し鼠いろを含んだもの。
ふかがわのはんだい
〔深川の盤台〕深川はバカ貝が多くとれたゆえ、バカですれている人をいう。夏目漱石「吾輩は猫である」に「行徳(ぎょうとく、千葉県行徳)の盤台」とあるも同じ。
ふかくご
〔不覚悟〕うかつな人。肚(はら)のすわっていないこと。
ふかげん
〔不加減〕からだの悪いこと。
ふかさんどがさ
〔深三度笠〕菅笠の一種で、三度飛脚がつかったため、三度笠といわれたが、普通の三度笠も可成に深く面部をかくせたのに、それのさらに深くできているもの。→「さんどがさ」「ひきゃくや」
ふかま
〔深間〕情人。間夫。離れがたくなっている仲。
ふかんど
〔深水〕水の深いところ。
「この血だらけの死骸は他(ほか)に仕方がねえから、河中へこぎ出して深水へ沈めにかけるより仕様(しよう)はあるめえ。」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)
ぶきぶきした
無愛想な。
「乗ってお帰りなすった車夫(くるまや)ね、何だかぶきぶきした奴ね。」(三遊亭円朝「松と藤芸妓(げいしゃ)の替紋(かえもん)」)
ふくざわぼん
〔福沢本〕福沢諭吉により外国の知識がいろいろ紹介されたので、西洋の翻訳書を何でも「福沢本」といった。
ふくぞうり
〔福草履〕下足をぬいで入った明治期の劇場の客が、幕間(まくあい)に近所を散歩をするのに、入場料を払いずみの客だと分かるために貸した白と赤とに太く鼻緒(はなお)をよった草履。
「その福草履が芝居の客であるという証拠になるので、若い男や女はそれを誇るやうに、わざと大勢繋(つな)がって往来を徘徊してゐるらしかった。」(岡本綺堂「明治の演劇」)
ふくふく
〔福々〕大当り。工面(くめん)のいいこと。
ふくりき
〔腹力〕腹の力。腹のこたえ。
「大分腹力が附いて参ったから、此分(このぶん)では遠からず杖でも突いて、」(河竹黙阿弥「富士額男女繁山(ふじびたいつくばのしげやま)ーー女書生」)
ぶけっこう
〔不結構〕よろしくないこと。
ふける
〔遁ける〕逃亡する。高飛びする。
ふさようじ
〔房楊枝〕楊枝の先が房のようになっており、歯を磨くのにも今日のとちがい縦にこいて使う。大正年代まで花柳界にはのこっていた。房楊枝用の昔の歯磨は、俗に石竹(せきちく)の花といったくらい、深紅なものであった。黙阿弥の「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)では、主人公の髪結新三がこれを頭にさして風呂から帰ってき、長火鉢でかわかすこまかいしぐさが当時の風俗をしのばせる。
ふじうめ
〔藤梅〕枝のたれ下がった梅。枝垂梅(しだれうめ)。
ふじかけ
〔藤かけ〕藤いろがかった。「藤かけ鼠」といえば藤色がかったねずみ色。
ふじこう
〔富士講〕信心で富士山へゆく講中(こうじゅう)。
ふじつい
〔不実意〕薄情。
ふしょう
〔不承〕不承知のこと。「不承をいう所はない」という風につかう。
ふしょう
〔不勝〕原意は、身心のすぐれぬこと。転じて、災難とあきらめての意。
「己(おれ)も中へ入ったが不勝だからかういたさう。」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)
ふじょうにん
〔不浄人〕不浄役人。罪人の管理にあたる役人。また、犯罪人をもいう。
ふしょぞん
〔不所存〕不心得。「不所存者め」
ふしんをうつ
〔不審を打つ〕疑問を持つ。不思議におもう。
ふせき
〔附籍〕他の戸籍に附随している戸籍。
「離別届けをした上で附籍に直した同居人、女房と言はれる覚えはねえ。」(河竹黙阿弥「木間星箱根鹿笛(このまのほしはこねのしかぶえ)」)
ふたこ
〔二子〕経糸(たていと)または経緯(たてよこ)糸に二子糸をつかい、平組織(ひらくみおり)に織った普通の綿織物。

ふだつき
〔札附き〕定評。
ふたつどり
〔二つ取り〕2つの品をみせて、どちらがほしいかという場合をいう。
「紙幣(さつ)と菓子との二つ取りにはおこしを呉れと手を出したる物なれば、」(樋口一葉「にごりえ」)
ふたつながや
〔二つ長屋〕2軒立ちの長屋。岡本綺堂「権三と助十」の舞台面が好例。
ふたつもの
〔二つ物〕お吸物とお刺身。→「みつもの」
ふたばのうちにからずんばおのをいるるのくいあり
〔嫩葉の内に刈らずんば斧を入るるの悔あり〕若葉のうちなら簡単に手でもむしり取れるが、大きくなると斧(おの)で切るなどいろいろ手がかかると同様に、自分に害のありそうな人なり事件なりは、はじめのうちに取りのぞいてしまえ、といういましめ。
ふため
〔不為〕ためにならない。不利益。「それは君に不為だよ」という風につかう。
ふだをうつ
〔札を打つ〕三十三カ所または八十八カ所など仏教の霊場を巡拝して、そのしるしに札を受けること。
ふちがしら
〔淵頭〕縁柄(ふちづか)。刀の柄のロの金具。
ふちかわ
〔淵川〕水中。「淵川へ身を投げはしないか」など、投身自殺専用語の観がある。
ふちのくいあげ
〔扶持の喰上げ〕クビになり失業すること。給料がもらえなくなること。
ぶっかけ
かけそば。
ふっさりと
くっきりと。
ぶっつけに
はじめに。直接に。
ぶっつけまど
〔打付窓〕格子窓。竹を打ち付けた窓という意味。
ぶっぱなす
〔打っ放す〕刀を抜き放してあばれることを素っ破抜(すっぱぬ)くというように、斬り殺す場合にこういった。
「習ひも伝授もないわ、引っこ抜いてから竹割りに打放すが男達(おとこだて)の極意。」(津打治兵衛「助六由縁江戸桜(ゆかりのえどざくら)」三浦屋格子先の場)
ふていさい
〔不体裁〕きまりの悪いなりをしている境遇。
ふでかし
〔不出来し〕失敗。
ふてかって
〔不手勝手〕理屈にあわない勝手な言葉。ふてくされた言葉。
「許してやらうと思ったが、さう不手勝手をいふからは、」(河竹黙阿弥「霜夜鐘十字辻筮(しもよのかねじゅうじのつじうら)」)
ふでさき
〔筆先〕筆致。
ふてまわり
〔不手廻り〕収入のないこと。ゆうずうのつかないこと。
ふでやく
〔筆役〕書記をいう。
ふどうのかなしばり
〔不動の金縛り〕不動尊の罰(または神仏の罰)で身体がすくんでしまうこと。
ふとうもの
〔不当者〕よからぬ奴。
ふところで
〔懐手〕懐手をしてくらせるいい身分。「何しろあいつは懐手だからネ」
ぶねん
〔不念〕不注意。「むねん(無念)」という意味とは別で、「これは私がブネンでした」などとつかう。
ぶへん
〔武辺〕武道の諸事。
ぶま
間抜けなこと。しくじり。「そんなブマはしません」
ふみしてもうしあげまいらせそろ
〔文して申し上げまいらせ候〕手紙で申し上げますの意味。この種の手紙体の文章は、大正初期まで一般女性に使用されていた。いい家のお嬢さまも、花柳界の女も、手紙のスタイルは全くこの以外にはなかった。
ふみたおし
〔踏倒し〕金払いの悪いこと。勘定を払わず逃げること。
ふみもち
〔不身持〕身持の悪いこと。
ふむ
〔踏む〕つぐ。踏襲する。
ふむ
〔踏む〕勘定を払わずごまかしてタダにしてしまうこと。
「ア、わかった。コリヤ親子夫婦馴合ひで、百両の金を踏む気だな。面白い、踏むなら踏んでみろ。」(竹田出雲他「仮名手本忠臣蔵」ーーただし現在の歌舞伎の演出でーー与市兵衛内勘平腹切の場)
ふやくや
不分明。いいかげん。わけの分からない。アヤフヤ。
ブラシテン
ビロードの一種で、おもてに長いケバがある。
ぶらちゃら
ぶらぶら。
ぶらぢょうちん
〔ぶら提灯〕細い柄(え)の付いた小さい提灯。略して、ぶらともいった。花柳界や料亭で客の送迎用によく使い、山谷堀の舟宿が猪牙(ちょき)舟で着いた吉原がよいの遊客を迎える情景をよんだ古川柳には「舟が着いて候とぶら持って来る」。
「柳島の料亭橋本のくだりで帰りに橋本とかいた、ぶら提灯を提げて堤の上を小梅まで出る風情(ふぜい)がよかった。」(笹川臨風「明治すきがへし」)
フラネル
フランネルのこと。→「ドロンケン」
フランケット
英語blanket(毛布)のなまり。フランケート、フランケンともいった。→「ドロンケン」
ふり
遊女屋、待合、料亭へ懇意(こんい)の客と同道、または紹介状なしに来た客。大阪では、一現。興行場で前売券または馴染のファンを中心に催した演芸会に臨時に来た客をもいう。
ふりくつ
〔不理屈〕理屈にならない理屈。
ふりこかされる
女にひどくふられる。
ふりだし
〔ふり出し〕千社札を張るつなぎ竿。
ふりもよおし
〔降催し〕いまにも降って来そうな天気。雨もよい。
ふりわけにもつ
〔振分荷物〕荷を前後へ1つずつ分けてかつぐこと。
ふるあかえ
〔古赤絵〕古渡(こわた)り(中国渡来)の、主に赤い絵の具で絵をかいた陶器。
ふるそめつけ
〔古染付〕古びて時代の付いた呉須絵(ごすえ)。コバルト、マンガン等の化合物をふくむ鉱物を、粉にして水で溶かしてかいた絵模様の磁器。せともの。藍いろに焼き付けたもので、中国では青花(せいか)。
ふるまいみず
〔振舞水〕昔は大きな商家などで、水をいれた桶を出しておき、往来の人たちに自由にのませた。古川柳に「舌打ちで振舞水の礼はすみ」。
ぶんこ
〔文庫〕紙、筆など雑品を入れる手箱。また文庫紙の略。衣類などを包む一種の厚紙。
ぶんさん
〔分散〕破産。「武玉川(むたまがわ)」に「分散にうっかりと咲く冬牡丹」。
ぶんしょ
〔分署〕本署から分けて設けられた警察署。
ふんだに
沢山に。ふんだんに。
ふんづくろい
〔金粉繕い〕こわれたせとものをつぎあわせた部分のヒビをかくすため、金粉でカムフラージュしたるものをいう。
ふんぱつしん
〔奮発心〕おもいきって立ち上がる心持ち。おもいきってはずむ(金などを)場合にもいう。
「五十銭奮発心を起すがいい。」(梅亭金鵞(ばいていきんが)「滑稽立志編」)
ふんばり
すれて手のつけられない人。駄ふんばりともいう(女の場合が多い)。「このふんばりあまめェ」
ぶんまい
〔分米〕自分に分けられる扶持米(ふちまい)。仕送り。